Previous Topへ Next

SFのマストアイテム光線銃の行方
〜SF映画・ドラマ・アニメに登場するプロップガンン

Si-Fi Guns

SFのマストアイテム光線銃の行方〜SF映画・ドラマ・アニメに登場するプロップガン

もう十数年も前の話になるけど、海外の放送ネットワーク担当者とコンテンツの共用について話し合った時に、日本側の提案を聞いたシンガポールのアジア担当役員が
「イッツ サイファイ!」
と言ったのが印象に残っている。

「サイファイ」というのはSi-Fiつまりサイエンスフィクションのこと。

これはどういうニュアンスかというとサイエンスフィクションは日本語では空想科学小説とか訳されているが、英語のニュアンスは「荒唐無稽な戯言」ということらしい。

つまり
「イッツ サイファイ!」
というのは日本のビジネスマン用語に訳すと
「それはただのファンタジーだよ」
というかなり強めの否定的コメントということになる。

科学的成果に基づいた空想小説というのが元々の意味のSi-Fi-が、海外ではパルプフィクションの普及で「アホな娯楽小説」ぐらいのニュアンスとして浸透しているようだ。


そのSFで絶対に実現しない3つの小道具というのが挙げられていたことがある。

SFではすっかりおなじみのアイテムだが、現実にはいくら科学が進歩してもこれだけは実現しないという3種の神器は
タイムマシン
ワープ航法
光線銃

ということになる。

これらがなぜ実現しないかというと、細かく論証すると長くなるのだが要するに「タイムマシン」はもし実現すると「タイムマシンパラドックス」という因果律の崩壊が避けられず、ワープ航法が実現すると「光速不変・光が不変で時間が相対性を持つ」という相対性理論と衝突して物理学を根本的に見直さないといけなくなるなどがこれらが絶対実現しない根拠で、もし実現するなら人間の世界観そのものがドラスティックに変化しないといけないという問題を含んでいる。

光線銃は絶対に実現不可能かというと、そうとも言えないのだがただすでに人類は火薬で鉛弾を発射する銃を何世紀も前から実現して、その性能も洗練されてきているのに片手で射撃できるようなコンパクトな光線銃でこれを上回る性能を追求するのはあまりにも経済性を無視していないかという意味で、ほぼ実現不可能とされている。

禁断の惑星

SFの小道具として光線銃が定番になったのは、H.G.ウエルズの「宇宙戦争」に登場する「熱線砲」からパルプフィクションに広まった「レイガン」からだという解説がWikipediaに書かれていた。

映画的には1956年のMGM映画「禁断の惑星」が定型化した作品だと思う。

「禁断の惑星」は古典的なSF映画なんだけど、いくつかのちのSF映画の興隆につながった画期的な特徴がある。

パルプフィクションの後追いをしていたスペースオペラ的な荒唐無稽、意味なし、科学性なし作品というのがSFの定番(フラッシュゴードンとかバーバレラとか)なのに対し「イドの怪物」という人間の深層心理、文明が滅亡する理由などのウエルズ的な考察がテーマに含められる

バロン夫妻のミュージックコンクレート+電子音楽だけで映画音楽を作ってしまったサウンドの前衛性も画期的だった。

23世紀の宇宙海兵隊が、遭難した移民船が着陸した惑星に生存者を捜索に行くという設定に合わせて、隊員が持つ銃も火薬式の銃ではなく光線銃が選ばれたのものちのSF映画の定型になってくる。





「禁断の惑星」の隊員が所持する拳銃型光線銃の発砲シーン
俳優さんは銃を構えているだけで光線はオプチカルエフェクトで
現像後にフィルムに描き込まれている
トラのような猛獣も一連射で蒸発してしまう強力な兵器という設定
このほかに小銃型の光線銃、大砲型の光線銃などが登場し
この映画が未来の兵器のあり方を示した




円谷特撮作品「ウルトラセブン」
よりモロボシ・ダンの発砲シーン
光線銃は子供向けSF番組のマストアイテムになった


「禁断の惑星」はSF映画としては空前のヒット作になり、扉絵のブリキプレスの光線銃のオモチャは1950年代から60年代にかけての幼児がいる家庭には必ず一家に一丁はある定番オモチャになった。

