ジョン・ブローニングの遺作にして最高傑作〜FN High Powerのシア強化カスタム
発明、技術の進歩というのはある日突然誰かが思いついて、急に実用化されて、急にみんなが喜んで使い始めるわけではない。
ある発明品が実用化するまでに、いろんな人がいろんなことを思いついて、それを実際に作って試して見て、それでうまくいったものだけがごく一部段々実用品として普及するという流れをたどる。
その間思いつきの発明品は、聡明な唸らされるようなアイデアばかりではなく
「なんでこんなもの考えたんだろう?」
「一体何がしたかったんだろう?」
というようなスカたんみたいな発明品のしかばねも累々と積み上がっていって、そのごく一部が実用品になっていく
そして技術の発達史には、必ずその節目節目で流れを変えた天才の仕事がある。
銃器の進歩に多大な影響を与えた人物というと、有名・無名も合わせて何人か挙げられる。
発達史の順に書いていくとまず最初に…
1)氏名不詳
マッチロックマスケット銃(火縄銃)の火縄の代わりに火打ち石を使うことを思いついたやつ
フリントロックマスケット銃
火縄から解放されて銃は事前に火種を準備しなくても
いつでも抜き撃ちできる武器に変わった
2)氏名不詳
火打ち石の替わりにパーカッションプライマーを使うことを思いついたやつ
氏名不詳だが雷管の元になったダイナマイト信管は発明者がアルフレッド・ノーベルということなので一応ノーベル(の発明の応用)
3)サミュエル・コルト大佐
言わずもがなのコルトパテントアームズの創業者で、パーカッションプライマーの単発銃を回転弾倉式にしたパターソンリボルバーで回転式拳銃の原型を確立した
それ以前にも銃身ごとレンコン構造にして回転する回転式拳銃はあったが、弾倉が回転するだけでも同様の火力が得られて小型化が可能になった
回転弾倉式拳銃のスタイルを確立したコルトパターソン(via Wikipedia eng)
4)ルイ・ ニコラス・オーギュスト・フロベール
リムファイア式の金属薬莢を発明して先込め式の単発銃を一気に時代遅れにした発明者
リムファイア式金属薬莢カートリッジ
銃の弾込めは一発数十秒から数分かかる作業だったが
金属薬莢の発明で数秒というオーダーに短縮され銃の火力が飛躍的に増大した
5)ダン・ウエッソン
フロベールから金属薬莢の特許を買い、コルトの開発者から貫通型回転弾倉の製造権を買って、SMITH & WESSONで世界初の貫通弾倉型リボルバーを実用化しこの後のリボルバーの形を決定付けた
世界初の貫通弾倉型リボルバー・S&W No2リボルバー
6)ヒューゴー・ボーチャード
世界初の「実用的な」自動拳銃を発明
遊底が後退して薬莢を自動排莢し次弾を自動装填するだけでなく、銃腔内圧が下がりきらないうちに遊底が後退して高圧発射ガスや鉛カス、薬莢が高速で後ろに吹き出す危険を避けるためにショートリコイルロッキングシステムまで完成させており、この後の自動拳銃の概念はほぼボーチャードによって完成されていた
世界初の「実用」自動拳銃ボーチャードC93(via Wikipedia eng)
7)モーゼル兄弟
ボーチャード拳銃の欠点の一つ、ストライカー方式の撃発メカの問題点にいち早く着目し、ボーチャード式の翌年にはモーゼルC96の原型となるモデルを試作。ハンマー式撃発メカ、ダブルカラム・ダブルフィードの弾倉、ロッキングブロックによるショートリコイルロッキングシステムなど自動拳銃のメカの源流はむしろモーゼルといえるかも
ハンマー式撃発機構、ダブルカラム・ダブルフィード弾倉、ブロックロッキングの
ショートリコイルメカなど自動拳銃の基本を確立したモーゼル
8)フリッツ・ワルサー
ワルサー社中興の祖でダブルアクションメカ、デコッキングセーフティ、ロッキングブロックによるショートリコイルメカなどの組み合わせでダブルアクション自動拳銃の一つのスタイルを確立。もっともこの時代以降は、発明の成果はフリッツ個人がというよりワルサー社の技術者の総力なんだろうけど
ダブルアクショントリガーメカ、デコッキングセーフティ、ブロックロッキングの
ショートリコイルメカなど近代的な自動拳銃の原型になったワルサー P38
9)グロックのエンジニア
もうここらになると名前もわからない氏名不詳にまたもどるが、銃器メーカーにとって死亡フラグに近かったストライカー方式+ポリマーフレームという失敗の予感しかしない構成を素人発想のセミダブルアクションメカ、AFPBS、金属サブフレームのポリマーフレームなどの組み合わせで実用化して、それ以降の銃のデザインを一新してしまった
ストライカー方式、ポリマーフレームという失敗確実な死亡フラグを素人発想ではねのけ
21世紀の銃器の基本デザインを変えてしまったグロックG17
という感じになるかな。
この人物列伝は、詳しい人が見れば「モーゼル兄弟からグロックの間がすごく空いてるけど?」という感想をもつに違いない。
