Previous Topへ Next

あのドラマで「馬上筒」と呼ばれていたフリントロックマスケットガン

Flintlock Musket Gun

あのドラマで「馬上筒」と呼ばれていたフリントロックマスケットガン

時々思い出したように昔愛用していたモデルガンなどを引っ張り出してくる…の第6弾

火縄銃から先込めパーカッション銃の過渡期に繁栄した実戦兵器としての銃の先駆け

昨年のNHK大河ドラマ「真田丸」で使用された銃…といえばピンと来る人が多いかもしれない。

あのドラマは近年駄作が続いていたNHK大河ドラマの中では特に歴史クラスタの心をつかむとてもよくできたドラマだった。
歴史をベースにしたドラマとして何がよかったかというとNHK左翼反戦史観に縛られたドラマと一線を画していたからだと思う。

「戦国の英雄は『いくさ無き世』を作り出すためにやむなく死力を尽くして戦った」
という戦争反対メッセージを戦国武将の物語にまで無理やり当てはめるNHK史観は、おそらく上杉謙信を描いた「天と地と」の成功体験がずっとベースになっていて、これを引きずって武田信玄や徳川家康や、あまつさえ伊達政宗や黒田如水にまで
「いくさ無き世を作らんがため」
とかいうセリフを言わせてしまう。
こういうところが鼻白んでしまう。
政宗や如水は絶対そんなこと考えてなかったろうし、「俺が日本を征服してやる」「俺が九州を征服してやる」ということしか頭になかったはず。
そういうメッセージを伝えたいなら与謝野晶子でも題材に選べばいいのに、それでは視聴率が取れないから…
という自家撞着まみれのドラマが続いて辟易としていた。

ところが昨年の「真田丸」。

野盗に囲まれた一族郎党を守るため主人公真田源二郎(幸村)が野盗に切りつけるが、殺すのをためらって逆に反撃されるシーンがあった。その時兄の源三郎(信之)がすかさずこの野盗を斬り捨てて
「ためらうな!源二郎!お前のためではない、一族のためだと思え!」
と怒鳴るシーンがあった。
いきなり初回からNHK史観否定の強烈なセリフだ。

その後もNHK史観否定のシーンはいくつも続く。

信長が非業の死を遂げたのをまだ知らない滝川一益が
「あの御方は比類なき力を手に入れ、いくさ無き世を作ろうとしているのだ。
そんなことができるとは信じられなかったが、あと少しでそれが実現しようとしている」

と感慨にふけっているのを聞いた真田昌幸が
「なんといくさ無き世を作るためとは、信長という男ワシなんぞには思いもつかんような途方もないことを考えおる」
と感嘆する。
真田昌幸とは権謀術数を駆使し東西南北を囲む上杉、北条、織田、徳川全てを全方位的に裏切り騙して生き延びてきたしたたかな人物だ。
その主人公に「思いもつかなんだ」と言わせて、この一言でNHK式反戦メッセージをバッサリと切り捨ててしまった。

戦国時代の武将はどちらかというと真田昌幸のように自分の領地を守るために知恵の限りを尽くしていただけで「いくさ無き世を作るため」なんてことを考えるのは途方もないこと、そういうことを考えたのはせいぜい織田信長みたいな変人しかいなかっただろう…という現実史観。
説得力がある。


あのドラマは歴史を知っていれば面白く見られる要素がたくさんあったが、銃の知識があるとなるほどと思わされるシーンもあった。

後年の大坂夏の陣で、真田幸村が「馬上筒」を使うシーンだ。

戦国時代の後半、九州の種子島にポルトガル人が漂着して彼らが持っていた鉄砲を日本に伝え、これがあっという間に日本中に伝播して戦国時代の趨勢を大きく変えた…という史観が中学や高校の日本史の教科書にも書いてある。

この時ポルトガル人が伝えた銃は火縄銃だった。

火縄銃は伝来の地の名前をとって「種子島」と呼ばれ、これを大名たちは競って買い求めたということになっている。
鉄砲隊を充実させた織田信長は長篠の合戦で、当時日本最強といわれていた甲斐の武田騎馬軍団に半日で壊滅的打撃を与えこれが最も天下統一に近かったはずの甲斐の武田氏滅亡の遠因となった。

日本の勢力図に劇的変化を与え、こう着状態だった戦国時代に大きなインパクトをもたらした種子島はその後明治の開国まで日本の主力火器だった。


ところが、この火縄銃を発明したヨーロッパでは使用例も少なく非常に短命な兵器だったというのは意外に知られていない。

火縄銃はヨーロッパでは「マッチロックマスケット銃」と呼ばれていた。
火のついた縄をハンマーの先に固定し、火皿に発火薬を少量置いてここにハンマーを打ち下ろして発火させ、その火花を銃身内のプロペラント(推進剤)に点火させて鉛の球状の弾を撃ち出す仕組みだった。

