映画に登場するプロップガン〜PPKだらけ射撃戦ありの珍しい映画「ワルキューレ」
ひとつテッポを取り上げたらひとつ映画の話をしよう。
おおっ、そうしよう。
そうすればテッポマニアくささが少しは薄まるかもしれない。
今回はワルサーPPK/Sを取り上げたのでPPK/Sが登場する映画を…と思ったのだがこれだけ知名度の高い、ファンも多いテッポなのに壊滅的に映画では使用されていないことに調べて気がついた。
その理由はPPK/Sはアメリカローカルの仕様で、ドイツワルサー社の本来のラインナップはPPとPPKだから。
映画の世界でもPPや特にPPKが登場する映画はたくさんある。
みんなが大好きな007もそうだし、007のオマージュのオースティン・パワーズなんかもPPKを使用している。
前にも書いた通りマルゼンなんかのPPK/Sを取り上げて「007ジェームズ・ボンドの銃」とか紹介しているブログが結構あるけど、それ間違いですから。
でも完全に間違いとも言えない。
007は23作目にして、2012年にダニエル・クレイグ主演の回についに初めてPPK/Sを使用していた。
なんだか指紋認証付きのハイテクガンみたいな扱いになっていたが、現実のPPK/Sにそんな機能はないしそんなメカを追加するスペース的余裕もない。
PPK/Sとしての出演はそれぐらいかな。
これはナチスドイツの戦時下に実は十数回も実行された「ヒトラー暗殺未遂事件」を取り上げた映画だ。
ドイツ将校でアフリカ戦線の幹部というエリート参謀が、本心はヒトラーの残虐行為やユダヤ人迫害などに激しい嫌悪を持ち
「このまま死んだら子供達に残せるのは恥しかない」
とまで憤激して「情熱を持って」ヒトラーの暗殺計画を立案・実行していく過程が描かれている。
「ドイツ将校が全員ヒトラーではない」
というフレーズが繰り返される。
元首相や将軍などの軍の幹部の多くがこの計画に関与するが、多くは敗戦後に「ヒトラーに抵抗したというポーズを見せることが重要だ」というような及び腰の姿勢でヒトラー暗殺を捉えていた。
しかし主人公のアフリカ戦線帰りの参謀シュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)は
「ヒトラーを暗殺するだけでは不十分だ、その後どうするか考えたことがあるのか?」
と幹部たちに迫る。
ヒトラー暗殺に成功してもヒムラーやヘス、ゲーリングというような取り巻きが政権を継承して第二のヒトラーになるだけの話。
主人公シュタウフェンベルク大佐は暗殺の実行と同時に全国の予備軍を動員して、親衛隊やゲシュタポの総員を逮捕してナチスを政権の座から完全に排除する「ワルキューレ作戦」を立案する。
非常事態の混乱を収拾するためにヒトラー自身が策定した非常事態計画を逆手にとって1日でナチスを壊滅させる、いわば軍事クーデター計画を立てた。
これが有名なヒトラー爆殺未遂事件。
実話に基づく映画で、よく知られているように結果的にヒトラー暗殺と軍事クーデター計画は失敗する。
事件の結果、計画に関与したと疑われた多くの軍の幹部と警察幹部などが逮捕され処刑されている。
その中にはアフリカ戦線で「砂漠のキツネ」と呼ばれて連合軍側からも尊敬を集めていたロンメル将軍も含まれる。
この映画ではPPKが重要な小道具として登場する。
物語の前半でヒトラーの乗機に乗る随行員にセムテックスを
仕掛けたボトルを渡すという素朴な暗殺計画が実行される
しかしこの計画は失敗し露見する前にこの酒瓶を回収するために
参謀本部に向かった将軍は自分を疑っているのかよく分からない幹部に
「酒瓶を間違えた返して欲しい」と交渉する
その机の上にさりげなくPPKが置かれており実は自分は疑われていることを知る
こういう心理描写の小道具としてさりげなくPPKが使用されているが
これは戦時バージョンではなさそうだ…でも正しくPPKではある
同じアングルのPPK/S
グリップの長さが違うからPPK/Sではないことはわかる
映画のモデルはベークライトっぽいグリップを付けているが
戦時のモデルとはちょっとデザインが違う
でもそれっぽい色には仕上げられている
問題は発砲シーンがあるこちらのPPK
暗殺計画は失敗しクーデター計画も露見して失敗、ここまでと諦めた首謀者の一人
ベック将軍(テレンス・スタンプ)が「個人的に拳銃を貸して欲しい」と捕縛に来た将軍に懇願する
このとき渡された銃はグリップが長いしワルサーのバナーがチェッカリングの上にあったり
エジェクションポートが銀色をしていたり…画面を暗くして
なんとかごまかしていたがこれはどうもPPK/Sのようだ
同じアングルのPPK/S
当然ナチスドイツの時代にPPK/Sなんて存在しないがなんせアメリカ映画だから
発火できるステージガンがこれしか調達できなかったのかもしれない
ナチスドイツの時代を描いた戦争映画だから、PPKはふんだんに出てくる。
