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企業買収について俗な捉え方から離れることができれば
面白いことがいろいろ見えてくる
/Actually it is interesting

M&Aってそんなに大したニュースか?


昨日Yahoo!ニュース - 時事通信 - ブルドックソースにTOB提案=敵対的買収に発展も−米スティールというニュースが流れた。

リンク先はYahooなのですぐに消えてしまうだろうから全文引用する。
「ブルドックソースにTOB提案=敵対的買収に発展も−米スティール
5月16日21時1分配信 時事通信

 米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンドは16日、東証2部上場のブルドックソースに対し、TOB(株式公開買い付け)を提案したと発表した。14日の終値(1320円)を2割上回る1株1584円で株式を取得し、完全子会社化を目指す。
 スティールはブルドックに宛てた書簡の中で、「株式の取得のためには企業と交渉に入る場合もあるが、そうでない場合は、最も効率的な方法として、直接、すべての株主にオファーして、TOBを開始するかもしれない」と言及。場合によっては、ブルドック経営陣の賛同が得られなくても、TOBを実施する可能性を示唆しており、敵対的買収に発展する可能性も出てきた。」


   

ただ、これ自体はすでに今年の2月の段階でスティールの大量保有報告書によるとブルドッグを10%以上保有していたことが分かっている。


【スティール保有の主な日本企業の株式と保有比率】

アデランス24.69%
サッポロ18.64%
江崎グリコ14.44%
シチズン時計10.52%
ブルドックソース10.15%
日清食品9.28%
ブラザー工業9.19%

2007/02/16

だから驚くに値しないニュースかもしれない。
でもこれに関しては面白い話を聞いた。
昨日またかんべえさんの私的な勉強会に参加してきたのだが、そこで聞いた話だ。

「昨今5月に三角合併も解禁になって、M&Aが話題になっている。しかし外資の投資ファンドがどういうプリンシパルで企業を買いに来ているか皆さん気がついておられるだろうか?」
という例によってかんべえさんらしい面白い問題提議から始まって、
「私は『食』に注目している。なぜなら食品メーカーというのは、キッコーマンを連想していただければよくわかるのだが、非常にM&Aに適した条件が揃っている。
食品メーカーはどこもオールドテクノロジーですでに設備投資は完了している。醤油製法の大革命が起こってこれからキッコーマンが巨大な設備投資を強いられるということもない。しかもこの食品業界は堅実な日銭商売、つまり現金商売なのでキャッシュフローも豊富だ。しかもIT業界のように市場の環境が激変して商品が突然売れなくなるなんてこともない。食品の大革命が起きて醤油が要らなくなるなんてことは考えられない。
しかも古くから各社が割拠している業界なので再編は必至だ。
だからこの食品メーカーというのは、
1)設備投資が完了していて正確なデューデリジェンスが可能
2)キャッシュフローが潤沢でレバレッジを効かせた買い付けが可能
3)市場環境などの外的環境の変化で業績が急激に変化しない
4)しかも業界再編は必至である
この4点の理由で非常にM&Aしやすい業態ということになる。」

「それで実際に食品業界で何が起こっているかというと、
明星食品というインスタントラーメン第3位のメーカーがTOBに遭って、そこに白馬の騎士というのか日清食品が『あいや、待たれい』と入ってきて、これは白馬の騎士というよりはどちらかというと清水の次郎長のような感じだが、結局日清食品が預かりということで買い付けをして、明星を子会社化する。」
「サッポロビールを買い付けたスティールは、今度はあいや待たれいと入ってきたアサヒビールにこれを売却する。サッポロビールは業界第4位のビールメーカーで、ただこの業界は完全に3強になってしまい、4位といってもサッポロビールはケタ落ちの4位だ。
しかしこの老舗ビールメーカーは恵比寿ガーデンプレースという資産とエビスビールというブランド名を持っている。このふたつの資産価値で軽く時価総額を越えそうなものだから、M&Aに遭うのは当然の帰結なのだが、アサヒビールは実はスーパードライ以外に成功したブランドをひとつも持っておらず、エビスビールというブランドがのどから手が出るほど欲しい。
この売却は双方の利害が一致したということだろう」
「そして今度はお菓子メーカーの第3位の江崎グリコがターゲットになっている。
このことから何がわかるかというと彼らは
食品業界、業界3〜4位の企業、業績不振に陥っている
この3つを条件に物色し、これを買い取って一位のメーカーに売りつけて、多額の利益を得るというビジネスモデルで来ているのではないか?」

このかんべえさんの指摘している事実は現象としては知っていたが、そういう分析ができるというのは私も気がついていなかった。
しかし例の2月のスティールパートナーズの大量保有報告書を見てみると、かんべえさんの話は完璧につじつまが合っている。
というかこの辺のM&A銘柄を保有している投資家から見たら常識のような話なのかもしれない。
そうすると次にM&A何が来るかといったら、同じように食品の3位か4位のメーカーだよね、そういうところを買い漁っていたら当たりを引いて大もうけできるかもねという話をしていたら、まさにその翌日この
「ブルドッグソースの完全TOB」
というニュースが飛び込んできた。
世の中は意外にプリンシパル通りに物事が進行しているということなのかもしれない。

