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マスコミは真実を語るか.../Can mass media be honesty?

御同業ながらそういう弱腰は心配になるという話

先週テレビ朝日系の土曜日深夜のバラエティ番組で、「脳梗塞の健康度チェック」という話題を取り上げていた。

番組ではチェックポイントにあてはまる人は脳梗塞の心配をした方がいいというチェックを出演タレントにさせていたが、その中で
「一日に2回以上インスタントラーメンを食べる」
という項目があった。

早速その週明けに即席麺の工業会がテレビ朝日に
「視聴者に誤解を与える不適切な発言」
として訂正と謝罪を要求。
結局テレビ朝日は非を認め、今週の放送分でこの問題の訂正と謝罪を番組中でやった。

しかしここでおかしいと思うのは、この番組スタッフは適当な思い込みでこのチェック項目を作ったのかということだ。


実際にはことが医学に関係することなので、こういう番組を制作する常識として専門医に相談してこのチェック項目を作ったはずだ。
それもやっていない番組制作スタッフなら問題外だが、それをやっていたにもかかわらず業界からクレームが出たので簡単に訂正してしまうというのはどういうもんだろうか?

インスタントラーメンは高塩分、高カロリー食ということでこれを頻繁に食べる人はやはり動脈硬化、梗塞のハイリスクグループであるというのは栄養学的にも常識ではないだろうか。
一日2回という具体的な数字をあげたのが問題だったのだろうか?

でも一日2食もインスタントラーメンですましてしまうというのは現実的には、かなり偏った食事だというのは常識的な感覚ではないだろうか?

インスタントラーメンやファーストフードというのはこういう食事の栄養と健康という話になると、とかく悪者にされやすいのでよけいに神経質になるのかもしれない。
しかしテレビ朝日もそんなことで簡単に謝罪し過ぎではないかとも思う。


この話で思い出したことがある。
今から7年前くらいに「環境ホルモン」というのが問題になったことがある。
合成樹脂やダイオキシンなどのポリマーが自然界に流出するとなぜかこれが「女性ホルモン」のような働きをして、野生生物のオスのメス化、人体の特に男性の発育不全を起こしているのじゃないかという環境問題だった。

この時にカップヌードルの発砲スチロールにも環境ホルモンが含まれていて、これを食べ続けると特に子供の体機能に異常が出る可能性があるという報道を朝日系列がやったことがある。

当時大阪の朝日放送はこのカップヌードルの環境ホルモンについて報道キャンペーンを張ろうとしていたみたいだ。
これについてすぐに日清食品からクレームが来て、それもかなり強い調子で
「環境ホルモンのかの字も言ったらすぐに訴える」
という意味合いのことを言われたそうだ。

これで朝日放送はすぐに弱腰になってしまってその翌週からは環境ホルモンについては全く取り上げなくなってしまった。



これは先の脳梗塞と違ってかなり推測が入った話だった。
この環境ホルモンは社会問題化して本も多く出版された。
それで当時大阪で報道に絡んでいた私も
「環境ホルモンは大きな問題になるからできるだけ取り上げるように」
という指示を受けていた。
しかしこの環境ホルモンについては調べれば調べるほど、自信を持って取り上げることができないような代物だという気がした。

だいたい環境ホルモンという概念自体ハッキリしないというか、本当にそういう物質が偽ホルモンのような働きをして生物に影響を与えるのかどうかも判らない上に、そうだとしても、分子式も構造模型を見比べても環境ホルモン物質と本物のホルモンには似たところが一つもない。
しかも環境ホルモン容疑物質といわれた100以上の化合物はみな「疑いがある」というグレーゾーンのものばかりで「確実に問題がある」というものは一つもなかったように思う。
(むしろハッキリしているのは発ガン性で、しかしダイオキシンなどの発ガン性という話は全く目新しいものではない)

結局私は
「環境ホルモンは定説ではなく、確実な部分は一つもない。そういう推測に基づいて社会的に影響が大きい問題を取り上げるのは大きな危険が伴う」
という理由で私がいた報道で環境ホルモンの話題を取り上げることには慎重になった方がいいという意見を出した。

当時マスコミはどこも環境ホルモンで大騒ぎしたが、その中でうちだけが沈黙していたわけだ。
しかし結局7年経った今では環境ホルモンなんて言葉は死語になってしまっている。

厳密にいえば各局ともかなりあちこちに謝罪しないといけないのではと思うが、この問題に関してはおかげで私と当時のスタッフは謝罪しなくてはいけないことは何もない。


この二つの話で何が言いたかったのかというと、マスコミといえども客観的に冷静に報道しているとは限らないということだ。

こういうことをいうと幼稚な議論をする人はすぐに
「マスコミのいうことなんてどうせみんな嘘八百だ」
なんていう極端なことを言いたがるが(特にこういうタイプの人は2ちゃんねる方面に多いようだが)そんなことはない。

マスコミはそういう人物が思っているよりも遥かに厳しいチェック機能が内部的には働いていて、いい加減な推測での報道というのはそうそうはできないようになっているし、そういうことで努力している人はこの世界に大勢いる。
「週刊○○」のようにろくに取材もしないで
「こういう話だったら面白いな」
という記事を垂れ流しているマスコミゴロみたいなメディアも中にはあることは認めるが、そういういい加減なメディアは読者の見方もいい加減だから大きな影響力を持つなんてこともない。
マスコミの世界には厳しい公平性、客観性のチェックがたいていのところでは働いているのだ。

