19世紀に端を発した先進的なメカに驚き〜モーゼル・シュネルホイヤー
時々思い出したように昔愛用していたモデルガンなどを引っ張り出してくる…の第8弾
マルシンのモーゼルM712のブラッシュアップ、分解と修理
83年ごろだったかに購入したマルシンのABSモデルガンのシュネルホイヤーをリペアした。
このシリーズで取り上げているように30年前にいろいろ購入したモデルガンやエアガンが、もう長年メンテナンスもろくにやっていなかったせいもあっていろいろ崩壊状態。
手持ちの中で一番新しかったはずのWAのセキュリティシックスは、金属部品が文字通り経年変化で酸化してボロボロに崩壊してしまいシリンダーすら回らなくなってしまった。
WA製品は全体に金属部品の品質が悪いようだ。
赤瀬川原平が「モデルガン集めが趣味で、老後は集めたモデルガンを磨きながら過ごしたいと思っていたが、実は亜鉛合金のモデルガンは30年ほどで錆びて崩壊してしまうという事実を知って人生の目的を失った」みたいな内容のエッセイを書いていたのを思い出した。
もう私の手元には購入後30年以上のものしかないが、さすがに崩壊はWA製品以外はしないにしても、かなり痛んできているので、修理できるものは一つずつコツコツ直すことにした。
いろいろ忘れていたメカのお勉強にもなるしね。
それでモーゼルのM712の問題点は以下。
1)ストックを取り付けるグリップの溝が割れてストックが取り付けできなくなった
2)排莢が100%失敗してストーブパイプジャムを起こすようになってしまった
3)表面に塗装したブライトブルー塗装が剥がれてきて地肌の黒ABSが見えてしまい黒青マダラになってしまった
4)マガジンキャッチが抜けてしまう
モーゼルのオートピストルのブルームハンドル(箒の柄)のプロフィールショット
モーゼルの初代オートピストルはグリップの形からこのニックネームがあった
一般的な自動拳銃はグリップ中にマガジンが入っているが
ブルームハンドルは引き金の前にマガジンがある
このレイアウトのせいで拳銃としてはデカく重い構成になっているが
フロントヘビーなおかげで反動は制御しやすい銃だったらしい
モーゼルは固定マガジンのC96やレッドナインのニックネームがある9ミリモデルが有名だが
このシュネルホイヤーは7.63mm弾を使用し左側のセレクターの切り替えで
セミオートとフルオートの切り替えができるメカマニア垂涎のモデル
ストックの取り付けができるように割れたグリップの修理を開始
グリップパネルをネジを抜いて外す
グリップの中身が空っぽな様はリボルバーのよう
ここの割れた溝を瞬間接着剤で補修する
もうここはハナからスチレン系の接着剤はアテにしていない
モーゼルの分解はテークダウンラッチの解除から
このレバーを上に上げる
するとハンマーシアユニット、バレル・ボルトユニットがごっそり後ろに抜ける
フィールドストリッピング、つまり工具無しでできる分解はここまで
バレル・ボルトユニットはマイナスドライバーでファイアリングピンを回して抜くことで
ボルトがバレルエクステンションから抜ける
古い設計であるにもかかわらずこのように見事にユニット化されているが
一つずつのユニットはまるで組み木細工のように複雑に組み合っている
マガジンキャッチストップを兼ねたトリガースプリングが割れてしまったため
マガジンを抜くとマガジンキャッチも抜けてしまうという問題が起きていた
マガジンを抜かなければいいのだがそれではシュネルホイヤーの魅力半減なので修理した
スプリングを取り寄せて交換すればいいのだが代替部品でアルミの圧着端子を
曲げて形を整えてマガジンキャッチストップの代用とした
シュネルホイヤーは着脱式のマガジンを持ったセミ・フルオート切り替え可能なマシンピストルの先駆
機関銃として使用するために20連マガジンも用意されている
なんだけど30年前に塗装したブルーメタル塗装がかなり剥がれて黒・青マダラになってしまった
下地に銀色を塗っておけばこれもまた味になったのかもしれないがABSの黒地が見えるのはカッコ悪い
