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『「みくみく」にされちゃうのは音楽産業』って意味分からんぞ?

「初音みく」が音楽の障壁をぶっ壊すんだそうです


『「みくみく」にされちゃうのは音楽産業』って意味分からんぞ?

アマチュア音楽がひとつのムーブメントを作っている。
らばQ - 「みくみく」にされちゃうのはむしろ音楽業界のほうではないかというエントリを発見。

YAMAHAのVOCALOIDという歌声合成ソフトウエアに声優が声を提供した「初声ミク」という製品が発売され、これで歌をDTMで「合成」するのがひとつのムーブメントになっているらしい。
この動きにはもうアンチがいるそうだから立派なムーブメントなのかもしれない。
よくわからんけど。

「どうです? 『みっくみっくにしーてあげるー♪』という意味不明のサビに『萌え』すら感じる人もいるのではないでしょうか? 再生回数はすでに18万を越え、もうすぐ20万に達しようとしています。それほどの中毒性すら秘めたこの曲が、ユーザーの手によって作られてるということに驚きを禁じ得ません。」

なんだそうだ。


「パソコンによる音楽作成はDTM(DeskTop Music)と呼ばれ、20年以上の歴史があります。
往年のパソコンファンなら、雑誌に載っていたMML(Music Macro Language)コードを入力してFM音源やPSG音源の音楽を聞いた覚えがあることでしょう。」


という下りにはうなずいてしまった。
そうか、もう20年以上の歴史があるのか。
そういえば私がRX7(ドラムマシーン)やDX7(FM音源シンセサイザー)を買ったのも80年代の半ばだったから、まさに20年あまりの歴史を身を以て体感してきたわけだ。
DTMは音楽を手軽にした。
しかし音楽を陳腐にした。
これがDTMの功罪だ。
そのことは今は詳しく論じる気力がない。要するにどうでもいいのである。

それよりもこのVOCALOIDから新しい音楽供給者が生まれてきて、音楽産業そのものが本当に「みくみく」されてしまうのだろうか?
このくだり意味がよくわからなかったのだが、結論からいえばそんなことにはならない。
それとこれとは全然別の問題だからだ。

この記事の後半の趣旨はよくわかる。
音楽業界は創造的でもビジネス的でもなくDRMをかけて、音楽利用を禁止することばかり考えている。
そして挙句の果てには国際的な恥だと思われるiPod課金なるものを正当化しようとしている。
こういう漁業補償に群がる利権屋みたいな奴らが形成する音楽の権利団体が、音楽産業をガチガチにしているという閉塞感は誰しも感じるところだろう。

しかし問題は、DRMがかかっているから今の音楽産業はダメなのではない。
CDの値段が高いからダメなのでもない。

「だってそうでしょう。提供できるコンテンツの質は多少上かもしれませんが、買うと致命的に高い。1000円でDVDが買える時代になぜ3000円も出してCDを買うのか。」
という下りはちょっと違うと思った。

70年代に国内版のLPは一枚2800円もした。70年代の2800円は物価換算すると今のいくらになるだろうか。CDの半分も曲数が入らないLPレコードが換算すると7〜8千円にもなる値段で売られていたのだが(計算根拠によっては1万円を超えるかも)、それでも我々の世代はLPレコードを買った。
70年代半ばにはレンタルレコード屋なる新商売も登場したが、それでもやっぱりこれというアルバムは買った。
なぜだろう。
すごく高いのに。
何十回も聴いたらすり切れて音が悪くなるのに。

こういうコンテンツを販売するには二通りの考え方がある。
コンテンツの利用をオープンにしてしまい、お金を払う気がある人に効率的に課金するという考え方と、クローズドにしてしまい、無料使用を一切禁止してちょっとでも音源を聴こうという人からは、聴いた量に応じてきっちり課金してお金を集めるという考え方だ。
いうまでもなく日本の音楽産業は後者の考え方になっている。このことは周知だと思う。

この二つの考え方は実はどちらが効率的かということは問題ではない。
なぜなら日本の音楽産業は前者の考え方をとった瞬間に滅亡せざるを得ないからだ。
どんなコンテンツでも前者の考え方でビジネスができるわけではない。
そのコンテンツはお金を出して買いたいソフトか、コピーで済ませられるならコピーでいいかと思わせるような安直でお手軽なソフトなのかということだ。

