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形だけまねてもどうかなぁ?
/Fake is fake

MSの地図サービスはサイバーヘルシンキを思い起こさせるが・・・


BBSで「nao」様より情報をいただいた。

マイクロソフトがGoogle EarthやYahoo Mapsに対抗しようとしているのかどうか、3D的地図サービスのテストを開始したようだ。
このテストの様子はこちらのサイトで見ることができるがMicrosoft Virtual Earthというタイトルがついている。
ただしSafariでは見ることができない。MacではMozilla系を使うとかなり重いがなんとか動く。

これは車を選んで(選択肢には「歩行者」なんてのもあるが)その車種に合わせたダッシュボードのデザインの向こうに街の風景をテクスチャーのように貼付けた擬似3D表示で街の風景が流れていく。衛星写真と2画面で表示してナビゲーションサービスというかそういうものを視野に入れているんだろうと思われる。
今はシアトル市内の幹線道路沿いだけだしゲームのように車(歩行者?)を動かして街の風景を楽しむだけの機能だ。

Google Earthなどの他のサービスと決定的に違うのは衛星写真をベースにしたレンダリングではなく街の写真を実際に取り込みまくってそれをコマ落としムービーみたいに見せることだろう。
フロントウインドウとサイド3枚の写真を常時表示するわけだから、たったこれだけでも膨大な情報量だ。

この画面を見ていて思い出すのはバーチュアルヘルシンキという試みだ。
この試みは1999年にフィンランドに取材に行った時に初めて知った。要するにOpenGLを使ったグラフィックでヘルシンキの街と同じ仮想空間をサーバの中に構築して、それをヘルシンキ市民に通信サービスで利用してもらおうという試みだった。
ユーザは電話会社が運営するこのサーバに接続すると、ヘルシンキ市内の自分が行きたい場所に仮想空間で行くことができる。その街を歩いていると街角には実際と同じ場所に旅行会社があり、そこに入ると旅行プランのカタログをオンラインで見たり、航空券の予約ができたりする。
またレストランも実際と同じ場所にあり、そこに入ってディナーの予約ができたりする。
街を歩いていると実際と同じ道にトラム(小型の路面電車のような交通機関)が走っているのに時々すれ違って、これを伝ってトラムの路線図も確認できる。

こういうプッシュプルの地図サービスが実に6年も前にフィンランドで既に実用試験に入っていたということが、今から考えると驚きなのだが何となくその画面を思い出した。
それで当時は私はITに関しては無垢に近いぐらい無知だったから、このOpenGLベースの3D地図サービスに素直に感動していた。
さらにこの試みを日本でも実行する「デジタル京都」なるサービスももうすぐ試験運用されるという情報も聞いていた。単純に私は期待していたが、その後これらのサービスはどうなったか?

「デジタル京都」のプロジェクトは確かに立ち上がって、実際に試験サービスもされたが、現在ではもう中止されている。
本家のバーチャルヘルシンキも
「通信回線の改善にあわせて今後グラフィックの精度も、盛り込む情報の量もどんどん付加していく。」
という当時聞かされた担当者のビジョンとは裏腹に6年経った今日でも当時のグラフィックや内容と全く変わっていなくてこの計画はやはり頓挫しているように見える。

99年という年代はITバブルがはじける前だったから、「バーチャル」とか「インタラクティブ」とかいう言葉がまだ神通力を持っていた。
このコンピュータの前に居ながらにして実際の街を歩き回るような「バーチャル」なサービスを「インタラクティブ」に利用するという試みがなぜうまくいかないのかということを、このMSの新サービスのテストと思われる画面を見て考え込んでしまった。

多分答えはすごく単純なことなのだろうと思う。
本物そっくりの街の風景なんてユーザは必要としていないのだ。
そういうのはその街に土地勘がある人でないと使いこなせない。土地勘があるならそういうサービスは必要ないし。
我々は街を歩く時に街の風景でナビゲーションをしているわけではない。普通は俯瞰的に街のつながりが書かれた「地図」という2Dな紙切れを持って歩き回る。
これは紙しかメディアが無かったから仕方なく2Dだったというわけでなく、実際には我々人間という動物には3Dのバーチャル空間よりも2Dの平面地図のような空間の方が使いやすいということがあるのかも知れない。