そこで塗装でごまかすことにした
今回は以前AUGマガジンリアル化計画の記事で紹介した
ホームセンターで入手したメタルスプレーシリーズのシルバーを使う
ただし今回は直接塗るのではなく一度紙の上に吹いて刷毛で
これをかすって撫でつけるモデラーがいうところのウエザーリングという手法で
ブルーが剥げたコンディションを表現してみた
外から見えないところで少しずつテストしながら半乾きの刷毛でサッと撫でるのがコツ
こうして外観がリアルになったモーゼル
木製ストックを装着してみた
ウエザリングはちょっとやりすぎた感じもするが木製ストックを使用していたら
これくらい剥げるはずだし実際剥げたコンディションのモーゼルの写真も見たことがある
例えばスターウォーズでハン・ソロが使用するブラスタは銃身を切り詰めたモーゼルに
M1カービンのラッパ型フラッシュサプレッサーをくっつけただけ
という超お手軽SFステージガンでかなり剥げチョロケになっていた
モーゼルの魅力の一つ、エジェクションポートから
クリップを使って10発カートを流しこめる装弾法
ボルトアクションのライフルのようにホールドオープンになった排莢口に10連クリップを差し込む
このカートリッジをマガジンの中に押し込むことで装填が完了する
撃ち尽くしたらまたホールドオープンになるのでクリップで次の10発を装填する
全部押し込んだらクリップを抜くとボルトが復座して初弾を薬室に装填する
このマガジンは着脱式にもなっていて10連をダブルカラム、
ダブルフィードで格納する先進的なメカになっている
これが19世紀の設計とは思えないメカだと思う
木製ストックにモーゼルを収納する
このストックは肩付けをして射撃する着脱式ストック
というだけではなく銃を収納してホルスターにもなる
このストックはハーネスで肩から吊ることができるので
簡易カービン兼拳銃兼短機関銃という多用途が可能となった
この木製ホルスターに銃を入れているとブルーが剥げて剥げチョロケになるようだ
その雰囲気を再現してみた
100%ジャムする原因はファイアリングピンに問題があった
モデルガンなのでカートリッジの中央を叩くセンターファイアリングピンは銃刀法で禁じられている
カートリッジのお尻全体を叩く平たいファイアリングピンのヘッドがボルトに仕込まれている
モデルガン独自のメカだがこれが動きがしわくなっていた
これがカートリッジが当たった瞬間にすっと引っ込まないといけないのだが
ドライバーで抉らないと引っ込まないくらい硬くなっていた
まずこのファイアリングピンヘッドのガイドが通るレールを
広げてここが抵抗にならないように削った
このヘッドはABSではなくジュラコン樹脂製で中にスチールの芯がモールドされている
それなりに強度に配慮されている構造になっているが
これが少し潰れて動きが硬くなっているらしい
エキストラクターを抜くと簡単に抜き取れるのでこれも削る
十分削ってボルトの中でスムーズに動くようにする
モーゼル組立での最初のはまりポイント
リコイルスプリングがボルトの中に仕込まれているがこれのストッパーを
バレルエクステンションの左側から差し込まないといけない
これがホネですぐにスプリングが中に戻ってしまってなかなかはめられない
レシーバーにバレルエクステンションを組み込む前に先にはめておけば
そんなに苦労しないがこの組立順だとフルオートが動かなくなってしまう
詳細は後ほどフルオートメカの解説のところで詳述するが説明書通りボルトの組み込みを
最後にするかキャッチホックの組み込み時にボルトを半分引くかしないといけない
削り込みの結果をカートリッジを装填して確認する
火薬を入れずに空撃ちだがテスト開始
全弾排莢するとホールドオープン
結果は100%とはいかないが90%は問題なくエジェクトされるようになった
この細長いカートリッジならまあ上出来と思わないといけないか…
ところでこのホールドオープンだがマガジンのフォロワが直接ボルトをブロックして止める
