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Enfield No.2 Mk.Iの修理・整備

Top Break with Enfield

Enfield No.2 Mk.Iの修理・整備

時々思い出したように昔愛用していたモデルガンなどを引っ張り出してくる…の第5弾

旧式銃な上にメカも旧式、保守性は最悪…でもこういうの好き!

先日某日テレ系で某宮崎パヤオの某ラピュタが放送されたらしい。

流石にバルス祭りはもう飽きたのかそれほどツイッターのTLに流れてこなかったが、ムスカ大佐の話題が結構流れてきた。
ムスカ大佐は主役の二人や、海賊達よりも人気があるらしい。
確かにムスカ大佐はアニメ史に残る名言をいくつも残している。

「見ろ!人がゴミのようだ!」
というのが超有名だが、エンディング近くでムスカ大佐が主役の少女達を脅すのに使った銃も話題になっていた。

それがこれエンフィールド No.2 Mk.1。

この銃は由来・来歴を書いたら一冊本が書けるぐらい面白い話題がある。
第二次世界大戦当時の英国軍の制式拳銃で、相当数生産されスコットランドヤードのおまわりさん達も一部この銃を使用していた。
大佐が使っていたのもこのエンフィールドを3インチに銃身を切り詰めた警察モデルだったように思う。
(いや、パヤオのデッサンが狂っていただけなのかもしれない…すみません、よくわかりません)

この銃は面白い特徴がある。
いわゆるブレークオープントップメカニズムと呼ばれている銃を中折れさせて、シリンダーを露出させ一気に6発分排莢して6発弾を込めるメカ。
そして中折れの時に自動的に排莢するカムエジェクターメカ。

この中折れメカは6発一気に薬莢を排莢できるメリットがある。
しかしこれは新しいメカではない。
実際このメカは西部開拓時代に人気があったスコフィールド銃(S&W Model3拳銃)とか、坂本龍馬が愛用したS&W Model Army(これは同じ中折れといってもオープントップというより下が開く中折れなのでオープンボトムというべきメカ)とか19世紀に割と流行ったメカだった。

そしてこのエンフィールド銃を最後に絶滅したメカでもある。





エンフィールド No.2 Mk.1のプロフィールショット
全体的にほっそりとして軽量で華奢なイメージ
このメカを30年前にマルシン工業が復元してくれた




エンフィールドの右側
見ての通り右も左もなんだかメカがゴチャゴチャしていて複雑な形状をしている




この銃の最大の特徴は左側のゲートレバーを引き下ろすと
銃の上が開いてシリンダーが露出する中折れメカ
といっても新しいメカではなく19世紀に流行ったメカで
現在ではすっかり絶滅してしまった
この古色蒼然としたメカを1930年代に採用し
20世紀の中盤の世界大戦でも使用した英国面の面白さ




そして中折れの時に薬莢を自動的に排出するメカも面白い
工作不良の薬莢は膨らんだり切れたりしてシリンダーに張り付く
張り付いたら素手ではクリアできないので薬莢を引き出す排莢メカが必要だ
それを自動化したのは進歩的というのか余計な御世話というか…
でもメカマニアの鉄男には美味しいメカだ




完全に開き切ったらエジェクターはシリンダーの中に戻る
使用弾は9ミリの38S&Wという弱装弾で9ミリ拳銃の中でも最も威力が弱い装薬
マルシンのカートリッジは寸詰まりだが実弾も結構寸詰まりなのでリアルともいえる
ここまで開き切ったら次弾の装填も楽そうだが見るからに強度はなさそうな外観だ




銃身・シリンダーグループとグリップフレームグループのヒンジはこんな感じ
左右一番外側がグリップフレーム、その中がバレルフレーム、一番内側が
自動排莢の動作の起点になっているカムと実にメカメカしい




この銃の分解は簡単ではない
前回取り上げたメンテナンス性を重視したトカレフとは
対極にあるメンテナンス性を無視したメカだ
先ずはグリップパネルを外していくがいきなりマイナスドライバーのお世話になる




ヘビーウエイト樹脂モデルが普及する前の初代モデルなので
グリップパネルには亜鉛合金のウエイトが入っている
今回はグリップパネルも壊れていたのでここも直した




パネルを外すと中には亜鉛合金のサブフレームがある
軽いプラガンだからこういうところでウエイトを稼いでいる
そこにU字型のメインスプリングとコルトのダブルアクション
でいうところのトランスファーバーのようなレバーが見える




次に銃身グループをグリップフレームから外すためにヒンジシャフトネジを抜く




左右両側のネジを抜くことでバレル、シリンダー、シリンダーロック、グリップパネルが外れた
通常分解でもこれぐらいはやらないといけないのでどう見ても野戦向きではない気がする
外でこのうちの一つでも部品を無くしたら銃は即座に文鎮になってしまう




中折れすると薬莢が飛び出してくる自動排莢メカのカムの構造
偏心シャフトのバネが仕込まれており下のツノでエジェクターを押し出す
右のラッチをフレームに引っ掛けてカムは固定され偏心したシャフトが
押し込まれてラッチが外れエジェクターは元に戻る
鉄男の心を揺さぶる複雑なメカだ




