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Apple叩き報道の理解力の限界
/Apple was knocked

別にAppleに肩入れするわけじゃないが偏向報道のひどさは目に余る


セキュリティというとどうしてこういう推測と願望まみれの記事ばかりを書きたがるんだろうか?
こういう特にITジャーナリズムとかやっている連中には猛省を請いたい。
私が問題にしているのはまずこちらの記事だ。

一昨年のmp3gen以来MacOSXには実は脆弱性があってその危険性はWindowsと変わらないというトーンの記事はさんざん読まされてきた。
別にMacを使っていれば絶対安全だなんて言うつもりはない。
これも人間が作ったものである以上どこかに瑕疵があるなんてことは言わずもがなのことだ。
しかし「だからWindowsといっしょ」というのはあまりにも飛躍しすぎた論拠だ。

どこが違うのかは実にはっきりしている。
「攻撃される可能性がある」
というのと
「現に攻撃されてそのうちのいくつかはかなり成功している」
というのでは全く違うにもかかわらず、こういう記事を書く人たちは「攻撃される可能性があるのなら結局同じではないか」という理屈にもならない理屈で一緒くたにしている。

「未発見の脆弱性が存在している可能性がある」
というのと
「発見され警告されているがそのまま放置されている脆弱性がある」
というのでは全く違うのだ。

未発見の脆弱性が存在している可能性があることが問題なのだったら、そんなコンピュータはネットワークに繋がなければ良い。
未知のバグが存在している可能性があるのが問題なのだったら、そんなコンピュータは電源を入れなければ良い。
ネットワークに繋がらないコンピュータはクラックされる心配がないし、電源が入らないコンピュータにはバグは存在しない。

Macは97、98年にはもうほとんど死に体だった。
だから当時はAppleはいつ倒産するか、いつ買収されるかというのがMacの危機の主な内容だった。
そういうパソコンを攻撃しても注目されないからクラッカーは皆Windowsに向かったというのはそういうことだろう。
ところが不幸なことにAppleは倒産も買収もされず、それどころかiMac、iアプリ、iBook、iPod、iTMS、Mac miniと次々とヒットを飛ばして、あろう事か一度は死んだはずのMacOSはシェアを伸ばしているそうだ。
シェアを伸ばせば、当然「セキュリティ」という言葉の意味も理解できないようなユーザがどっと流れ込む。
そしてそういう奴らをカモにするクラッカー、マルウエア作者もどっと流入する。
客観的に見ればただそれだけのことだ。

なのに「安全神話に傷がついた」とか平気で書きなぐるITジャーナリズムを標榜している記者連中のレベルの低さにはうんざりする。
「Macの安全神話は死んだ」
というのなら具体的に「これこれの欠陥があるためにMacの安全は危機に瀕している」というようにその脆弱性を具体的に論拠としてあげながら論ずるべきなのだ。
このての記事は脆弱性のリポートの件数ばかりを根拠にしたがるが、前にも書いたが脆弱性の発見件数なんてのは何の意味も無い。ましてや発見件数の前年比なんてのは分母が全く違うのだから何も意味もない。こういう人は情報工学がどうこうという前に、まず初等数学から勉強しなおすべきだ。


先日日経の記事を読んでいたら
「Appleはスティーブ・ジョブズの個人商店だ。何をするにも全てジョブズの決済が必要だ。だからAppleはユニークだとも言えるが、社員一万人の国際企業になった現在は、この個人商店のような小回りの利かないシステムをどう改革するかが焦点だ」
というような趣旨のことを書いていた。
申し訳ないが、日経の記者にはAppleの企業価値は絶対に理解できないと思う。
私の知っている範囲で、日経の記者でiPodを実際に使っている人は見たことがない。それどころかMacも触ったことがない人ばかりだ。
そういう人たちがAppleの企業組織の問題点について書けるというのが非常に疑問を感じる部分だ。

結局この記事が言いたいのは
「Appleがマイクロソフトのようなナンバーワン企業になりたいのなら、今の個人商店方式の経営ではダメだよ」
ということなんだろう。
つまりこの記事のバックボーンはマイクロソフトのような超独占禁止法企業を目指さないと企業には価値がないという実に直線的というか単一的な価値観に縛られている。

そういう価値観でビジネスをすることを別に否定はしないが、そういう価値観しかこの世の中に存在しないのであればこの世界はなんと退屈で無味乾燥な世界になるだろうか?

