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用語の統一について/About terms

このサイトで使われる用語の表記の仕方について若干考えたこと


と大げさなタイトルにしているが、日本語の文章での外来語、外国語の訳語などの表記、表現というのは難しい問題を含んでいるというよく言われている話だ。

外来語が日本語になる時に、もとの言葉とは全く聞こえも意味合いも違った言葉になってしまうというのはよく言われることで、例えば天麩羅、カステラなんてのはもともと外来語なのだが、もちろんその語源となった母国でも通じないしもう完全に日本語だと言える。
(天麩羅はポルトガル語のテンペロから来ていて、『熱する、調理する』ということだし、カステラの語源はスペインのカスティリアという地名から来ている。カスティリアケーキということだろう。)

こういうのはもう日本語だということで良いのだが、新しい言葉でまだ日本語になっていない言葉をどう表記するかということが問題だ。

例えば新聞表記だと「コンピュータ」「ブラウザー」となる。
しかしこれは大いなる矛盾だ。

原語は「Computer」「Brouser」ということでどちらもerがつく言葉だ。
このer言葉を日本語でどう表記するかというのは見解がバラバラで、rは日本語の音引き(ー)みたいなものだから当然ブラウザーと伸ばすべきだろうというのが一般的だ。

しかし英語ができる人と、技術屋さんから主にこの見解には異論が出ていて、
英語の発音は「ブラウザー」ではなくて「ブラウザ」だ。「コンピューター」じゃなくて「コンピュータ」が正しいということで槍玉に上がっている。

そこで新聞協会はこういう説を受け入れ「コンピュータ」という表記を標準にするようになった。しかしここでまた矛盾が発生する。
「コンピュータ」なのになぜ「ブラウザー」なのか?音引きをつけるかつけないかは、どこで区別したら良いのか?
それともerがつく言葉は全て音引きをつけないことにするのか?ということで混乱が生じてきている。
erに音引きをつけないとなると「Super Man」も「スーパーマン」ではなく「スーパマン」ということになってしまう。

実際はこの方が英語の発音に近い気はするが、おじいちゃん、おばあちゃんはこの表記では読めないだろう。

「近所のスーパマーケットに行ったらスーパマンの着ぐるみの人がインタネットのプロバイダ加入の勧誘をやっていたよ」
確かにこの方が英語の雰囲気には近いが、読めない人も多くなるだろう。

そこで新聞協会の用語の規定は結局、「コンピュータ」だけは音引きをつけないがそれ以外の「ブラウザー」などの言葉は音引きをつけるということで落ち着いてしまったらしい。
おかしな話なのだが、正確さよりも読みやすさを優先したということだろう。

このサイトでは技術屋さんが使っている「ブラウザ」「プロバイダ」などの音引きを使わない表記に準じている。しかし「ネットワーカ」「ブロガ」なんてことになるとさすがに行き過ぎのような感じもするのが悩ましいところだ。


新聞協会の用語で一番不思議なのがやはり「Operation System」の訳語の「基本ソフト」という言葉だろう。

今では新聞でもテレビなどの放送でもこの「基本ソフト」という言葉を使う決まりになっている。 しかしこれほど意味不明な言葉もないし、OSの開発をしている技術屋さんと会話している時に「基本ソフト」なんて言ったら多分通じないと思う。

Operation Systemの意味は例えばMacintoshに対するMacOSXだったり、PCに対するWindowsXPだったりする。
PCにはLinuxという選択肢もあるが、サーバ機にはUNIXだったりするわけだ。
そういうオペレーションシステムはこちらのページでその意味を解説したが要するにコンピュータのプログラム入力を簡素化する為の操作システムという意味だ。
だから、訳語としてはほとんど英語直訳の「操作システム」という言い方が正しいと思うのだが、こういう直接的な訳語はあまりにも知性を欠いていると考えたのか、新聞協会は「基本ソフト」という訳語を採用してしまった。

しかしこれでは意味が分からない。

英語のOperation Systemは実はそんなに抽象的な言葉ではない。
先のリンク先の解説ページを読んでいただければ分かると思うのだが、コンピュータはノイマン型コンピュータという世代に突入した時に、その操作性があまりにも煩雑でコンピュータについての学位を極めた人でないと操作ができないというインターフェイスの問題を抱えてしまった。

この問題を解決する為に、コンピュータの操作を簡単にするソフトウエアをコンピュータに常駐させる必要が出てきた。そうしないといつまでもコンピュータは一般の学者やビジネスマンが使えるものにならないからだ。

そういう操作簡略化システムをOperation System、略してOSと呼ぶようになった。
それが進化して今日我々の目にするようになったのがWindowsXPであったりMacOSXであったりするわけだ。

だからこのOSの訳語はどう考えても「操作システム」でなくてはいけない。ところが新聞協会が採用したのは「基本ソフト」という訳語だった。

その理由は未だに分からない。

おそらくほとんど全てのPC互換機にはWindowsという基本的なソフトが乗っていて、その上にInternetExplorerとかMSOfficeとかのアプリケーション(応用ソフト)が載っているという構造に着目してそういう訳語にしてしまったんだろうと思う。

確かに今のWindows機を見ているとそういう構造になっている。
だから「基本ソフト」という言葉は全く間違っていると言い切ることはできない。

しかしこの訳語を考えた人間はどう考えてもコンピュータという機械の基本的な構造を理解していない人間だと思ってしまうのだ。

OSの上にアプリケーションが載っているからOSは基本的なソフトなのだろうか?
しかしアプリケーションの中には複数のOS上で動くものもあるし、OSに依存しないものもある。
OSに依存しないものはこの上に載っていないので応用ではないのか?
しかしそれは単機能なので基本ソフトの仲間に入れることはできない。

基本があって応用があるという変な定義(しかも変だけでなく、大部分のコンピュータ技術者がそんなこと考えたこともないようないような不思議なジャンル分けで「基本」と「応用」ということが決められている)で区別されていることが無意味なのだ。

だから、コンピュータの技術者に「基本ソフト」なんて言ってもまず間違いなく通じない。

彼等はOSとして習っているし、その意味は「操作系のインターフェイスを統一する為のシステム」と理解しているから、この理解だとどう考えても「基本ソフト」なんていう概念が出てこないからだ。この「基本ソフト」という言葉は誤訳だとしか言い様がない。

それじゃ技術者には分からなくても一般の人には分かりやすいのかというと、やはり意味が分からないと思う。一般の人から見たら意味不明という点では「操作システム」も「基本ソフト」も等価だということだ。

結局分かりやすく言い換えるという余計なお世話で、この言葉は誰にも理解できない言葉に置き換えられてしまった。

それでも新聞協会はこの言葉を流行らせて、OSの意味として定着させようと考えているらしい。
その思惑は全く成功していないように見えるが。


このサイトでは、OSはそのままOSまたはオペレーションシステムと表記している。
言葉は概念を規定する重要な道具だから、その言葉に間違いがあると概念も狂ってしまう。
「基本ソフト」という言葉で規定される概念は基本のソフトがOSだから、OSと同じ機能を持つソフトは「基本ソフト」ではないかという誤解を生じる。

例えばWindowsは画像をプレビューする機能が「基本ソフト」にあるから画像をプレビューできるソフトは「基本ソフト」であるというたぐいの誤解が必ず生じるはずだ。
こういう用語間違いによる、勘違いな概念がよけいITの世界を解りにくくしている。

たかが用語の話だが、されど用語の話でもある。





2005年6月1日












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