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なんちゃってなIT用語辞典14

多分何の役にも立たないIT用語辞典
How that IT term sounds funny



ADSL


Asymmetric Digital Subscriber Line


ITの担当になって北欧のノキア、エリクソンから取材を開始したという経緯は前にもここで書いた。
その時にそれぞれの会社の歴史も一応調べたのだが、それもなかなか面白い歴史だった。

例えばノキアだ。

もともとフィンランドのノキア市に本拠地があったこの会社は、映画「マトリックス」に登場した印象的なデザインの携帯電話で一躍日本やアメリカでも有名になり人気も出た。

この携帯端末生産台数世界一のベンダーは、しかしもともと電話屋さんではない。


ノキアはもともとの本業はケミカルだった。
ノキアブランドのゴム長靴はフィンランド人には子供時代から見なれたものだった。
またスキューバダイビングをやる人には、ノキアブランドのウエットスーツは馴染みがあったかもしれない。
また自動車用のノキアタイアもヨーロッパではよく見かけたものだったようだ。
このケミカルメーカーだったノキアは事業の多角化で家電製品に事業を拡げることになる。
ヨーロッパではノキアテレビはよく見かけるテレビだったそうだ。

やがて90年代の国家的な構造不況に陥った時に、フィンランドは劇的に変化することが求められたが、ノキアも時代に合わせて劇的に変化した。
もともとの本業だったケミカル部門の大部分を売却してしまった。
また家電製品全般に広がっていた電気製品事業も絞り込んで、経営資源をほとんど携帯電話などの情報通信事業だけに集中したそうだ。
そして世界1位の携帯端末メーカーに成長した。

もともとは長靴屋さんだった会社がだ。



当時携帯電話生産台数世界第3位だったスウェーデンのエリクソンは、電話事業者だったという点ではノキアほど劇的に転換したわけではない。
しかしもともとは電話の交換機を製造していた地味な会社だった。

ストックホルム市内にある通信博物館にはエリクソン製の20世紀初頭の電話交換機が展示されていたが、電磁石でスイッチングをするという豪快にでかい機械でその電磁石一個で1回線の切り替えしかできなかったわけだから、当時ニューヨークやロンドンと電話回線数を競っていたというストックホルムの電話局は大変だったろうと思う。
それでもこの機械はそれ以前の女性の電話交換員が手で切り替えしていた交換機に比べると、はるかに高速、ローコストな交換機だったということだ。

(20世紀初頭にストックホルムが電話普及台数でロンドンと競っていたというのは結構驚きの事実だ。
ストックホルムは静かな美しい街だし、現地のコーディネーターさんによるとストックホルム市内を警戒している警察官は数十名しかいないという。大阪府警ですら職員が2万人いることを思えば、この数字は異様に少ない。
それだけのどかな街だということだ。
にもかかわらずロンドンと競り合っていたということは、この国は昔から通信に関しては先進国だったということかもしれない。)


そのエリクソンに1999年に取材に行った時のことだ。

もともとの目的は携帯電話事業と、当時注目を集めはじめていた新興のワイヤレスネットワーク規格「Bluetooth」を取材するということだったので、エリクソンの本来の本業である電話交換機には全く興味がなかった。

だが「Bluetooth」のデモをやってくれた技術者が、
「是非見ていけ」
というので交換機も見せてもらった。
といっても取材の目的に入っていなかったので、交換機について何も勉強していなかったし説明されてもチンプンカンプンだったのだが。

その当時は私自身もまだITアパシーだったし、通訳も兼ねて同行してくれたスウェーデン人の女性コーディネーターさんもどちらかというとハイテク、電子関係には弱いという人だった。

それでもその交換機を指差してこの技術者はしきりに熱のこもった説明をしている。
私のつたない英語力でも、彼が言っているのは、
「これは最新型の電話交換機で、日本の電話事業者でも採用が決まっている世界でもっとも先進的な電話交換機だ。」
ということなのは何となく解った。
しかしその話の中で、何が先進的なのかというと