この火縄マッチロック式は、発火のタイミングを引き金にかけた人差し指だけでコントロールできるので、それまでの文字通り火のついた棒を火皿に手で差し込む鉄砲よりも命中精度が飛躍的に向上した。
宮崎駿の「もののけ姫」でこの火のついた棒で発火するマッチロック式が「石火矢」と呼ばれて登場するので、あれを見れば火縄銃以前の銃の雰囲気がわかる。

ところで教科書的史観では日本人は種子島で初めて鉄砲を知って、そのインパクトで鉄砲を競って買い求めたことになっているが、実際はちょっと違う。

種子島以前にも日本に鉄砲はあった。
それがまさにあの「もののけ姫」に登場する石火矢のようなマッチ式マッチロック銃だが、これは火の持ちが悪く狙い撃ちも難しいので主に音でけものを脅かすような用途に使われていた。
種子島で日本人が初めて出会ったのは「火縄式マッチロック」という発火方式だったということになる。

そして火縄式マッチロックは伝来後すぐに戦国武将たちに大きなインパクトを与えたわけではない。
この高価で希少な武器を大名たちは寝室に飾って自衛と趣味的に撃つ程度の使い方をしており、モデルガン好きのオヤジと大して変わらない、収集癖の対象のような使われ方が多かった。
この鉄砲が大きなインパクトになるのは、集団で同じ向きに一斉に撃ちかけることで弓矢とは異次元の兵器になりうるということがだんだん判明してからだと思う。
その一番大きな事件が例の長篠の合戦で、信長は部将や侍大将に銃を持たせるのではなく鉄砲組という足軽たちに鉄砲を持たせ一斉射撃をさせて、尾張軍よりも圧倒的に優勢だったはずの武田騎馬軍団に対しても大きな威力を発揮することを証明したというのがインパクトになった。

大名たちが競って鉄砲を買い求めたのはそのあとのことだと思う。


火縄銃は画期的命中率を実現したが、実戦で使用するには大きな問題点があった。
火縄は長時間待機していると、だんだん燃えて短くなってしまうので、ハンマーの先に火種が来るように少しずつたぐっていないといけない。
つまり火縄の位置に常に神経を配っていないといけない。
また火縄に火をつけてスタンバイしていないといけないので、火がついていない時には発砲できるようになるまでかなり時間がかかる。

そこで火縄の代わりに火打石を使ったのがフリントロック式マスケット銃。
火打石を使えば、常に火縄の火が消えないように、火縄が短くなってしまわないように気を使う必要がなくなるので目の前の敵に集中できる。
雨に弱いのは火縄式も火打石式も同じことだが、火縄式は風にも弱いのに対して火打石式はよほどの強風でもなければ問題なく発砲できる。

ドラマでは「馬上筒」と呼ばれていたが、馬上筒は一般的には馬の上でも取り回せるように銃身を短く切り詰めた銃のことで、火縄式の馬上筒も存在する。
ただ当時の新兵器として馬の上で、火縄を気にしないで自在に取り回せるフリントロック銃を馬上筒と呼びたくなるのはわかる。


このフリントロック銃はキャプテンドレイクとかの大航海時代の船乗りや海賊たちの銃といえばもっとイメージがはっきりするかもしれない。

真田幸村が大坂夏の陣で、徳川家康の本陣に斬り込んで徳川軍を大混乱に陥れたという話が伝わっている。
ドラマもこの話を取り上げていた。
幸村の獲物は十文字槍だからこの槍で家康に突きかかった…というのが長年の夏の陣の構図だったが、最近の研究で幸村はどうやら家康を狙撃したらしいという話が浮上している。
「真田丸」もこの最新研究に即しているんだろう。

真田丸の鉄砲曲輪で真田軍は大砲のような太い鉄砲や、長銃身の狙撃銃のような様々な銃を使っていたことが知られている。
ならば当時の最新兵器のフリントロック式銃を小脇に抱えて、幸村自身が家康の面前で発砲した…ということだってあるかもしれない。
このドラマはフリントロックを使用したことで、そういう鉄砲好きのロマンをくすぐった。





手元にあったのはスペイン製の装飾用の文鎮モデルのフリントロック




実銃は18世紀頃に使用された先込めの単発銃
つまり火薬と弾を銃口から入れて押し込む式の銃だ
海賊たちも愛用し、当時の紳士達が決闘に使用したのもこのタイプの銃だ




このモデルは実銃と同じ鋼鉄製のバレルを持っている
といっても銃身は完全に塞がれていて下側の隠れた部分は
くりぬかれているので実弾を発射できるような改造は絶対できない
いわゆる文鎮モデルというやつでただし表面仕上げの
ブルーフィニッシュは実銃と同じ美しさだ




フリントロック式銃の主要なメカニズム
といっても部品点数は非常に少ない
発火薬を載せる火皿があってそれを蓋するように閉じるフリズンという部品がある
ハンマーは引き金を引くと落ちて万力のような先端に挟んだ火打石がフリズンに擦れて火を起こす