そう口絵の写真でもピンとくるだろうけど、この年表のスキマは「ジョン・ブローニング」というガンデザイナーが埋める。
そして一人の個人が銃器の発達史に影響をもたらしたという意味では、ブローニングほど大きな影響があった人はいなかった。
ジョン・ブローニング(1855〜1926 via Wikipedia)
ブローニングが発明した銃器は米軍制式自動拳銃、ポケット自動拳銃、
7.65mm自動拳銃、38口径自動拳銃、上下2連散弾銃、リピーター散弾銃、軽機関銃、
重機関銃、分隊支援火器(BAR)また設計した銃弾は25ACP、32ACP、380ACP、45ACPと
9mmルガー弾以外のほぼすべてはブローニングの設計と言える
映画「プライベート・ライアン」のワンシーン
「ライベン、銃はどうした?」のシーンは英語ではWhere is your BAR!と言っている
BARはブローニング オートマチックライフルの略でGIにはもう普通名詞になっている
そのBARとはこれのこと(via Wikipedia)
BARは20発の30口径の小銃弾を機関銃のように撃ち出せる自動小銃で
のちの時代のアサルトライフルの原型とも言える分隊支援火器
これもジョンブローニングの傑作のひとつ
映画「砲艦サンパウロ」でスティーブ・マックイーンがBARで
孤軍戦うシーンがあってあれを見るとBARの重い発射音とか
連射速度とかの感じがよくわかる
BARというと猟銃射撃の趣味がある人はブローニングBARを思い出すにちがいない(via Wikipwdia)
こちらのBARは自動ライフルで日本製の猟銃だがこれはジョン・ブローニングの孫の設計
GIがいうBARとは直接関係がないが設計者はブローニングの血縁者ではある
ジョン・ブローニング本人が設計した猟銃はむしろこっち
今日の競技用トラップガン、スキートガンの主流になっている上下二連散弾銃の
最初の成功作はこのブローニング・スーパーポーズド(via Wikipedia)
それまでのハンドメードの上下二連に対して工業生産可能な設計になった初めての上下二連
そして猟銃射撃をする人にとって憧れの銃でもある
映画「フューリー」より
戦車のキューポラや操縦席の隣の席に
固定された30口径の機関銃はブローニングM1919重機関銃
この映画では1919が「マシーン」の愛銃としてそれこそ火を吹きまくっていた
ブローニングM1919はヨーロッパのビッカーズなどの先進的な機関銃に
追いつく機関銃という米軍の要望でジョン・ブローニングが設計した機関銃
戦車などの車載用以外に航空機用の機関銃として広く使用された
そしてジョン・ブローニングの設計の傑作といえばここでも以前取り上げたコルトM1911A1
米軍制式拳銃トライアルで第一次大戦直前に採用され第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、
ソマリア介入まで使用された超長寿命な自動拳銃
メリケン人にはフォーティファイブというだけで通じるぐらいの知名度
前回取り上げたコルト32オートことColt M1903 Hammerlessもジョン・ブローニングの設計
フォーティファイブがアメリカの将校の愛用銃なら1903は日本陸軍の将校の銃として愛用された
むしろ禁酒法時代のシカゴギャングの愛用銃としての方が有名かもしれないが…
映画「ターミネーター2」でシュワちゃんがくるくる回しながら
撃っていたM1887もジョン・ブローニング設計の散弾銃
ジョン・ブローニングのレバーアクション12ゲージショットガンのM1887
ブローニング自身はレバーアクションには納得がいかなかったらしく
ポンプアクションのM1897も設計して米軍、警察などの採用を勝ち取っている
そして「ターミネーター2」でT1000型ターミネーターが警備員から奪った銃が
ブローニング・ハイパワー、13連発の自動拳銃でこれとスーパーポーズドが
ジョン・ブローニングの遺作になる
つまりこのシーンはブローニング同士で撃ち合っていたことになる
ブローニング銃がなかったらアクション映画や戦争映画の何割かは成立しなくなる
こうしてジョン・ブローニングの代表作を並べるだけ、ブローニングがいかに偉大な銃器設計者だったかがわかる。
そして銃器の発達の歴史を語るときにジョン・ブローニングは外して語ることができない。
拳銃の世界でもM1911ガバメント以外に、オーストリア皇太子暗殺に使用され第一次大戦を引き起こしたM1910など有名な銃のあらかたを設計しているジョン・ブローニング自身は19世紀後半から20世紀初頭に生きた人で1926年に亡くなっている。
ブローニングが長年温めていた自動拳銃の構想を、基本設計図にしたためたところで寿命が尽きて結局完成を見なかったという遺作がFN ブローニングM1935「ハイパワー」
この銃の最大の特徴は片手射撃も可能な小さな拳銃に13発の9mmルガー弾を装填できるダブルカラムマガジンを内蔵することだった。
