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増殖する「IT耳年増」/Armchair theorist of IT

関心無いよりあるほうがいいかもしれないがそれは良いことだろうか...



私がIT特番担当を振られて、それまでほとんど関心がなかったのに突然IT企業を取材しはじめて、そういう企業の担当者の話についていくためにプロトコルだのランゲージだの意味の判らない言葉と格闘しはじめた頃、
多分1999年頃には一般のOLなんかで「TCP/IP」って何のことか判る人なんてまずいなかったと思う。

少なくとも私の周りではそうだった。

ところが最近居酒屋などで飲んでいると、あきらかにOLさん風の数人連れというグループが隣に座っていたりして、その会話が別に盗み聞くということが無くても聞こえてきたりするのだが、
(というより時々こちらの会話が遮られるくらいでかい声で話している。こういう点でも最近は男女の差は無くなってきている)
数人いると中には必ず一人くらい「パソコン通」「インターネット通」という人物がいるらしく、しかもそれは女性だけのグループでも例外ではないらしい。

その「通」の彼女が話していることを聞くと
「ルータを導入したのでインターネットセキュリティが向上した」
「IPマスカレードでハッカー対策もばっちり、あなたたちも入れた方が良いよ」
「TCP/IPってのはね...」
という調子なのだ。

これには驚いてしまう。
99年当時の私だったら彼女の言ってることはチンプンカンプンだったろう。
しかもそういう御仁はすごく珍しいわけではない。
というよりも今はどこの職場にも、必ず一人か二人はこういう人物がいるのじゃないだろうか。


そのIPマスカレードだのルーティングの正体など、私はずいぶん苦労して専門家のアドバイスもいただいて、実地に少しずつ学んできたのに、彼女たちはいきなり雨後のタケノコのようににょきにょきとそういう知識を伸ばしてきて、一体どうやってああいう知識を学んだのだろうかと常々不思議に思っていた。

私は通信大手などのIT企業の専門家と話をして、時にはアメリカを代表するIT通信技術企業の会長に直に手ほどきをいただいたりそういうところで聞いてきた話を持ち帰って自分なりにいろいろ調べたり、検証可能なことは実際に自分で検証したりして亀の歩みではあったけどもそうやってだんだん理解ができるようになった。
そういう意味では私などは、職務上そういう人たちに直接話を聞けるという大変恵まれたポジションにいたわけだ。

しかし先の居酒屋さんの隣に座ったOLさんたちも皆が皆そういうチャンスがあったとは到底思えないのに、彼女たちもすごく自信ありげにそういう話題を話しているのが私には驚きだった。

世を挙げてITブームだ。
これからはIT立国で全ての国民がITリテラシーを身に付けなくてはいけないというのは森元首相のお言葉だったように記憶しているが、まさしく森さんが狙ったような高度なITリテラシーを持った国民に日本人はなったのだということなのか?

この点に関しては私は大いに疑問を持っていて、こういう人物を「IT耳年増」と呼んで本当の識者とは区別している。
しかしなかなか区別が付かないほどこいつらはもっともらしいことを言うんだな、これが。

早い話が、ストリーミングとは何か、ケータイのワイドバンド化で何が可能になったかなど、専門誌のジャーナリストも顔負けのような詳しい解説をしているのに、会社のメールアドレス宛のメールを自宅でも受信できるようにOutLook Expressを設定できない御仁とか、ネットワークの可能性を熱く語る割には会社のLANでのファイル共有の設定の仕方も判らないで、何でもかんでもメールに添付して送ってくる人物とか(しかも同じオフィスの中で)そういうよく判らない人物が増えているような気がするんだな〜。

こういう「IT耳年増」は実戦ができないわけだから、それじゃさっきの専門ジャーナリストも真っ青というような解説のネタはどうやって仕込んでくるんだろうとかねがね不思議に思っていたわけだ。

