最近北海道のローカル線で「高校生が電車入り口でたむろして詰めなかったために、駅に大勢人を残したまま列車が見切り発車してしまい、JR北海道が生徒の高校に注意を促す」というニュースが流れた。
脊椎反射的にこのニュースに反応するなら
「近頃の高校生をはじめ若いものはマナーがなっとらん。私も最近電車の中で大変不快な思いをした。例えば・・・」
なんてな内容になるだろう。
私はチェックしていないが、あのニュースを取り上げた個人ブログの反応のしかたは大体そんな感じのものが多かったんじゃないだろうか。
ところが後日ちゃんと検証した記事が出てきて、よくよく事情を見てみると当時列車は実際満員状態で、高校生たちは奥に詰めることはできなかったようだ。
なのに高校生たちは自分たちのマナーが悪いために、他人を放り出したという報道のされ方をして大変ショックを受けているそうだ。
当時の状況は、運転手はホームに大勢客が残っていたのは認識していたが列車に乗れないと判断して代替輸送の手配を要請し、客を残して発車したようだ。
このローカル線は典型的な地方赤字線で、通学時間だけは満員になるが日中は空気を運んでいるという。通学時間乗り切れないために車両を増やして欲しいという要望は地元から出ていたが、JRはそのためだけに車両機材を増やすことは赤字を増大させるだけと判断しているようだ。
それでこの件についてはJR側の一方的な発表がニュースになってしまい、高校生のマナーが悪いためにお客が電車に乗れなかったという印象の報道になってしまった。
しかし物事には真相というものがあるのだ。
一方的な発表を鵜呑みにして報道した報道機関にも問題はあるし、それをそのまま「若者のマナーの悪さの問題」というふうに受け取った受け手の、情報リテラシーにも問題がある。
iTunes Storeの著作権使用料不払い報道は「誤報」、JASRACがコメントというニュースが最近流れた。
これ自体は完全な朝日の勇み足で、iTunes Storeの納付金がJASRACの決算収支に載っていないというたったその一点だけを取り上げて、ろくに裏も取らないで
「Appleは著作権料も払わないでボロ儲けしている」
というような印象の記事を垂れ流していた。
実際にはJASRAC自体が「著作権使用料は受け取っている」と明言した。
そのためにこの記事は現在ではasahi.comから削除され、当該ページには「訂正文」なるものが掲載されているが、その文面は完全な誤報なのにそれを詫びるような内容になっていないという問題はとりあえず置いておく。
この問題の真相について2ちゃんねるにもスレが立ち、その内容はこちらの
アンカテ(Uncategorizable Blog) - AppleがJASRACに払った2億5千万の行方は?というエントリに簡潔にまとめられているので、2ちゃんねるの冗長なスレを見るのが苦手だという人はこちらを見てもらいたい。
要するに、なぜこの誤報が起こったかということで、朝日のずさんな取材姿勢を批判するレスもあるが、それよりJASRACがこのiTMSの2億5千万円をネコババしようと会計操作をしているとか、Appleを恫喝するためにJASRACがわざとニュースを朝日にリークしたとか、随分うがった話が続出している。
これに対して、このエントリにトラックバックをかけておられるこちらの『これが真実! iPod vs. JASRAC 著作権料2.5億円不払い騒動-家を建てよう』という記事が一番真実に近いのではないかと思う。
正直言えば、JASRACは昔からその会計内容が不透明だ、というのはその通りだと思うし裏金がなかったかというと否定できない面もある。
むしろそういう目的のために作られた団体ではないのかという推論は、あくまで推論だがどの程度真実を言い当てているのか私にはよくわからない。
しかしことこのニュースに限っていえば、JASRACがiTMSの2億5千万円をネコババしようとしたというのは邪推に近いと思う。
それは、「そんなことをしたら目立つじゃないか」という理由からだ。
JASRACはこのiTMSの収益金をAppleから納付されたものの、それをどう著作権者に配分したら良いのかという事務処理の問題で困っているようだ。
そこの方針が固まらないまま、どんどん著作権使用料が積み上がってしまい、それが2億5千万円も支払われてしまったから、その処理法が決まるまで留保金としておいておくということにしたようだ。
それを決算書に記載していなかったというのは、確かに会計上の手落ちだし民間企業だったら「脱税の意思あり」と判定されても文句がいえないようなミスだ。
しかしJASRACが本当に脱税やネコババを意図していたかというと、今回の朝日の記者のようにそこに注目して収支報告をチェックしてくるようなヤツが居るわけだから、わざわざそんな目立つところで不正はやらないだろう。
もしネコババするならもっと目立たない地味な項目をごまかすんじゃないかというのが人間の心理だという気がする。
それよりも『家を建てよう』さんがいわれるように、旧弊な著作権管理システムがネットによって急に拡大した市場の現状についていけてないというのが真実ではないだろうか。
これについてはGoogleの会見でもシュミット会長が面白い話をしていた。
出版物を一冊まるまる検索用のメタデータとして取り込むことは著作権の侵害であるとして、出版社に訴訟を起こされているという。
著作権関連法規には「著作物の定着を禁ずる」という項目がある。
これは簡単にいえば、写真に撮ったりCDRに録音したり、コンピューターにテキストを取り込んだりということは全て著作権の侵害ということになるということだ。
現実的な法規運用のためにほとんどのケースで「個人として楽しむ場合を除いて」という注釈はつくが、本当はこれは現実に合わせた超法規的措置で杓子定規に法律を解釈すればコピーなどの方法で著作物を定着させることは全て著作権の侵害に当たる。
ここでGoogleがメタデータに本を一冊まるまる取り込んでいることが、著作権侵害とされたわけだが、現実にはどうだろう。
メタデータはあくまで検索のベースとして使うもので、外部からユーザがそのメタデータを直接読み取ることは不可能だ。
だからメタデータから著作物を再現することはできない。
しかも検索データを整備することで本の著作者の著作権収入は損害を受けるどころか、現実には書店売りではまず売れないようなマイナーな本が、ロングテール現象のおかげで売れたりする。
その結果著作権者には今まで入らなかったような収入が入ってくる可能性がある。
逆にその収入が阻害される可能性はまずない。
だったらこの著作物をまるまるメタデータ化することは、Googleやユーザだけでなく著作者にとってもメリットがある全ての人がWin-Winになれる関係ではないか。
しかし法律を杓子定規に解釈すれば、Googleのやっていることは著作権侵害という解釈も成り立つのだ。
webのおかげで、こういう著作権まわりの環境は急激に変わっている。
法律は永遠不変の金科玉条というようなものであるべきでなく、常に現実に合わせて修正されながら運用されるべきだと思う。
ところが著作権の法規は完全に硬直化し、その運用者も硬直化し、それにまつわる異様な正義感も動脈硬化を起こして、規定が現実に全くついていけてないという現状があると思う。
このJASRACのダウンロード販売の収益の処理法だってそうだ。
これがこのニュースの肝で、これは朝日の偏向報道とか(それはちょっと問題があるが)JASRACの体質がどうとか、そういうニュースではないような気がする。
2007年5月23日
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