|
大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス
監督 湯浅憲明
ガメラつながりで昔のガメラの話など。
昔の怪獣映画なんか見ていると当時と今では視点が180度違っていることに驚かされるという話だ。
大映という映画会社は怪獣映画でヒットを飛ばしたライバル社に遅れをとって、このガメラシリーズで追いつけ追い越せ状態だったわけだが、常にライバル会社の動向を忠実に追っかけていた。
ゴジラの第一作はビキニショックをきっかけにしたストーリーでスタートしている。
(ビキニ環礁の水爆実験の威力に世界中が驚愕したという事件で人類の終焉を感じさせる出来事だったのだが、この衝撃的事件の地名をとってビキニ水着も販売され、これもヒットになる。
衝撃的な水着という意味だがこの時代の軽薄さが現れたネーミングだと思う。しかし水着のビキニという名称は今日まで残っている。)
しかし最初は恐怖映画としてスタートしたゴジラは子供のアイドルになり、ゴジラもおそ松君のように「シェー」までするようになった。
ガメラも忠実にその軌跡を追って恐怖映画からスタートしたものの子供のアイドルとなっていく。
この映画はガメラが子供を主役にすえた最初だと思う。
しかしその子供の仕切り方がすごい。
自衛隊の野戦司令部でこのギャオスを発見した子供が
「あの怪獣はギャオギャオと鳴くからギャオスというんだよ。」
と叫ぶとやおらうなずいた自衛隊の司令官が
「これよりギャオスを攻撃する。」
と命じる。
なんとも自衛隊の面目躍如たるシーンではないか。
発見者の権利は例え生意気な小太りのガキだろうが尊重するという、民主国家の専守防衛の戦力にふさわしいおおらかさだ。
たいていのことには驚かない私もこのシーンには思わず「ぎゃおっ」と叫んでのけぞってしまった。
当時これを見ていた子供たちも納得してみていたんだろうか?
この時代から30年後、ちょうど当時こういう映画を見ていたと思われる金子修介がガメラシリーズをリメイクするにあたって、徹底的に自衛隊や警察を組織論にまで踏み込んでリアルに描いてみせたのは、どうもその反動のような気がする。
金子修介に代表される当時の子供も皆「ぎゃおっ」と叫んでのけぞってしまったのではないだろうか?
またこの物語は富士山のすそ野の寒村での道路工事の賛否から人々が対立するというストーリーが絡められている。
道路工事を妨害するギャオスは、今ならさながら環境保護のメッセージを伝える良い怪獣で、それを退治するガメラは悪い怪獣ということになる。
しかし当時は高度成長時代のまっただ中だ。
道路工事で変な金儲けするのは悪いやつだが、道路を造ることは正しいことであり建設は正義という時代だ。
結局最後はギャオスが死んで
「これで安心して道路工事に取りかかれますね」
というエンディングだ。
今だったら「道路公団がしゃしゃり出てくるからこういう天変地異が起きるんだ」という八つ当たりみたいな理屈で道路建設は頓挫するに違いないし、映画のストーリーはそういう方向に持っていかないと終わることができないだろう。
この30年間で、価値観が180度変わってしまったということだ。
しかしそういうお為ごかしの映画ばかり見せられている今の子供たちが、30年後にどんな映画を作りはじめるのかが見物だと思う。
「20世紀の大人たちは口先だけの正義で世の中を停滞させ、希望を奪ってきた。なぜ前向きに建設の努力をしないのか、なぜ幻影のような『地球に優しい』なんて言葉を繰り返すのか愚かな大人たち」
というようなテーマの映画が続々できはじめるのかもしれない。
30年前、子供だまし映画を平気で作っていた大人の程度の低さを当時の子供たちは心のなかできっちり笑っていたように、今の子供たちは今の大人たちの建前主義を笑っているのかもしれない。
そういうことを考えさせられる、とってもキッチュなというかサブカルな映画なので、ぜひ一度観ることをお勧めする。
|