Smith & Wesson Model 2 Armyのメカとディテール〜坂本龍馬の銃は創業者の苦心の産物だった
映画のプロップガンの話と前後したので『坂本龍馬の銃』ことSmith & Wesson Model 2 Armyのメカを詳細に解説するのが後になってしまった。
解説するといっても初期の頃のシングルアクションリボルバーでメカもとってもシンプルなので、解説するポイントもそれほどないのだが前回一番疑問に思ったシリンダーストップの構造がつまびらかになったのでそのことを中心に。
なお坂本龍馬は本文とは関係ない。
銃そのものの話に入る前にSmith & Wessonというメーカーの歴史について
Smith & Wessonは1852年にホーレス・スミス(Horace Smith)とダニエル・ベアード・ウェッソン(Daniel Baird Wesson)によって創業されたとWikipediaにある。
後の時代にバリアブルリプレイシングバレルのリボルバーで有名になったダン・ウエッソンはこの初代ダン・ウエッソンの曾孫にあたるのだそうだ。
コルトと並んでアメリカを代表するガンメーカーで全米ライフル協会重鎮のSmith & Wessonだが、創業から順風満帆だったわけではない。
チューブラーマガジンと弾丸に推進剤の火薬を仕込んだ装薬による連発方式を実用化したボルカニックライフルの製造メーカーとして創業した最初の会社は、資金難で倒産。
これの製造権をウインチェスター氏に売却したのが、後のウインチェスターファイアアームズの会社の元になったとのことだから、このS&Wのホーレス&ダンのコンビはアメリカの銃器産業に大きな足跡を残している。
今でいうロケット弾のようなボルカニック方式がうまくいかなかったので、今度は金属薬莢式の銃の製造でこのコンビは再び会社を起こす。
これがSmith & Wessonで、この会社の最初の製品がNo.1リボルバー、二番目の製品がNo.2リボルバー、つまりModel No.2 Armyということになった。
この金属薬莢+貫通型薬室を持ったシリンダーの組み合わせのリボルバーが、後のS&W社製だけでなく全メーカーのリボルバー型拳銃の原型になったという意味では、このNo.1、No.2リボルバーは銃器の歴史から見ても分水嶺というべきモデルだった。
S&Wというよりホーレス&ダンの最初の会社が製造したボルカニックカービンライフル(英語版Wikipediaより)
オクタゴンバレルの下に筒状のマガジンを配置しレバーアクションで連発を実現する画期的なメカ…
だったがロケット弾ともいうべきボルカニック方式の装薬に難があった
この会社を買収したウインチェスターが金属薬莢+レバーアクションに改良して
西部開拓時代に名を馳せたウインチェスターライフルが完成するので
失敗したとはいえホーレス&ダンの功績は決して小さくない
ロケット弾方式銃とその製造会社に見切りをつけたホーレス&ダンのコンビは
次に起こした会社でリムファイア方式の金属薬莢の製造特許を買収
この薬莢を使えるように貫通型薬室のリボルバーを設計して製造を開始した
それがNo.1リボルバーでその威力強化型として22口径から32口径に
スケールアップしたのがNo.2リボルバーという流れ
装薬のトラブルで販売難だったボルカニックや威力不足で売上が上がらなかったNo.1と違い
No.2は陸軍制式拳銃の座こそ逃したもののちょうど発売したタイミングに起きた
南北戦争のおかげで飛ぶように売れて予約3年待ちという状況だったそうだ
実銃写真とのリファレンス用写真
(上)S&W Model No.2 Army の実銃(アメリカのオークションサイトより)
(下)マルシン工業の『坂本龍馬の銃』ことS&W Model 2 Army
同じく右側プロフィールカットの比較写真
(上)S&W Model No.2 Army の実銃
(下)マルシン工業の『坂本龍馬の銃』ことS&W Model 2 Army
マルシンのキットはヘビーウエイトではなくABSだったので本体は塗装
ハンマー、トリガー、サイト兼シリンダーストップ、エジェクターなどの金属部品は
一度黒染めを剥がして ブルーイングしなおしてケースハードゥンぽい仕上げにしている
この銃のメカで一番謎だったのがシリンダーストップの構造
ハンマーを引き起こす時にハンマーの天辺がサイトを押し上げて
これにつながったシリンダーストップも押し上げられロックが解除される
ハーフコック位置ではシリンダーは手で回転できるのでロシアンルーレットも思いのまま…
という目的のためにロック解除できるようになっているわけではない
この当時のリボルバーはハンマーをブロックするメカがなかったので
6発全弾装填するとハンマー側から落とした場合暴発の危険性がある
それで薬室を一発分だけカラにしてそこをハンマーに合わせれば暴発はしない
そのためにシリンダーを手で回転させることができるようにしたので ロシアンルーレットのためではない
いずれにせよ引き起こしの時にロック解除しないとシリンダーが回転できないのでここはわかる
ハンマーをフルコックすると当然シリンダーストップは元に戻り
シリンダーロックがかかってシリンダーは手で回転できなくなる
ハンマーをゆっくり戻すと予想通りハンマーの天辺はシリンダーストップに引っかかって落ち切らない
