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ヒッピームーブメントとApple
/Hippie and Apple

あの60年末から70年代の嵐は何だったのかという総括がそろそろ出てくる時代


Point Lineさんの「アップルの出発地点」という記事でAppleの創業のガレージがまだ残っていることを知った。
ガレージというのは特別な意味があるということはこちらの なんちゃってなIT用語辞典25 「ガレージベンチャー: Garage Entrepreneur」 に書いた。

昨日たまたまヒストリーチャンネルを観ていたら「60年代のヒッピームーブメントとその後」という特集をやっていた。
これが非常に興味深い内容だったので、忘れないうちに備忘録として書いておく。

「ヒッピームーブメント」というのは何だったかというと、結局これは社会と個人、集団と個人の相克の結果生まれてきた人間回帰の精神運動のようなものだったとまず、結論づける。
60年代のアメリカは公民権運動の結論が現実になった時で、これに賛成するものと反対するものが実際に猟銃を持ち出して対立するような深刻な社会だった。
また背景にはキューバ危機、ベトナム戦争などの冷戦がもたらす政治危機が常に焦げ臭いにおいを放っていた。

こうした社会に目を向けた若者は2通りの表現方法に分かれた。ひとつは積極的にあるいは具体的に社会的、政治的スローガンを掲げ政治運動にコミットしていくもの、もうひとつは文化などを含む精神的なメッセージを重視したもの。
前者は大学で争乱を起こしていた学生運動、反戦運動にとなって、やがては過激派というような人々も現れる。

そうした政治運動のセクト主義、排他主義に嫌気が差した精神運動を指向する人々がヒッピーにとなっていき、払い下げミリタリールックに長髪、ひげ、ハッシッシとロックという文化を広めていった。
ヒッピーの平和運動の政治的表現を一番象徴する写真が1967年10月21日の国際反戦デーで撮られた。
反戦運動に加わったヒッピーはホワイトハウスなどを人間の鎖で包囲したが、これに対して暴徒鎮圧のために州兵が出動した。州兵が突きつけたM14ライフルの銃口に、一人の若者が1本ずつ花を差している写真だ。





1967年国際反戦デーでデモを規制する州兵のM14自動小銃の銃口に花を指す若者たち
この有名な写真がヒッピーのカルチャーを象徴する「フラワーチルドレン」の語源になった



この写真がまさにフラワーチルドレンという言葉の語源になった。

しかし反戦のムーブメントはまさにケネディの後を引き継いだリンドン・ジョンソンを引きずりおろす結果になり、後を引き継いだニクソンはあらゆる学生組織、反戦グループに内偵(スパイ)を入れてこれを結局内部から崩壊させた。
学生運動は互いに疑心暗鬼になって組織を保てなくなったし、あらゆるレベルの社会活動が政府によって盗聴されることになった。
(そしてこのことは後にウォーターゲート事件につながっていく)

崩壊した学生運動とは裏腹にヒッピームーブメントは、まさに社会全体に広がっていき若者は誰でも長髪が普通になり始めた。
そしてムーブメントは例のウッドストック野外コンサートに結実していく。

ここでは会場のあらゆる設置の不手際、深刻な地元との対立があったにもかかわらず開催中は信じられないような平和と調和が実現した。

しかしヒッピームーブメントはこの後死滅する。マンソン事件がヒッピーに反社会的なレッテルを貼り、さらにウッドストックに続いて企画されたテキサスのローリングストーンズコンサートでの殺人事件(オルタモントの悲劇)などの事件により、ヒッピーのイメージは一般社会からは乖離していき、やがてアメリカの若者が個人回帰を目指したこの精神運動も死滅してしまう。


それではヒッピームーブメントは何も残さなかったのか?
というとそれは違う。ここでスティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズという数人の若者が創業した小さなコンピュータ会社の話が出てくる。
このAppleコンピュータという会社はAppleIIという個人が使えるコンピュータを製品化し、この個人コンピュータはやがてインターネットの普及とともに社会と個人の比重を逆転させた。
人間の歴史でインターネットが普及した今日ほど個人の発言力が増した時代はないと番組は結論づける。
スティーブ・ウォズニアックのインタビューで彼は
「当時のスティーブ・ジョブズはヒッピーそのものだった。ファッションも考え方も。だから我々は個人向けのコンピュータというアイデアに自然に取り組んでいった」

集団的な社会運動としては失敗し、敗北したヒッピームーブメントだが結局社会はヒッピーたちが目指した個の世界観を選択した。
これは結果的には彼らの勝利だったのではないか?

というストーリィの番組だった。

国際反戦デーからベトナム米軍撤退、ウッドストック、ニクソン大統領就任など当時のニュースフィルムをふんだんに使った番組は見応え充分だった。
また最近はパソコンに向かってスピードを競うような、レンジが短い話ばっかり追いかけている。
しかしたまにはこういう30年、40年の世界動向から鳥瞰図的に毎日の出来事を観たらどうだろうか。
例えばWindowsとMacどちらが優れているかなんていうくだらない議論が、何故くだらないかがはっきり分かる。マイクロソフトだってかつてはこのスティーブ・ウォズニアックのフラワームーブメントのパートナーとして協力していた会社だったのだから。

それにしても、当時の若者だったヒッピーたちがみんな今ではいいジイさんバァさんになっているのも時代を感じさせた。
まだ私も子供だった時代の話だ。




2007年7月23日













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