装薬はハンマーをハーフコックにして行う
フリズンを開いて火皿に発火性が強い発火薬を載せて閉じる




マスケット銃の銃口
マスケット銃とは先込め式の滑腔銃身の銃のことで対語はライフル銃
大デュマの名作「三銃士」の英語題は「The Three Masketeers」となっているように
滑腔銃を扱う銃士隊という意味だ(映画ではサーベルしか使っていないような気がするが)
ライフリングの表現がないのは手抜きではなく元々そういう銃だからで
銃口から弾を込めるので 銃身と弾をあまりキツキツにできないという事情がある
銃身の下にはローダーが格納されている




このローダーを引き抜いて銃口からプロペラント(推進剤、弾を発射する火薬)と
鉛玉を流し込み弾が転がり出ないように押さえの紙などを詰めてローダーで押し込む




文鎮モデルなので銃口は完全に塞がれている
なのでローダーはここまでしか入らないが実銃は銃身の一番奥まで押し込む




火打石を挟んだハンマーをフルコックにまで引き起こす
これで発射準備は完了




引き金を引くとハンマーは落ちて先端に挟まれた火打石がフリズンに擦れる
ハンマーが当たった衝撃でフリズンが弾かれて開き露出した火皿に火打石の火花が降り注ぐ
火皿の発火薬の火が銃身の横に開けられた穴を通じてプロペラントに引火し弾丸が発射される仕組み
一発撃ったら以上の作業をもう一度繰り返して次弾発射の準備をする
とても非効率に見えるが17世紀的には最新鋭の兵器で
速射性、全天候性、命中精度共に当時ピカイチの銃ということになる
このモデル自体は蔦のレリーフ装飾を表現しているが型がへたってきているようで
ダルダルの甘いモールドになっているのが愛嬌
まあ雰囲気である


さてこのマスケット銃の命中精度だが、一般には命中精度は悪く威力も低いということになっている。
しかし実際にそうなのか火縄銃やフリントロック銃をテストした記事を専門誌で読んだ記憶がある。
銃身にはライフリング(銃身内側にネジのように斜めに溝を切って弾丸に回転を与える)がないし、弾は万金丹のようなまん丸い鉛の弾だ。
火薬は黒色火薬だし、命中精度も威力もさぞかし低いに違いないというのが一般の印象。
ところが実際にテストした結果は、意外にそうでもなくグルーピングは100mで15センチ以内にまとまっていたし、杉の厚板なら数枚を撃ち抜ける威力もあったと記憶している。
なので戦場ではやはり大きな殺傷能力を発揮したはずだし、真田丸を攻め上がった徳川軍は相当な損害を蒙ったに違いない。


ところでモデルガンの人たちが使う用語についてちょっと解説。
【文鎮】
発射機能を破壊した本物の銃、または本物から型取りした鉄の塊
要するに発射メカも含めて可動部品は全て溶接されていたりでメカは完全に破壊されているモデル
用途は本物の銃の雰囲気だけを味わうか文鎮として使うしかないので文鎮モデルといわれる
実銃も壊れたら石の代わりに相手に投げつけるか文鎮にするしか用途がないので実銃の世界でも「壊れたら文鎮」という使われ方をする

【モナカ】
モデルガンのメカのスタイルで要するに左右半分ぱっくり割れるメカを採用したモデルガン
実銃にはまずない(が、稀にある)スタイルで、要するにプラガンを作るときに左右半分で分割すれば部品の型抜きが簡単になってローコストで作れるという簡易モデル
12歳以下向けの銀玉鉄砲や水鉄砲で採用されるメカでマルイのプラモデルガン(モデルガンではない、接着剤でくっつけて作る文字通りのプラモデル)でも多く採用された
昔の安価なモデルガンでもこのメカがあったが、鉄砲マニアの集まりに持っていくと大抵馬鹿にされて悲しい思いをする

【テンプラ】
モデルガン規制が始まった当時、金属製のモデルガンはすべて白か黄色のペンキで塗って、銃口を完全に塞がないといけないというルールに変わった
これはあまりにも悲しすぎるので、ABS樹脂製のモデルガンなら黒い色のままインサートは必要だが銃身も貫通したものを所持できたのでABSモデルが普及し始めた
しかしABS樹脂のモデルガンは「テカテカ光って軽い」と評判は散々だったので、内部に金属のフレームを持ち外観をABSで覆ったモデルが登場した
テンプラが衣を被っているようなのでテンプラモデルと呼ばれた
頑丈だがテカテカ光る問題は解決しないし実弾を発射できるように改造する馬鹿が出始めたので、ヘビーウェイト樹脂の登場とともに廃れた
テンプラはモデルガンの世界では罵倒語である



2017年10月21日
















Previous Topへ Next





site statistics
青木さやか