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TOKAREV TT-33:トカレフの整備

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TOKAREV TT-33:トカレフの整備

時々思い出したように昔愛用していたモデルガンなどを引っ張り出してくる…の第4弾

旧式銃だけど面白いメカが満載

「トカレフ」という映画があった。

ヤクザ映画大好きな日本映画界なのに、その手にしている得物には日本映画は意外に関心がない。
だから100連発のコルトみたいなわけわかんない映画がけっこう多い。
「トカレフ」は珍しくその銃が映画のタイトルになっていて、銃に関心がある人たち…回りくどいので以下「鉄砲ヲタ」…の興味を引いたのだが、目のつけどころは良かったが日本の映画監督さんはやはり基本的に鉄砲そのものには興味がないみたいだ。

銃創は深く重症になるが、意外に人は銃では死なない。
頭を撃たれたら即死するように思っている人もいるが、そうでもない。
そこはよく調べていたのだが、最後の最後のシーンで弾切れになったトカレフの引き金を引き続けていると
「カチッ、カチッ」
という音がして主人公が弾切れに気付くというシーンがあって、「あ〜〜あ」という感じで一気に映画のステータスが下がってしまった。

トカレフは…というよりトカレフを含むほぼすべてのオートの拳銃は、弾切れになった時に
「カチッ、カチッ」
なんて音がしたりはしない。

実際は大抵はスライドが後退したホールドオープン状態で止まってしまうので、引き金を引き続けなくてもすぐに弾切れには気がつくはずだ。
ホールドオープンメカが無いオート拳銃も(少数派だが)あるが、その場合でも一度撃鉄が落ちてしまうとあとはいくら引き金を引いてもうんともすんとも言わない。
どこも動かないし、ましてやカチカチ音を立てることも無い。
これがオート拳銃のメカなんだけど、映画監督にとってはどうでもいいことなのかもしれない。
それともドラマを盛り上げるための脚色だったのかな?

でも鉄砲ヲタ…面倒なので以下「鉄ヲタ」…はそういうディテールが気になるんだよなぁ…
(ちなみに弾切れでカチカチ音がするのはダブルアクションのリボルバーだけだ)


そのトカレフTT-33のことだ。

日本のヤクザさんというと得物はトカレフというイメージがある。
映画でもステージガンとしてトカレフが使われることが多い。

しかし実際には本物の旧ソ連製のトカレフは今時海外に行っても博物館でないと見ることはできない。
トカレフ、正式名称TOKAREV TT1930/33は、1930年に旧ソ連軍の正式拳銃として採用されTT-33で本格的に生産されたが1951年には後継のマカロフに取って代わられて生産終了。
知名度の割には意外にも制式時代は短く、輸出もそれほどされていないので実は本物のソ連製トカレフはけっこう希少銃だ。

ちなみに日本のヤクザさんが持っているトカレフと呼ばれている銃は、松クラスは中国のノリンコ製五四式拳銃の民間モデル、竹クラスはブラジルのトーラスなどの中小銃器メーカー製、梅クラスは北朝鮮六八式拳銃かフィリピンの密造銃という感じでお値段もクラスに合わせていろいろらしい。

その中で本物のソ連製トカレフが出てきたら博物館的希少性で蒐集家向けにプレミア価格がつくので、とてもではないがその筋方面の皆さんのお財布では購入は不可能…という銃だとのことだ。



TT-1930/33トカレフ
グリップパネルにソ連軍のシンボルの星とCCCPのマークがあるのがソ連製の特徴だ
あとスライドの滑り止め溝も太い削り込みになっているのはソ連製のみの特徴だ




ソビエト連邦軍徽章(日本Wikipediaより)はこんな感じ
これをつけているトカレフのみが本当はトカレフを名乗って良い




ところでこれは日本のハドソン製のモデルガンでABS製の軽いプラガンなのだが
金属っぽいニッケル被膜塗料をスプレーしてこれが長年のタンスの湿気のせいか
サビっぽい色に変化していい感じの骨董銃の雰囲気になってしまった
本当はガンブルーが好みなんだけどこれはこれでありかもと最近のお気に入り




7.62mm×25トカレフ弾というこの銃でしか使えないソ連軍制式弾を使用したマガジン
この弾薬はドイツのモーゼルの高速小口径弾の影響を受けたらしい
マガジンには8発、チェンバーに1発の計9発が装填可能
マガジンは残弾確認用の穴が6個開いている




スライドを後退状態で止めるホールドオープンにして排莢口を覗く
カートリッジがせり出しているこの感じはエアガンでは味わえない




モデルガンだとわかるのはフレームサイドのハドソンの刻印
それ以外はソ連製の刻印を忠実に再現している
大味なモデルガンが多いハドソン製の中ではプラガンのトカレフは秀作
これはハンマーをフルコックにしたいつでも発射可能な状態
ハンマースパーがかなり後ろに突き出している




ハンマーをハーフコックにした状態、ハーフというよりはクォーターコックに近い
ところでこのソ連製トカレフにはセーフティ(安全装置)と呼べるものが無い
それらしい機能といえるのはこのハーフコックだけだ
ハーフコック状態ではトリガーにロックがかかりスパーが大部分スライドのシュラウドに隠れる




ハンマーが落ちた状態だとハンマーはほぼシュラウド内に隠れるが
ハンマーはファイアリングピンを通じてカートリッジのプライマーに
コンタクトしているのでこの状態で落下したら暴発はあり得る
ハーフコックだってシアが折れたら暴発はあり得る
それでもセーフティをつけなかったソ連軍の男前さ
ソ連共産党軍将校たるものチェンバーに弾丸を入れたまま持ち歩くようなことはしないのだ!