「ディジタルサブスクライバライン」

に対応して

「アイピーフォン」

に対応しているというようなことを一生懸命言っている。
この意味が分からなかった。

通訳のコーディネータさんも

「デジタルの契約者の回線に対応していてIPの電話に対応しているということですが、何のことだか解りますか?」

と訳しながら困った顔をしていた。
彼女にも良く解らなかったらしい。

結局この時の取材で一番困ったのがこの部分というか、全く意味が分からなかったので一応カメラは廻しておいたがこれが重要な情報なのかどうかも解らないまま引き上げた。
彼としてはこんな最新のトピックスを見せているのに、反応が鈍いなぁと不審に思ったに違いない。
というのは帰国してからこのテープを見直して、翻訳も入れてしっかり調べ直したところ確かにこれはトピックスだったということが解った。

「デジタル契約者回線」
というのは当時話題になりはじめていたADSLのことだった。
彼が説明していたのは、

「この電話交換機は通常の交換機として使えるだけでなく、各契約者の回線をアッセンブリ化していて、ラックに差し込んでいるボードをひとつ交換するだけで、ADSL対応の交換機になるし、別のアッセンブリに交換すればすぐにIPフォン(インターネット電話)にも対応できる。工事にかかる時間はわずかに数分で日本のNTTをはじめ世界中の電話事業者から受注を受けている。」

というようなことだった。
ADSLはさすがに私も知っていたが、「ディジタルサブスクライバライン」というのは知らなかった。


この1999年当時注目されはじめたADSLという技術についてはこの時の番組でも触れようとしたが、どういうバックグラウンドの技術なのか、いつから始まった技術なのかこの時には情報がなかったので詳しく触れることができなかった。
情報が無いのは当然のことで、実はxDSLというのは1997年にアメリカで開発されたまだできたての最新技術だったので情報が少なかったのだ。

ADSLはxDSLという技術のバリエーションのひとつで、

このxDSLは97年当時にアメリカのケーブルテレビの新サービスの切り札として開発された。


アメリカは日本とテレビ事情がかなり違っていて、大部分の視聴者はケーブルテレビを見ている。
残りの人々は衛星放送を見ているので、日本のように地上波というものがあまり発達しなかった。
ケーブルテレビは定時の放送を数十チャンネル常時放送しているわけだが、それとは別にお客さんのリクエストで映画を配信することで、視聴者を獲得しようとしていた。
これも日本と事情が違うのだが、アメリカはケーブルテレビ同士が競合しているからそういう目玉コンテンツに対するニーズが強かったわけだ。

それで見たい映画を見たい時に見られるというサービスを始めたわけだ。
ただし2000年頃にはケーブルを光ファイバー化しているところもあってそういうケーブル局を取材した経験があるが、97年当時はケーブルといえば銅線の同軸ケーブルだった。
こういうケーブルでは送れる情報量もおのずと限られてくる。

本放送を中断しないで映画のような大きなデータを配信する方法ということで、アナログの本放送の信号のはるか上の帯域を使ってデジタル信号で「同時に」送ってしまうという方法が考案された。
両者の信号は当然混ざって受信者のところに配信されるが、使っている周波数帯域が全く違うので簡単に分離できる。
これがxDSLの始まりだった。

ストックホルムで交換機を見せられた翌年、2000年春にサンディエゴのホテルに取材で泊まった時には、このケーブルテレビのビデオオンデマンド(リクエストした映画をすぐに見られるサービス)を体験した。
ちょっと料金が高い気がしたが、これなら自宅にかさ張る映画のコレクションを置かなくても良いから便利だという気はした。

実際にはxDSLはあまりケーブルテレビには普及しなかったようだ。
リクエストを受けて自動的に映画を送信するバックヤードの設備投資がかなり巨大になることが解ってきたので、中小零細企業が多いケーブル事業者には荷が重い投資になることが判明してきたからだ。

ただこのDSLは別の形で大きく開花した。
お馴染みのADSLがそうだ。



ADSL(非対称デジタル契約者線)はその名称が示す通り、上りと下りの送信が非対称であることに特徴がある。
銅線には同じ帯域の信号を上り方向と下り方向で同時に送信することができないが、この違う帯域を使えば同時に上り下り送受信が可能だ。
ADSLは下りの方に広い帯域の信号を使って高速通信を確保する。