聞くところによるとマイクロソフトとAppleではブレーンストーミングのやり方が全く違うそうだ。
「何を作れば売れるのか?」
というテーマでブレストをやるマイクロソフトに対して
「何ができたら面白いと思う?」
という問いかけでAppleのブレストは始まるそうだ。
「その両者にはそれほどの違いがあるのか?」なんて思っている人は企画立案をやったことがない人だ。
ブレーンストーミングの成果は7割がたは最初の問いかけで決まる。

だからこの2社は成果物として出てくる製品の性格が全く違うのだ。

しかしこの世の中にはWindowsのGUIはMacをパクったものであるとかないとか、GUIはゼロックスのパロアルト研究所が発明したもので大部分のマカはAppleが発明したと勘違いしているとかいないとか、そういうレベルの些末な議論が多過ぎる。
そんなことはどうでも良いことで、じゃ実際マイクロソフトは最近どんなヒットを飛ばしたのか、その数はAppleとどれほど違うのか、その理由はいったい何なのかということが大事なのではないかと思う。

Appleが個人商店のような決済体制になっているのは、スティーブ・ジョブズという人物が会計屋上がりのジョン・スカリーに騙されて以来、いわゆる会計屋、株屋、経営のプロとかを自称している連中を全く信用しなくなったからだということは確かにあるだろうが、現場のすべてをコントロールしようとしているということ自体はなかなか悪くないと思う。
もちろんそんなことをしていてはマイクロソフトのようなシェアナンバーワンの独占企業には永久になれないだろう。
しかし、それをするうちは失わない価値によってナスダックでも独歩高の優良企業になれているということが重要なのだ。
そういう「価値を創造する統制」を失って小型のマイクロソフトになることが、本当に優良企業への道なのだろうか?

日経には私が個人的に尊敬しているすばらしい見識を持った記者もいる。
しかしこういうクズみたいな記事を書くどうしようもない記者もいるということだ。
そしてこういうどうしようもないクズ記事をノーチェックで載せてしまうクズみたいなデスクもいる。
こういう連中にはAppleがなぜ連続でヒットを出せているのかは絶対に理解できないだろう。
ただ自分たちの尺度で「これまではたまたまアイデアが当たっただけで、もっと成功するには安定した企業組織が必要なのだ」なんていう無意味な価値観で企業を当てはめることしかできないのだ。


こういう手合いのクズ記事に出会う度に「ジャーナリズムの未来は暗い」というようなことを思ってしまう私は思い込みが強すぎるんだろうか?




2006年5月10日




ところでこの騒ぎのおかげで Windows擁護派のマスコミが一斉に「それ見たことか」と大騒ぎしている。

曰く
「Windowsが狙われるのはWindowsがシェア95%のスタンダードだからだ。Macは安全だったのではなくただ単にハッカーに人気がなかっただけだ。その証拠にiPod、iTMSの成功でMacのシェアが伸び始めたらこの通り脆弱性も見つかって、それを狙う悪質なコードまで発見されているじゃないか。Macの安全神話は今崩れ去ったのだ」
というような趣旨のことがあちらこちらに書かれている。

しかしこの手の話は相当割引して読まないといけない。
セキュリティソフト屋がこういうことをいうのは単純な理由で、セキュリティソフトを売りたいからだ。
またWindows擁護派のライターがこういうことを書くのは、彼らはこれまで「Windows穴空きチーズ説」に腹に据えかねるものを感じていたからだ。
だから
「そら見ろ! Macだって同じようなものじゃないか」
と一生懸命騒ぎ立てているのだ。

しかしワームの数が15万対3というんじゃ「同じようなもの」というのは牽強付会じゃないだろうか。




2006年3月1日





ZDNetの偏向報道が目に余ると前から思っていた。
具体的にはこの前のセキュリティホールが発見されて以来、
「Macの安全神話は崩壊した」
だの
「Macは実はWindowsよりも遥かに危険なプラットフォームである」
というような記事を盛んに書き立てているのはZDNetなわけだ。

