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S&W Model No3ことフランクリンミントの
ワイアットアープの銃をタッチアップ(2)

No.3

S&W Model No3ことフランクリンミントのワイアットアープの銃をタッチアップ(2)

先日入手したSmith & Wesson Model No.3 Americanをさらにタッチアップする。

このモデル3は30年以上前にフランクリンミントから「.44ワイアットアープの銃」として通信販売で頒布されたディスプレーモデルであることは先日も触れた。

先日元のフランクリンミントの販売時期が気になって昔のGUN誌などを掘り起こして調べてみたら、85年のカラーページにフランクリンミントのワイアットアープの銃の広告があった。

確かによくできたモデルなのだが、考えたら木製のディスプレーパネルとワイアットアープ博物館の前館長の鑑定書付きで3万5千円と当時の感覚としてはかなり高い。
前々回に取り上げたスズキのベレッタM92SBが「実銃のメカを精密に再現したすごいモデル」として話題になったが、それでも12,000円で販売されていた時代だ。

それに鑑定書は「博物館所蔵のSmith & Wesson Model 3は間違いなくワイアットアープの所有のものだった、そしてこの模型はその精密な再現模型である」という内容でこのモデルガンそのものの鑑定書というわけではないから、ほとんど鑑定書としての意味はない。
なのに通常の高級モデルガンの倍以上の値段で売られていたわけだから、普通のテッポ好きにはなかなか手が出なかった。

そしてこのフランクリンミントはずいぶん売れたが、普通のモデルガンと違ってほとんど通信販売のチャンネルのみで販売されたのでモデルガンショップなどを経由していなかった。
ゆえに購入した人はいわゆるテッポ好きではなく、モデルガンの手入れの仕方などをガンショップの店員に質問する習慣もなく、その必要もほぼ知らない人ばかりだったらしい。

オクに出てくるフランクリンミントのコンディションが、それを物語っている。

長年壁に吊るして晒しっぱなしにされて緑青を噴くぐらい錆びついており、錆が浮いてもオイルもささずに放置され、時々無茶にガチャガチャ動かして遊んで手入れもしていないので、スプリング類が折れて最悪フレームにもクラックが入ったものばかりだ。

今回入手したものはかなりコンディションが良かったが、それでも油っ気が全然なくオイルなどを差して手入れした形跡が全くない。
これでは傷むのは無理もないと思った。





前回に続いて完全分解して内部部品のコンディションを確認した
フレーム左側のサイドパネルとグリップを外せば大部分の部品にコンタクトできる




グリップの中のメインスプリングはかなり錆びついていた
オクの「スプリング折れています」というコンディションは大体これが原因
赤錆が出るまで放置しているとだんだん錆が内部に侵食していき
スプリング類がある日突然「ボキッと」いく




このスプリング類の錆を全部落としてブルーイングをかけた
バーチウッドのスーパーブルーを用い今回は外観カスタムのためではなく
文字通り錆止めのためのブルーイング




フレームの下側と上側のトリガーガードのスクリューを抜いてトリガーガードを外したところ
ここにもトリガーガード、シリンダーストップスプリングが使用されている
これが折れるという症例も多いようで原因はやはり30年以上も
錆が浮いているのにサビ落としもオイル差しもしていないからだ
ほかにバレルラッチのスプリングが折れるという例もあるがこれも同じ原因だ
そこにもオイルを差す




さらにハンマー、シリンダーハンド周りには以前にも取り上げた
バイク用のブレーキオイルのシリコングリスをたっぷり差した
錆止めの意味もあるし部品の磨耗止めの意味もある




モデル3からシリンダーの上側にあったシリンダーストップが下側に移動した
場所が変わっただけでなくガイドスプリング付きパンタグラフ構造という複雑怪奇なメカから
トリガーに連動してハンマーがコックされる時だけシリンダーストップが
解除されるというシンプルなメカに変わった
これはハーフコック時にシリンダーストップが下がってロックが解除された状態




ハンマーがフルコックされるとトリガーとシリンダーストップの連携が切れて
シリンダーストップはロック位置に戻りシリンダーはロックされる




エキストラクターがエジェクターシャフトから緩んでシリンダーが
閉まらなくなるトラブルが起きるということを先日書いたが
締めたばかりなのにまた今週も緩んでいた
そこで一度完全にバラしてねじ山に緩み防止のG10接着剤を流し込んだ