上りは下りに比べて狭い帯域を使うので当然低速になるが、こういう設定が最適な通信需要がこの頃急成長していた。

インターネットだ。


ネットに接続するユーザの使い方は一般的には、上りはwebサイト接続要求、ダウンロードの要求など小さな信号が多い。
それに比べて下りの方は、重いwebサイトを見たり大きなファイルをダウンロードしたりと大きな信号になるケースが多い。
なので上りのスピードを犠牲にして下りのスピードを確保するというADSLが向いている。

ftpなどを使うようなユーザや自宅にサーバをたてているようなユーザは逆に上りにスピードが必要になるが、そういうコアなヘビーユーザはごく一部で大部分のユーザはwebサイトを見たりダウンロードしたりという使い方がメインなので、そのニーズに合ったということで普及しはじめた。

またADSLは新しく専用デジタルラインをわざわざ敷かなくても、既存のアナログラインで使えるというのがそもそもの技術の肝だった。

ケーブルテレビのまさしくそういう需要から始まった技術だが、アメリカだけでなく世界の主要先進国でほとんどの家庭に敷設されているアナログ線の代表的な物というとやはり電話線ということになる。
これは日本でもアメリカでもイギリスでも韓国でも、ほとんどの家庭に一本は入っている。

もう一点、電話線が有利なのは電話という通信規格はケーブルテレビに比べるとはるかに低品位の通信規格だという点だ。


電話のケーブルもそれなりの広い帯域の通信が本来はできるはずなのだが、アナログの電話はそのずっと下の方の帯域をわずかに使っているだけだ。
つまりアナログ電話線はケーブルテレビの同軸線よりもはるかにADSL向けということができる。
もともとはケーブルサービスのための技術として始まったDSLが、いつの間にか電話でつなぐインターネットの代名詞になって、今では一般にはそちらの方が馴染み深いのではないかと思う。


このADSLが日本で広まった決定的な契機は、「ヤフーショック」といわれている事件だったろう。

2001年の春にyahoo JapanがADSLブロードバンドの月額利用料を3000円強、工事費も3000円程度に一挙に値下げした。
それまでにも各社のADSLサービスはあったが、プロバイダー料込みで1万円近くなる通信費はいくら高速とはいっても使いたくなるようなサービスではなかった。
2001年の春段階でADSL加入者は2万人もいなかったはずだ。

この事件は、例のエリクソンの交換機を見せられた1年4か月後だったと記憶している。

yahooBBの一挙値下げのニュースを聞いた4時間後に私も
yahooBBを申し込んだが、その時点で既に先約が10万人いた。たった4時間でだ。


その後はもうすっかり周知の話だが、各プロバイダーも追随しADSLは価格競争になった。
そして気がついたら日本の総世帯の半分はADSLに加入しており、その通信料もいつの間にか世界でもっとも安い国になった。
韓国に「大きく引き離された」、「遅れを取った」等といっていたがいつの間にか抜き返しているような時代になった。



ところで話は変わるが、私は最近関西から東京に転勤になった。
それで家内の大阪の友達が無料のIPフォンを使って連絡を取り合いたいということで、今回yahooBBに入ることにした。
ところがADSLが開通してもパソコンが繋がらないという。

単に設定の問題だろうと思うのだが、こちらはそのトラシューで大阪に行くわけにもいかない。なので電話で相談を聞いているわけだが、その時に聞いた話だが彼女がNTTにこのことを相談するとなんとNTTのサポート氏はこんなことをのたまったという。

「その問題を解消するためには屋内配線の工事をする必要がある。しかしそうすると今度は電話が通じなくなる。だからNTTのサービスに再契約してパソコンも電話も繋がる契約に工事し直すべきである。」


このコメントには驚いた。
NTTはADSL事業者の営業を妨害しているということで、このことは総務省でも問題になったはずだ。
なのに2004年の段階でまだこんなでたらめをいうサポートが居るというのは全く驚きだ。

この話がどうでたらめなのかひとつずつ解説すると、

1)ADSLの開設に屋内配線は必要ない
電話のモジュラージャックにスプリッタ、または一体型の場合はADSLモデムを電話線の4線モジュラープラグで差し込むだけだ。
あとは電話機とスプリッタ(モデム)、パソコンとモデムをつなぐだけだ。
工事費を伴う工事は一切必要ない。
この工事で彼女は数万円の工事費を要求されたそうだが、

「知らないと思ってでたらめいうのもいい加減にしろ!」

ということだ。
この件だけでも消費者センターに駆け込む価値は充分ある。

2)ADSLを入れた結果電話が通じなくなるなんてことはあり得ない。
この節でも解説したが、ADSLは本来の目的が従来のアナログ通信はそのまま活かすということなので、アナログ通信が全く使っていない広帯域をデジタル通信に使う2階建て構造になっている。

