映画に登場するプロップガン〜アラン・ドロンの利き腕とガバ「ビッグ・ガン」
ガバの似合う俳優さんというと誰を思い浮かべるだろう?
アクション重視の人はスティーブン・セガールなんかを思い浮かべるかもしれない。
T2のイメージからアーノルド・シュワルツェネッガーとか、ドラマの印象で舘ひろしなんかも浮かんでくるかもしれない。
前回触れたスティーブ・マックイーンなんかもガバメントを使っている俳優として浮かんでくるかもしれない。
しかしよくよく調べてみるとマックイーンがガバを使った作品って「ゲッタウエイ」と「ハンター」の二作ぐらいで、この人は西部劇の出演が多い事もあってリボルバーが圧倒的に多い。
都会の刑事役の「ブリット」なんかでもスナブノーズのリボルバーを使っている。
意外にガバを使っている作品は少ない…
というかこの二作しか思い浮かばないのだが他にあったっけ?
マックイーンはガンさばきがすごく上手いのにゲッタウエイでの実射シーンでちょっと下手な感じがしたのは、オートにはあまり慣れていないからかもしれない。
この人はテンガロンハットを被ってリボルバーを撃っている方が様になる。
こういう話題であまり名前が浮かんでこないが、セガール並みにガバにこだわる役者さんが他にもいた。
しかもアメリカではなくフランスに…
アラン・ドロンという人はかつては美男子の代名詞みたいに言われていたが、経歴もなかなかの人で少年院からフランス海兵に入隊、インドシナ戦争に従軍しそのあとカンヌ映画祭でスカウトされ、ついにルネ・クレマンにその美貌を見出されてスターになったというものすごい高低差のある山と谷を経験している。
そのドロンが映画で使用している銃を調べていて、ちょっと驚いたのはこの人はガバメントに強いこだわりがあるようで使用銃は最近作までは一貫してガバメント、しかもノーマルタイプのガバに固執していたようだ。
冒頭の写真はアラン・ドロンのガンアクションの名作「ビッグ・ガン」
(英題 「Big Guns」 原題 「Tony Arzenta」)の封切り時のポスター
その使用銃をアップにしてみるとどノーマルのガバである事がわかる
解像度の限界で軍用ガバなのか民間モデルなのかまではわからなかったが
バレルが黒い感じがしたので軍用ガバかもしれない
フランス映画で軍用ガバを愛用している役者さんは珍しい…
というよりドロンぐらいしかいないんじゃないかな
毎回の登場で御免なさい…軍用どノーマルガバでございます
ドロンの愛用銃…特にビッグ・ガンの使用銃がこれかどうか…確信はないがたぶんこれだと思う
ドロンは最近作ではリボルバーを使ったりしているがこの「ビッグ・ガン」や
「シシリアン」、「ジェフ」など代表作ではずっとガバを使用している
元軍人だからか銃の構え方、撃ち方が様になっている俳優のトップクラスだと思う
ただこの銃の構造ゆえにドロンの射撃姿勢にちょっと疑問が湧いてきた
これは有名な「ビッグ・ガン」のワンシーン
組織を抜けた自分を抹殺しようとした殺し屋の頭目を逆にしとめる瞬間のシーン
あれ?これ裏焼きじゃないですよ?ドロンが左手で射撃している
アラン・ドロンは左利きなのか…
と思ったら最近作では右手で射撃している
冒頭のポスターも右手で銃を構えている
あれ?本当は右利き?