この光線銃という兵器は、銃口から火を吹いて鉛玉を飛ばすテッポと違っていかにも洗練された未来的な兵器に見えた。

しかし実際に鉛玉を飛ばさずに光線で目標を破壊、怪物などを殺傷するなどの威力を持たせるとすると、これの実現性は極めて疑問が残る。
使用される光線は炭酸レーザーとかメーザーとか幾つかの方法に絞られてくる。

レーザーポインターなどに使用される赤い光線が出るヘリウムレーザーはいくら高出力にしても人の網膜を傷つけるのが精一杯で、これに殺傷能力を持たせるのは不可能だ。

炭酸レーザーなら今でも金属加工、レーザー溶接などに使用されているので兵器への転用は可能だろうけど、これは装置が馬鹿でかいので個人が担いで歩き回れるような大きさではない。

高周波を収束するメーザーも大体似たような事情で、インディビジュアルウエポン(個人兵装)に転用するには、現在のテクノロジーでは難しいかもしれない。



AKIRA

今現在のテクノロジーでは無理でも、未来の技術が進歩した時代なら個人兵装の光線銃が実現しているかもしれない。

と、1988年に劇場公開された「AKIRA」の作者は考えた。

時代は公開時の30年後の未来2019年、翌年に東京オリンピックを控えた東京での話…

第三次世界大戦の荒廃から復興してきた日本で、突然超能力を持った少年たちが現れる。

この少年たちの一人が暴走して街を破壊し始める。

このため出動した自衛軍の兵士たちが担いでいる銃が、まさに小型化に成功した炭酸レーザー銃のような銃だった。





高速道路上に現れた少年を「阻止」するために自衛軍の射撃隊が構えた光線銃の発砲シーン
炭酸レーザーは実際には紫外線のような不可視光線を使用するので撃っても光線は見えないはず
ただ照準を射手にわかりやすくするために発砲と同時に可視光線の
ヘリウムレーザーも発光するという仕組みというのはあり得る




炭酸レーザー装置は現在は大型のプラントだがこの時代にはバズーカ程度のサイズになっており
肩から自動車電話のようなパワープラントをぶら下げて繋いで担ぎ回れるサイズになっている
さすがに拳銃サイズは無理だろうということでこのサイズで妥協した現実的な設定だ


この作品に登場する光線銃はなかなかリアルで「ありそう」なサイズに設定されている。

ただし残念なのは作品の設定の2019年はもう今年になってしまい半分も過ぎようとしているが、いまだにこのバズーカサイズの光線銃も実現していないし、今でも経済効率は火薬式の自動小銃の方がはるかに高いという問題も解決していない。

光線銃による警備は東京オリンピックには間に合いそうもない。



COWBOY BEBOP

そして時代は人類が荒廃した地球を離れ宇宙に進出して、恒星間の航行も可能にして宇宙に植民地を開拓し、そこに怪しげな悪党どもも集まってきて、そういう手合いをしょっ引く賞金稼ぎも現れるという「宇宙フロンティア」の時代。

年代設定はどれくらいかはわからないが、おそらく「AKIRA」の100年後、「禁断の惑星」の100年前ぐらいのあたりか。

この2000年代の作品になってくると、もう光線銃はすっかり諦めてしまったようだ。

登場人物はみな火薬で鉛ダマを飛ばすテッポを使用している。





タイトルバックのスパイクの銃




これはどノーマルのジェリコだった




タイトルバックに登場するジェットの銃




これもシルエットから明らかにワルサーのP99だった




ジェットの銃のディテールがわかる発砲シーン




割とオリジナル通りのどノーマルなワルサーP99だった
ちょっと感心したのがジェットの銃の構え
指のかけ方がちゃんとしたシングルアクションのそれだった
作画スタッフに銃に詳しい人がいるようだ




賞金稼ぎ仲間(と言いながら頻繁に抜け駆けもする)のフェイの銃




これまたどノーマルのグロックG19


この銃の選択はどうやら21世紀末ごろの「ノスタルジア」なのだと感じた。

今の21世紀初頭の時代でも、1911年に完成したガバメントを頑なに使用するアクションヒーローがいる。

すると21世紀末にも頑なに古臭い銃にこだわるヒーロー、ヒロインたちが選択する銃はちょうど今現在新式の銃であるP99やグロック、ジェリコのような100年前の銃のはず、という設定なのかも。