この通信がアナログ通信に影響を与えるなんていうことは全くあり得ない。


3)「パソコンも電話も両方使いたいならNTTで契約し直すべき」とは「ISDN」をさしているのかという可能性。

今回の話で一番悪質だと思うのはこの部分だ。


このサポート氏が「NTTで契約し直す」といっているのが何をさしているのかよく判らないが、もしISDNをさしているのだとしたら、

未だにこういう何も判らない契約者をカモにするような商売のやり方をしているということだ。

ここで解説するならISDNは一本の電話回線をデジタル化して、複数の回線があるかのように使えるという技術だ。
ADSLと違うのはインターネットのようなデータ通信だけでなく電話のような音声通信もデジタル化することで、パソコンと電話を共存させるだけでなく、複数の電話も共存させることができる。

アメリカではISDNは結構普及したが、問題は日本のISDNは規格が違うということだ。
アメリカではISDNも数百kbpsから1Mbpsというスピードが出ていて、これもブロードバンドといえるくらいの速度が出ているが,

日本のNTTが採用したISDNは64kbpsとダイアルアップと変わらない低速ぶりで、これで数千円の使用料を取るという品質の低さでADSL登場とともにあっという間に客が逃げてしまい解約が続出した。


ところがNTTはこのISDNを戦略商品として位置づけていたらしく、大量に抱え込んだISDNの資財をなんとか売ってしまいたいということで、騙しに近いようなセールストークで素人ユーザにISDNを売り付けていたのが問題になった。
問題になったからもう止めたのかと思っていたが、未だにこんなことを言っているというのは信じられない話だ。

百歩譲ってこれがBフレッツのことだとしても、
「ADSLを入れると電話が通じなくなる」
というのは嘘であるということに変わりはない。

NTT西日本は、何も解らない素人をカモにするようなこういう詐欺的なセールストークを即刻止めて猛反省するべきだ。



ところで、このADSLで普及したブロードバンドは今IPフォンという無料電話を急激に普及させている。

電話というインフラを使った無料電話、これは蛇が自分の尻尾をくわえこんだ図に似ている。
電話線を維持しているNTTは電話料金で電話線を敷設している。
しかしその電話線上を流れるADSLで無料電話が急速に普及している。
もし無料電話が100%普及したら、通話料金収入はゼロになるので電話線というインフラも維持できなくなる。

しかし無料電話と有料電話、消費者はどちらを選ぶかといえば前者に決まっている。

旧来の電話というビジネスモデルはもう崩壊しはじめているのではないか。

にもかかわらずそれを認めたくないというモーメントもかなり働いているように思うのは、私の気のせいだろうか?


2001年にyahoo BBを申し込んだ私は、工事完了まで4か月待たされた。
今回、東京転勤で新居にもADSLを入れたが、今回はずいぶん短縮されたといっても3週間待たされた。
速くなったといえるのかもしれないが、これも一種のサボタージュだと私は思っている。
なぜなら、スウェーデンでこのADSL対応の交換機をこの目で見てきたからだ。

工事は数分で完了するとデモ担当の彼は言っていたぞ!
なのにどうして開通するまで何週間も時間がかかってしまうのだろうか?
素人をなめるのもほどほどにしたほうがよいですぞ!






ネット家電


network-connected home appliances



スウェーデンのエリクソンを取材した後日譚を続ける。

ここではBluetoothという新しい無線規格を利用したネットワークが取材の目的のひとつだと書いた。
Bluetoothは、2Ghzあたりの周波数帯を使ったデジタルな無線ネットワークの規格だ。
これで家庭にあるあらゆる電気製品をネットワークでつなぐことが可能になる。

問題はそれで何ができるかだ。


この会社には、Bluetoothの利用例を実際の家具を並べて説明するデモルーム、「ネットワークハウス」があった。
そこでこの無線ネットワークが実用化すると何ができるかという実演をいくつか見せられた。

Bluetoothというのはわかりやすくいうと無線SCSIだ。

デスクトップパソコンを置いている家ならすぐ解ると思うが、パソコンは本体とモニタ、キーボード、マウスがケーブルで結ばれている。
それにプリンタをつないでいたら、プリンタ用のケーブルが繋がっている。
インターネットに接続していたら、そのモデムともケーブルでつながれる。

