映画に登場するプロップガン〜サイドバイサイド…いわゆる水平二連散弾銃が登場する映画
先日華山のマッドマックスバリエーションの水平二連ショットガンの猟銃タイプを、ハドソンとニコイチで作ってしまったという話でつい筆が滑って
「ハドソンは猟銃タイプを出す前に廃業」
と書いてしまったが、実はハドソンは廃業する前に出していたらしい。
販売期間は短かったしやはり水平二連の猟銃というジャンルがあまりにも地味すぎたのか、さして話題にもならなかったようだし、私がテッポ趣味に嫌気がさして無関心になっていた時期だったようで先日まで全く知らなかった。
知ってたら入手したのに…
ただ長ものの銃身やレシーバーも相変わらずABS製だったとのことなので、どうも強度に問題があったようだ。
そういうものを持っていたら躊躇わず華山のロングバレルを購入して、やはりニコイチにしていたかもしれない。
先日の続きになるが華山のガスガンにハドソンのストック、先台を付けたニコイチサイドバイサイド
これで今年の冬はカモ猟も万全(?)
中折れショットガンは先台を外すと簡単に銃身とレシーバーを分解できる
持ち運びのトランクもこのサイズのガンケースでいいので案外かさばらない
我が家のハウスキーピングガン(?)に収まったサイドバイサイド
ところで前回アメリカなんかではハウスキーピングガンとして水平二連銃が戦前から最近まで愛用されていたと書いてしまったが、よく考えたら戦前どころか開拓時代から水平二連はアメリカで一般的に愛用されていたんではないかと思い立った。
思うにアメリカにはそこらじゅうにガラガラヘビなんかがいたし、ガラガラヘビやサソリから身を守るためにはライフルや拳銃ではどうにもならなくてショットガンが必携だったのではないか。
そしてショットガンの中でもクラシックなデザインの水平二連は、メカが単純な分だけ故障が少ないというメリットが買われて開拓移民に愛用されたのではないか。
そう思って水平二連ショットガンが登場する映画を思い浮かべていたら結構たくさん出てきた。
ドラマでも「大草原の小さな家」や「じゃじゃ馬億万長者」なんかでも皆、長銃身の水平二連を持っていた記憶がある。
以下銃器が印象に残る映画を幾つか挙げてみた。
パーフェクト・ワールド
ケビン・コスナー主演、クリント・イーストウッド監督・出演のドラマ。
銃器が登場するといっても派手な銃撃戦やアクションがあるわけではない、イーストウッド節の真面目な映画だった。
ケビン・コスナー演じる脱走囚が、仲間の悪党を毛嫌いし偶々人質にとった少年と意気投合するその不思議な心理、そのコスナーたちを当時FBIでも採用し始めた最新の捜査手法であるプロファイリングで追い詰めていく郡保安官のイーストウッドたちの不思議な追跡劇が物語の縦軸。
この映画ではやはり銃が印象的な使われ方をしている。
一つはコスナーたちが看守から奪ったSmith & WessonのM15・コンバットマスターピース
コスナーが車を空けて買い物に出るときに人質の少年にこの銃をもたせて相方の脱走囚を見張らせる。
この同じ囚人への不信感と少年への共感が結局仲間を殺すという展開になるのだが、もうひとつ印象に残ったのが冒頭のこの少年が連れ去られるシーン。
囚人服を着替えるため衣服を奪おうと押し入った家で
もめているうちに隣家のお爺さんが散弾銃を持って助けに来た
この時の爺さんが持っていた猟銃が30インチはあろうかという長銃身をつけていた
カモ猟なんかに使うには最適な長さだが家の中で振り回すにはあまりにも長すぎる
アメリカの田舎では隣の家に強盗が入ったら警察を呼ぶよりも先に、散弾銃に弾を込めて助けに行くんだなと感心したシーン。
アメリカはとにかく土地が広いし、特に田舎は町から小一時間なんて集落も普通にあるから警察なんか呼んでいたら間に合わない、とりあえず強盗を撃ち倒してから警察を呼ぶ…という順番になるのかなとふと思ったシーン。
アメリカで銃乱射事件が起きるたびに「なんで銃を規制しないんですか」と日本人なんかは情緒的な批判をするけど、この問題でアメリカ人がなかなか銃規制に賛成しないのはこういう事情があるのかもしれない。
銃を持って自衛するのは憲法で保障された基本的人権である…ということなんだな。
ヒストリー・オブ・バイオレンス
デビッド・クローネンバーグ監督のバイオレンスアクションムービー。
クローネンバーグといえば「ザ・フライ」「スキャナーズ」「ヴィデオドローム」などのメタモルフォーゼシリーズでアンディ・ウォホールなどの現在芸術の人たちにキッチュな支持を受けている芸術派で、カンヌ映画祭でも受賞歴があるという監督さん。
なんだけど、そのメタモルフォーゼ監督がなんでこんな普通のバイオレンス映画というか、アクション映画を撮ったんだろう…と思って観たらなるほどクローネンバーグだった。
最初のコーヒーショップで撃たれた男がどうなったか、家に押しかけてきたギャングの最初の一人が主人公の反撃を受けてどうなったか…なんて描写が短く挟まれているが