ハイパワーというニックネームも、まさに「高火力」という意味だった。
FN Browning M1935 Hi-Powerの実銃(上)とタナカ ブローニングM1935 ハイパワー(下)
ボーチャード、ルガー、モーゼルと自動拳銃は様々な形態でスタートしたが
結局自動拳銃に大きな影響を残したのはブローニングデザインのM1911やM1903だった
ハイパワーは主流になったブローニングデザインの集大成ともいえる
この銃は1926年に基本デザインされ1935年に完成している結構古い銃だが
20世紀後半のほとんどの各国の銃のデザインのベースになっている
実銃(上)とタナカのガスブローバックのハイパワー(下)の比較
プロポーションはかなり正確でマルシンのモデルガンの
間延びした雰囲気より実銃を正確に再現していると思う
ブローニングの特徴のチェンバーが下に落ちてロックが外れる
ショートリコイルシステムを再現しているのもアドバンテージ
Magnaブローバック以降の1ウエイガスブローバックなので
ホールドオープンするとエジェクションポートがぽっかり開くのが嬉しい
そしてスライドが後退すると銃身が上を向くのも重要なポイント
戦時型のM1935が再現されている
9mmパラベラム弾を使用するエジェクションポートの刻印
ハイパワーのメカの大きな特徴がシーソー型のシアレバーとシーソーを押すトリガーレバー
このトリガーレバーはマガジンセーフティが押されていない時には前進したままになり
引き金を引いても激発が起きない安全装置が組み込まれている
マガジンを挿入するとトリガーレバーは後退してシアレバーを押し上げることができる角度になる
このトリガーレバーが押し上げるシアレバーはスライドに組み込まれている
13発のマガジンをグリップに仕込むためガバのようにマガジンを
挟む馬てい形のトリガーバーは邪魔になるのでそのメカをスライドに移した
トリガーが引かれるとトリガーレバーがシアレバーの前部を押し上げ
押し下げられた後部がシアを押し下げてハンマーがシアから外れる
このメカのおかげで独立したディスコネクターは必要なくなり
故障が少ない動作確実なメカになった…実銃の場合は…
タナカのエアガンに関してはあまりにも実銃に忠実にパーツを作って
しかもシアレバーが亜鉛合金製なので一目見て「これは折れるぞ」と思った
実際撃っていたらピストンガイドと一緒に折れてしまった
もう見るからに「撃てば折れる」というシアレバーで実際に折れたので
嫌気がさしてしまい25年ぐらい前に購入してからまだ100発も撃っていない
しかしモデルガンとしてみたら明らかにマルシン製よりも出来がいいので
なんとかシアレバーだけでも強化パーツがないものかなと思っていたらあった
「戦民思想 ジュラアームB」という強化パーツでアルミ合金のアルマイト防食仕上げ
シアレバー組み込みの手順
スライドブリーチの右後ろの穴に六角レンチを入れて中のイモネジを抜く
イモネジが抜けたらダミーのエキストラクターが抜ける
ダミーエキストラクターがブリーチをロックしているので
これが抜ければブリーチも簡単に抜ける
こうしてダミーエキストラクター、ブリーチ+ピストン、ピストンガイドが抜ける
スライド右のシアレバーシャフトを外から押すとレバーごと抜ける
このシアレバーを「戦民思想」に交換する
ブリーチを組み込んでレバーが抵抗なく動くかを確認する
亜鉛合金製シアレバーに対してジュラルミン製がどれほど耐久性があるかは不明だが
メーカーは「強度的に壊れることはあり得ないので完全動作保証する」と言っている
すごい自信なのでちょっと期待している
スライドの組み込みは通常位置でスライドキャッチを半分ほど刺しておき
スライドをいっぱいまで後退させてセーフティでスライドをロックする
この状態でスライドキャッチを奥まで押し込むというのが正規の組立手順
こちらはドイツ軍P35用ホルスター
P35とは1940年にベルギーを占領したナチスドイツがベルギーのFNの工場を
接収してブローニングM1935をドイツ軍制式拳銃に採用した時の名称
P38用ホルスターとほとんど同一のデザインだがダブルカラムマガジンが入るように
予備マガジンポケットが少し深くデザインされている
入れてみた感じはかなりキツキツ
銃も予備マガジンもすんなりとは抜けない
軍用銃は即応性はあまり重視されていないからいいのかな
それより走り回っても銃を落とさないことの方が重視されている気がする
9mmパラベラム弾ダミーカート、ホルスターと並べてみた
「シアレバーが折れない」と思うだけで今まで
ジャンクだったハイパワーが急に輝いて見えてきた
実際にはもうそんなにバカスカ撃たないのに…
前置きがあまりにも長大になったので、今回はここまで。
次回もう少しハイパワーについて続ける……かもしれない…
2019年8月10日
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