トカレフの分解法はとってもユニークで面白い
まずフレーム右のスライドキャッチピンを後ろにずらす




するとスライドキャッチがスルリと抜ける




これだけでスライド・バレル・リコイルスプリングユニットが前にスルリと抜ける




マズルブッシュはスライドキャッチのシャフトを利用してストッパーを押し込むと
回転させてスルリと抜けるようになる




一応のフィールドストリッピング(野戦分解)はこんな感じ




さらにトカレフがユニークなのはハンマー・シアメカが
ユニット化されていてフレームからごっそり抜けること




抜いてしまえばシアメカの部品にコンタクトできるので手入れが簡単だ
銃というものは一発でも撃ったらその日のうちに分解掃除をして手入れしないと
あっという間に錆びついて動かなくなってしまう
カラシニコフもそうだがソ連軍は手入れの簡単さには相当こだわりがあるようだ




ハンマースプリングはなんとハンマーの中に内蔵されていてここにオイルをさせば手入れできる
野戦で分解した時にスプリングが「ピョ〜〜ン」と飛んでしまったら見つけるのはほぼ不可能で
スプリング一本無くなっただけで銃はただの文鎮になってしまう
そうならないように隅々まで工夫されている面白い銃だ




もう一つユニークなのがグリップパネルの固定法
大抵の拳銃はグリップパネルはねじ止めと相場は決まっているのだが
トカレフのグリップは裏のレバーを回転させて固定を解除する
つまりここまでの分解には工具類は一切不要で素手で手入れができるということだ




工具無しでできるのはここまでだがこれでもほぼすべての部品に
コンタクトできるので通常のメンテナンスは問題ない




やや錆び色になったニッケル塗装のトカレフ全景
メカや外観を見るとかつての米軍制式拳銃M1911の影響ははっきり見て取れる
影響は明白だがただのコピーではなくロシア製らしいアレンジも感じる
手入れがしやすくて頑丈で故障が少ない…そのためなら多少のスペックは犠牲にする…
これがソ連式というかロシア式の哲学のようだ




1951年に引退したトカレフだが高速小口径弾を故障もなく
連射できる性能を考えるともっと長命になっても良さそうな銃だった
ところがソ連軍は個人携帯兵器としての拳銃にあまり価値を見出さなかったようだ
これがマカロフという明らかにスペックダウンした次期制式拳銃を採用した理由かも
拳銃なんて実際の戦闘には役に立たない…将校が部下を脅す時だけ役に立てば良い…
という考え方なのかもしれない
トカレフに価値を見出したのはソ連軍ではなくその筋方面の人たちだったというのは皮肉だ


TT-33はこのように実戦での使用を前提にした面白いメカの工夫があって、こういうところがメカ好き、道具好きの鉄ヲタ…面倒なので以下「鉄男」…の心をつかむ鉄砲なのだが実銃のユーザーで心を掴めたのは中国、北朝鮮、その筋の人々だけだったようだ。

しかし知ってみれば魅力的なメカだと思うがなぁ。
特にハンマー・シアユニットのモジュール化はとても面白いアイデアで、戦場で細かい銃の調整などやってられないからモジュールごとごっそり交換してしまえばあっという間に修理ができてしまう。

オートの故障なんてシアやハンマーのシアキャッチが折れて、ハンマーがコックできないとかトリガーが切れないとか大抵はそういうところで起きるので、ここをいちいち調整しなくてもごっそり交換というのはとても合理的だと思う。

しかしソ連軍はトカレフを捨てた。
拳銃に求めるものが変わったからということなのかもしれない。
個人兵器としてカラシニコフが空前の成功を収めたので、拳銃はむしろ常時装填で携行できてマカロフ弾という弱装弾を引き金を引くだけで撃てるお手軽銃で良いということか。

しかし拳銃を準主役に据える映画の監督さんなら、拳銃のメカぐらいは知っておいて欲しかったなぁ…





これがホールドオープンの状態
全弾撃ち尽くすとスライドがこの状態で止まって撃っている人も明らかに手応えが違うので
気付かず引き金を引き続けるなんてこともない




全弾撃ち尽くしたらマガジンフォロワーにこのスライドキャッチが
上に押されて溝にはまり込みスライドを後退状態のまま動かなくする
このレバーを下に引き下げて解除しない限り引き金を引いてハンマーを
落とすことができないのでカチカチ音はしないし次のマガジンを装填しないと
スライドストップを解除しても弾薬は空のままだと気がつかないわけがないので
弾切れに気がつかず撃ち続けるなんてマヌケは存在しようがない




「鉄男」お気に入りのハドソントカレフだがモデルガンの方は出来は良いもののジャムが多い
大抵は排莢口にカートリッジが引っかかるストーブパイプジャムなのでスライドのこの部分を
少し削って広げるだけでめざましく改善する



2017年9月24日
















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