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ヨーロッパ伝統のフリントロックモデルLiege XVIII
〜欧州の銃器産業の一つのルーツ・リエージュの里

Flint World

ヨーロッパ伝統のフリントロックモデルLiege XVIII〜欧州の銃器産業の一つのルーツ・リエージュの里

今回はヨーロッパの模造銃のコレクションについて。

ヨーロッパでは石造りの家が多く、居間には暖炉がある家も今でも少なくない。

そういう石造りの家の暖炉にちょっとした旧家なら、先祖から伝わる剣や武具、銃などを斜交いに飾るなんて光景は映画などでも見たことがあると思う。

そういうところに飾る銃はグロックやベレッタのCQB用のポリマーオートでは様にならない。
もちろんColtの6連発でも様にならない。
ヨーロッパなら飾るのはフリントロックマスケット銃でなくてはいけない。


FNブローニング・ハイパワーの頁で銃器の歴史を簡単にまとめたが、銃が兵器として実用的になった最初のステップが火縄銃からフリントロックマスケットに変わった段階だった。

火縄銃は16世紀に種子島に難破した欧州の交易船によって日本に伝えられ、日本で「種子島」と呼ばれるようになったというのは高校の日本史の教科書にすら書いてあるような有名な話だが、それから数百年日本では主力火器になったにもかかわらず、本家のヨーロッパでは短命な兵器だった。

火縄銃は兵器として使用するにはあまりにも不便だということでヨーロッパでは評判がよろしくなかった。

雨にも風にも弱く、しかも長時間待機していると火縄が燃えて短くなってしまうため常に火種がハンマーの先に来るように常時火縄に気を配っていないといけない。

火縄を火打ち石に変えることによって雨に弱いのはあまり変わらないが、火種の位置を常に気にかけている必要がなくなった。
その結果懐から抜き撃ちしていきなり発砲することもできた。
キャプテンドレイクやパイレーツオブカリビアンのような海賊映画の時代の銃へと進化した。


またヨーロッパには紳士の揉め事は、その名誉をかけて決闘で決着するという風習もある。

決闘はサーベルか銃かを双方が合意して選択し命をかけて戦う。

キューブリックの映画の「バリー・リンドン」などを見れば当時の決闘の様子がわかる。
決闘は紳士にのみ許されており、紳士が名誉をかけて闘うのであらゆる法規や軍律よりも優先するというのがこの当時の考え方だった。
もちろん双方合意で闘うので勝った方は事後に殺人罪に問われたりもしない。

決闘が法律で禁じられたのは19世紀末のことだったか、確かわりと最近の話だ。





スタンリー・キューブリック監督映画「バリー・リンドン」より
18世紀の決闘風景では双方が信任した審判が銃に弾を込め
決められた歩数離れて審判が振り下ろした旗を合図に撃ちあう
どちらかが倒れるか降参するまで何度でもこの作法で撃ち合う
アニメなんかで良く見る背中合わせに歩いて振り向きざまに撃つというのは
アメリカ式の決闘作法でヨーロッパではやらないようだ




こういう決闘で使う銃はフリントロックマスケット銃でなければならない
というかこの時代の最新式の銃がこれなのだが…




こちらはヨーロッパ製のモデルガンのフリントロックマスケット銃
フリントロックマスケットだが銃身の下にローディングスティックが
差し込まれていない簡便なセットは「デュエルピストル」と呼ばれる
「決闘用の拳銃」という意味だ




ヨーロッパのオークションサイトでは「銃身は真鍮製」と書いてあったが
磨いてみると真鍮製ではなく亜鉛合金製に真鍮メッキが施してあるようだった




銃把(グリップ)は「象牙風」と書いてあったが勿論本物の象牙ではなくこれも樹脂製
見た目はなかなかリアルに仕上げてあるが銃身もグリップも
亜鉛合金や樹脂のキャスト製で実は見た目の割には結構安い
ヨーロッパのオークションで5000〜8000円ぐらいで売買されている




発火方式は火打ち石を擦ってその火花で
発火薬に点火して発砲するフリントロック方式
メカは故障のしようがないくらいにシンプル




このモデルはグリップ以外は金属製でずっしりと重くリアルなんだけど
トリガーガードの内側にパーティングラインが残っていたりしてキャスト製の名残
最初ハンマーやフリズンにも派手にパーティングラインが残っていたのだがそれは消した
トリガーガードの内側は分解法が分からないため諦めた