しかし実はこの時代のドイツを描いた戦争映画でPPKの発砲シーンがある映画はほとんどない。
いろいろ思い出してみたがPPKは本当に思い当たらない。
そんななかこの「ワルキューレ」はPPKの発砲シーンがふんだんにある珍しい映画だと思う。
暗殺計画が失敗したときに「狼の巣」に拳銃をホルスターごと忘れていった将校がいる…ということからこの暗殺の実行犯が特定される。
ここでもPPKは重要な役割を果たしている。
そしてクーデター計画が露見したときにクーデターに反対する将校と首謀者将校が参謀本部内でPPK同士の銃撃戦を展開する。
軍用のPPKは7.65mmの小口径弾を使用するので発射音が軽い。
そして高速弾だから跳弾が跳ねる音が鋭い。
そういう感じがよく出ていた音響効果だった。
そして最後のベック将軍の自決のシーンで初めて発砲用のPPKのアップが映されるが、よく見るとこれがどうもPPK/S
っぽい。
PPK/Sが発砲シーンで活躍するほぼ唯一の映画かもしれない。
昔、タミヤの1/35のミリタリーフィギュアのプラモデルを作ったときに、その箱に使用銃器の詳しい解説が書いてあって記憶を辿ってみると
「ドイツ軍の拳銃はワルサーPPK、P38、ルガーP08の3種類がメイン
P38は主に下士官に配給され尉官、佐官以上の高級将校にはPPKが支給された
第一次大戦従軍経験がある将軍は好んでP08を使用した」
というようなことが書かれていたと思う。
戦争映画ではあまり佐官クラスの将校が撃ち合うようなシーンはないし、野戦の場合は佐官も歩兵と同じくモーゼルカービンなどの小銃やシュマイザーのような短機関銃を使用するから、戦争映画でPPKが出る幕はまずない。
だから発砲シーンが思い浮かばないんだろう。
その数少ないPPKの発砲シーンで思い浮かんだもうひとつの映画がこれ。
全ヨーロッパを席巻しローマ皇帝以来の強大な権力を手に入れたヒトラーのベルリン陥落までの最後の12日間を描いた秀作。
東からソ連軍が西から米軍、英軍がベルリンに迫っており今まさにナチスドイツは消滅する寸前の状態になっているのにヒトラーは
「この日のためにドイツ空軍にジェット戦闘機1000機を作らせておいたのだ」
「おめおめとソ連軍をベルリンに入らせたのはやつらを袋の鼠にするためだ、シュタイナー軍団がやつらを殲滅してくれる」
という妄想としか思えないような狂人ぶり。
挙句、
「ドイツ軍に機動力がないのはガソリンが不足しているからだ。ガソリンを確保する手立てを考えないといかん」
とか全く現実が把握できていないようなことをつぶやく。
たまりかねた将軍たちが作戦室で
「もはやシュタイナー軍団には攻撃力はありません、シュタイナー軍団に代わる攻撃力もどこにも存在しません」
とついに正直に現状を報告したところ例の有名な「総統閣下がお怒りになっている」シーンとなる。
しかしいくら怒鳴ってもチェス盤の上でキングとポーンの二つだけで逃げ回っているような状況は変わらない。
ソ連軍の砲撃がついに地下要塞周辺にも届き始めたときに、ナチス幹部たちの凄惨な自決が始まる。
このヒトラーの最後のシーンでPPKが使用される。
映画では銃そのものは映らない。
発射音だけでそれを聞いて振り返る秘書の表情にフォーカスしているが、これも印象に残るシーンだった。
(映画の中盤で「自決には銃を使うべきか薬を使うべきか」という話をしているときにちらっとPPKが映っていた気がする)
あと発砲シーンがある映画といったらもうアニメしか思いつかない。
「スカイクロラ」で草薙水素(菊池凜子)が使用する銃はPPKだった。
懐古的な飛行機と芝で整備された大戦期のような古めかしい飛行場で繰り広げられる、実はハイテクの産物の未来の物語という危うい設定でその危うさが登場人物の心理に影響しているかのような雰囲気の物語だった。
戦争という人間の生存欲求が極限までむき出しにされるシチュエーションなのに、なぜか登場人物たちには生きることへの執着が感じられない。
むしろ函南(加瀬亮)にしろ草薙にしろ死にたがっているようにしか見えない。
「私を殺して。でないとあなたを殺す」
というのは果たして愛の表現なのか。
ドラマ終盤でヨーロッパの小都市のような場所で主人公たちの銃を抜きながらのキスシーン
オートに限らずハンマー露出式の銃はそこを指で押さえられると発砲できない
函南はまさにこの銃の特性を良く知っているから銃を避けようとしないで
むしろハンマーだけを押さえ込んでいる
この映画ではPPKとガバの発砲シーンもある。
音が鋭いのかな。
いずれも当ったら痛そうな音だったのが印象に残っている。
PPK並びにPPK/Sの迫力ある発砲シーンがある映画なんて数えるほどしかなかった…
というよりほぼ無いといっていい
PPK/Sはやはり撃つ銃ではなく鑑賞用の銃ではないかという気がしてきた
2019年4月27日
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