Previous Topへ Next

魔女狩りの夜
/Witch-hunting

「タミフル薬害事件」は実は「タミフル報道被害事件」と
改名しないといけないのではないか?


「タミフル薬害事件」は実は「タミフル報道被害事件」と改名しないといけないのではないか?

昨日来、また次男がインフルエンザの高熱で熱性痙攣を起こして救急搬送されてしまった。
ワンシーズンに二回ははじめての経験だが、毎回生きた心地がしない思いをさせられる。
幸い経過は今回も順調で、特に別状はない。

ただこういうタイミングで飛び込んできた、
「厚生省がインフルエンザ治療薬の『タミフル』を10代には処方しないように指導」
というニュースには激しい憤りを感じてしまった。
あまり馴染みがない方のためにニュースの概要を解説する。

タミフルはインフルエンザの特効薬として世界の数十カ国で承認され非常に高い効果を挙げている薬である。
インフルエンザは単なる風邪とはその原因になるウイルスの形態も病気の症状も被害も全く異なる、要するに全く別の病気なのだがいまだに「きつい風邪」という理解のされ方をしている。
しかし世界で数百万人の死者を出した「スペイン風邪」のケースのように、インフルエンザは「死ぬ病気」であり、特に幼児や高齢者には非常にリスクの高い感染症である。

その「死ぬ病気」であるインフルエンザは、死なない場合でも40°以上の高熱が通常は数日ないし一週間続くために患者の体力を急激に奪ってしまい、特に脱水症状により併発症を多く引き起こす厄介な病気で、これが原因で結核や肺炎、脳炎などを起こして死に至るケースも少なくない。
ちなみに我が次男も熱性痙攣の持病を持っているため、インフルエンザのハイリスクグループに入る。

だからこのインフルエンザの特効薬として登場したタミフルはこういうハイリスクグループの幼児や高齢者を家族に持つ人たちにとってまさに福音というべき新薬だった。

ところが先日来の「タミフルの副作用で少年がマンションから飛び降りて死亡した」という一連の報道で、その家族が「タミフル被害者の会」まで結成して
「危険な製剤タミフルの使用を禁止せよ」
と厚生労働省に強くねじ込んでいた。
特にテレビを中心に「タミフル薬害報道」はエスカレートし、先日の輸入元の中外製薬が厚生労働省の薬事審査会の医師に「奨学金」という名目で寄付金を渡していたことが判明するとそれこそ鬼の首を取ったように
「厚生労働省と医師と製薬会社はグルになって金儲けのために危険なクスリを国民に与え続け、その犠牲になっていたいけな少年が死亡し家族はこの陰謀の犠牲になっている」
というトーンの報道がエスカレートした。
(この奨学金制度自体は確かにあまり褒められたシステムではない。違法ではないが横田医師も「オレはそんなケチな人間じゃない」なんて開き直り方はしない方が良い。そんなに立派な行為でもないからだ)

厚生労働省は「薬と飛び降り事故の因果関係は不明」としていたがついにこの報道とハードクレーマーになってきた「被害者家族の会」の主張に根負けして、
先日未明に異例の緊急記者会見を開いて
「10歳位以上19歳以下の少年に関してはこのクスリを処方しないよう注意を喚起する」
という発表をした。

ここで注意をしたいのは、厚生労働省が「注意を喚起する」という指導は「事実上の禁止」であり医療現場はこの勧告に逆らってタミフルを処方することは一切できない。
例え患者本人と家族の強い希望があったとしても、医師はその希望を聞くことはできない。
なぜなら医療は全て認可事業であり、医師がもし勧告に逆らって薬を処方し何か問題が起きたらそれは全て
「医師らの不適切な行為によって引き起こされた未必の故意の事案であり、単なる過失とは言えない」
と判断されて最悪は医師免許剥奪、医療法人の認可取り消しという場合もあり得る。だから例え「勧告」であっても医師にとっては「事実上の禁止」であり、どんなに患者家族から懇願されても「勧告」された薬を処方することはできないのだ。


報道は鬼の首を取ったようにエスカレートし
「国の対応は遅い」
とか
「10代だけが禁止されているが、すべてのタミフル使用を禁止すべきだ」
とまで言い始め
「国民の命を軽視する行政の意識をいい加減切り替えてもらいたいものだ」
などと完全に自分たちが十字軍にでもなったような気になって好き放題なことを言っている。

ところが今朝になって急に風向きが変わり始めている。
これまでタミフルの副作用として十数件の少年の飛び降り事故が報告され「タミフルは危険な薬」と決めつける根拠になっていたのだが、今朝になって
「タミフルを使用していないにも係わらず飛び降りをしたケースがある」
ということが判明してきた。
これはこれから慎重に検証されないといけないのだが、「飛び降り=タミフル服用」というふうに単純に決めつけてきたマスコミとそのマスコミに踊らされてきた「被害者家族の会」は重大な事実誤認をしていたんじゃないかという疑問が提示されている。

厚生労働省は最初から
「インフルエンザは42°近い高熱が数日続くことがあり、非常に不快な幻覚や幻聴等の症状が現れる可能性が高い。飛び降りはこの幻覚などが原因の可能性がある」
として、タミフルと飛び降りの因果関係を直線的に結びつけたがる議論に疑問を呈してきた。

今回のタミフルに関しては厚生労働省の見解は正しかった可能性がある。

実際タミフルは世界数十カ国で使用されているが、このような薬害騒ぎが起きているのは世界で日本だけだ。
ここが血友病の血液製剤薬害事件の時なんかとは決定的に違う。
(注:もちろんタミフル服用後の異常行動については海外でも報告がある。しかしその件数は日本だけが異常に多い。つまりタミフル薬害の主張をそのまま信じるなら、この薬は日本人にだけは体質的に合わないということの証明も必要になる。世界中で日本人だけには合わない薬なんていうのは合理的な考え方だろうか?)

この間数日間にタミフルを処方されなかったために重篤になってしまった患者が全国に一人もいないのだろうか。もしタミフル薬害はシロという結論が出たら、今回の一連の騒ぎは薬害事件ではなく「報道被害事件」だということになる。
このことに対してマスコミは、特にテレビの報道スタッフは患者家族になんといってお詫びをするのだろうか、もうその準備をしはじめた方が良いと思う。

報道という現場は意外に長年の経験が重視されない職場だ。
マスコミは過去に何度も誤報事件を起こし、報道被害を引き起こしてきた。テレ朝の「埼玉ダイオキシン茶」事件なんてのも完全な報道スタッフの事実誤認による誤報事件であり、こういう学ぶべきケースは過去に幾度もあったはずだ。
しかし今回のように
「タミフルのせいで息子は死んだ」
という信念を持った遺族がいて、タミフル服用後飛び降りたケースが他にもあるという状況証拠があれば、簡単に発熱してしまい、
「行政の怠慢、製薬会社、医師、厚生労働省の癒着した巨悪」
というふうに単純に決めつけてしまうマスコミ正義病が発病してしまう。
この職場はいつまでたっても幼いのだ。
マスコミ人こそ今すぐタミフルを服用してこの高熱をさました方が良い。
私自身も同業として自戒したい話だ。




2007年3月23日













Previous Topへ Next





site statistics
青木さやか