ところがこれが意外なことに雑誌の受け売りだったりする。
確かに雑誌には最近、実に微にいり細に入った解説記事がいろいろ載っている。
パソコン専門誌にも載っているし、グッズ紹介のムックマガジンのような雑誌にすら最近はそういう解説記事が載っている。

しかし「実戦が伴わなきゃ、そんな記事をいくら読んだって頭に入らないだろう」と元ITアパシーな私などは思ってしまうが、そういうもんじゃないらしい。
パソコンやケータイ、デジタル製品を使えてそういうものの「可能性」を解説できると「かっこいい」ということらしい。
どうやらこれはファッションなのだ。

大阪のテレビ局から要望があり、例のIT特番の予告の短編をまとめてその大阪のテレビ局夕方ニュースに持ち込んだ時に担当デスクが
「『シスコシステムズなどの世界的なIT大手の幹部が居並ぶ』とナレーションに書いてあるが夕方テレビを見ている主婦にシスコシステムズっていったって判るわけ無いだろう。」
といわれて
「それだったらなんで「IT」特番の予告を夕方の主婦の番組でやるんだよ」
とこっちも頭に来てしまったが、もっと頭に来たのは
「だいたいシスコシステムズって何屋さんなんだ」
聞くこのデスクに、自称『IT通』の人物がしゃしゃり出てきて
「ルータ屋さんですよ」
と言ったのはのには参った。

シスコシステムズはルータを作っているという記事を、このパソコンオタクの坊やはどこかで見ていたんだろう。それでそれをそのまま暗記して
「シスコシステムズ=ルータ屋」
というふうに高校入試の暗記問題のようにマークシートしたんだろう。
しかしこれには絶句せざるをえない。
「ルータ屋といえばそれもそうだけど、一言で説明できるような業態でもないんだけど...」
と私はささやかな抵抗はしたが、
「説明できない=解ってない」
という烙印を自動的に押されて、
結局この番組では
『ルータ製造業のシスコシステムズ』
というナレーションになってしまった。
これはあくまでも私の作品ではありません...と注釈をつけたくなるくらい情けないナレーションだ。

だいたい世界的な企業のといえば解りそうなもんだが、そもそもシスコシステムズを知らないような奴がIT特番なんかに興味を持つかという矛盾もあるし、知ってる奴にシスコシステムズは何屋さんかという説明をするのも笑止だし、全く困った人たちだとしか言い様がない。

この二人は当然IT耳年増だ。
ソニーのパソコンでデジカメ写真が撮れるなんていって悦に入っていて、そういうものを使いこなせる自分達をIT通だと信じ込んでいる。

こういう御仁は当然自分の世界が、世界の全てだと信じ込んでいるから世界にはもっと違う側面があるなんていう話は、聞く耳を持たないし、そういう認識が変わるのは自分達が神様のように崇拝している「IT評論家」先生がそういう意見を述べた時か、自分達が愛読しているパソコン雑誌にそういうことが書いてあった時だけだ。

だからこういう人物がいうこと聞いていると皆
「PCなんとか」「かんとかパソコン」
という類いの雑誌に書いてあることそのままだ。
だから雑誌の間違いもそのまま鵜呑みに暗記している。


それでこういう人物が一人で悦に入っていれば別に害はないのだが、その怪しい知識をあちこちで吹聴してまわるから困るのだ。
インターネットはこういう御仁で溢れかえっている。
こういう御仁が自信たっぷりに書いている書き込みを読んで、
「これは良いことを聞いた」
と早速検証してみると全く見当違いのとんちんかんな知識だったということは、今までに何度もある。

こういう人物は自分で検証をしないから、ネットワークの未来を解説できるくせに自分のパソコンのメーラの設定もできないということになるんだろう。
そう考えるとこういう絵空事の解説を自信たっぷりにできるリテラシーって本当に必要なのだろうかと真剣に考えてしまい、この国の未来を憂えてしまうのだ。




2004年5月26日












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青木さやか