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脈々と積み上げたもの
/Accumulated fortune

日本映画はひょっとして蘇生しているかもしれない


昨日の日経朝刊にでていた話だが、洋画と邦画のシェアが逆転するかもしれないという。

それだけハリウッド映画がつまらなくなってきているからだということもいえる。
まだ通期途中の話なので本当に逆転するかどうかはこれから次第なのだが、でもそんなに前でもない過去に洋画7割超、邦画3割割れという状態になって「日本映画死滅説」がかなり信憑性があったことを考えると、逆転できなかったとしても「逆転しそうだ」という水準まで盛り返しただけでもすごい蘇生だと思う。

日本映画は一時期本当に死んでいたと思う。ただしそれは観客動員シェアが3割を割った3〜4年前の話ではない。
もっと10数年前の話だが、新規の企画なんて映画会社からは何も出て来ないで、毎年決まり切ったように
「フーテンの寅さん」
だの寅さんが死んじゃったら
「釣りバカ日誌」
だの同じ企画ばっかり出していた時期が長期間続いた。夏になったら日本海大海戦だの特攻隊だのテーマにした映画だけ。
新規企画といえばテレビドラマの焼き直しだけ。

これでは当然観客には飽きられるのだが、飽きられてもやれば必ず「観客動員数はゼロではない」という結果を見込めるので、同じ企画を続けてどんどん客を失い続けていた。

これは映画会社が何もリスクを取ろうとしないで新しい企画を全て却下してある程度観客動員が票読みできる企画ばかり残すものだから、新しいものなんか何も出て来ないし、これでは映画監督をはじめ良いクリエーターだって育たないわけだ。

しかしこの当時
「日本映画はつまらない。企画が面白くない。もう日本映画は死んでいる」
という言い尽くされた批判を口にしていた人に、私は逆に、
「日本映画がつまらなくなったのは七分は観客のせいだ。
リスクを取らない映画会社は三分悪い。しかし同じ映画ばかり見て安心している観客ばかりだから日本映画はつまらなくなったのだ」
と切り返したことがある。
ここいらニワトリとタマゴだが、しかし両方が悪いことだけは間違いない。

だからといって
「観客が変わらないと日本映画は良くならないんだ」
なんて議論をしていても始まらないということだろう。
日本映画は10数年前に長期凋落傾向を脱するために、まず自ら自己変革する道を選んだようだ。

例えば深作欣二監督は、徒弟制度から叩き上げてきた頭が凝り固まった監督ではなく、北野武という映画界では役者としては大島渚に評価されていただけの新人監督に後継を託したりとか流れを変える努力をしていた。
同じような例は島田紳介とか色々あってほとんどは成功しなかったが、北野武は数少ない成功例だったかもしれない。でも映画界もやっとそういうリスクを取り始めたということが新しい流れだった。

映画会社の役員室でふんぞり返っているロートルはそういうことに冷淡だったが、北野武が金獅子賞を取ったり宮崎駿が惜しいところでパルムドールを逃したりということが続いて、見過ごすことができなくなったのだろう。

またお隣の韓国映画が「シュリ」「JSA」などで、まじめに作ればそこそこ観客を呼べるという手本を次々示し始めたことも大きな刺激になっているだろう。
韓国映画のヒットは、お決まりの連続企画か低予算のテレビドラマ焼き直し路線なんかじゃなく、ちゃんと『映画』を創ればハリウッドに負けないくらいのヒットの可能性もあり得るということを示唆している。
それまでの日本の映画会社の幹部は観客をなめ切っていたから、
「『フーテンの寅さん』モデルの企画以外にあり得ない」
なんて考えていたかもしれないが、これらのことはそうじゃないことをこうしたロートルダラ幹に思い知らせたのではないだろうか。

この夏に観た「日本沈没」のようないくつかの日本映画はなかなか面白かった。
今村昌平や北野武のような作家色が強い作品以外で、日本映画を面白いと思ったのは久しぶりだ。
本当に久しぶりのような気がする。

しかし例のシェアが3割を切った日本映画危機の時代は十数年前に来たのではなく、それはたった3年前の話だ。
日本映画が蘇生の努力を始めたのにも関わらず、それまでの惰性の負の遺産で観客を失い続けその影響が3年前まで続いた。
日本映画は死ぬ寸前まで追いつめられたが、十数年前から脈々と続けていた変革の成果がやっと出てきて、ここで蘇生し始めたということだろう。
死の直前にやっと間に合った。
まことに同慶の至りだと思う。

さて振り返って、我が業界はこういう将来のための変革の手配りをしているだろうか。
客をなめている産業は必ず衰退するし、リスクを嫌って新しい企画を根絶やしにする幹部が牛耳っている会社も必ず衰退する。
十数年努力を続けないと蘇生の成果なんて出て来ないし、かといってどうせこんな業界は改善しないとあきらめて放置しておくと、衰退が始まった時にはすでに手遅れのように思う。

映画業界からは、なんだか学ぶことは色々ありそうな気がする。




2006年11月23日













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