独立したメカはないのでカートリッジクリップを抜いたりマガジンを抜いただけで前進してしまう
問題が(ほぼ)解決したところでメカについての考察
モーゼルのメカはユニット化されていてシア・ハンマーグループはこんな構成になっている
トリガーに付いたトリガーレバーが下のシアレバーを
上に押し上げるとシアからハンマーが外れて打撃が起きる
ボルトが後退するとキャッチホックがハンマーを止める
ボルトが戻るとボルトがキャッチホックを叩いてハンマーを落とす
セミオートの場合はキャッチホックがハンマーを止めずにトリガーレバーが
シアレバーから外れてハンマーを止めトリガーを戻すとトリガーレバーが元のポジションに戻る
この写真と言葉の説明だけでは理解しにくいがなかなか洗練されたメカだ
なおショートリコイルロッキングブロックがバレルエクステンションが後退するまで
ガッチリボルトをロックするのが実銃のメカだがモデルガンではこれは形だけのダミー
シアがハンマーを止めている様子
これでハンマーがコックされ下からシアレバーを通じて
上に押されることでコックが外れてハンマーが落ちる
フルオートの時にはボルトが後退した時にこのキャッチホックがハンマーを止める
シアは押されたままで戻らないのでハンマーが落ちても引っかからない
フルオート時にはキャッチホックの上のヒゲをボルトが
押してキャッチホックがハンマーをリリースする
ボルトが戻って閉鎖した瞬間にハンマーが落ちて
引き金を引き続けている間、弾は発射され続ける
セミオートの時はセレクターのディスエンゲージャーが
キャッチホックの円内の部分を抑えているので
ハンマーはキャッチされない
そのキャッチホックのヒゲがボルト(のレバー)と噛み合う様子
実はここがモーゼル組立の二つ目のはまりポイントで素直に組むと
このヒゲをレバーの後ろに噛み合わせたくなるような位置にある
しかしボルトを少し引いてレバーの前にヒゲを差し込まないと
フルオート時にハンマーが落ちなくなる
このボルトレバー位置問題を解決するために取説にはバレルエクステンションと
シアユニットをまずレシーバーに組み込んでから最後にボルトを組み込むという手順が書いてあるが
組み込み前だとリコイルスプリングストッパーとファイアリングピンをさす時に
下からドライバーでリコイルスプリングを抑えてストッパーをはめるという手が使えるが
組み込み後だとスプリングを抑える手段がなくて
ストッパーとファイアリングピン差し込みに汗一斗かくことになる
これはこれで難しいので最初からボルトをさす時にスプリングを少し曲げで
左のストッパーから差し込む時にドライバーで抉って引き出せるようにしておくとやりやすい
このことに気がつくまでにファイアリングピン組立には数十回失敗している
説明書通り先にボルトを組み立ててキャッチホックのヒゲを
無理くりレバーの前に差し込むほうが簡単だと思う
レシーバー側のセミ・フルセレクターの構造
セミオートの時はフルオートディスエンゲージャーが後退してキャッチホックを動かなくしている
トリガーの内側に付いたトリガーレバーは後退していてシアレバーにギリギリでコンタクトして
ハンマーがコックされるとシアとの連携が切れハンマーはシアに止められる
フルオートの時にはフルオートディスエンゲージャーは前進してキャッチホックを固定しない
トリガーレバーは前進してシアレバーとガッツリ噛み合うのでハンマーがフルコックされても
シアとトリガーの連携は切れずトリガーを引き続けている間ハンマーは止まらない
ハンマーはキャッチホックによりコックされるがキャッチホックは
ボルトが復座するとボルトレバーにキックされハンマーはリリースされて落ちる
トリガーを引き続けている間これが繰り返され機関銃のような連射状態になる
セレクターをNに合わせるとセミオート
この状態で引き金を引いたままボルトを引くとハンマーはコックした状態で止まる
セレクターをRに合わせるとフルオート
引き金を引きっぱなしでボルトを途中まで復座してもハンマーが落ちない
ボルトが戻りきった時にハンマーが落ちる
