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なんちゃってなIT用語辞典16
多分何の役にも立たないIT用語辞典
How that IT term sounds funny
ハッカー
Hacker
コンピュータを使う上で脅威になる物をおおまかに分けるとふたつの事柄になる。
ひとつはワームやトロイの木馬などのスパイウエアを含むウイルスなどの被害だ。
もうひとつはコンピュータに直に侵入してきたりDoS攻撃をかけてくる『ハッカー』ということになる。
『ハッカー』という言葉については前のページにも書いたが、本当は正しい用語ではない。
コンピュータなどに不正に侵入することをクラッキングという。
そういう侵入犯は正しくは『クラッカー』というべきだ。
『ハッカー』はコンピュータをハックする人のことだ。
ハックするとはコンピュータを主にソフトウエア的に改造したり手を加えたりして、正規の使い方以外の使い方をする人で、それは別に合法、非合法をとわない言い方だ。
というよりもむしろ、もともとの『ハッカー』という言葉には「コンピュータに精通している人」という尊敬の念が入っていたはずだ。
いつのまにか『ハッカー』という言葉は犯罪者というニュアンスで世間に流布している。
正確にいえば「クラッカー」なのだということを認識した上で、もう「ハッカー」という言葉は普通名詞になっているので、ここでも侵入犯を「ハッカー」と呼ぶ。
以前にセキュリティをテーマにした特番の取材をした。
相手はコンピュータというほとんど動きのない箱の中のバーチャルな世界で、ハッカーが実際にサーバやネットワークに侵入しているということをどうやって映像表現しようか悩んでいた時に、ある人が知恵を授けてくれた。
「東京の虎ノ門にSFに出てくる『地球防衛軍』の基地みたいに、コンソールを並べてハッカーを監視しているところがある」
この話に思わず飛びついてしまった。
『地球防衛軍』というキーワードがなんだかワクワクさせるではないか!
それで早速その『地球防衛軍』を運営しているインフォセックという会社に、取材を申し込んで撮影に入らせてもらった。
その
監視室はまさにゴジラなどの映画に出てくる『地球防衛軍』の司令部
そのものという感じのレイアウトで、中央に世界地図を描いた幅5mほどの巨大なスクリーンがあって、その周りを半円形に囲むようにコンソールを置いたデスクが並び、さらにその両脇の部屋の左右には、まるでスターウォーズに出てくる宇宙船の銃座のように回転するコックピットがいくつか並んでいる。
情報をくれた人が『SFに出てくるような』と言ったのはまさにピッタリの表現だった。
ここではこの会社が契約している日本の主要企業のサーバに攻撃を仕掛けてくるハッカーを見つけて、防御をするだけでなくその身元を割り出して地元の司法機関と協力しながら場合によってはハッカーの摘発をするということもやっている。
この部屋の中央に鎮座する巨大な世界地図のスクリーンにハッカーの所在が表示されるというのだ。ハッカーがどういう国のどういう経路を通って侵入してきているのかをこのスクリーンに視覚的に表示して、それにすぐ追跡チームなどが対応するという。
実はここの撮影に入る前に心配事がひとつがあった。
取材時間は限られている。
この『地球防衛軍』の監視室の撮影には30分しか時間をかけられない。
それで先方の広報担当に
「できればハッカーが侵入してくる決定的瞬間を押さえたい。しかし時間が30分程度しか無いので、一番ハッカーが入ってきそうな時間帯を選びたいがいつ頃か?」
という質問をした。
すると先方の広報担当は
「ハッカーはいつも2〜3分に一回くらいの頻度で入ってくるので、それだけ時間があれば絶対に撮り逃すことは無いよ。」
とこともなげに答えた。
実は実際にその通りだった。
その「司令室」にいる間、中央の世界地図にはハッカーがアクセスしたというアラートと、進入経路がほとんど2〜3分おきに表示されていた。