完全にハンマーを落ちきった位置に戻すにはシリンダーストップを一度持ち上げないといけない
これもハンマーが携行時にリムに当たらない安全策かもしれないが落としたら暴発する危険性は少なくない
しかしハンマーが落ちる時にまたシリンダーストップを持ち上げて撃発の瞬間に
シリンダーが不意に回転し薬室と銃身の軸がずれたりしないのだろうか…
という疑問は実際に撃ってみて解消した
ハンマーが落ちる時にはシリンダーストップは持ち上げられないので固定位置がずれることはない
ハンマーの打撃力を削がないようにシリンダーストップは
パンタグラフ構造でフレームに固定されていることは前にも書いた
しかしこれは予備的な構造だったようで本来の打撃時にハンマーがシリンダーストップを
持ち上げない構造は仮組みの時に問題を起こしたハンマーガイドスプリングにあった
サイト兼シリンダーストップの裏側に固定されているハンマーガイドスプリングは
Y字型に割れていてハンマーを引き起こす時は左右に割れないのでそのままハンマーに持ち上げられる
ハンマーが落ちる時はハンマーの天辺はY字の間に入り込み左右にスプリングを広げて打撃するので
シリンダーストップは上に持ち上げられることはない
実際に撃ってみて打撃時にシリンダーストップが上に持ち上げられないのを確認した
今日のリボルバーのシリンダーストップに較べて手の込んだメカだと思う
Model 2 で一番の謎なのはこの複雑なシリンダーストップの形状で、シリンダーストップそのものを廃止してしまった二十六年式の割り切った仕様と比べるといろいろとこだわるところがホーレス&ダンのコンビにはあったようだ。
ハンマーを引き起こす時と撃発時では、ハンマーとシリンダーストップのコンタクトの仕方が違うというのは、この組立キットが完成してちゃんとグリスも差して軽く動くようになった時に初めて気がついた。
ハンマーを引き起こす時にシリンダーストップを持ち上げてシリンダーの回転を邪魔しないようにしているが、ハンマーが落ちる時にはシリンダーストップは全く跳ね上がらないのでロックはかかったままになっていた。
そしてハンマーを指で押さえながらデコックすると、ハンマーガイドスプリングに支えられてハンマーは落ちきったポジションまで戻らないので擬似的なクオーターコックというか、安全ポジションでハンマーが止まることにも気がついた。
ただしこの安全策はバネの力でハンマーを支えているだけなので二十六年式の安全策と同じで、銃の落下に対しては全く無防備なのだが。
こういう複雑な機能をこのシンプルな部品に持たせたホーレス&ダンのメカのセンスが、かつてはウインチェスターライフルの雛形を作り、のちには1899年に原型が完成したダブルアクションリボルバーの原点M10ミリタリーアンドポリスに連綿とつながっていくのかもしれない。
ただこのシリンダーストップはメカとしては面白いけど、成功したとは言えずハンマーブロックとシリンダーストップは別部品にしてシリンダーストップはトリガーと連動するというメカの方が主流になっていくので、これは過渡期のあだ花かもしれない。
カンブリア紀に生命の形態の多様性が飛躍的に増大した進化の大爆発が起こったように、この1850年代から1900年代にかけてはリボルバーやオートマチックのいろんな形やメカが爆発的に増殖した。
カンブリア紀の生命と同じようにこの時代に爆発的に登場した銃の新機軸は大部分が絶滅してしまい、21世紀の中盤にまもなくさしかかる現在ではすべてのメーカーの製品がグロックのデッドコピーに収斂しつつある。
ホーレス&ダンの伝統を忘れたのかS&Wはグロックの丸コピーの銃を製造してグロックから訴えられ賠償金を支払って和解したものの、結局グロック改良版の新ミリタリーアンドポリスなんてオートを出してお茶を濁している。
名前だけ伝統を守っている体(てい)だ。
いまはカンブリア紀以降の大絶滅の時代なのかもしれない。
バレルはこの当時流行した8角形のオクタゴンバレルで
後装式のメリットの深いライフリングも高い命中精度に貢献したはずだ
マルシンのバレルインサートは取り外しができるので銃口から
どれくらいの位置に固定するかはある程度自分で調整できる
銃身の下のバレルロックを持ち上げると銃身を
跳ね上げることができるチップアップ方式のオープンメカ
シリンダーは銃身側に固定されていないので取り出して再装填をする
古色蒼然としたメカだがこれでも南北戦争当時の最速リロード可能なハンドガンだった
前回は真横から平面的に撮影したがアングルをつけてシングルアクションメカを撮影した
こうしてみると部品の関係性がよくわかる
全体的には軽量化に気を使った華奢なメカという印象
シリンダーラチェットはフレームの結構奥まで入り込む
なのでシリンダーハンドはフレーム外からは見えにくい位置にある
ケースハードゥン調に仕上げたサイト兼シリンダーストップ
大好物のバックショット
ストックバットの光沢もあったがやはりメッキシルバーのホームセンタースプレーの上から
ブラックスチールを吹くという組み合わせでは食いつきが弱いらしく所々黒が剥げてきた
おかげで古式銃らしい古めかしさは出て雰囲気はあるが振り回したり
ガチャガチャいじって遊ぶアクション派には向かない仕上げになってしまった
2019年3月30日
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