エキストラクターカムと噛み合うギヤ山とスプリング部分にもたっぷりとグリスを塗った
さらにエジェクターシャフトに開けられた赤丸で囲った穴だがこれはここにドライバーを差して
しっかりと締めろという意味で開けられていることを知った




こうしてブレークオープントップの自動エジェクターメカはスムーズに動くようになった
銃を折るとこのようにカートリッジがせり出してくる




そしてエジェクターシャフトが緩むとこのエキストラクターがちゃんと
シリンダーの中に収まらなくなってしまうがそれも起こらなくなった




このモデルは結構大型だが重量は意外に軽い
500gあるかないかというところなのでさすがにウエイトを入れたいところ
先日のベレッタM92Fの時と同じ手順でバレルにハンダウエイトを仕込んだ
バレルの長さが長いのでかなりウエイトは入りそうだ
後日グリップの中にも重りを仕込む予定




こうしてタッチアップしたSmith & Wesson Model 3の全景




磨きを入れて傷があったところはタッチアップしてより光るようになった
ところでこのサイトの狭さはこの時代の特徴なのか今日のワイドサイトとはずいぶん違う




パーティングラインは概ね消されているがバレル根元の下側と
トリガーガード内側の上側にパーティングラインが残っていた
メッキモデルなのでどうしようもないがここががっかりポイントだ




あとはサイドパネルスクリューとグリップスクリューなどが
錆びついていたのでこれも徹底的に磨いた
実銃のサイドパネルは髪の毛一本も入らないくらいに隙間がなく分割ラインがピッタリと合っている
これも削り合わせで再現できないかトライしてみたがハンマーシャフトの
位置を変えないといけないぐらいの大工事になりそうだったので断念した
1980年代のモデルガンの技術レベルだと仕方がないところだ




(上)実銃のSmith & Wesson Model No.3 American Model Type2
と(下)フランクリンミントのワイアットアープの銃
探した結果この「ワイアットアープの銃」とぴったり同じモデルの実銃写真が見つかった
このタイプはバレルヒンジのスクリューの左側に緩み止めのサブスクリューが付いているのが特徴
比べてみればフォルムはかなり正確に再現されているのがわかる




シリンダーストップ周りの実銃(上)とフランクリンミントのワイアットアープの銃(下)の比較
シリンダーストップの前にトリガーガード固定ネジがあり
この面はシリンダーのRに合わせて曲面になっているのが特徴
そういうところも忠実に再現されている




以下モデル3のエングレーブモデルの美しい写真を












シリンダーラッチの下側にはシリンダー脱落防止のL型金具が固定されている
これはサイト上のスクリューで固定されているので
そのスクリューを抜けばシリンダーも取り外しができる




それにしても見事なエングレービングだ
このエングレービングはモデルでは当然モールドだが実銃は職人が一丁ずつ
銃の姿からインスピレーションを得てフリーハンドで彫っていく
左右でエングレービングのパターンが違うのでおそらく図面も書かずに自由に彫っているようだ




同じポジションの反対側のエングレービングのパターン
よく見ると全く同じパターンはどこにもない
シリンダーのパターンは6発分同じパターンになっているので
同じパターンにできなかったのではなくわざと同じにしなかったようだ




グリップ底には20029というシリアルナンバーが彫られている
アメリカの実銃オークションサイトなどを見るとModel3のシリアルは
みな4桁表記なのでこれは製造29丁めというかなり早い時期の製造ロットのようだ
ワイアットアープは西部開拓時代の末期の人なので
モデル3の初期モデルというのは時代が合わないような気がする
このことはのちに少し考証してみる




フロントサイトは背が高いが薄い
これは遠距離射撃を念頭に置いた野戦兵器として設計されているということだ
西部開拓時代のガンファイトは接近戦だったはずだからこれも使用目的に合っているのかどうか
もっともアウトローのガンファイトはどうやらブラインドシュートだったようなので
サイトの形はホルスターに引っ掛かりさえしなければどうでも良かったのかも
次から実銃についてのことをいろいろ書いてみたい



2019年5月28日
















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