こうして考えるとたいして大規模な設備を作るつもりが無くても、パソコンの背後はすぐにケーブルだらけになってしまう。

これにはいくつかデメリットがある。
ケーブルは機材を増やすごとに本数が増えていき、それが一か所に集中すればどのケーブルがどれに繋がっていたかという混乱のもとになる。

またケーブルとそのプラグという部位は情報機器の中でもトラブルが起きやすい部分だ。
プリンターが動かないのはなぜかと、パソコンを開けてみたり、システムを再インストールしたり大騒ぎした挙げ句、原因はケーブルの断線だったなどという笑えないトラブルは実際には経験者が結構いるはずだ。

もうひとつのデメリットは見た目が美しくないということだ。


なのでこのケーブルを全てなくしてしまいたい。
機器の背後には電源ケーブル以外は何も無いという状態にしたいわけだ。
(電源ケーブルも無くしたいがこれを無くせるかどうかは技術の別のジャンルの話になってくる。
前にこの頁で取り上げたコンパクトな燃料電池がどの程度実用化するかということだ。)


その姿を見せてくれるエリクソンのネットワークハウスでの情景はこうだ。

まずさわりは、この無線SCSIという概念を理解しやすいように、ケーブルが無いパソコンだ。

といってもケーブルに制約されないのならパソコンも今のパソコンの姿をしている必要は無いわけだ。

ここではリビングの机の上に、キーボードとマウスだけがあった。
勿論どちらもコードレスだ。

そのキーボードの操作はリビングの正面の50型テレビ画面に映される。
インターネットテレビではない。
パソコンのモニタにテレビがなってしまったのだ。

ではそのテレビがパソコンの本体かというと、このテレビも単なるモニタとして接続しているだけで、パソコンはここには入っていない。
パソコン本体はソファの後ろのサイドボードの中に入っていた。

Bluetoothの規格は10m規格と100m規格の2種類があるが、いずれにしろ10メーターの範囲内なら棚の中だろうが壁越しだろうが電波は飛ぶ。
なのでパソコンの本体は邪魔なだけだからこういう見えない、思いもよらない場所に置くことができる。

これとよく似た技術でIrDAというのが昔からある。
赤外線を使ったワイヤレス技術で、わかりやすいのがテレビやビデオのリモコンだ。
これは操作信号を赤外線で飛ばすので本体は見えるところに置かないと受信できない。
しかし電波を使うBluetooth機器は木造軸組構造の壁くらいだったら簡単に突き抜けるので、本体は棚の中に突っ込んでしまっても良いし、部屋の中に無くてはいけないということもないわけだ。

こういう仕様はあまり強調されていないが、実際に使ってみれば想像以上に便利だということに気がつく。

機器を見えるところに置かなくても良いというのは部屋のレイアウトを本当に自由にするからだ。


机の上のキーボードと、テレビ兼用のモニタと、サイドボードに隠された本体、パソコンは今までのレイアウトとは全く違う形で部屋に置かれる。
こういうことが可能になって情報機器と家電製品の混在化が始まる。

無線で繋がっているそういうネットワークに違うものをつないでも良いわけだ。
例えば冷蔵庫。
主婦は一日のうちのかなりの時間を台所で過ごす。
主婦がインターネットを使ってメールなどのメッセージをやり取りしたい時に、わざわざ書斎のパソコンに向かうというのはおっくうかもしれない。

それで冷蔵庫に小さなモニタと操作板をつけてメッセージのやりとりができるようにすると、台所から出ること無くメールやボイスメッセージをやりとりできる。

こういうネットワークコミュニケーションの道具は今まではパソコンということで相場が決まっていたが、別にパソコンでなくてはいけないという決まりは無い。


ところで冷蔵庫がネットワークに繋がるともっと他の機能がつけられるようになる。
例えば今実用実験が始まっているICタグを牛乳パックや野菜、食肉パック、アイスクリームの箱などに全てつけて、冷蔵庫にICタグリーダーをつければ、冷蔵庫のふたを開けなくても中に何が入っているか判る。
それを特定のデリバリーサービスと契約して、そこにインターネットを通じて流せば
「牛乳が無くなりかけてますので今日は牛乳を配達しにきました。」
というような配達サービスが考えられる。