フレームグループの分解はゲートレバーのネジを抜くところから始まる
すべてのメカがネジ止めでネジを一本も使わないトカレフと思想的にも真反対だ




トリガーメカのパネルはコルトのダブルアクションと同じ左側開き
このパネルも4本のネジで止められている
ネジを使うことに全くためらいがない設計だ




このメカメカしい内部を見よ
モジュール化もグループ化も全くされていない時計のムーブメントのようなメカ
しかもシリンダーストップ、シリンダーストップラチェットもハンマーに着いたシアレバーに
全部独立したスプリングが付いていて部品の兼用化はほとんどされていない
というより元になったウエブリースコット拳銃より部品簡略化は
されているといっても古色蒼然としたメカであることは間違いない




メインスプリングはハンマーにぶら下がったレバーを引き上げハンマーを落とす
メインスプリングの反対側が下のトランスファーバーのようなレバーを押し下げ
これがシリンダーハンドを前に抑えるテンションスプリングを兼ねており
このテンションがトリガーを元の位置に戻すトリガースプリングを兼ねている
この銃の唯一といっていい部品点数を減らすための工夫だがメカマニアの心をくすぐる




今回はこのサイドパネルのスクリューホールが割れてしまったのでこれを治す
ABSの部品だが経験上この接着にはスチレン系の接着剤では強度が出せない
もうためらわず瞬間接着剤を使用して修理した




例のブレークオープントップのヒンジの部分も破損の可能性が高い
というより私の銃は破損した
これも接着剤で固定したがこの銃をABSで製作したマルシン工業の蛮勇に乾杯




修理が済んだら部品の組戻しをするが
このゲートレバーのバネなんて完全に銃の外に取り付けられていて
メカの何割かが銃の外にはみ出している銃なんて実に19世紀的だ
こんな銃をよく野戦で使っていたなと英国人のクラシック趣味に関心するが
実用性はともかくこういうの嫌いじゃないんだなぁ


この中折れメカのメリットは排莢が一瞬でできることだ。

リボルバーの最大の弱点は装弾数が少ないことではなく、弾薬の再装填に手間がかかることだと思う。
西部劇でおなじみのシングルアクションアーミイはハーフコックでシリンダーを手で回転させながら、一発ずつ排莢して一発ずつ次弾を込めないといけない。

近代リボルバーのサイドスイング方式、つまり横にシリンダーを振りだす方式もシリンダーを左に振り出してエジェクターロッドを左手で押すシングルアクションだ。
それに比べてこのエンフィールドは銃を折るだけで排莢まで完了する。

便利だ。

便利なのになぜこのメカは廃れたのかというと、この満身創痍のモデルガンの写真がその理由を説明している。

このメカではどうしてもフレームに強度を持たせることができないのだ。

エンフィールドNo.2の元になったウエブリースコットMk1リボルバーは、455口径の強装弾を使っていた。
19世紀に開発されたこの銃は、この強装弾の破壊力に耐えるためにデカくて重い銃だった。
装薬を含まないドライウエイトでも1,100gを超える重さで、拳銃を主力兵器として重視しない近代陸軍では無用の長物になってしまった。

そこでNo.2では38S&Wという弱装弾を使用する。
そして軽量化した。
でもこのメカはやはり破損が多いと思う。

しかも分解組立は、とても難しくて複雑だ。
マルシンのエンフィールドは組み立てキットも販売されていて、これがAmazonでも売られているが購入者のレビューは
「組み立てが困難」
「完成品を買ったほうが賢明」

というものばっかりで、確かにこのメカに惚れ込んだ人以外には組み立てキットはお勧めできない。

そんな銃だから野戦向きでもない。
野戦で簡単に手入れして確実に動作するトカレフの思想とは全く異なる。

それにこの自動排莢メカは便利そうだが、薬莢が張り付いて動かなくなったら銃の再装填そのものができなくなるというリスクもある。
レトロな銃でとても近代的とは言えない。
でもこのメカが半分外にはみ出したレトロな銃だから、メカマニアには魅力的だともいえる。

ナウシカにボルトアクションのマスケット銃を持たせた宮崎パヤオだから、ムスカ大佐にはこのレトロガンを持たせたというのはなんとなく「なるほど」と感じさせる。
もののけ姫では「石火矢」としてマッチロックマスケット銃を登場させていたし、パヤオも相当な骨董銃マニアと見た。
それが今回は話題になっていた。





エンフィールドの一番魅力的な角度はこの後ろ姿
左にはシリンダーロックメカがはみだしているし
右側にはゲートレバースプリングもはみだしている
すべてネジ止めだし中も外もメカメカしている




中折れした時にシリンダーがすっぽ抜けないようにロックするメカがこの上の部分
そしてヒンジの中に例の偏心カムのラッチがフレームに引っかかっているのが見える
こういう主要メカも外に露出している




銃身を折っていくとラッチはフレームの中に押し込まれてカムのロックが外れる
ロックが外れるとカムは回転しエジェクターを押し出していたツノは倒れて
エジェクターはシリンダーの中に引っ込む




銃を折るとエジェクターが飛び出してきて折り切ったら引っ込む
このエジェクターメカは水平二連の散弾銃の猟銃の排出メカと同じ格調高いメカ




図太くて頑丈なコルトのダブルアクションと細身で華奢なエンフィールド
共に口径は9mmだが357マグナム弾を撃てるコルトと
38S&Wという38スペシャルより装薬量が少ない弱装弾を使用するエンフィールド
シリンダーの長さは1.3倍で装薬量はほぼ倍、破壊力の違いも明白だ
比べてみると古色蒼然のエンフィールドメカだがしかし好きなんだなぁ…この雰囲気



2017年10月1日
















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