フリントロック銃の機関部のメカの構造
ハンマーのヘッドには火打ち石がグリップに挟まれていて
フルコック位置から引き金を引くとハンマーが落ちて火打ち石がフリズンに衝突する




フリズンに衝突した火打ち石はジッポーの火打ち石よろしく派手な火花を火皿に降らせる
フリズンはハンマーが衝突した衝撃で開くようになっており火花は火皿の点火薬に点火する
火皿の横に銃身の中まで繋がる小さな導火孔が開いていて
そこから銃身内のプロペラント(推進薬)に点火する
その結果撃発が起きて銃身に込められた鉛の球が発射される
銃身にはライフリングは切られていないので「マスケット(滑腔銃)」と呼ばれる




発砲が完了したらハンマーをハーフコックまで戻して
銃身に推進薬と鉛玉、火皿に発火薬を込め直す




装薬が終わったらフリズンを閉鎖位置に戻して次弾の発射準備完了
近代のカートリッジ式の銃と比べると装填がとてもめんどくさい
故に紳士の決闘用としてズルもできない構造だから
決闘なんて風習が認められていたのかも
今だったら18世紀式の決闘なんて17発のパラベラム弾を
お互いにバカスカ撃ち合って二人とも助からないという作法だ




マスケット銃の全景
ちなみにこのフリズンスプリングはダミーのモールドでフリズンに
テンションがかかっていないので発火モデルに改造するのは不可能だ
暖炉に飾る以外の用途はなさそうだ




グリップは樹脂製と書いたが遠目には象牙にしか見えないかもしれない
当然18世紀の実銃の時代にはこれらの
エングレービング(装飾模様)はすべて手彫りだったはず








入手した時には錆び付いて炭みたいに真っ黒だった銃身だが
磨くと真鍮メッキの輝きが戻ってきた
ブルーイングができないか試してみたがブルーイング液はうまく受け付けなかった




ところでフレームの左に「Liege XVIIIeS」という刻印が気になって調べてみた
これは実銃にこういうモデルがあったというわけではなくヨーロッパの銃の
発祥地の一つリエージュの18世紀ごろのマスケット銃をモデルにしたという意味らしい




リエージュというのはベルギーの第5都市という静かな地方都市
この町の名産のリエージュワッフルは日本人には「ベルギーワッフル」としておなじみ




そしてこの町は銃の名産地としてもマスケット銃の時代から有名
(上)はリエージュ銃器製造組合のホームページよりリエージュマスケット銃(実銃)
(下)は今回のモデルガン「Liege XVIIIe S」
リエージュの町では今でもこの伝統的な銃の製造を継続していて
ヨーロッパ中の金持ち、旧家の暖炉を装飾する銃を作り続けているらしい
サムライがとっくに絶滅した日本でも未だに日本刀を打つ刀鍛冶がいるのと同じようなものだ




リエージュで製造された水平二連銃の猟銃の機関部分
美しいケースハードゥン仕上げがかかっており猟銃としての実用性も
さることながらやはり装飾品としての美しさが重視されているようだ


このマスケット銃のモデルガンの刻印が気になって調べていていろいろ面白いことがわかった。

拳銃のことを英語では「ハンドガン」というがヨーロッパではむしろ「ピストル」と呼ぶことが多い。

これは短銃を製造し始めたイタリアのピストリア地方の地名をとってそう呼ぶようになったためだ。
日本でも火縄銃を伝来の地名から「種子島」と呼ぶのと同じようなことだ。

ピストルの製造はイタリアから始まったようだが、ヨーロッパのあちこち数カ所で鉄砲の産地として有名な土地がのちに出てくる。

ベルギーのリエージュもその一つで、この地で育った手工業の銃器製造がのちに産業化されFNハースタル社にとなった。
あのジョン・ブローニング設計のブローニング・ハイパワーを最初に製品化したFNハースタル社だ。

この古式銃が意外なところで近代拳銃のベースを作り上げたハイパワーとつながった。

FNハースタル社は今でも最新式のポリマー小口径拳銃FN57、小口径ブルパップカービンの P90などを開発して世に送り続けている。

歴史というのは連綿とつながっている。




2019年8月28日
















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