CzのP09〜8の次は9でしょ、だからKJワークスのCz P09を入手、P09を実際に握ってみて「サラブレッド」という言葉を連想した
以前にも書いたが80年代のある時期、テッポ関係の雑誌各誌でチェコスロバキアのCz75が絶賛されていた時期があった。
当時はまだベルリンの壁が崩壊する以前のことで、チェコスロバキアという国は東欧共産圏の国の一つでワルシャワ条約機構にがっちり組み込まれた赤い国だった。
ソ連の衛星国としてNATOやアメリカと敵対していたこの国は共産圏のベールに包まれた謎めいた国だった。
その当時はガラス工芸が特産ぐらいのどちらかというと地味な国という印象だった。
その謎の国チェコスロバキアの国立兵器廠「セスカ・ズブロジョフカ(当時の表記)」が1970年代に開発した軍用拳銃がCz75だった。
このCz75はアメリカの著名なコンバットシューティングのチャンピオンが
「世界一のコンバットピストル」
と讃えたという話が紹介され、西側ではもはやS&Wやコルトのビンテージモデルのリボルバーでしかやらないような美しいブルーイング仕上げだったことも相まって、日本で大変な人気になった。
Cz75に関しては幾つか誤解がある。
ジェフ・クーパーが言ったのは正確には
「これが45口径だったら世界一のコンバットシューティング(マッチ用の)ガンになったのになぁ…」
ということだったそうだ。
「Cz75は極限まで肉抜きされているので落としただけで狂ってしまうという弱点があり人気が下火になった」
という解説もよく見かけるが、それも間違いでオートマチックの拳銃は硬い床に落とせば大抵のモデルは何処かが狂ってしまうのでCzだけが特別弱かったというわけでもない。
Cz75の人気が落ちたのはむしろお国の事情だと思う。
チェコスロバキアはプラハの春事件などで見られるように、東欧諸国の中でもソ連べったりというわけではなく常に揺れ動いていた国で、70年代後半には共産主義政権と人権派の相克もあり政情は不安定だった。
そして1989年には共産党政権の維持も放棄し、93年にはもともと民族的にも別々だったチェコ共和国とスロバキア共和国に分裂してしまった。
ワルシャワ条約機構時代の国立兵器廠だったセスカ・ズブロジョフカも、その間に民間企業に移管になったりでかつてのコスト度外視の美しい仕上げの工数を維持できなくなってきた。
Cz75のような微妙な設計は材料の鋼材の品質が高かったから性能が維持できたので、セカンドモデルで質を落としても精度を維持できるように設計も変更されたが、その間ブルーイング仕上げも焼き付け塗装仕上げに変更されたり、だんだん西側の普通のグレードのテッポに近いところまでクォリティが下がってきた。
かたや西側でCzの設計を生かしてクーパーの希望通り10mm口径に設計変更されたブレンテンや、スイス時計の精密工作技術で再構築したSPHINX、イスラエルのIMIが再設計したジェリコなど様々なCzクローンが登場した。
そのうちブレンテンは大失敗したが、SPHINXやジェリコはなかなかの人気を博したので
「なにも高価なCz75のビンテージモデルをオークションで買うことはない」
ということで人気が下火になったというのが事実だと思う。
Cz75を愛用したプロのターゲットマッチシューターは一人もいなかったし、本国を除いてどこかの国の警察や国軍で制式採用されたという実績もない。
あえていうならCz75(のコピー品)を制式採用したのは北朝鮮軍ぐらいなものだ。
そんな調子だから映画にもほとんど登場しないし、結局騒いでいたのは日本の銃器専門誌の一部のライターたちだけで、世界的に見れば知名度はあるがさほど人気のある銃でもない。
映画に登場しないというのは決定的で、いまだにワルサーPPKが「ジェームズ・ボンドの銃」と紹介されて、そのために人気が今でもあるという事実を見ると映画の影響力は侮れない。
これはモデルガンやエアガンの人気の話だけでなく実銃の人気も同じことだ。
ではCz75は評判倒れのつまらないテッポだったのかというとそうでもない。
ダブルカラムのマガジンを採用したテッポで、ブローニングハイパワーとCz75ほどグリップが自然に握れる銃はなかった。
Smith & WessonのM59のシリーズなんかは恥ずかしくてCzの前に出られないぐらいの差があった。
スムーズなダブルアクション、エルゴノミクス的に究極まで洗練されたグリップデザイン、コックアンドロックが可能なセーフティ…これらの要素である時期やはり世界最高峰のハンドガンだったのは間違いない。
だからある時期日本では絶大な人気があったのかもしれない。
時は流れて2000年代に入る
Czは75を小改良した85を経てCz100なんてモダンなポリマーオートも作っていたが、このP09を2009年にロールアウトした。
このP09のエアガンが台湾のKJワークスというメーカーからリリースされていたので、それを手にいれた。
手に取ってみて驚いたことがある。
見た目はH&KのUSPやワルサーのP99のようなグロックフォロワーのポリマーオートのように見えるが、グリップを握った感触はCz75そっくりだった。