ここに表示されるのはこの会社の契約先の企業のwebサーバ、メールサーバ、イントラネットなどにポートスキャンやその他の方法で侵入を試みたハッカーだ。
契約先だけでこれだけの頻度で入ってくるわけだから、日本全国では一体何件侵入犯に接触されているのか見当も付かない。
ここの仕組みの説明がまた面白かった。契約先のサーバなどに攻撃を仕掛けてくるアクセス者を自動的にこの司令室が管理している「おとりサーバ」に転送して、そこにわざと侵入させるそうだ。
そうすると相手は侵入に成功したと思って油断して長居するので、それだけ追跡がやりやすくなるというわけだ。
企業のwebサーバには普通のユーザなどの善意のアクセス者もいるわけだから、そういうアクセス者とハッカーとをどうやって見分けるのかと質問したところ、
「ハッカーには特定の挙動がある。例えばポートスキャンとか普通の善意のユーザがやらないような怪しい挙動が必ずあるので、そういう怪しいアクセス者は自動的にここの『おとりサーバ』に転送される」
とのことだった。
こういうハッカーは昔はある程度の上級者が自分の腕を誇るためにやっていたという面があったが、今ではアングラサイトでクラッキングツールみたいなのが闇でやり取りされていて、上級者でなくても初心者でもこういう物を手に入れられるようになってきた。
しかし初心者が、おもしろ半分で手に入れたアングラツールを使って企業サイトに侵入なんかすると最近じゃこういう方法で逆探知されて御用になるなんてこともあるので注意した方が良い。
プロキシのイッパツも噛ませておけば大丈夫だなんていう半端な知識では追求からは逃れられないということも知っておくべきだ。
ところでこのメインスクリーンの世界地図をしばらく見ていて気がついたことがあった。
中央の東京にあるサーバに接触してくるハッカーの所在を示す経路図を見ていると
3回に1回くらいの割合でハッカーはモスクワのサーバから飛んでくる。
時間帯にもよるのかもしれないが、これはハッカーのかなり多くがロシア人だということを示しているか、あるいはロシアのサーバはセキュリティがいい加減だから踏み台にされているのかどちらかだということだ。どちらかはよく分からなかったが。
このことで連想したことがある。
ハッカー事件で過去最大というか、個人がしでかした事件で一番大きかったのは、ロシアの高校生がスイスの銀行に侵入して数千億円を口座から抜き出したという事件だったと思う。
確か90年代にそういう事件が起きているはずだ。
この高校生は銀行の決済システムの弱点を巧妙について、顧客の口座から金を抜き取ることに成功した。
ただ自分の口座に金を振り込ませたために犯行がばれてしまったわけで、こういうところが所詮子供というか、幼いところだがこれがもっと悪知恵に長けた大人だったらまんまと成功していたかもしれない。(例えば架空口座を使うとか)
この事件の詳細もセキュリティについてリサーチしている時に知った話なのだが、ロシアという国はこういう人材が育っているという意味では、IT先進国といえないこともないようだ。
今はハンガリーとかルーマニアとか旧共産圏の東欧とロシアにそういう人材が多いようだ。
そういえば以前ルーマニア人だという「自称ハッカー」ともチャットしたこともある。
こういう旧共産圏なんかがこれからソフトウエアビジネスで急に伸してくるなんてこともあるかもしれない。
彼等は今はせっかく身に付けたスキルを発現する場所が無くて、ハッカー行為なんかしてうっぷんを晴らしているが、そういうスキルが金になるんだという仕組みがもっとちゃんとできれば彼等こそ一大産業の推進力になるかもしれない。
ハッカーの動向を見ていたらそんなことを連想してしまった。そのことを最近ふとしたことで思い出したので、書き留めておく。
GPS
Global Positioning System
海の真ん中で自分の位置を正確に割り出そうとしたらどういう方法があるか?