そこで古代ギリシャの英雄ググレカスの登場
ドロン・射撃シーンで画像検索するとドロンの射撃シーンはほぼ半々で右と左が存在する
世の中に50%もスチールを裏焼きするそそっかしい奴がいるわけではない
アラン・ドロンはシーンに合わせて右でも左でも自然に射撃できるスイッチシューターだった
このどノーマルガバに拘りつつスイッチシューターでもあるというのは実は普通ではない
というのはガバの構造がスイッチシューティングを前提にしていないからだ
ノーマルガバの操作系はトリガー(引き金)以外は親指で操作するようにアレンジされている
セーフティ(安全装置)、スライドキャッチ、マガジンキャッチが
すべて親指の移動円周上に配置されていて右利きには大変操作しやすい構造だ
ところが左利きにはセーフティレバーもスライドキャッチもマガジンキャッチも親指の届く範囲にはない
左利きが安全装置を解除しようとするとこういう不自然な形になる
マガジン交換のためマガジンキャッチを押すのもスライドキャッチを
引き下げるのも人差し指の仕事になりこれも不自然
セーフティを解除する時の握りはこんな感じで不安定になり
走りながらこんな操作をしたら不意に銃を取り落としたりしそうだ
左利きがノーマルガバを操作する時は安全装置の解除や
マガジン交換のタイミングがとても難しくなる
右利き用の銃を左利きが操作するのはこの通り大変不便だ。
これはガバだけが特別だったわけでもなく、この時代の軍用銃はどこの国も同じようなものだ。
左利きも右で射撃しないといけない。
左利き用の銃を用意してくれる国なんてどこにもない。
「プライベート・ライアン」で塔の上の狙撃手が左利きで、右にボルトレバーがついているボルアトアクション狙撃銃をわざわざ左手で引いてすごく操作しにくそうに撃っていたが、左利きはああいう射撃姿勢に熟れるか右利きの射撃姿勢に合わせるかしかない。
今だったらアンビセーフティとかアンビマガジンキャッチとか左手でも操作できる銃がだんだん一般的になっている。
しかしこれは左利きにも配慮しましょうなんて人権コレクティブでもなんでもなくて、射撃の技術が50年前と今とでは変わったからだ。
今はバリケードシューティングという遮蔽物を利用して射撃するテクニックが一般的になっている。
建物の陰に隠れる時にいつも都合よく右手だけで射撃ができる向きになるとはかぎらない。
だから左手と左目だけを物陰から出して射撃しないといけない場合でも不便がないように今の銃はアンビ(左右対称)が常識になってきている。
しかしドロンの時代、今から40〜60年前にはバリケードシューティングという考え方はなかった。
第一ドロンのスチールを見ていると別に物陰に隠れているわけでもないのに左手で射撃している。
このドロンのスイッチシューティングは、実はイマジナリーラインに配慮したものではないかという気がした。
イマジナリーラインというのは、映画などの映像理論に出てくる撮影方向に関する向きの整合を取るための架空の補助線の事だ。
左右に対峙している人物を一人ずつワンショットでカットを割って撮る時、右の人物は画面の左向きに左の人物は画面の右向きに撮らないといけない。
二人とも画面の左向きに撮っていたら、この二人はどこにいてどこを向いているのかよくわからなくなってしまう。
この対峙する二人に対してカメラが越えてはいけない架空の線をイマジナリーラインという。
撮影はショットというが射撃もショットという。
ドロンはカメラに対して背中を向けずに常に前を見せて射撃をしたいと考えた。
そのためにイマジナリーラインがカメラの右を通る時は左手で射撃し、イマジナリーラインがカメラの左を通る時は右手で射撃する…ということを考えていた節がある。
というよりドロンの射撃シーンのスチールをいろいろ見てみたら、画面の右向きに撃つ時は左手、左向けに撃つ時は右手と徹底しているので間違いなくイマジナリーラインを意識している。
つまり常に絵面を考えながらスイッチシューティングをしていたことになる。
射撃のプロというだけでなく映像に合わせて自分を改造する映像のプロでもあったのだ。
それでも不自然にならないように、左腕でも右腕でも構えを練習していたようだ。
この人はただのラッキーな美男子ではなく、やはり密かに相当の努力をしていたのだと改めて知った。
ドロンは結局右利きだったのか、左利きだったのか…
という疑問が残るぐらいどちらの腕の射撃姿勢も自然だ。
これは結構すごいことだと思う。
結局、食事シーンやタバコを吸うシーンで右手を使っているので右利きだったんじゃないかと思う。
フランス映画なのに「ビッグ・ガン」って変なタイトルだなと思ったら
これはアメリカ公開時に用意した「Big Guns」というメリケン向けの
タイトルに日本の配給会社も倣ったということらしい
フランスでのタイトルは「Tony Arzenta」という主人公の名前というそっけなさ
マックイーンのピカレスクムービーやドロンたちのフィルムノワールによって
ガバはオリーブドラブの制服だけでなくトレンチコートや革ジャケットにも似合う銃になった
2019年3月17日
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