最近でもSecuniaの勧告の件数を取り上げて、MacOSXに対して発せられた警告の方が、Windowsよりも多いので、MacはWindowsよりも危険度が高いプラットフォームなのだというこちらの記事を(今回はブログによる寄稿という形だが)発表している。

実はZDNetは04年のURIに関連するセキュリティホール発覚騒ぎの時にも全く同じ趣旨の記事を掲載している。
この時も一時的にMacへの警告件数がWindowsを上回ったことを取り上げて、Macはもはや最も危険なプラットフォームなのだと断言した。

しかしこれはSecuniaのリポートの性格を知ればガセ記事であることはすぐ判る。
SecuniaはURIのホール一軒につき一本警告リポートを発表しているわけではない。
SafariiCalヘルプに影響が出るなら3本リポートがでるわけだ。
だからひとつのセキュリティホールでいくつも警告がでるということがある。
ところがWindowsの場合はひとつのセキュリティホールがあちこちに影響しているのではなく、常に全方位的にセキュリティホールが発見されているのだ。

その結果がどうだったのかはその04年以降の結果を見ればわかる。WindowsとOSXとどちらが深刻な問題を起こしているかは明らかだ。
だからこの前出の記事のSecuniaの統計を使うなら、セキュリティホールの警告が何本あるかが問題なのではなく、未解決のセキュリティホールがいくつあるかの方が問題なのだ。
この表を見ると警告が出ているにもかかわらず1年以上も放置されている「深刻なセキュリティホール」がWindowsにはあることがわかる。
そういう表を見ていながらこういう記事を書けるZDNet(のブロガー?)何をか言わんやだと思う。


最近知ったZDNetの偏向記事の証拠をもうひとつ。
こちらのブログで取り上げておられるOpenOfficeに関するZDNetの記事は当時私も読んでいた。
引用するとこういうことだ。


"「テストと開発リソースは限られており、このソフトの新しいバージョンにわれわれの作業が結びつかない“死に体”のAPIの移植に全力を傾けることは賢明ではない。QuartzとAquaに関する今後の開発はすべて、OpenOffice.org 2.0が完成するまで延期される」。プロジェクトサイトにはこう記されている。"

“死に体”のAPI とはQuartzとAquaのことなんですか? もしそうだとすると、おもいっきり大胆というか Mac ユーザーからの援助拒絶宣言なのか、とでもいうか...。

この記事を当時読んだ時も私もそういう感想を持った。
私は単純だから
「OpenOfficeというのはそういう奴らが作っているんじゃ、どうせろくなもんになるはずがない」
と思って、それ以降まともにOpenOfficeを評価していなかった。
「Macなんかどうでも良いんだよ」
と言っている奴らがMac向けに良いアプリを作れるはずがないと思ったからだ。

ところがこのブログの管理人さんは私と違ってちゃんと原文に当たってみたわけだ。
この書き方はおかしいしオープンソースの連中がこんなことを言うだろうかという疑問をもたれたらしい。

その結果、この「死に体のAPI」という意味はMacのことではなくMacOS9に対応したOpenOfficeという意味だったらしい。
「OpenOfficeは複数のアプリの集合体であり、その複雑な体系をOSXに対応させるには大幅な組み替えが必要なのに、現行の成果物に改良を加えるのは開発リソースの無駄だ」
というのが原文のニュアンスらしい。

ZDNetはこの旧バージョンのMacOS版OpenOfficeが死に体だという表現を「Macはもう死に体だ」という表現にしてしまったわけだ。
単なる不注意なのか、悪意があってのことなのかは知らない。
しかし不注意でこんな誤訳をするだろうか?
この記事はOpenOfficeに対してMacユーザに偏見を持たせる悪意ある記事だ。事実私は偏見を持ってしまった。
また
「オープンソースももうMacは見放している」
という偏見もまき散らしている。
自分の不注意を反省して、OOoの皆さんには謝罪したいと思うし、このアプリ紹介の記事のOpenOfficeのところもできるだけ早く訂正したい。
しかし不注意でZDNetの記事を信じてしまった私も問題はあるが、こういう偏向報道を垂れ流しているZDNetは情報ソースとしていかがなものだろうか。

情報のソースはきちんと吟味しないといけないという教訓だ。




2006年3月14日













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