このテーマは古代から船乗りの課題だった。
紀州和歌山から江戸にみかんを運んで財を成した紀伊国屋文左衛門は、大阪の天保山から船を出してずっと紀伊半島の潮岬を回り込んで知多半島沖、伊豆半島沖と海岸づたいに江戸湾に航行していた。
陸地が見える間は、その地形が目印になって現在位置などが分かるからこの方法は安全確実だ。
しかしこの航法で東京からロサンゼルスに行こうとしたら、千島列島を伝ってベーリング海峡を横断してアメリカ西岸を下ってくるという遠回りになり、直線コースの約1.6倍以上の距離になる。
距離が遠いだけでなく、途中多くの難所があり合理的なコース取りとはいえない。
海の真ん中をまっすぐ突っ切っていけば良いのだが、実際には海上では風が吹く度に船のコースは左右に数度という角度で振られるのだ。長距離航行していれば必ず位置を見失う。
そこで大航海時代に「天測」という方法があみ出された。
読んで字の如く天を測って位置を知るということだ。
星を観測してその星の角度、方角を観測することで自分の現在位置、現在のコースを正確に割り出すことができる。
天には北極星のようにいつでも位置が変わらない星がある。
また正確な時間が分かるなら、太陽やその他のあらゆる天体が位置を測る目標になる。
このコロンブスなどが活躍した時代にあみ出された、六分儀を使った「天測」は実は現在でもほとんど世界中の海軍の士官学校で引き継がれている。
現在のようにエレクトロニクスが発達した時代でも海軍士官学校の練習船では、まず最初に帆を張ったりたたんだりするのに必要な艤装の訓練から始める。
また航海士官候補生は、六分儀と海図を使って現在位置を割り出したりコース決めをする訓練をやらされる。
こういう技術が実戦で役に立つ可能性はまず無いのにだ。
どんなに精度と耐久性の高い電子機器でも必ず故障することがあるという海軍らしい慎重さからこういう伝統が生まれているのかもしれない。
こういう伝統は今でも海軍に根付いているのだなと認識したエピソードがあった。
悲劇のフライトといわれたアポロ13号の船長だったジム・ラベルはその前のミッションだったアポロ8号では司令船パイロットをつとめていた。その時には着陸こそしなかったものの月面から数十マイルという高度まで月に接近した。
ジム・ラベルはこの時に「天測」によって現在位置、コースを割り出す方法を案出して実際にこのフライトでテストした。電子機器が故障した時にはこうした方法でもコース割り出しができるということが重大なバックアップになる。
予備の電子機器、電源系統を積み込んで数百kgも余分に重量を増やすよりも、六分儀一個の方がはるかに重量軽減になるからだ。
このテストでジム・ラベルが六分儀を使って位置計算をしたところ、コンピュータの出した答と誤差範囲内の違いしかなかったという。
「ぴったりだな、カンニングでもしてるんじゃないのか?」
と冷やかす管制官に対してジム・ラベルは
「実は先週もここに来て予行練習をしていたのさ」
と切り返していた。
このジム・ラベルも海軍の出身だった。海軍らしい几帳面さが出たエピソードだが、この技術は実は13号の爆発事件でも役立ったそうだ。
13号の事故で電源が使えなくなってしまいコンピュータの自動制御を使わずに、コース修正の噴射をしなくてはいけなくなった時に、ジム・ラベルは地球の位置を「天測」しながら噴射をしたという。海軍の面目躍如というエピソードだった。
長々と「天測」の話を書いたのは、実はこの陸地を観測しながら航行する方法から「天測」への移行と同じことがカーナビの世界でも起こったからだ。
初期の頃のカーナビは道路脇に据え付けられた基地局と情報を交換して、現在位置を表示するという方式だった。
この方法は道路標識を電子化しただけというような原理なので、単純かつ確実ではあったが問題も多かった。
この方法では基地局が設置されている道路でないとカーナビが使えない。ということはどこでも使えるようにするには日本国中全ての道路に基地局を据え付けないといけないということだ。
もうひとつの問題点は、道路を管轄する建設省、電波・通信を管轄する郵政省などの行政のタテ割りシステムの弊害が出て規格の統一に失敗し、いくつかの規格が残ってしまったということだ。 つまり日本全国の道路に何種類かの規格が違う基地局を設置しないとこのカーナビは使い物にならないということだ。
案の定この方式のカーナビはそれほど普及することもなく、しばらく停滞していた。
ところが数年前、この状況が大きく変わりはじめた。
GPSの普及だ。
GPSというのは簡単にいうと、地球上どこからも必ず2個以上が見えるように静止衛星を4個以上軌道上にあげておいてこのうちの2個から電波を受信して位置を割り出す新しい三角法だ。
