経営者倶楽部というサイトをたまたま見かけて、どうして企業の経営者なり幹部なりは、こういうコンサルによって救われた企業なんてどこにも存在しないのに、こういうあほうなコンサルの言い草に繰り返し何度も何度も引っかかってしまうのかと感慨を持ってしまった。
ここでは「コピー代を削減すれば、残業代がなくなる」という空想的なメソードで企業の改革が劇的に進むかのような幻想を謳い上げている。
「売り上げを増やすのは難しい。だから、利益を増やすのはもっと難しいとお考えではないでしょうか。それは違います。利益を増やすのは、とても簡単なこと。」
こういう書き出しは、もういかにもあほうなコンサルの常套手段なのだが、それでも実際企業の経営者や財務担当者はなかなか伸びない売り上げにやきもきし続けているから、こういうレトリックにころっと参ってしまう。
「確かにそうだよね、売り上げを10%増やすのは血のにじむような努力が必要なんだよね。しかし売り上げが10%伸びたからって利益も単純に10%伸びないんだよね。それどころか結局営業経費増で利益はとんとんなんて馬鹿なことになりかねないんだよね。
だったら営業経費なんて博打みたいな出費にかけるよりも、コピー代を節約した方が良いよね。
原資が要らなさそうだし、なんだか堅実そうだし、そっちの方が良いんじゃね?」
こういうのに引っかかる企業の担当者の心理って大体こんなところだろうな。
『「コストの森」を見渡せば、人件費や材料費といった以前から生えている成長の遅い大木の周りに、知らぬ間に勢いよく背を伸ばしてきているエネルギーコスト、オフィスコスト、オペレーションコストといった木々があるはずです。けれど、企業の利益を直接的に左右するそれら木々の存在をしっかりと認識し、それをいかに剪定すべきかという問題意識を常にお持ちの経営者は、意外に少ないように思います。』
とかいえば「その方法を私は知っています」なんていうふうに聞こえるんだろう。
でも
『「自家発電機を導入しさえすれば電気代は下がる」といった経営者の安直な考え方が、逆に経費増を招いていたケースもたくさん知っています。』
とのご託宣だが、そんなアフォな経営者おらんて。
そういうのは経営者としてどうこういう前に、ビジネスマンとして必要な最低限の係数能力が欠如しているんでないかと見えてしまうのだが。
「東京電力に電気代払うよりも自家発電した方が安上がり」なんて本気で考えるような社長は、そうそうおらんだろうし、もし実在するならそういう社長の会社はどのみち救い様がない。
そんなデタラメなたとえ話で「そりゃそうだよなぁ」なんて納得してしまう、自分で自分を賢いと思っている中途半端な「改革派経理担当役員」がこういう安直な例えに引っかかるんだろうなぁ。
その具体的なメソードの解決策が以下の通りだ。
『 ある機械製造・販売会社の話です。その会社では、カラーコピー代だけで月に40万円を超える金額を支払っていました。コピー機は各部署にあり計4台。そのすべての使用頻度が月を追うごとにどんどん増えているのです。』
このアフォコンは出費の項目にしか注目していない。
こういうのはいかにも「会計学勉強してきた経営のプロです」とかいう連中が言いそうな理屈だ。
しかしこれはカットすべきコストの上限がたったの40万円しかないことを逆に物語っている。
実際にはその40万円を何割カットできるかという問題だから、結果的に節約できるコストは社員一人分の給料にも足りないだろう。
つまり4つの部署で血のにじむようなコストカットをして、社員を一人増やすこともできないのだ。
『 3台をすぐに撤去し、1台だけにしたのです。現場は「会議資料が間に合わない」「顧客プレゼン用の資料が約束の時間までに揃えられない」といった苦情の嵐。しかし、現場の「せめてもう1台」という声を聞いても新社長は頑として首を縦には振りませんでした。』
これもそれでどうなったか結果しか見ていないが、そのために逸失した利益を全く評価していない。社員一人分の給料にも満たないわずかなコストのために、コピーもプリントアウトもわざわざ他所の部署に機械を借りていかなくてはいけない非効率と、時間のムダ、その時間のムダのために失われた社員の時間給コストは一体どこに計上されているのだろうか?
断言する。
こういう会社は潰れます。
その40万円のカラーコピーは何に使われたかが全く検証されていないではないか。
40万円社員の趣味のために浪費されていたのなら、こういうコストカットをしなくてはいけないだろうけど、大抵はプレゼン資料や企画書をカラーで刷るために使われているに違いない。
つまりそれは必要なコストなのだ。
プレゼンや企画書は、モノクロでプリントアウトするよりも鮮やかなカラーで作った方が、社内的にもアピールして企画が通りやすいし、お客さんにだってアピールする。
「客にもデータで置いて来てコストカット」
というがお客がわざわざCDRか何かのディスクを開いて中を見てくれると本気で思うのだろうか?
そんなもの引き出しにしまわれておしまいだ。
これだけコンピュータが普及しているのに、ビジネス現場でいつまでたっても紙がなくならない理由を真剣に考えるべきだ。
客だってモノクロの汚い企画書持ってくる営業マンよりも、カラーの垢抜けた企画書持ってくる奴に「やる気」を感じるだろう。
ましてやペラペラのディスクは問題外だ。
それを簡単にコストカットの材料にして、しかもなぜそれが必要かも検証しない。
だからこういうのを
「アフォなコンサル」
と呼ぶのだ。
日本電産の永守さんはビジョンを持った経営者だが面白い話を聞いた。
今、地球温暖化を防ぐため、また資源枯渇を防ぐため、そして企業や社会のコストカットのために、世界中の電力の効率化がいわれている。
ところで電気を一番喰っている部品は何かわかるだろうか?
永守さんによると、世界の電力のおよそ半分はモーターが喰っているのだそうだ。
それは冷蔵庫だったり洗濯機だったりクーラーだったりする。
暖房だってガスファンヒーターとか、電気が担当するのは回転する部分だ。
もし世界中のモーターが1%効率が上がったら、タイ一国分の電力が節約できることになる。
たった1%で一国分の電力がまるまる浮く!
ところで日本電産は冷蔵庫からハードディスクのサーボモーターまであらゆる機器のモーターを作っている専業メーカーだ。
だから永守社長は会社では
「クールビズとかそんな小さな社会貢献なんかせんでもよろし。暑かったらクーラーなんかガンガンにかけたらええんや。
そのかわり命をかけてモーターを1%効率化しろ。
そしたらタイ一国分の電力を節約できて、大きな社会貢献ができるやないか。小さな社会貢献なんかどうでもええから大きな社会貢献をせい。」
といつもいっているのだそうだ。
世界No1のシェアを持っている企業だからいえることかもしれないが、こういう数字とアウトルックが経営者の頭に入っているということも大事だ。
それに、そういう気宇壮大な「原則」を経営者が持っているということも大事なのだ。
コピーの枚数なんてのはいかにも下らない、アフォなコンサル好みの話だ。
経営とコスト管理には1%にしのぎを削るような繊細な感覚は必要だろう。だからザルが良いとは思わない。
しかし繊細な感覚を向ける方向を間違えてはいけない。
本当のコストと結果の評価には、もっと原則的な考え方の土台が必要なのじゃないだろうか。
2007年5月22日
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