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なんちゃってなIT用語辞典1

多分何の役にも立たないIT用語辞典
How that IT term sounds funny

ITの世界というのはそれまで聞いたこともないような耳新しい言葉が突然脚光を浴びたりする。 しかも結構意味不明な言葉も多い。

IT関連の取材を始めた時に、まず最初の障害が言葉の意味が分からないということだった。
ただ辞書を読むだけでは、その言葉がどういう意味合い、概念で使われているかというのがよくわからない。
そのためにとんでもないトンチンカンな誤解をしていたということも、取材の過程ではたびたびあった。
例えばこのサイトの別のところにも書いたが、「webブラウザ」という言葉だって最初に聞いた時は、ものすごい違和感があったわけだし。

実用的な辞書を目指しているわけではない。
50音別にも並んでいないから、実用性は全くない。
実用的な物を求める人は日経などのIT用語辞典を利用するべきだと思う。
この辞書の目的はただ単に私の

「こんなことを見聞きしてきたよ」

という話を楽しみで書くだけということだ。

ただ辞書には書いていないような言葉の肌感覚について私なりに思うことが一杯あったので、そういうニュアンスについて面白いと感じてもらえればと思っている。





リダンダンシィ〜冗長性

redundancy

こんなことは私が強調するまでもなく皆実体験として知っていると思うが、コンピュータという機械は時々とんでもないことをする。

それこそ数日かけて徹夜も何回もして作り上げたファイルを一瞬にして消してくれる。

「機械はミスをしない。ミスをするのは常に人間だ。」

というHAL9000の名言がある。
こういう1960年代の史観に未だに縛られている人がいる。
何か問題が起きたら「それは操作する人間が気をつけていないからだ」と人間の方に原因を求めたがる人だ。

しかしコンピュータに詳しい人ほどこういう言い回しは事実にはほど遠く、また無意味だということをよく知っているんじゃないだろうか?


機械はミスをしないというのは、歯車の径と歯数さえ間違えなければ機械は誤動作するはずがないという19世紀的な発想がもとになっている。
しかしコンピュータという機械はそのシステムも、アプリケーションも、ハードウエアの運営ですら人間が書いたプログラムによってできている。
つまり操作ミスをしなくったっていつでもミスは起きるというふうに考えた方が良い。

しかもそのハードウエアだって、19世紀の人たちには想像もできないような微細な技術によって作られている。

HALとは対極にあることばで思い浮かんだのが、映画「ライトスタッフ」で、宇宙飛行士が言った、

「バッテリに命を預けるのはアホのすることだ」


という台詞で、こっちの方がコンピュータを扱うコツを言い当てているような気がする。
極端なところハードディスクが飛んでここ数年間の仕事の蓄積が一瞬で消えてしまうということだって、別に珍しくない。

そこでこういう時のためにバックアップを取るとかの、冗長性が必要になるということだ。
この冗長性という言葉は実に味わい深い言葉というか、コンピュータの本質をよくあらわしていると思う。

バックアップを取ったって、結局日常の仕事で使うのは元ファイルの方でバックアップをどうこうすることなんてまずない。
またコンピュータのなかに起動できるシステムを2つ以上入れるというのも、2つのシステムで同時に起動できるわけではないので、そのうちのひとつは常に無駄になるわけだ。
つまり本来の機能のためには必要のないこういうバックアップシステムを冗長性、リダンダンシィと呼ぶわけだ。言葉の意味はまさしく「余分な物」という意味だ。

しかし普段は余分でも、例えば元ファイルがハードディスクが死んだために読めなくなる、システムがクラッシュして起動できなくなるということがあると、こういうファイルのバックアップや、別の起動システムが突然役に立ってくる。

もしコンピュータを究極までコストぎりぎりで運営したいなら、こういう冗長性はまさしくカットしたいということになる。
しかしカットしてしまうと、上記のようにいざという時にとんでもない損害を招くことになる。

コンピュータというのは本来こういう冗長な物なのだ。
それを受け入れることができればこの機械は結構便利に使える。
しかしそれが嫌だというのなら、コンピュータなんか触らないで生きていく方法を探した方が良いかもしれない。





トランザクション
セッション

transaction
session


ネットワーク技術に詳しいIT企業幹部にインタビューしていて、いつも困るのはこの「トランザクション」という言葉だ。

特に英語の場合トランザクションというのは例えば銀行の決済取り引きのような、一般的な「取り引き」という普通名詞の意味があるからだ。
ところがネットワーク技術の世界でもこの「トランザクション」という言葉は実に良く使う言葉で、

「双方向に入力した情報が反映する通信」

という意味になる。こう書くとインタラクティブと同じ意味ではないか?と誤解する人もいるだろうがかなりニュアンスがある。
インタラクティブというのはマルチメディアブームの時にさんざん出てきた手垢がついた言葉で、エンドユーザがテレビを通じて番組に投票すると、番組の人気ランキングができるというような技術というよりは通信技術の利用法の一例として考えられた言葉だ。

トランザクションというのは一番判りやすい例は銀行の本支店間の決済だ。
本店でも支店でも同時に入金した場合、本店の操作でコンピュータがビジー状態になってしまうために、支店の操作が無効になるとかいう動きをされると、銀行の利用者は大混乱をきたすはずだ。
(逆に本支店で同時に引き出しをすると預金額の倍の現金が引き出せるなんてことがあると、お客はうれしいだろうが銀行は困る)

それで常にリアルタイムでお互いのステータスを更新しあって確認しあうというシステムが必要になってくるわけだ。
こういう更新、確認の為の通信をトランザクションと呼んでいるらしい。

