日本のテッポ2〜二十六年式拳銃を組み立てる(後編)〜ハートフォードのモデルの出来について
時々思い出したように新しいモデルガンなども引っ張り出してくる…の第37弾
日本最初の国産制式拳銃・二十六年式拳銃について続ける
前回、主に実銃のメカ的な面白さとハートフォードの組立キットの製作過程でやったことを書いた。
そのハートフォードのモデルガンについてちょっと感想を。
ハートフォードのモデルガンはヘビーウエイトの組立キットとして発火モデルとして製作されている。
付属の6発のカートリッジはキャップ火薬が使用できる。
このカートリッジは弾頭部分が飾り用に付属していて、この銀色の弾頭をつければほぼリアルサイズの9mm22R弾と同じ形態になる。
ただしこのままシリンダーに装填することはできない。
銀色の弾頭はねじ込み式になっていて弾頭を外して装填する。
ならば黒い骸骨服の明治陸軍の軍装も揃えて日清戦争ごっこなんて遊びも考えられなくもない。
惜しむらくは当時を知っている人はその時15歳だったとしてももう140歳になっているわけで、残念ながら当時のお話を伺うことも不可能になってしまった。
ただこのメカを通して当時の明治陸軍の用兵思想や明治の空気感みたいなものはなんとなく感じられる気はする。
例えばこのメカの来歴。
中折れ銃のバレル閉鎖ロッキングメカは当時陸海軍が制式拳銃として採用していたS&Wのモデル3拳銃を参考にしたのだろう。
エキストラクターカムの構造もエンフィールドやウエブリーアンドスコットのタイプよりもSMITH & WESSONに近い。
ダブルアクションのメカはベルギーのナガン拳銃からとったとWikipediaに書いてあるが、このメカの来歴について考察した素晴らしいサイトを見つけて、確かにメカの構造からフランスのFagnusというレボルバーのメカをほぼそのままもらってきたというこのサイトの考証が正しいと思われる。
しかしそうした各国の最新拳銃のいいとこ取りで組み合わせて作っているものの、そのまま丸コピーしているわけではない。
トリガーガードを下に開けばロックが外れてサイドパネルを開くことができる。
シリンダーの脱落防止メカも別部品のロッキングメカがあるわけでなく、逆ネジに回すだけシリンダーが抜けるからドライバーの一本も必要なく主要部品をバラして洗浄・手入が可能だ。
当時の軍用拳銃としてはユニークといえるぐらい徹底的に部品点数を減らすことをメカのアレンジの主テーマとしているようだ。
目的は部品点数が少なければ故障や破損が減るということだし、扱いも整備も容易になるという徹底した考え方だ。
逆に言うと、これは戦場ではマイナスドライバーの支給すらままならないという日本軍の弱点を反映していたのかもしれない。
日本軍の、特に日本陸軍の最大の弱点はロジスティックスの弱さで、これが日清・日露戦争の時に日本の防衛の重大な足かせになったにもかかわらず、そのことはほとんど改善されないまま反省もないまま太平洋戦争に突入してしまった。
このハートフォードのモデルガンを作ってみて、1893年制式化という時代にそぐわないくらいシンプルなテーマで構成されたフィールドストリッピング法とDAOという割り切った仕様を見ていると
「ああ、なるほど、たかが軍用拳銃にここまで求めるのは当時の日本軍のお家の事情があるのかもなあ」
と想像しながらガチャガチャ動かすことができて面白い。
二十六年式拳銃の右サイドプロフィール
左サイドの金属パネルに綺麗なヘアラインが入っていたので
右サイドのシャーシ側にも磨き出しの時にヘアラインを入れた
付属のカートリッジはキャップ火薬が使える発火カートリッジになっているが
シルバーの弾頭は飾りで装填する時は外さないといけない
外さずに装填するとこのように弾頭がインサートに引っかかってはみ出してしまう
フィールドストリッピングのためにトリガーガードを下げる指かけのチェッカーがトリガーガードの後ろに
さらにサイドパネル先端には爪掛けの切り込みとここにもチェッカーが彫刻されており
簡略化されながらも細かい工作にはこだわるというここにも日本風の工業技術の特徴が…
二十六年式のバレルと銃口まわり
二十六年式は元々低威力の9mm22R弾をさらに弱装弾にして使用しているうえに