にもかかわらずマスコミにも弱点がある。
「世間で騒がれている話に乗り遅れるのを恐れる」
「"権威ある"といわれているソースの発表は鵜のみにしてしまう」
というもので
即席麺工業会に
「一日2食インスタントラーメンを食べると脳梗塞になるなどという実証実験をやったのか?」
といわれるとすぐにすごすごと訂正してしまう。
それが栄養学的には常識に近いような話でもだ。

世間が環境ホルモンで騒ぎはじめると、それを取り上げないことは「報道の怠慢」のようにいわれることもある。

マスコミの人材も、栄養学や高分子化学の分野の専門家がそうそうスタッフにいるわけではないので、そういう専門家の突っ込みには弱い。
そこで判断ミスをして誤報を流してしまうという危険は常にある。



先日 MicrosoftのWindows2000、WindowsNTの一部のソースコードが流出したというニュースが流れたことはこの項の前回でもちょっと触れた。
これ自体は確実な事実で、そのソースコードを掲載したサイトは現在アクセス不能になっているがアクセスした人の話によると確かにそれはWindowsのソースコードらしいということだ。

問題はこの影響の部分で、「専門家」はこのソースコードが流出したことで
「Windows2000などにセキュリティホールを仕込んだり、このソースコードをもとに新しいウィルスを作ることが可能だ」
と発表していることだ。
実はうちのニュースでもこの見解をそのまま流してしまった。

しかし私自身はこの見解には強い疑問を感じてしまった。


ソースコードはWindowsのOS全体ではなく、そのごく一部分だったらしい。
そんな一部分の断片的なソースコードが手に入ったからといって、それを加工して他人が使っているWindowsにセキュリティホールを仕込んだりなんてことが可能だとは思えない。
実際BBSなどで個人的に知り合ったエキスパートたちの意見もそういう影響は皆無だろうということだった。

そんなことで簡単にセキュリティホールができてしまうとしたらむしろその方が問題で、Windowsはそういうソース情報をもとに作ったバックドアを簡単に仕込むことができる脆弱なシステムだということになる。

実際UNIXやLinuxはそのソースコードが公開されているが、だからといってそのソースコードをもとにバックドアを作って侵入することが可能になるなんて話は聞いたことがない。


それにソースコードをもとにウィルスを作ることができるなんて話も荒唐無稽だ。
流出したコードが何に関する部分なのか判らないが、それをもとにウイルスを作るというのも相当厄介なことではないかと思う。

それにそんな手間をかけなくても、毎週発表されるMicrosoftのセキュリティホールの情報を見て、それに対応したウイルスを作る方がウイルス作者たちには確実だし簡単だという気がする。

だから結局ソースコード流出の影響なんて何もないということで、このニュースの影響はMicrosoftの著作権が侵害されたという問題だけだと思う。


ところがMicrosoft社は、Windows2000、NTのユーザに注意を呼びかけたというのだ。
こういう話を聞くとこれって企業ユーザがなかなかWindows2000をWindowsXPに切り替えてくれないのに業を煮やして、Microsoft自身がわざと流出させたんじゃないかという穿った見方も出てくる。

もちろんそんなことはないと思いたいが、そう思わないとこのMicrosoftの騒ぎっぷりが説明できないというか、意味が分からない。

あるいは このコードを見た開発者に「MSのコードを盗んだという言いがかりをつけるためにMS自身がわざと流した」という見方もある。

ここまでくるとこの会社、どうしてこんなに嫌われるまで自社の評判について放ったらかしにしてきたんだろうかと驚いてしまう。
今回の事件ではMSは被害者のはずなのに、ここまでひどいことをいわれる被害者も珍しい。
IT業界で世界一嫌われている企業は間違いなくMicrosoftだし、今さらスポーツの冠イベントにちょこっとお金を使ったって、もう回復のしようがない。

ところでうちの内部でも私はそういう影響はないんじゃないかという意見を言ったが、Microsoftは影響があり得ると言っているのでそのコメントをニュースで採用することになってしまった。
私はOSの専門家ではないので、専門家の言うことの方が確実だろうということでそういう報道になってしまった。


仕方ないというか、私が専門家ではないというのも事実なのでどうしようもないことなのだが、調べれば調べるほど彼等の言う「影響」の意味が解らないのでやはりこれは誤報ではないかという気がしている。

どうしてこういうタイミングで流出事件が起きたのかに関してはまたいろいろ穿った見方が出ている。
Microsoftとしては最近発表した過去最悪のセキュリティホールの問題が大きな騒ぎになるまえに別の騒ぎを起こして、そちらに目を背けさせたのではないかという推測も呼んだ。

それが事実なのかどうか分からないが、そういう可能性も含めて常にこういう情報を扱う時には慎重になった方がいいというのが私の意見だ。


でないと
「来れ日本のビルゲイツ」
なんていうキャンペーンコピーを打ち出して、業界関係者の失笑を買った地方自治体の二の舞いになる気がする。

ご同業の皆さん、お互い精進しようではありませんか!




2004年2月21日












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