音楽産業の皆さんは相変わらずファイル共有ソフトにより音楽が盗まれているために、CDの売り上げが落ちているのだと主張している。
だから国際的な恥だろうが、何だろうがiPod課金とDRMは絶対にゆずれない条件だし、できればパソコンやハードディスクレコーダーなど音楽を録音できるもの全てに課金したいと本気で思っているのだ。

こういう人達はCDの売り上げの落ち込みの理由が他にあるとは考えもしないのか、実は気がついているが気がつくとiPod課金の大義名分がたたないから気がつかないフリをしているのか、それは私は知らない。
CDの売り上げが落ちたのはファイル共用ソフトで音楽をタダで手に入れている連中がいるからではない。
それは原因ではなく結果だ。
CDの売り上げが落ちたのは単に中心購買層の購買力が減退しているからだ。
その原因は例えばケータイ電話だ。

音楽の中心購買層の10代から20代の若者はまさに生活が圧迫されるくらいケータイの通信費用を支払っている。
私の世代は今の貨幣価値に換算して一万円に近い音楽LPを何故現金で買うことができたかといえば、他に小遣いの使い道がなかったからだ。少なくとも毎月税金のように高額の通信料がのしかかるなんてことはなかった。

しかし今は違う。
中心購買層はCDなんかにお金を振り分ける余裕はないのだ。
それでも一曲ずつバラで安く買えるなら買いたいとは思っている。
そこに一切の音楽ソフトの無料利用、バラ売り、一次複製を禁止する流通形態が確立される。
彼らはお金を出す気になるだろうか?
他に楽しいこと、興味を魅かれることはたくさんあるのに、何故音楽産業だけ護送船団方式で生き残れると想像するのだろうか。

そしてここにもっぱらファイル共用ソフトだけで音楽を手に入れる輩もいる。
この連中はファイル共用ソフトを失ったら音楽を買うようになるだろうか?
もしこの世からファイル共用ソフトを撲滅することに成功したら、こういう連中は単に音楽を聴かなくなるだけだ。
こういう連中に課金をすることは永久に不可能だろう。
そこにDRMをかけたりあらゆる新しいテクノロジーを使ってコピー禁止をかけて、その設備投資を価格に転嫁するというのは、まさにビジネス的にはムダ以外の何ものでもない。


しかし日本の音楽産業は結局、このコピー禁止に躍起になって高コスト構造を抱え込む方向に行かざるを得ないだろう。
前述のように音楽ソフトをオープンにして緩やかに課金するということができるようなコンテンツの開発をしていないからだ。
そしてこのことは結局自縄自縛になるだろう。


そこでこのエントリを書いた方のいわれるように、アマチュアの作者がwebに広範に現れて、これがやがて音楽産業に取って代わる(これが「みくみく」の意味?)ということが起きるかというとそうはならないだろう。
それは音楽そのもののストリームの話で、音楽ビジネスのあり方の話とは無関係だからだ。

音楽のメインストリームは常にサブカルチャー、カウンターカルチャーから浮上してきてメインストリームに取って替わるということを繰り返してきた。
70年代のニューロックだってそうだし、それ以前にジャズだってまるっきりそれと同じ道筋をたどって来ている。
だからDTMの「みくみく」が音楽のメインストリームに浮上するなんてことはひょっとしたらあるかもしれない。

しかしそれが音楽産業の体質を変えるかといったら、そんなことはない。
web上のDTM作者たちは、音楽産業に「作品を高価で買うよ」といわれれば喜んで売るだろう。
「アーティストとして専属契約を結ぼう」
といわれれば喜んで契約するに違いない。
元々「音楽の閉鎖状況を打破しよう」なんて志があってDTMをやっているわけでもないし、そんな志なんかあってもすぐに変質する。
そして音楽産業はこの新しいストリームになったDTM作者の作品にDRMをかけて販売するだけの話だ。

だからそんなものが流行って音楽史を塗り替えるような大事件になっても、音楽のトレンドが変化するだけの話で、音楽ビジネスのあり方そのものは何ら変わらないだろう。


ところでオープンなソフト流通を指向した瞬間に日本の音楽ビジネスは死滅すると書いたが、違う選択をしたらどうなるかというと、クローズドな禁止ビジネスを指向しても結局は緩慢に死を迎えるだけだ。
結局日本の音楽産業は焦土となって死滅する以外の道は無いと思っている。
しかしそれもいいのじゃないだろうか。
完全に焦土となればそこから新しい志と秩序が生まれるに違いない。
その先にこそむしろ音楽産業の光明がある気がするのだが、私の世代は生きてそういう世界を拝むことはできないかもしれないからやはりどうでもいい。




2007年9月26日













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青木さやか