「ああ、やってるやってる、クローネンバーグ」
と思ってしまった。
詳しくは「ヴィデオドローム」、「ザ・フライ」、「スキャナーズ」を参照。
田舎の平和な暮らしをしていた主人公の家族にとある事件がきっかけでエド・ハリスら
ギャングの手先がプレッシャーをかけ始めたことから家族の心の平和はかき乱されてしまう
今にもギャングが家に押しかけてくるかもしれないと思った奥さんは押入れから散弾銃を持ち出す
これがまた28〜30インチのカモ撃ち専用銃のような長銃身の水平二連式猟銃
彼女の身長と比べていかに長いかがわかる
こういう銃がアメリカの田舎のたいていの家にはある
銃を構える奥さん…はっきり言って長槍を構えるような姿勢なので
この姿勢で実弾を撃ったらひっくりがえってしまうと思う
まあでもアメリカ人が誰でも銃器の扱いに慣れているわけではない
むしろたいていのアメリカ人はこんな感じなんだと思う
そういうところをワザと演出したクローネンバーグのリアリティに感心する
飛び込んできたのがギャングではなくダンナだったのでホッとして銃を置く奥さん
その一瞬銃のプロフィールが映るがウエザービータイプのストックに
綺麗なクロスチェッカーが彫られているなかなかの銃
同ポジションのハドソン・華山ニコイチサイドバイサイド
木目は綺麗なんだけど残念ながらクロスチェッカーがストックに入っていない
そういう工作をしてくれるモデルガンメーカーもかつては存在したが今では絶滅したかな
この散弾銃がやがてはひとつの事件につながり、家族の運命を変えてしまう重要なプロップガンなのだが、見てくれはパーフェクトワールドの隣の爺さんが持っていたのと同じような標準的なデザインの水平二連式猟銃だ。
銃身長から推量するに結構深いチョークがかかったカモ撃ちに使うようなテッポで、たまにガラガラヘビや強盗を撃退するために田舎では使われるかもしれないが本来の用途はそういう銃ではない。
そういう用途の銃ではないがどこの家庭にもお父さんのロッカーに一丁ぐらいこういう銃が入っていて、いざとなったら嫁さんや子供も見よう見まねで12ゲージをチェンバーに籠めるぐらいのことはできる…という感じなのかな。
OK牧場の決斗
アメリカの田舎の家ではどこもたいてい「ハウスキーピングガン」として水平二連式の散弾銃が置かれている。
これは戦前からだと前回書いてしまったが、よく考えたらもっと前からそうだった。
少なくとも西部開拓時代には結構どこの家にも水平二連があったんじゃないか。
思えば西部劇にもショットガン、それも水平二連のショットガンが登場する作品は結構あるように思う。
いろいろあるんだけど一番印象に残っているのがこのジョン・スタージェス監督、バート・ランカスター、カーク・ダグラス主演の「OK牧場の決斗」。
Smith & Wesson Model 3のページでも触れたんだけどこの映画は銃器の考証についてはちょっと問題がある映画で、西部開拓時代をリアルに描いた映画とは言いがたい作品なんだけど、ウエスタンファンのヲジサン、ジイさんたちには圧倒的な支持者がいる映画でもある。
かくいう私の親戚にも圧倒的なウエスタンファンの叔父さんがいて、私が小学生の時にウチに来て日曜映画劇場で「OK牧場の決斗」が放映されると
「子供達、まだ寝たらいかんぞ、ここからが面白くなるんだぞ」
とテレビの前から解放してくれず
「あれはウインチェスターの8連発だ」
「ワイアットアープはショットガンを持っているぞ、あれは凄い威力のある銃だぞ」
と解説付きで強制鑑賞させられた記憶がある。
保安官助手にバントラインスペシャルを見せびらかすワイアット・アープ
決闘には使用しなかったが「ストックをつけてライフルのように遠距離まで狙えるいい銃だ」
と説明するのだがこの時代にまだバントラインスペシャルはありませんから…
決闘に使用したのは有鶏頭水平二連というショットガンでハンマー外装式の銃
本当かどうかは知らないがスペインのDenix社が「ワイアット・アープのショットガン」
という触れ込みで有鶏頭水平二連の模擬銃を販売しているのでそうなのかもしれない
この映画は割と伝承に基づくエピソードが多くて「実際は違う」という話が多いのだけど、その分浪漫溢れる往年の名画ということなのかもしれない。
ランカスターたちがピシッと折り目のついた綺麗なシャツやスーツを着ているのも、今見ると不思議。
開拓時代っていいクリーニング屋さんがフロンティアに集まっていたんだね。
印象としてはピーメ、ピーメ、ショットガン、ピーメ…みたいな銃撃シーンで「バキューン」「バキューン」みたいな古典的なピーメの銃声に挟まってショットガンの「ドゴーン」みたいな銃声が混じって、音だけ聞いていると叔父さんの言う通りショットガンって凄い威力のある銃なんだなという銃撃シーンではある。
許されざる者
クールなヒーローが闊歩していたジョン・フォードやバート・ランカスターらの西部劇は、それはそれでいいんだけどリアリティがない。
西部開拓時代は人を撃つことにためらいなんてなかったの?