このアニメの時代にはグロックなんてもう古臭い時代遅れの銃になっているのに、相変わらず「こいつが一番信頼できる」という理由でグロックを使い続けるような登場人物たちの性格描写なのかもしれない。

光線銃は一つも出てこないが、これはこれで面白い選択だと思う。



攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX

そして時代は
企業ネットが星を被い
電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消滅するというほどには
情報化されていない未来。

結局SFは実現不可能な三種の神器を諦めてしまい、現実的な地球の上での活動を情報化により海中に潜るように深化させ、タイムマシンのような因果律を破壊する可能性があるアイテムではなく人間そのものを情報端末に変えることで空間的、時間的制約から離れることを可能にし、そして相変わらず光線銃ではなく火薬で鉛玉を飛ばすテッポを使用している。

その鉛玉をを飛ばすテッポも現在存在するメーカーの最新式銃のデザインを、少しだけ未来的にアレンジした「ありそう」なデザインで登場する。

劇中の銃のうちトグサが使用するマテバに絞って細かく見てみる。





攻殻機動隊に登場する銃のうちキッチュな人気があるトグサ愛用のマテバ
マテバの特徴であるバレルウエイトの下に銃身がある構成がわかる




マルシンが一時期マテバのM2006を「トグサの銃」として販売していたが
トグサが実際に使用している銃はM2006にはあまり似ていない
設定上は「マテバM2007-9mmパラベラム仕様」ということになっているらしい




笑い男による総監暗殺未遂事件の回で見ることができるトグサのマテバのディテール
一番特徴的なのはシリンダーにフラットなフルート(肉抜き)があること
マルシンがモデル化したM2006は肉抜きなしの丸いシリンダーだった
他にもシリンダーヨークの形状、トリガーガード周りの形状から
これはM2006とは別系統の銃だとわかる




トグサの銃に一番近いのはマテバのモデロ6ウニカだと思う(Wikipediaより)
これはリボルバーでありながらオートマチックで発射と同時にハンマーコックと
シリンダー回転を行い連射時のトリガーは常にシングルアクションというリボルバー式自動拳銃
上のディテールと見比べるとウニカのフレームにM2006の
バレルを組み合わせたのがトグサの銃というイメージだ




こちらは実銃のマテバM2006M(Wikipediaより)
マルシンの「トグサの銃」のパッケージにはM2007と書いてあるが
マルシンがモデル化したのはこのM2006Mそのもの




攻殻機動隊のワンシーン
6発撃ち尽くして次の6発をスピードローダーでリロードするシーン
シリンダーが上ではなく従来のコルトやS&Wと同じように左下にスウィングアウトしている
さらにシリンダーの上のフレームはM2006のようにクローズドではなくオープンになっている




こちらは実銃のモデロ6ウニカのシリンダースイングアウトの様子(Wikipediaより)
シリンダーのスウィングアウトする方向やシリンダー上のフレームがないなどの特徴から
トグサの銃は明らかにモデロ6ウニカをベースにしていてM2006とは別系統の銃


攻殻機動隊では時代設定が21世紀中盤なので銃も、光線銃などという突拍子もない銃ではなく2000年代現在の時点で現実に存在する実銃を「少しアレンジした」銃にデザインされている。

モデロ6ウニカにM2006Mのバレルを組み合わせるなんてデザインはいかにもありそうで、実際マテバは攻殻機動隊のおかげで日本だけでなくアメリカでも人気が出始めているので攻殻機動隊とタイアップ企画で「トグサモデル」なんて出せば面白かったかもしれない。

しかしもともとパスタ製麺機工場だったマテバの息子の道楽の銃器製造は、結局軌道には乗らずモデロ6ウニカも構造が複雑で高価な割には装弾数は6発のママと、リボルバーの悪いところとオートの悪いところをくっつけたという評価で受けることなくマテバは倒産してしまった。

今でも元の製造メンバーが移ったローカルガンメーカーで細々とM2006やウニカの生産は続いているらしいが、そこではさすがに「トグサモデル」なんて売り方をするような元気はなさそうだ。




2019年9月1日
















Previous Topへ Next





site statistics
青木さやか