このいくつかの衛星からは完全に波長や位相のタイミングが同期した電波を同時に発射している。地上で2個の衛星からこの電波を同時に受信すると、この2個の距離の遠近によって微妙にこの電波の位相がずれて検出される。
この位相のずれからそれぞれの衛星からの距離が計算できる。
三角の3辺の距離が算出できれば、当然その三角の頂点の位置も特定できるわけだ。
GPS方式は、要するに人工衛星を使った「天測」というわけだ。
この方式にはいくつかメリットがある。
要するに前の郵政省方式や建設省方式のような基地局を必要としないこと。
それに通信に乗せる信号も単純になったので、障害による通信失敗、誤動作もも少なくなった。
GPSはもともと軍事技術が民間に転用された物だ。
というよりも
GPSの衛星そのものが軍事衛星だ。
GPSは世界中どこでも艦隊の正確な行動を実現できるだけでなく、ミサイルの着弾も数メートルという誤差で正確にコントロールすることができる。巡航ミサイルは一度撃ってしまうとあとはジャイロコンパスが頼りだったが、GPSと連動して遠隔操作する技術が確立して飛躍的に命中精度が上がった。
湾岸戦争の時にペルシャ湾上の艦隊から発射されたトマホークミサイルが、バグダッドの大統領官邸を正確にヒットしたというニュースは記憶に新しい。
第2次大戦の時にもっと近距離のドーバー海峡越しに打ち込まれたV2号ミサイルがロンドンという大きな的を外すこともあったことを考えると、その命中精度の向上はまさに「飛躍的」といえる。
この戦争で「ピンポイント爆撃」という言葉も流行した。
ただし軍用には数メートルという精度を持つGPSだが、これを民間に開放するにあたって米軍はその利用精度に制限をかけてしまった。
そういう精度を誰でも自由に使えるようにすると、ロケット弾テロなどに悪用されることを恐れたのかもしれない。
またGPSの電波を敵味方関係なく高精度で使えるようにしてしまうと自軍の優位性が保てないという理由だったのかもしれない。
そのために初期の頃の民間用のGPSは、誤差100〜200メートルという非常におおまかな精度になってしまった。
カーナビのコマーシャルで、ナビの指示に従っているとスーパーマーケットの中を突っ切ってしまうというのがあったが、初期のGPSカーナビの精度もまさにこんな程度だった。
当時神戸ロケをしていた時に、ロケ車についていたカーナビを見ていると山手の神戸大学の前を走っているのに、カーナビ上は神戸港の湾岸沿いの道路を走っている表示になっていたのを思い出す。
これでは道路案内としては役に立たない。
しかし民間技術は常に新しい解決法を発見する。
2000年の春にアメリカのクアルコム本社を取材した時に携帯電話に搭載する予定だという新しいGPSシステムの実験を見せられた。
ここで車載のGPS端末を積んで実験車が走ると、その車の現在位置を正確に、しかもほぼリアルタイムに地図上に表示するという実験を見せられた。
担当の技術者によるとこのGPSシステムの誤差は2〜3メートルということだったから、ほぼ軍用のGPSに匹敵する。
GPS衛星の信号は制限されているのでその誤差は100メートル以上あるというのはどうしようもないが、ここで開発された方法ではcdmaの携帯電話基地局とも通信して位置情報に補正をかけるという方法でこの問題を解決していた。
いかにも携帯電話のシステムベンダーらしい解決法だ。
この携帯電話向けGPSは今ではauやFOMA等のケータイに搭載されて「ウォークナビ」などの商品名でサービスが開始されているので使っている人もいるだろう。
ケータイのような小さな端末で艦載ミサイル誘導システムと同じような精度が実現してしまったわけだ。
そうなるとこのシステムは新しいサービスの可能性を生み出すことになる。
クアルコムのGPSを見せられた翌年には今度はイギリスのマン島で始まった第3世代携帯電話の実用実験を取材した。そこで使われている機材はまさしくNTTドコモのFOMAであり、実際実験を運用していたスタッフはかなりの人数が日本人だったのだが、ここでは当時まだ日本でも始まっていなかった試験サービスも実験に入っているのでそれも見せてもらうことにした。
それがこのGPS歩行者ナビ用のサービスだった。
この時にはまだ試験機だったのでケータイではなく、パソコンに大きな送受信装置をつけて車に積んで実験していたが、勿論実用化した暁には携帯電話の中にこれが全て入ってしまうのだという説明だった。
その端末もGPSだから勿論自分が今いる場所も表示できるのだが、もっと重要なのはGPSに付随したプッシュ、プル型の各種サービスが可能になるというデモだった。
つまり
マン島を歩いていて立派な水車を見つけた。
この水車はいつ頃の時代の物だろうか?誰が作ったものだろうか?