銃口内の旋条(ライフリング)が深いので発射時に発射ガスがその隙間から前に漏れる
弱装弾をさらに威力を落として撃っているわけで
これが鈴木貫太郎を仕留め損なったほどの威力の無さという評判につながる
これにはこうしなければならない理由があった
バレルキャッチはSMITH & WESSONのモデル3と同じ上に跳ね上げるタイプ
エンフィールドのゲートでガッチリ掴むタイプと比べるとロックする力は弱い
S&Wのオープントップリボルバーもここが弱いために強装弾を
使用できないという弱点があったがそれをそのまま踏襲している
このロック機構の強度不足を気にしていたのか二十六年式のハンマーには切り欠きがあり
バレルキャッチの出っ張りが撃発時にここにはまって
ロックが外れたバレルが開いてしまうのを防ぐメカになっている
それでも強度に自信がなかったので弱装弾をさらに威力を殺していたということらしい
二十六年式拳銃とイギリス軍のエンフィールドNo.2 Mk.I
同じようなブレークオープントップの6連発ということで
この二つはよく比較されるが実はメカ的にはほとんど共通点がない
エンフィールドは1935年の制式だが原型のウエブリーアンドスコットは
1879年まで遡ることができるので同時代のリボルバーということはできる
部品点数も多くメカメカしいエンフィールドと部品数を
限界まで抑えたスッキリした二十六年式とその性格は真逆だ
ドライバーがないと全く分解不可能なエンフィールドと
工具無しでほぼ全部品にコンタクトできる二十六年式
扱いやすさもかなり違いがある
上記の通りバレルキャッチのロックの方式がこの二丁では違う
ゲートを後ろに起こして開放するエンフィールドはロック時はガッチリ固定できるが
二十六年式は上にはねあげるキャッチがフレームの微妙なスロープに噛み合っているので
ここを舐めてしまうと破損する可能性もある
これも同世代のコルト・シングルアクションアーミー
創業者のサムエル・コルトの死後1872年に開発されたSAAは
無煙火薬対応の強化版が1890年代にリリースされているので
このサードジェネレーションは同世代といえる
なおアメリカでは44口径をアーミー、36口径をネービイと呼んでいただけで
アーミーとついているから陸軍制式銃というわけではないとのこと
後述の古式銃の考証サイトの情報だが勉強になるなぁ…
コルトのSAAはローディングゲートという独特のメカを採用し45口径の強装弾の実用化に成功した
弱装弾をさらに弱くして安全を優先した二十六年式と威力優先のメリケンの性格が表れた
同世代といえばこいつもいる
シュネールホイヤーは1932年制式だが
その元になったモーゼルC96は1896年開発で二十六年式の3年後輩
ドイツ人の性格というか複雑になることは厭わずとにかく精密に部品を組み合わせて
機能を追求するモーゼルと減らせるものはなんでも減らすという考え方のシンプルな二十六年式
同世代の範疇に意外な奴もいた
SMITH & WESSONのミリタリーアンドポリスは
1950年代にM10というモデル名を与えられているが
原型は1899年発売となんと二十六年式の6年後輩になる
6年後輩だがミリポリはシングルアクションも残しながら
ダブルアクションの動きもスムーズ化する工夫で万能性を勝ち取った
目的に特化した二十六年式とユーティリティーを重視したミリポリの性格もまた両極だ
ミリポリも19世紀の遺物ということになるがその後メカを
シェープアップして21世紀に入った現在も生き残っている
そして二十六年式のはるか後世の日本警察制式拳銃の
ニューナンブのメカの源流になるのは面白い因縁だ
ところでこの工具を使わずにほぼ完全分解に近いストリッピングができて
しかもサイドパネルを蝶番式にして部品紛失も防いだ優れたメカだが
初めて国産拳銃にチャレンジした明治時代の日本にしてはバカにメカが
洗練されていると感じたがこれにはちゃんとオリジナルがあった
こちらの古式銃のモデルガンのサイトの考証でフランスのFagnusというレボルバーの
メカの紹介をされているがほぼドンピシャで二十六年式のメカだった
フレームが一枚の鋼板になっていてそこに部品を載せる構成、
リコイルレバー(トランスファーバー)でスプリングのテンションを
シリンダーハンド、トリガーに伝え独立したシリンダーストップを持たないメカ、