まさにCz75の血統で、「サラブレッド」という言葉を連想した。
Cz P09はグロック以来世界中の銃器メーカーのトレンドになったポリマーフレームを持つ
さらにそのフレームのダストカバーには20mmピカティニーレールも成形されているので
ライトやレーザーサイトなどのアクセサリーがアダプターなしで直接固定できる
見た目はモダンでタクティコーなオートマチックハンドガンということになる
(上)実銃のCz P09(チェスカ・ズブロヨブカ社のホームページより)(下)KJワークスのCz P09
プロポーションは完璧だが実銃のポリマーフレームはKJよりも深いシボがかかっているように見える
またセーフティの代わりにDAOアダプターが取り付けられている
(上)チェスカ・ズブロヨブカ社のP09実銃と(下)KJワークスのCz P09ガスブローバック
台湾メーカーとはいえKJワークスは日本のモデルガンメーカーの協力会社だったという血筋
プロポーションの捉え方は日本メーカーに通じるかっちりした作り
気がつく違いはサイトの高さがKJの方が高いということぐらいだ
今後のためにリファレンス用の右側のプロフィールショットも撮っておいた
レール付きポリマーフレームにSIGタイプのエジェクションポートでロックするタイプのショートリコイルメカ
アンビセーフティが外観上の特徴だ
顎がごつい四角い顔をしたオートマチックは
グロックのG17の成功以来世界中のスタンダードになった
見た目はいかにもなグロックフォロワーという感じのテッポだ
スライド先端には製品名の「DUTY」の刻印
フレームには「DESGINED IN CZECH REPUBLIC」
という刻印と英語圏向けの「マニュアル嫁」という刻印
サイトは白のインレイの入ったモダンなロープロファイルタイプ
視界はこんな感じで標準的な狙いやすいサイトだ
フレームの右側には控えめに「MADE IN TAIWAN」の刻印
凸型の刻印なのでこれが気に入らない人は削り落としてくださいと言わんばかりだ
P09のグリップレイアウトはシルエットを見れば懐かしのCz75のグリップとそっくりな形をしている
そしてパッと見た目すごく気になるのがトリガーの上の斜めに入ったグルーブ
これが何のためにあるのか握ってみて判明した
詳細は後ほど
スライドが後退するとバレルが上を向くブローニングタイプのショートリコイルメカ
それにSIGタイプのエジェクションポートがロッキングカムを兼ねるなど今時のオートのスタンダード
そして外装式のエキストラクターに斜めにカットされたエジェクションポート
スライドセレーションは前後二箇所に入っているという今時風のデザイン
セーフティレバー周り
左がスライドキャッチレバー、右がセーフティでこれはハンマーをコックした時にだけかけられる
実銃ではハンマーダウン時もセーフティがかけられるように改良されたという話も聞くが
実銃のメカの詳細の資料が手に入らなかったので確認できていない
ハンマーをコックするとセーフティをかけてコックアンドロックできる
この時にスライドもロックして動かなくなるのがガバ的でアメリカ人は波長が合うのかもしれない
KJワークスのマガジンはジンク製だが塗装されていて実銃の焼き付け塗装仕上げの雰囲気に近い
実銃はこのマガジンに9×19弾(9mmルガー)が19発入る
Cz75と比べて4発も装弾数が増量された
フィールドストリッピングの手順はCz75と全く同じ
スライド後端の印をフレームの印と合わせる
するとスライドキャッチレバーが右のシャフトを押すだけで左に抜けてくる
この時に必ずマガジンを抜いていることを確認すること
これでこの状態まで分解できる
ホップの調整と通常の注油程度のメンテナンスはこの状態で十分
ショートリコイルメカのチェンバーがティルトするガイドはとてもシンプル
インナーバレルの下についているマイナスネジでホップの調整をする
フレーム側のシアメカはKSCのCz75と左右が逆になっているだけでとても似ている
KJワークスはMGCの協力会社だったという話も聞いたことがあるが
KSCもMGCの流れなので両者は割と近い血統なのかもしれない
ハンマーダウン状態でマガジンを挿すとバルブノッカーはバルブを叩ける位置ではなく
バルブに押し上げられて上にそれた位置に持ち上げられるので
ハンマーを下に落下させても暴発は起きない
ハンマーをコックするとバルブノッカーは後退してバルブと
正対するのでバルブを叩ける位置関係になる
セーフティをかけるとシアが入るセーフティシャフトの
切り欠きがズレてシアが下がらなくなりロックされる
このシャフトの根元に半円形のロックがスライドの
切り欠きに噛み合ってスライドもロックされる
顎には20mmピカティニーレールが直接成形されている
試しにマルゼンに付属していたワルサーのライトアタッチメントをつけてみた
当たり前だがぴったりとはまる
ちょっと驚いたのがスライドストップの噛み合うスライド側の切り欠き
これがブローバックしていると削れてスライドストップがかからなくなるというのが
ABSガンあるあるなのだがその修理法としてここにスチール線を埋めるという修復をよくやる