日本の時代劇でも毎週のように大勢の人が斬り殺されているが、実際には江戸時代は後年の明治以降よりもはるかに殺人事件が少ない時代だった。
日本全国に数十万人もの刀を差した人が闊歩していたにもかかわらずだ。
同じように西部開拓時代もSmith & WessonやColtという銃器メーカーが、毎年それぞれ2〜3万丁という単位で拳銃を生産して西部に供給していたにも関わらず、たった三人死んだだけの決闘事件が大事件になる程、逆に言えば平和な時代だったのかもしれない。
その時代に実際に実銃をつかって生きている人を撃ち殺すというのは、どういう心境になるものなのかをリアルに描き出したのがこ映画だと思う。
かつては札付きのワルだったマニーは豚や鶏を飼う平凡な農民になっていた
しかし病気で家畜が倒れ生活が困窮した時に賞金稼ぎの話が舞い込む
子供達を育て上げるために昔取った杵柄のダブルアクションピストルで
空き缶プリンキングの練習を始めるが一向に弾が当たらない
頭にきたマニーはショットガンを持ち出して空き缶を吹っ飛ばす
ショットガンシューティングにしては右の脇が開きすぎている気がするが
ここでもハウスキーピングガンの有鶏頭(ハンマー外装式)水平二連銃が登場する
この銃は後半の牧童を牧場で襲うシーンでも使用される
水平二連ショットガンが使用されているのは西部開拓時代からということらしい
イーストウッド監督は実際のガンファイトは銃を撃つ方も背筋に鳥肌が立つような
強い恐れを感じるはずだという心境をこの映画でリアルに描き出した
だから若い頃は酒浸りになっていた、酒浸りだからどうやって人を撃ったか細かいことは覚えていない
酒をやめたら人を撃つなんて恐ろしいことはできない、そして本当に復讐心に駆り立てられた時に
若い頃のようにまた酒の力を借りる…酒がウルトラセブンのアイスラッガーのようなアイテムだった…
そういうことでもない限り表情も変えずに何人も人を殺すなんてことは常人にはできない…
というテーマが込められているリアルな西部劇だった
ここで一枚参考写真を…作家アーネスト・ヘミングウェイが
なぜかバスルームでショットガンを構える写真(WikiPediaより)
ヘミングウェイって三島由紀夫にちょっと通ずるというかなんで風呂場で
半裸ムキムキでショットガンを構えないといかんのかというそのメンタルが
ボクシングで体を鍛えて自衛隊に突入する人のそれと似ていたのかもという気がする
中折れ状態にしたサイドバイサイド
クレー射撃場では射番が回ってくるまでは中折れ銃は
折ったままの状態で待機するのがマナーというかルールになっている
中折れはこの状態なら絶対に暴発しないので撃つ時以外はチェンバーを開けて銃身を折る
特にスキート競技は射台によっては他の射台が射線上に入る角度になるので指示があるまで
絶対に射台に入ってはいけないしそれまでの待ち時間は必ず銃を折る決まりになっている
射撃というのは紳士のスポーツだし実際には安全にも常に配慮することを
学ばされるストイックな競技なので銃を持つことでマッチョなイメージというのは
チャンチャラおかしいのだがヘミングウェイでさえああなので映画でも
恐ろしい威力を持った兵器という描き方をされるのも仕方がないのかも
まあいいぢゃない、それはともかく美しいカーブを持った銃なんだよ、水平二連は
2019年6月11日
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