しかしこれもスティールパートナーズの大量保有報告書に出ている銘柄名だから、当該株を持っている投資家には常識のような話かもしれない。
かんべえさんは食品業界を挙げておられたが、あとのブラザーとかシチズンとかアデランスとかも結局オールドテクノロジーで、日銭商売で設備投資も完了していて、しかも業界の3番手、4番手につけていて業績がふるわないという意味ではみんな共通している。

こういう手口がわかってくると、今度はそれを先取りする投資家も出てくるだろう。いわゆるTOB銘柄ということなのかもしれない。
しかし投資の世界というのは手口が明らかになった時点で、もうその手法は古くなるという原則だからこれは案外続かないかもしれないが。


このことから何がいえるかというと、M&Aで日興コーディアルもシティグループの子会社になってしまい、日本企業は外資の傘下になってしまうという脅威論がまたぞろ出て来ているが、これってそんな黒船のような騒ぎだろうかとはなはだ疑問に感じてくるわけだ。
シティが日興を買ったのは非常に例外的なケースになるように気がしてならない。
噂が絶えないのは新日鉄、ソニー、日立製作所、武田薬品などで、確かにこれらの企業が買われて外資系企業になってしまうということはあり得るかもしれない。

特に日立なんてのはカラはでかくて、資産は潤沢に持っているが業績は不振でこのままではいけないのは誰の目にも明らかだという状況で、M&Aをする側からしたらとても狙いやすい企業だと思う。

でもそれは、結局オーナーが日本人か外人かというだけの話で、日立が解体されて消滅するというような話ではない。

それよりもこのことで岩崎日出俊さんの話を思い出すのだ。
岩崎さんは日本のM&Aコンサルタントの草分け的存在で、誰でも知っている日本の大型買収案件のフィクサーとして実際にかかわってきた方で、村上ファンドの村上被告がもっとも嫌っている日本人だと聞いたことがある。

そういう際どい世界におられた割には岩崎さんという人はお公家さんのようにおっとりしていて、上品な紳士なのが非常に落差があっておもしろい。またこの人は留学時代に投資理論でノーベル賞を受賞した先生に師事してバフェットなどの授業も受けている。実は大変筋目のいい人なのだがそういう人が日本のM&Aの修羅場の第一線で活躍していたというのがなおさら面白い。

その岩崎さんによると日本の企業社会で一番問題なのは、「流動性」が不足しているということなのだという。
例えばアメリカは70年代から80年代にかけて長期の経済的な低迷の時代が続いた。例のデトロイトの労働者がジャパンバッシングとかいって日本車を焼いていたあの時代だ。
しかし岩崎さんによるとアメリカ人は冷ややかな目で見ていたそうだ。
デトロイトの労働者はちっとも働く気がないのに、自宅待機になってしまうのは日本のせいだと言う。
しかし本当に問題なのはオールドエコノミーが整理されないまま、保護主義的に生き残っていることだった。
ところがアメリカの経済の仕組みが大幅に変わってM&Aが大幅に進んだ。
その結果何が起こったかというと、それまで停滞していた業種の再編が進んでアメリカ経済の空前の再生と成長の時代が始まった。

岩崎さんは「市場が効率化するためには企業が買われて転売されるような流動性が必要なのだ。それがないと、お上主導ではいつまでたっても業界再編は進まない」とおっしゃる。
今までの日本がまさにその状態だったわけだ。

日本にはまだまだ非効率な業界がたくさん存在する。
しかし非効率でもそれらはなんとなく生き残ってしまい停滞している。
M&Aが急増するとその構造が大きく変わるだろうということだった。
だからブルドッグソースのTOBのような話はこれからもどんどん出てくるだろう。

最近も報道の関係者ともめたのだが
「5月に三角合併が解禁になって今M&Aが非常に注目されている。だからM&Aという言葉はそれ自体見出しになる」
とこの御仁は主張する。
マスコミ人は相変わらず不勉強だなと思う。
M&Aが大ニュースなのは日本経済が外人資本家に支配されるという構図があるから大ニュースなのだろう。しかし実態は彼らは本当に支配したいなんて思っていない。
ただ単にそこの取引で利益を得たいだけだ。
そして実際彼らは利益を得るだろう。
黒船がやってきて日本人の魂が抜かれるなんて構図はどこにも存在しない。
むしろ岩崎さんがいわれるように流動性を生む資本が流入して、日本の業界再編が進んで効率化が進むだろう。
このことはとりもなおさず日本の再生と成長に結びつくはずだ。
なぜなら太平洋の向こう側にそのケーススタディが存在するからだ。

M&Aはそんなに大ニュースだろうか?
黒船のような脅威論はお話しにならない妄想でしかない。
ましてやM&Aをなにか流行もののようにいって、「渋谷でこんなファッションが流行している」というような話題と同列に扱うのはもっと愚劣だ。
M&Aはそのうち毎日のようにそういう話が出てきて、日常茶飯事になるだろう。
それだけの話だ。

注意して見ていればいろいろ面白いことがわかって、ウォッチングには最適なテーマだ。
だから食品業界に注目したかんべえさんの着眼点には感心する。かんべえさんのテーマは「なぜ今食品なのか」ということなのだが、そのことはいずれ機会があったらまた改めて書く。これ自体も面白い結論を導き出せる話なのだ。
ただ「日本の脅威だ」と騒いでみたり「M&Aが大流行のきざし」なんていう捉え方はお話しにならない。単なる上っ面を撫でているだけだ。




2007年5月17日













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青木さやか