そういう疑問を感じたらナビのその水車の当たりにカーソルを持っていってクリックすると良い。
マン島政府観光局が提供する
「マン島の歴史風物、観光名所」の当該サイト
に飛べる。
(ちなみに余談だが、マン島はイギリス領だがイギリス政府とは別の政府を持ち、独自の通貨も発行している。イギリスの中の独立国なのだ。これはかつてのイギリスが小さな王国、公国が寄り集まって成立した歴史が今でも伝統として残っているということだ。イギリスの正式名称はUK、つまり「連合王国」という意味が含まれている。以上余談だ)
お腹が空いたら、近くの食事ができるパブがある場所を表示してくれるし、土産物店も表示してくれる。
マン島で開催される世界的なオートバイレース
のコースだって教えてくれる。
これはプル型サービス、つまり要求をすると情報をくれるというサービスだが、食事時になるともよりのレストランの場所を自動的に表示してくれる、あるいは空港に向かうと途中土産物店をサジェストしてくれるというようなプッシュ型サービス、
つまり情報提供者側から使用者のシチュエーションにふさわしい情報をお奨めするというサービスも可能になる。
実は携帯機器にGPSが搭載されることの最大の重要性というのはこういうことなのかもしれない。
使用者が自分の位置が分かるようになるだけでなく、使用者の使っている各種のサービスのバックヤードにもその情報は提供されるので、関係ない時に無意味な情報をどんどん垂れ流すスパムのような情報提供ではなく、本当に使用者に喜ばれるような情報提供が可能になるかもしれない。
GPSが身近になって普及する本当の利益は実はこれから実現しはじめるように思う。
ものづくりニッポン
mono-dukuri Nippon
2001年くらいまでの日本の産業の空気といったら、とにかく先行き不安で打開策もほとんどないというかなり厳しい見通しが多かった。
このままでは中国にやられる、ものづくりこそ日本の産業の原点だったはずだが全て中国にコピーされ、価格では全く競争にならない。中国は世界にデフレを輸出している。
日本の衰退の時代が始まるというようなトーンが多かったように思う。
しかし実際には日本のメーカー各社はそういうノイズにも振り回されずに着実に、製品開発、生産ラインの改善、在庫コストの圧縮、事業のリストラを進めてきていて今では衰退するどころか、日本のものづくり産業はかなり筋肉質になってきているというのが普通の見方になってきた。
その証拠に現在の半導体出荷レベルは2000年のITバブルの時の水準に近くなってきていて、これからまた下降線をたどりそうな危険水域に入ってきて入るのだが、2000年の時と決定的に違うのは、早々と各メーカーとも在庫圧縮の動きを見せて余計な在庫を持たないという姿勢を鮮明にしているのと、そもそも設備投資を借金でやるのではなくこれまであげてきた利益を内部留保して、現金で積み上げてきていてそのお金を借入金の返済に充てたり新規設備投資に充てたりしているので、出荷の減少や金利の上昇などが企業経営に響かないような体質に変わってきている。
それになによりも、ものの作り方も明らかに「日本にしかできない物」を目指している。
これは松下の新しいフラットパネルテレビシリーズの「ビエラ」の記者発表を取材した時のことだが、新シリーズからは松下は独自技術を盛り込んだ映像プロセッサーをワンチップ化して「ブラックボックス化する」と説明した。
この「ブラックボックス化」の狙いを会見後インタビューで質問したところ、松下の事業部長は「中国などに技術が流出するのを防ぐためだ」と明言した。
実は日本の家電メーカーは巨額の開発費を投入して製品化したDVDプレーヤーを中国にコピーされてしまい、今では
秋葉原にも8000円というDVDプレーヤー
が並ぶようになり、各メーカーはこの巨額の開発費用をほとんど回収できなかったという苦い経験をしている。
それで松下が進めているのは重要技術を含んだ部品はワンチップ化、つまり半完成品のひとつの部品の中に閉じ込めてしまい、中国の工場でやるのはそのブラックボックス化された部品を組みつける作業だけにするというものだった。
これで技術の流出を防げるわけだ。
中国のコピーのやり方はある製品のひとつの機能の部位をモジュール化して、そのモジュールの組み合わせで新しいものを作るという「モジュラー」型の方法で、成果を上げてきた。