さらにこういう自律的なネットワークが完成すればもっと違うことができる。

冷蔵庫も何年か使っているとへたってきて故障しはじめる。
大抵はモーターのブラシが磨耗してモーターの性能が落ちるとか、そういう故障だ。
そこでモーターにセンサーをつけてその信号をネットワークを通じてメーカーに飛ばす。
そうすると製造メーカーは
「○○さんの家の冷蔵庫はモーターのブラシ磨耗で故障の可能性が高くなっている。交換するかどうか本人に連絡を取って検討してもらう。」
というようなメンテナンスサービスが可能になる。

これで壊れたら困るような機器の故障がメンテナンスで直に把握できるので、ユーザのメリットは大きい。

メーカーにとってもこういうきめ細かいサービスをすれば、客が自社製品のリピーターになってくれる可能性が高いのでメリットがあるはずだ。


ネットワークという概念は、ただ単にお互いが繋がっているという状態をさしているわけではない。

繋がるとお互いの機能は相互乗り入れで、拡大していくわけだ。

例えば冷蔵庫の中身をネットワークで確認できるのなら、買い物の途中で冷蔵庫の中身を確認したくなった時に携帯電話などで確認することができる。
「そういえばまだ冷凍庫の中にひき肉はあったっけ?」
というような思案をしている主婦をよくスーパーで見かけるはずだ。

携帯電話に冷蔵庫監視機能を乗り入れることができるなら、冷蔵庫にホームセキュリティ機能を乗り入れることができるはずだ。
玄関に来た来客を監視カメラなどでチェックするのも冷蔵庫に取り付けられたモニタでできるようになる。

またネットワーク化するということはどこかで集中管理することも可能になるということだ。

セキュリティサーバのような物を家にひとつ立てて、自宅にあるネットワーク機器、Bluetooth家電を全て集中管理することができる。
そうするとアイロンの電気を切り忘れたままベッドに入ろうとしたら、
「アイロンがまだつけっぱなしになっている!」
というアラームを鳴らすことができる。

こういう家電製品が今電源が入っているのか、機能しているのか、故障していないかなどのあらゆる自らの機能についてのステータス(状況)を常に自律的に発信し続ける...というのがネット家電の基本的な考え方だ。

それを実現するワイヤレス規格としてBluetoothというようなものが策定されているし、ネットワーク自体の通信手順もIPv6というような形で策定されはじめている。

このデモルームでもICタグを使うという話も出ていたが、この取材を始めた1999年当時では全ての流通商品にICチップをつけるというのはちょっと絵空事ではないかなという感じがしていた。
しかしRFIDやユビキタスチップなどのICタグが昨年から実用実験に入ってきて、実際に数万個という単位で流通貨物や、スーパーの店頭に並ぶ野菜につけられはじめているのを見ると

4年前には絵空事のように感じた話が実現しはじめているのを感じる。



こういうネットワーク家電の話になると、今でも時々そういう論調に出会うことがあるが、

「冷蔵庫でメールができて何の意味があるのか?」

という批判が当時からあった。
メールはパソコンでやれば良い、なんでわざわざ冷蔵庫でやる必要があるのかということだろう。
しかしこういう批判はネットワーク、特にワイヤレスネットワークの便利さを知らない人の批判の仕方だと思う。
こういう物は実際に使ってみないと何が便利なのか理解できないからだ。

例えばさっきの例でいえば
「デスクトップパソコンもデスクトップ(机の上)に置く必要が無くなる」
なんていうのも実際には想像以上のメリットだと思う。
また相互にネットワークで繋がることで、今までのリモコンと本体というような1対1のワイヤレス関係とは全く違う相乗効果が出てくる。

これまではLANというとオフィスのプリンタを共有できるとか、精算ファイルを共有できるとか、仕事の範囲の中でのかなり限定した使い方しかされていなかった。
だから、「オフィスのLANと同じことが家庭でできても意味が無い」という批判になるのだろう。

しかし大多数のオフィスではパソコンはメール機能付きのワープロとしてしか利用されていない。

コンピュータの機能のごく一部分しか使っていなかったわけだが、そういう一部分の機能が家庭に移植されても意味が無いというのはその通りだろうけども、そういう人は本当はコンピュータのリソースはまだオフィスでも目一杯活用されていないという事実に気がついているだろうか?


