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映画に登場するプロップガン
〜トランジションガバがある風景「ゲッタウエイ」

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映画に登場するプロップガン〜トランジションガバがある風景「ゲッタウエイ」

昔観た映画でその銃についての印象を決定付けた映画というが何本かある。

ガバについていえば元が軍用銃であるにもかかわらず、その決定的な刷り込みになった映画はピカレスクムービーだった。

スティーブ・マックイーン主演の「ゲッタウエイ」なんて映画は、北野武監督のアウトレージシリーズなんかと同じで正義の味方なんて一人も出てこない。
みんな悪いやつだ。

そのピカレスクにふさわしい銃というイメージを定着させたコルトのガバメントだが、大雑把にガバを使っていたというイメージだったがこの映画の銃も特定されている。

今のDVDやブルーレイのジャケットに使われているこの写真は、もともと封切り時に劇場公開の告知ポスターの写真だった記憶がある。

この写真のM1911のトランジションモデルが、「ドク・マッコイ」ことスティーブ・マックイーンの使用していた銃だという根拠になっている。





「ゲッタウエイ」のスチールと同じ構図でM1911を撮ってみた
昔の映画の銀残しの現像の雰囲気で色調を落としている




これはおなじみのM1911A1モデルだが
映画で使用された(と言われている)のはM1911のトランジションモデルだ
これも前に書いたがM1911タイプのフレームにM1911A1タイプのスライドを
組み合わせたニコイチガンだという解説は間違いで旧タイプのフレームと
ニュータイプのスライドの過渡期モデルというのが実在する




実銃の写真で一番イメージが近いのがこの1918年製のトランジションモデル
トリガーの後ろに三日月型の切り欠きがなくメインスプリングハウジングがアーチ状に飛び出していない
グリップセーフティ のお尻の突き出し量も少ないがスライドの銃口部の切り欠きは後期モデルと同じ形
ただしこの時代は写真のようにダイヤモンドチェッカーの木製グリップをつけるのがデフォだが
映画のトランジションモデルは後期型と同じベークライトグリップパネルをつけている




一つ前の実銃写真は「ブラックアーミーフィニッシュ」とコレクターに呼ばれているつや消し黒だが
映画で使用されているトランジションモデルは綺麗なブルーフィニッシュの仕上げだった
映画のガバは印象では真っ青に光るアップのシーンがあった気がしたが
ビデオを観直してみたらこれがもっともアップのシーンで
実はそんなに銃自体にクローズアップしていない
銃は綺麗なブルーフィニッシュなのだが印象よりも実際はやはり黒い鉄色の光り方だった
昔観た記憶は結構いい加減なものだ




これは六研のロックライトのガバ「ドクモデル」
綺麗なブルーに仕上げられていてトランジションモデルの特徴もしっかり捉えている
しかもベークライトグリップパネルというのも得点が高い
WAなんかの中途半端なモデルではなく再現度ではこれが一番高いと思う
ただしお値段もマルシンガバの10倍とかなりお高い


この銃のチョイスはスティーブ・マックイーン演じる「ドク・マッコイ」という人物のキャラクターを際立たせている。

M1911のトランジションモデルはコルトのガバの中でもビンテージモデルというか、コレクターにも人気が高いがかなり古いモデルだ。

映画の時代の1970年ごろから見ても骨董銃に近いような古臭さだ。

それでも「ドク」はこの銃をチョイスした。

古臭くても確実に動く銃、隅から隅まで構造を知りつくしていていざという時にはトラブルも切り抜けられる銃ということでこのモデルを選んでいるに違いない。

スティーブ・マックイーンは地味ながらこの銃を扱い慣れているなと見て取れるガンさばきを披露している。

刑期を終えて出所してきた「ドク」に早速銀行強盗を企てている一味から「仕事」の誘いがきた。

その一味だが腹に一物ありそうなボスにあてがわれた手下たちも一筋縄ではいかない連中で「ドク」の指示を素直に聞いてない。

「ドク」を脅すようなことを言ったそのリーダー格の人物に対して、さっとガバのマガジンを抜いて戻して短く一言
「お前は死んだ」
と呟く。





問題のガンさばきのシーン
マックイーンはガバを担ぐように上の向けてマガジンをさっと抜いて残弾を一瞬で確認、
すぐに戻して銃を置き「お前は死んだ」とつぶやいた
さりげない地味なアクションだが銃を扱い慣れていないとなかなかできない動きだ