モジュールにはモジュールで対抗するというのが松下のやり方なら、シャープなどはもう中国には重要生産施設を置かずに、液晶テレビの工場は三重県の亀山に作った大型の新工場に集約してしまい、この内部は全く非公開にしてしまうという方法をとっている。
いずれにしても、日本の各メーカーは中国の安い労働力という武器を最大に活かしたものづくりに対抗するものづくりを明確にしているようだ。
昨年来こうした製造業中心に企業業績は回復基調が強いのは、評論風にいうなら「ものづくりニッポンの面目躍如」ということになる。
ただし製造業がどこも一律におしなべて良くなってきているかというとどうもそうではないようだ。
先日ある新聞記者さんを招いて対談を収録したところ、その記者さんが合間の休憩時間にぼやいていたのは
「ものづくりニッポンなんていっていい気になっているけど、足もとのものづくりの伝統はすっかり崩れてしまっているのに、そういう企業の社長さんほど『ものづくりニッポン』なんていうスローガンが好きだなんていうのは困ったもんだ。」
というようなことだった。
この記者さんはIT、エレクトロニクス業界ウォッチャーの草分け的人物で、この業界に精通しているという意味では新聞社の中だけでなくおそらく日本でも屈指の人物なのだが、そういう人物がこういうふうに嘆くということは、かなり崩れた企業があるということだ。
それも誰もが名前を知っている、ブランド的には比較的人気が高い企業だったりする。
AppleがiPodを発表した当時は、このMP3だけに特化したウォークマンに各対抗メーカーはあまり注目していなかったはずだ。
「どうせ売れるわけが無い」
と思っていたのだろう。
日本のオーディオメーカーはカセットから世代交代したMDを主力メディアとして、ウォークマンはこれからもずっとMDの時代が続くと思っていたに違いない。
しかし昨年Appleが人気ジュークボックスソフトのiTunesをWindowsにも無料公開して、iPodとWindowsの親和性の問題をクリアすると、今度はiTunesを使ったオンラインのミュージックショップを始めた。
この問題に全く日本のオーディメーカー、レコード会社が反応しなかったというところがまず鈍い。
しかもiTunesのミュージックショップがあっという間に成長して、Appleがオンラインミュージックストアの圧倒的トップ企業に躍り出てしまってからも、大した反応はしていない。
MDの容量を5〜10倍にする大容量MDウオークマンを発表したというくらいのことだ。
今ではどうなっているか?
秋葉原で売れているのはiPodminiばっかりで、やっと日本の各メーカーが出してきたMP3プレーヤーは
「ごつい」
「デザインが可愛くない」
「操作性が洗練されていない」
など評判は散々だ。
雑誌のちょうちん記事ではまぁまぁ対抗馬として競争しているように書いているが、こういう場所での人気を見ていると、あきらかにこのジャンルでは日本の各メーカーは遅れをとったなと思う。
最近流行りの言葉でいうなら
「勝ち組」「負け組」
ということになるのだろう。
この言葉は好きではないが、日本のものづくりといってもこれもあきらかに勝ち組負け組に二極化しているように思う。
こういうことを書こうと思ったのは、iPodが出た当初のある雑誌のレビューが印象に残っていたからだ。
そのレビューは要約すると
「iPodはホイールひとつでコントロールする斬新なデザインだが、そのホイールはガタがある。
これが日本のメーカーならガタ無しにきっちり作るだろうに、アメリカのものづくりというのはやはり大雑把だ。」
というような趣旨だった。
ここにも「ものづくりニッポン信仰」がある。
確かに日本のメーカーだったらコントロールホイールはガタガタ弛みが無いようにかっちり作るだろう。しかし大事なのはそういうことだろうかと当時もその記事を読んで考え込んでしまった。
結局そのかっちりしたものづくりをする日本のメーカー製品は、ガタがあるiPodの前で総崩れになっている。
しかも今のiPodはノートPCのパッドと同じ原理のコントロールホイールに仕様変更になって回転する部分が無くなってしまった。
こういうソフトウエア的に問題を解決できる事実を見せつけられると、ハードウエアの機械部分の加工技術ばかりを誇っている「日本のものづくり」というのは一体どうなのかなと考え込んでしまう。
2004年10月26日
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