銀行はわかりやすいから例に引いたが、携帯電話だって基地局との間で常にトランザクションしているわけだ。こういう現金のやりとりを伴わない通信の方が普通なのだが、そういう場合もトランザクションという。
こういう話を聞くとすぐに頭がこんがらがってくる。

IT企業のインタビューで
「我々は銀行などのトランザクションソリューションについてアドバンテージを持っている」
なんて言われると、
「機器間通信についてはわいらはいけてるで」
と言っているのか
「現金取り引きのノウハウは任しときなはれ」
といっているのかさっぱり判らない。


よく似た言葉で

「session」

という言葉がある。
これももともとの意味は「取り引き」という意味だ。
これは普通はある通信状態を確立したら、その連続的な通信のことをセッションというのだというふうに聞いた。

しかしこの世界はすぐに言葉の概念が変わってしまう。

今は昔のように回線交換方式のパソコン通信なんて死語になってしまった。
今のブロードバンド接続者は、通信したい時にドバッとデータを流すし、流していない時には何も流さない。
その度にいちいちセッションを確立するなんて、ダイアルアップの人しかやらないわけだ。(フレッツの人は違うかもしれないが)

そうするとセッションという概念も曖昧になってくる。
結局「通信」という意味合いぐらいでセッションという言葉を使っているようだ。


証券業界でザラ場ということを使うが、これは英語では

Continuous session

と言うそうだ。
前々から思っていたことだが、証券金融の専門用語とITの専門用語って言葉の肌合いが似ているような気がする。





ユビキタス

ubiquitous

この言葉を日本で最初に使ったのは誰なのかはよく知らない。

でも誰が考えた言葉かは知っている。
これは米ゼロックスのパロアルト研究所が、ネットワーク社会のあるべき姿の概念として使いはじめた言葉だ。
パロアルト研究所といえば、世界で初めてマウスやアイコンを考えたところだ。
Macユーザの一部にはそれを考えたのはAppleだと思っている人もいるが、それは違う。
こうして見ていくとこのパロアルト研究所というところはかなりハッキリした、テーマがあったような気がする。

それは研究所の真ん中にどんと鎮座して、専門の技術者がパンチカードなどを使って入力するという計算機とは正反対の物が作りたかったようだということだ。


ユビキタスという言葉も3年前には全く耳慣れない言葉だったが、今年のWPC、CEATECなど情報機器の技術展を見ると、それこそ猫も杓子も

「ユビキタス技術を追求する○○」
(○○のところに社名を入れて下さい)

という具合に今時ユビキタスをキャッチコピーにしないと遅れてるとでもいわんばかりのユビキタスぶりだった。

でも私が見ていてちょっと違うなと思うのは、ユビキタスというのは単なる抽象的なかけ声なんかじゃないということを皆さんどれくらい理解しているのだろうかということだ。

例えば携帯電話はユビキタス機器なんだろうか?
ノートパソコンはユビキタス?
Palmアタリならユビキタスと呼んでも良いかしら、なんて議論は根本的に見誤っているという気がする。

ユビキタスというのは情報を特定の機器に入れておくのじゃなしに、ネットワークに入れて常にそのやりとりをするというのが根本概念だ。

ということはノートパソコンにカード番号を入れているなんて状態は全然ユビキタスでもないし、携帯電話で写真が送れるなんてのもユビキタスとは何の関係もない。


ユビキタスは物、人の情報をあらゆる場所で、それこそ
「トランザクション」
してやり取りするということで、
ユビキタスのわかりやすい例は、流通業が流通する全ての製品にICチップを入れて、その流れ、誰がどこでどうハンドルしたかという情報をやり取りできるようにすることだ。
そうするとスーパーからレジが無くなる。
客は買い物かごに商品を入れて、店を出るだけだ。
店のゲートにあるアンテナと全ての商品、客のIDカードが自動的に通信して、誰が何をどれくらい買い上げたかを 常に
「トランザクション」
してくれる。

銀行からの引き落としも自動にすれば、万引きというのが事実上不可能になる。
これがユビキタスのイメージじゃないだろうか。

夢物語のような話だと思うかもしれないが、こういうマイクロチップを使った通信は今ではかなり現実的な話になっている。
直径0.2ミリで電源が全く必要ないIC通信チップが実用化され、それとやりとりができるネットワークも試験されている。

問題点はセキュリティだけだ。
こういうネットワークには個人情報を流さないと便利に使えない。
しかし今の住基ネットを見ても判る通り、ネットワークにどんどん個人情報を流しても大丈夫という状態からは、今はまだほど遠い。

そういう開発には時間がかかるだろうが、「21世紀の半ばにはタイムマシンが発明される」なんていう夢物語と違って、こういう技術はかなり現実味を帯びてきている。


ちなみにこの

ユビキタス

という言葉の意味はラテン語で「遍くおわす」という意味だ。
これは聖書か何かの「神は遍くおわす」という言葉をもじったらしい。
コンピュータは遍くおわす、つまり机も壁も椅子もあらゆる物が情報機器になっていつでもどこでも
「トランザクション」
ができるし、

キーボードがついたパソコンや、携帯電話などは一部の特殊な専門技能者しか使わなくなる時代が来る

というのがパロアルトが言いたかったことのようだ。


ちなみにテレビの説明テロップで大抵の局は

遍在する(どこにでもいる)


偏在する(片寄っている)

というふうに誤植している。

一字違いで意味は正反対だ。
テロップ原稿は大抵の局では学校出たてのADさんが書いているので仕方がないとも言えるが。



2003年12月24日













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