今朝の日経朝刊一面のニュース
「知財高裁が『博多ひよこ』の立体商標権の主張を退ける判決」
これは画期的な判決だ。
2ちゃんねるあたりで「音楽著作権の寄生虫JASRACは氏ね」なんて便所の落書きのようなことを書いている連中が知財についてどの程度勉強しているのか圧倒的に疑問なのだが、この判決はこういう便所の落書き連中にちょっとは光明を与えるなんてことはこの程度の低い連中には当然理解できないだろう。
ことの発端は博多の老舗銘菓の「博多ひよこ」というまんじゅう菓子が、可愛らしいひよこの形をして博多ッ子には馴染みが深いのだが、この形を真似した菓子メーカーに対して「商標権の侵害」を訴えているということになる。
知財高裁ではこの訴えの根拠になっている「商品の形も含めた商標権登録は有効か」ということが争われている。
この「商標権の侵害」というところがこの裁判のミソで、単にデザインを盗まれたのなら意匠の盗用ということになるのだが、この原告は
「博多ひよこは単に商品名だけでなくこの商品の形も含めて商標を形成している。だからデザインを盗用されるということは商標権を侵害されていることになる」
というのが訴えの趣旨だった。
このニュースのもうひとつのミソはこの裁判が普通の裁判所ではなく、知財高裁というところで判決が出されたということだ。
知財に関する裁判は今まで時間がかかりすぎるし、それに裁判官や弁護士も知財の専門家でない場合が普通なので、証拠調べから何から手間が多すぎてしかも誤審が多いということで今まで問題になってきた。
知財の専門家といっても単に特許法や著作権法などの関連法規に詳しいだけではダメなのだ。
例えばPCソフトウエアの知財係争の場合は裁判官も弁護士もパソコンやシステム、アプリケーションのコードなどの話が理解できる人でなくてはいけない。
遺伝子工学の係争の場合はゲノムのことが分かる裁判官でないといけないし、臨床薬の特許権係争の場合は薬学や臨床医学の知識がある裁判官や弁護士が必要になるのだ。
そんなことは普通の裁判所では望むべくもない。
だからこういう知財に関する係争は普通の裁判と切り離して知財高裁というところで扱うということになった。これは昨年からの新制度だと思う。
この制度は大きな意味を持つと思う。
単に特許裁判がスムーズになるという意味だけでない。
今まで日本の裁判所や弁護士、弁理士などの日本の知財を守るシステムは充分な機能をはたしていなかった。
だからアメリカが勝手に自分たちの都合の良いように作った「グローバルスタンダード」を良いように押し付けられた。
そういうことだからウオルトディズニーの死後1000年経とうが10000年経とうがディズニーの著作権は消滅しないなんていういい加減なダブルスタンダードがいくらでも通ってしまうのだ。
ゲノムの特許権にしてもそうだし、例の青色発光ダイオードの裁判だって結局は裁判資料を公開されてしかも特許登録がまだ申請されていないアメリカが結局得をしただけの話だ。
日本は特許や著作権の独自性を失いアメリカのダブルスタンダードに良いようにやられて、肥え太るのはJASRACのような寄生虫団体だけというどうしようもない閉塞状態が続いている。
知財は守らなくてはいけない。知財を戦略的に活かしていかないと日本のような資源のない国は生き残れない。今までそういう論調が支配的だった。
そのこと自体は正論そのものだし、間違いではない。
しかし
「知財は大事だから知財の権利を主張をしているものは全て保護しないといけない、著作権も全ての隣接権者に至るまで無制限に権利保護をしないといけない」
というように極端に議論が振れるのがこの国の伝統的な悪い癖だと思う。
それに便乗されてアメリカンスタンダードに良いようにやられているのだ。
それで当該の判決なのだが、こういう知財の権利主張には「自ずと限度がある」ということを示したという意味で画期的だと思うのだ。
「ひよこのデザインは全国的に周知とはいえない」
というのが判決理由で、これは博多っ子には反論があるところかもしれないが、そんなことで「商標権」をいちいち認めていたら、
「千葉県柏市では馴染みあるデザインなのだ。だからウサギのデザインの製品は当社の商標である」
なんて主張がいくらでも通ってしまう。
そうするともうデザインなどというものは成立しなくなると思うのだ。
その一番最悪の見本が現状の音楽著作権だ。
今からは知財の保護というのは知財の権利者の権利主張をいかに通すかではなく、いかにその権利を制限するかというところに論点が移っていくと思う。
そうしないと知財の活用そのものができなくなるし、新たな産業の開発もできなくなるし、そうなると閉塞と停滞以外の結末はあり得ないのではないか。
だから知財高裁がこういう判断を下したというのは、ニュースとしては
「ひよこまんじゅうが裁判に負けたんだって」
という小ネタなのだが、画期的な判決だったと思う。
2006年11月30日
|
|