ハンマーがボルトと一緒に落ちるのではなくボルトが閉鎖して初めて落ちる
これはオープンボルトのサブマシンガン(短機関銃)とは全く違うメカで
どちらかというと近代的な自動小銃のフルオートメカに近い
これが1932年の設計というのは驚く
元のモーゼルの自動拳銃メカがしっかりしているからこういう構成が可能になったと思う
モーゼルのある風景
モーゼル+ストックの逆サイド
この状態なら簡易カービンとして使用できる
フルオートは一種の浪漫だが実銃の制御はストックをつけてもかなり困難だったそうだ
簡易カービン銃として本気で使用するつもりだったのは照門でもわかる
距離を調整する照門のゲージはなんと1000mまで目盛がある
1000m先の目標を狙えたかどうかは知らないがカービンなら
200〜300mは射程内でないといけないからそのアピールなのかも
ところで照門のすぐ後ろに1888という刻印を発見
これはシアメカのところにもあったのでシリアルナンバーらしい
モデルガンメーカーのルールからして1981年の8月8日に設計校了ということかも
製品としては83年の発売だったと記憶しているのでつじつまは合う
少し実銃について調べてみた
モーゼルの原型のC96は1896年型設計という意味でこれは明治28年!
19世紀のテクノロジーで設計的にはガバメント(1911年型)やルガーP08(1908年型)よりも古い
世界初の自動拳銃のボーチャードよりも3年遅れただけだ
同世代の銃といえばむしろコルトのSAAの無煙火薬バージョン(1896年型)ということになる
なんとクラシック!明治時代に満州馬賊が使用したという浪漫溢れる銃だ
ちなみにSAAには1875年の特許出願中の刻印があるが
ほとんどのメーカーがモデルガン化している無煙火薬に対応した新型SAAが1896年型になる
無煙火薬バージョンを見分けるポイントはシリンダーシャフトを固定するボルトで完全に同世代だ
実銃についても少し調べて見た。
基本設計は原型のC96がリリースされた1896年にほぼこの形で完成されていた。
C96は7.63mmボトルネックカートリッジを使用する装弾数10発の拳銃。
完全に19世紀のテクノロジーだ。
M712シュネルホイヤーというのは俗称で、モーゼル社の型番はM1932ということらしい。
原型との違いは固定式のマガジンが着脱式になって、20連マガジンも使用できるようになったこと。
またレシーバー左のセレクターでセミ・フルオート選択が可能になったこと。
そしてストックを装着してカービンとして使用できるようになったこと。(これはシュネルホイヤーより前のことらしいが)
キャプチャでも書いたが、シュネルホイヤーのフルオートメカはボルトが完全に閉鎖してからハンマーが落ちる、どちらかというと近代自動小銃のフルオートメカに近い構造。
しかも高速小口径弾に対応して、ちゃんとボルトの閉鎖ロッキングメカも搭載しているので、もう立派な小銃といっていい。
フルオート化するにあたってメカの変更は最小限なので、19世紀末にこのメカの概要を既に完成させていたモーゼルの先進性に驚かされる。
同世代のボーチャードやコルトのSAAと比べても実に洗練されているし、近代のM16とかのフルオートの自動小銃と見比べても古臭さを感じさせない。
モーゼルというと大陸進出した日本軍と植民を悩ませた満州馬賊が使用した銃として有名。
このM712は実銃のフルオートはマズルジャンプが激しすぎてストックを使用しても全く制御できないという話も聞いたことがある。
そこで銃を水平に構えて一番右の敵に照準すれば、それより左の標的に弾をばらまけるという銃の水平撃ちが国民党軍によって考案された。
これが今の香港映画アクションの銃の水平撃ちの元になっているらしい。
つまりジョン・ウー式香港ガンアクションのルーツは、このシュネルホイヤーということらしい。
調べれば調べるほどいろいろ浪漫あふれる鉄砲だ。
2017年11月8日
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