家電製品メーカーはここ何年か、

「ホームサーバ、ホームネットワーク」

というキャンペーンを打ち出してきた。
各メーカーとも一斉に同じようなコピーが並んだのでこれが一種のトレンドだったのだろう。

サーバが家庭に入ってくる、ネットワークが家庭に入ってくる、するといろいろ面白いことができる...
というはずだったのだが、昨年パソコン夏商戦ということで取材をかけてみたところ、2003年の夏パソコンはネットワークデバイスというのとはかなり違う展開になっていた。

キーボードを取り外すとIrDA(赤外線リモコン)で離れたところから本体を操作できる、
水冷式の音が静かなパソコンになった、
キーボードを折り畳むと画面に時計のスクリーンセーバが出て置き時計になる...

どれもコンピュータ技術のことが全く解らない素人にも理解しやすい機能ばかりだ。
それまでのパソコンはCPUのクロックスピードだとか、メモリやディスクの容量、iLinkやイーサネットなどネットワークインターフェイスなどのスペックで競争していた。

しかしそういう技術が踊り場に来たというか、今でも成長はしているのだがそういうことではお客の気を引き付けられなくなってきているということだろう。
客は自宅に会社の残業をもって帰ってワードやエクセルを使いたいからパソコンを買うわけではない。

パソコンを買ってどんな遊びができるかを期待して買うわけだが、そこでグラフィックカードの性能がどうのこうの言われたって
「結局それで何ができるの?」
ということが分からなくなってきたので、客が聞く耳を持たなくなってきているのだろう。


実際高性能のグラフィックカードを積んで結局今まで何をやっていたかといえば、つまんないフライトシミュレータやレーシングなどのゲームをやっていたに過ぎない。

そういうことがやりたいんだったら、ソニーのプレステ2を買った方が安いし、結局高性能だということがだんだん知れ渡ってきてしまっている。



今使っているiBookDualUSBというノート型MacはDVDの再生ができるが、それで毎日DVDを見るかといえばそんなに見ないというのが実際だ。

昨年単身赴任していた時には休日のテレビに退屈してDVDなんかも結構見ていたが、そういうのってやっぱり単身者のライフスタイルだと思う。
ましてや家庭に一台、皆で共有しているパソコンで誰かがDVDやテレビを見始めたら他の人はその間メールチェックもできないしネットで調べ物もできなくなる。

パソコンでテレビが見られますというのをこの2年ほど各メーカーは売りにしているが、そんなにパソコンでテレビを見るという需要がユーザにあるかというと実際にはそんなことは無い。

テレビはやはりテレビで見るだろう。
ビデオデッキもほとんどの家庭にあるし、DVDプレーヤの普及率も高くなってきている。

そんな中でパソコンが何に役に立つかといえばやはりファイルサーバとしてネットワークの中核になってこそ本当にその威力が発揮されると思う。
DVDレコーダのバックアップとして繋がったり、DVDレコーダに溜め込んだ映像をパソコンを通じて他の部屋のテレビでも見ることができたりしてこそ
「本当に便利になった」
という実感が湧くはずだ。

だからメーカーが打ち出してきたホームサーバ、ホームネットワークという考え方自体は間違いではないのだが、まだパソコンはメール機能付き、ゲーム機能付きワープロという使い方しかされていなくて、
「ネットワークなんて何の役に立つ」
という思い込みが強いから、結局
「時計になる」
なんていうつまらないところで勝負しなくちゃいけなくなる。


初めてiTunesでCDをmp3に取り込んだ時に、インターネットに接続しているとCDDBに自動接続して、アルバムタイトルやアーティスト名、曲名を自動取得するという機能に感動したことがある。
かつてはレンタルレコードを借りてきてそれを家庭でカセットに録音した時には、曲名やアーティスト名は自分で書いて写さなければいけなかった。
何枚かまとめて借りると結構これがメンドクサカッタリする。
そういうことが自動でできるというところにネットワークの未来を感じたものだ。

家電製品がネットワークに繋がった時に、従来は仕方が無いと思っていたいろんな不便が解消されるに違いない。

しかしそれを本当に便利と感じるかどうかはそういうものを一度使ってみないと分からない。

カセットで録音していた時には曲名を自動取得してくれる機能が実現するなんて想像もできなかったからだ。

想像もできないところで
「冷蔵庫でメールができて何の役に立つのだ?」
なんていっていても仕方が無い。



2004年5月11日













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