これについては「方向音痴はなぜ道に迷うのか?」という大脳生理学の話を思い出した。
道に迷わない、あるいはすぐに道を覚える人は空間の把握力が高い人で、迷う人はその逆だとという話だ。
道を歩く時に、車で走っていても良いのだが迷わない人は常に自分の頭の中で地図をぐるぐる回していて、今自分が北を向いているか南を向いているかを把握している。
普通地図は北を上に書かれるから、南を向いている時には上下が逆になった地図が頭に思い浮かんでいるわけだ。

ところが道に迷う人は「右に行って3番めの四つ角を左に入ってさらに信号を超えてタバコ屋の角を右」というような地図の中に入ってしまって手順で覚えてしまうから、その手順がひとつ狂うと道に迷ってしまうことになる。
これを空間把握力というのだそうだ。
つまりちょっと逆説なのだが、3Dな街の風景に頼っているのは実は空間を把握し切れていなくて、空間を把握している人は常に地図を見るように俯瞰的に頭の中では考えているというのだ。

さらにこれに根拠を与えるのは我々人間という動物が、2次元的に空間を把握する動物ではなく3次元的に空間を把握する動物だという定説だ。
我々人間はもともと樹上生活をしていたメガネザルのような仲間から進化した動物だ。
樹上生活をしていた名残りは目の構造に残っている。
我々人間を含む多くの霊長類は眼球が顔面の前に二つ並んでいる。これは物を立体的に見て空間を把握し、木から木へと飛び移るのに必要だからだ。

しかし元々草原で進化した動物は眼球は頭部の側面についている。
その方が前だけでなく後ろも見えて、四方八方から来る天敵の動きを把握できる。
生活環境は平原なので空間把握力は重要ではなく、全周囲の状況を把握する力の方が重要になる。

我々人間は元々そういう性質の生物として進化したので、太古の昔に樹上生活をしていたプロコンスルが分かれて草原に適用した結果、2足歩行を始めたりと独自の進化を経てはいるが、やはり空間的に物事を理解するという脳の構造は1000万年程度では変化しない。

つまり俯瞰的に物事をとらえるのが我々人間の本能であるのなら、3Dのバーチュアル都市というのは、見た目はカッコいいが結局は人間向けのインターフェイスではなく犬向けのインターフェイスなのだということがいえるのかも知れない。
そして人間にとって便利なインターフェイスは相変わらず平面的な地図なのだ。

その意味ではGoogle Earthは衛星写真をつかってシームレスにレンダリングをしながら空間を俯瞰的に見せることに特化している点が合理的だといえるし、MSのこの新サービスと思われる画面は見た目は楽しいドライブゲームになるだろうが、それ以上の実用性は無く結局は「バーチャルヘルシンキ」や「デジタル京都」と同じ運命が待っているような気がする。

実際に写真を使った分だけそれらよりも重く、解りにくくなっているし。

それに「インタラクティブ」という幻想についていえば、ユーザは思ったほど「プッシュ型サービス」を歓迎していないのかも知れない。必要なお店の情報を地図で調べたいが、その周辺にどんなお店があるかなんて情報はどうでも良いということだろう。
そういうこともあって、こういうサービスは意外に効率が悪いのでサービスを提供する方はインフラをできるだけ簡便にする必要があるという、テクノロジーとはあまり関係のない課題があるような気がする。

しかしMSさんはもし本気でこれでGoogle Earthに対抗する気なのだったら、そういう前例についてちゃんと調べているのだろうか?
チャンスがあれば聞いてみたいところだ。
MSさんはWindowsのライセンスとMSOfficeの収益で、世界一の金持ち企業になっているがしかしその二つの事業以外で成功している事業がひとつもないという希有なビジネスモデルを持った企業だ。
何となくその理由が解った気がしたが。






Microsoft Virtual Earthという何となくGoogle Earthを意識したような試験サービスが始まっている
残念ながらSafariで見ることはできないがFireFoxでは動くことを確認した





車を動かせば街の風景がそれにつれて変わっていく
スキンを変更すれば「スポーツカー」や「歩行者」も選択できる
面白いサービスだが実用性を考えるとどうなんだろうか?



2006年5月11日












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青木さやか