封切り時に観た時に購入したパンフレットには、マックイーンがスペインのスターモデロを使っている写真が載っていた。

どうやらスチルなんかでよく見かけるM1911トランジションモデルは、アップ用(といってもそんなにアップで撮ってないけど)のディスプレイガンで、発砲シーンはスターモデロを使用していたらしい。

ガバの発砲シーンは防弾チョッキを着た例のマックイーンと反目するリーダーを撃つシーンと、ラストの屋根の上での銃撃戦のシーンだけだし、発砲している瞬間は引きの絵に逃げていたからやはり、ガバがアップ用でスターモデロが発砲用という撮影の仕方だったらしい。

そういえばこのスターモデロの発砲シーンの時に、スティーブ・マックイーンはやけに銃を引いて反動を受けるアクションをしていた。
9mmのキックが強いからああいう撃ち方になったのかもしれないが、オートの場合銃を引いて反動を受け止めると装填不良になる。
これは実際モデルガンでも体験した。
オートの場合はしっかり銃を固定して反動を肩と腰で受け止めないといけないのが基本だが、マックイーンの射撃の素人臭さが出ていた。

ガンさばきばかり練習して射撃の練習はしていなかった(?)





スペインの銃器メーカーStar社のサイトよりModelo Bのプロフィール写真
全体的にガバに似ているが口径は9mmで排莢口の後ろにエキストラクターが露出しているのが特徴
ゲッタウエイのパンフレットにはこれをベルトに挟んだマックイーンの写真が載っていた
本編には無いシーンだが発砲シーン用にスターモデロを使用していたという事情らしい














ところでその防弾チョッキを着た悪党を撃つシーンでちょっと思ったこと。

よく映画やドラマで銃で撃たれても
「実は防弾チョッキを着ていたから平気さ」
とかけろっとしているシーンを見かけるが、あれはかなりの嘘。

防弾ベスト(この言い方のほうが正しいように思う)は銃で撃たれても「死なない」というだけで、撃たれても平気というわけではない。

つい先日も某日テレの某「三年A組」というドラマで菅田将暉が屋上で狙撃銃で撃たれたのに
「はい、防弾チョッキを着ていたから問題ありません」
と言い出したのでちょっとずっこけた。

防弾ベストを着ていても日本の警察のSITやSATなどが採用する30口径のライフルで撃たれたら、貫通はしないので死なないだろうけど、あばらの2〜3本は折れていると思う。

38口径の拳銃で撃たれても鉄のカケヤでぶん殴られるのと同じぐらいの衝撃があるはずなので、命に別条はないとしてもしばらくは息もできないくらいの痛みでのたうちまわるはずだ。

もっと酷いのは某TBSの某都庁爆破なんてドラマでは、胸ポケットに入れていたスマホのおかげで銃の弾が止まって命拾いした…とかいうシーンが出てきて、ずっこけまくって一回転した。

スマホじゃオリンピックのラピッドファイアピストル競技に使う22LR弾(22口径ロングライフル)でさえも止まらないでしょう。
カラスとかハトを撃つ時に使う空気銃なら運が良ければ止まるかもしれんけど…

防弾ベストについては、こういう誤解が本当に多いと思う。

あれは本当に最悪の場合撃たれても命だけは助かるというために着ているので、撃たれても平気というために着ているわけではない。


話をゲッタウエイに戻すと、防弾ベストを着ていた例のマックイーンと反目するリーダーを撃った時に、マックイーンが相手の防弾ベストに気づいてトドメを刺そうとする。

トドメの一撃は結局外れているのだが、それでもこのリーダーは防弾ベストの下に大怪我をしており治療をしながらマックイーンたちを追跡するという話に展開する。

さすがにサム・ペキンパーは防弾ベストの防御力の限界を知っていたので、すぐに立ち上がって
「防弾チョッキを着ていたから平気さ」
なんていうおバカなシーンは撮らなかった。

マックイーンの射撃シーンは意外に素人臭かったが、そういうところはリアルな映画だった。




2019年3月16日
















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