そしてサイドパネルを左後ろに開いてほとんどすべての部品の手入れができる構成などそっくりだ
なんだやっぱりちゃんと手本があったんだね
ただし二十六年式は丸コピーではなくやはり独自の工夫はされている
上のFagnusとの違いはサイドパネルの抑えレバーが廃止されたこと
その代わりトリガーガードがサイドパネルをロックする構成にしたので
この工夫でまた何点か部品数が減らせたわけだ
上記リンク先のサイトの管理者さんはこのシリンダーの前、下側の
この切り欠きに注目してこれが何のためにあるんだろうかと調べて
二十六年式がFagnusを原型にしていることに気がついたそうだ
素晴らしい! 私もこの切り欠きがなぜあるのか疑問に思ったが
ケースの張り付きが起こった時にそう索をここから突っ込んでつつき出すためかと思っていた
考えたらシリンダーは固定されていないから回しながらつつけばいいだけでこの切り欠きは意味がない
サイドパネル抑えのレバーが廃止されたにもかかわらずそのレバーの
形だけがフレームに残ったという丸コピーの悲哀が隠されていたとの考察だ
そこに疑問を感じるかどうかの差だった
プラグリップを加工した擬似木グリップ
本当はチェッカーではなくグルーブ入り木製グリップを探していたが
見つかりそうもないので付属のABS製のグリップを加工した
そのグリップはほぼ円形の断面を持っていてモーゼルのグリップに似ていなくもない
Fagnusもほぼ同じ構成だがそのグリップは鋼板状のフレームに薄い右側だけが
ねじ止めされ左側は挟んであるだけという固定法になっている
グリップは左右非対称になっている
グリップウエイトを左パネルだけに入れても
バランスは崩れないというのはこういうこと
サイドパネルには最初からツールマークの綺麗なヘアラインが入っていた
これとバランスを取るためにヘビーウエイト樹脂部分にもヘアラインを入れて仕上げた
二十六年式のサイトはとても狭くフロントサイトも
非常に薄いので野戦の遠距離射撃以外は考慮していない感じだ
騎兵の主兵器として開発されたと付属の解説にあったので
最初から接近戦は考慮に入っていないように思われる
実はシリンダーが入るスペースのリコイルシールドの中などに
盛大にパーティングラインがあったがこれも全部消した
ブルーイングの成果
ハンマー、サイドパネルに青が載っている
サイドパネルの蝶番が露出する独特の形状が面白い
やっと陽が差してきたのでブルーフィニッシュのコンディションがわかる写真が何枚か撮れた
バレル、チェンバーのブルーに注目
この形がやはり一番美しいかな
ヘビーウエイト樹脂の磨きは本当に疲れる作業だったが仕上がりはこんな感じ
やはり塗装ではこの感じは出ないかな
実銃の仕上げはわりかしマットなものとピカピカにポリッシュしたものが写真では見受けられる
コレクターがリブルーしていることもあるのでオリジナルがどうだったか知りたいところだ
シリンダー周りの青み
しかしいま思い出したけど、実際に軍歴がある人は意外に自分が使用していた銃についての知識がない。
叔父さんが、といってもかなり歳が離れた叔父さんだったけども陸軍将校として大陸派遣軍にいたという話を本人から聞いたが、拳銃も持っていたということなので当時テッポに興味を持ち始めた厨房の私が
「何を持っていたの?」
と聞いたが拳銃の型式はさっぱりおぼえていない様子だった。
当時の最高性能のカールツァイスの双眼鏡も持っていた…とか小銃射撃は200メートルのレンジでやって人型の的に全弾命中させないといけないとか、そういうことは細かく覚えているのに、その小銃は何だった?と聞くと
「さあ、何だったかな…」
とやっぱり覚えていないふうだった。
実際に銃を使っていた人たちはそんなもんなのかもね。
ずっと後の時代になってモノを通じて当時の空気を想像する人にしかモノは意味がないのかもしれない。
そんな、こんなをいろいろ思い出させてくれたハートフォードの二十六年式は、それだけ雰囲気があるできだということだ。
線画アプリを使用してイラスト風に加工してみた
こういう加工が似合うテッポなんだなぁ
2018年8月12日
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