KJワークスは最初からここに金属の線が埋め込まれているのであるあるトラブルが予防されている
ブローニングタイプのショートリコイルロッキングメカは実際にロックしている
スライドが前進している時はアウターバレルのチェンバー部分は上昇して
エジェクションポートががっちりかみ合い固定される
スライドが後退するとアウターバレルのチェンバー部分は
下に沈んでエジェクションポートのロックは外れる
インナーバレルはこの間水平にしか動かないので狙点はずれない
大抵のオートはスライドがフレームを包む形でスライドレールが形成されているが
Czは75以来の伝統でフレームがスライドを包む形でレールが構成されている
見た目はモダンなグロックっぽい外観だがメカなどの形は結構伝統を守っている
KJワークスP09のブローバック
KSCのCz75のブローバックはドシャッドシャッという感じの遅いブローバックだったが
KJはビシッと鋭い感じのキックで動きも速い
後日命中精度も確認してみるがゲーム用なら10メートル先のマンターゲットに
命中すれば十分なのでグルーピングを取るのはあまり意味がない気がする
この銃でAPSに参加するわけではないしサバゲで40メートルのスナイピングをやりたいなら
最初からエアコキのボルトアクションを使えばいいんだしガスブロに命中精度を求めるのは
なんだか方向性を間違えている気もしている
目をつぶってグリップを握ればわかるがCz75のデザインは忠実に守られている
同じ感じがするが目を開くとグリップはすごく長くて指一本分余っている
私の手は日本人の平均より大きめだがそれでもこれだけ余る
ここに19発のパラベラム弾、または15発の40S&Wが装填できる
ところでこのフレームの横の気になる滑り止めのグルーブだがこれはこうやって使う
トリガーの前に左手の人差し指をかけるコンバットシューティングスタイルの時に
左手の親指がちょうどここに来るのでここに滑り止めをつけたということらしい
コンバットシューティングスタイルはスライドキャッチやスライドに親指が干渉して
実戦では問題になることがあるがこれなら実戦でも大丈夫ということらしい
スライドをフレームが包むCzならではのアイデアだ
(上)KSCのCz75と(下)KJワークスのCz P09の比較
見た目は全然違うがメカも操作法も結構共通点が多い
Cz社の公式データを見るとCz75は9mmルガー弾が15+1(ワンインチェンバーの弾数)
P09は19+1と4発もアドバンテージがある
弾数にアドバンテージがある分P09はグリップは少し長くなったが
マガジンは分厚くなったにもかかわらずグリップの厚さは逆に薄くなった
グリップパネルがなくなった一体型のポリマーフレームの優位性が活かされた
こうして比べるとシルエットは全く同じで握り心地はCz75そのものだがP09の方が細く感じる
そしてグリップ後部のパネルを交換して手の大きさに合わせることができるのも今風のスタンダード
ロッキングする場所は違うがブローニングタイプのショートリコイルメカは同じ
考えたらアグレッシブな外観にもかかわらず結構コンベンショナルなメカだ
(下)Cz75ファーストタイプ(中)Cz75セカンドタイプ(上)P09
一貫して共通しているのはトリガーガードの下の付け根が上に削り込まれていて
ビーバーテイルも相まってハンマー方式にもかかわらずハイグリップが可能だということだ
世界中の銃器メーカーがグロックの影響でストライカー方式に移行する中
安心の枯れた技術のハンマー方式にこだわるチェスカ・ズブロヨブカのポリシーを感じる
(上)Cz75と(下)H&K P8
最新のデザインと枯れたメカ技術の組み合わせ
ということで言えばH&KのUSP/P8もそうだ
P7やグロックのG17のような先進的なメカも魅力的だが
道具としてはこういう組み合わせの方が安心する
KJワークスの箱にあった正式ライセンス商品の表示
チェスカ・ズブロヨブカのトイガンライセンスはスウェーデンの会社が管理しており
KJワークスはそこと正式にCzのマークを使用するライセンス契約をしているとの説明
もうこの模型やおもちゃにも正式ライセンスが必要というのは慣例法になってしまっているようだ
KJワークスのCz P09のメカが実銃にどれくらい忠実かはよくわからない。
かなりKSCの影響を受けている気がするし、省略されている気もする。
実銃はハンマーダウン状態でもセーフティがかかる点がCz75と違うとも聞いているし、デコッキングメカを搭載しているとも聞く。
またこれがCz P09の最大の特徴だと思うのだが、セーフティレバーのユニットを交換することでDAOモデルにコンバージョンできるとのことなので、そこらを再現してくれたらすごくポイントが高かったのにと惜しまれる。
Cz P09はそういうメカ的な先進性もちゃんと盛り込んでいるが、基本はCz75の流れを脈々と継いでいる。
連想した「サラブレッド」という言葉は「THOROUGH(純粋)BRED(血統)」という造語で、アラビア種の馬を元に品種改良された競走馬だけに許される純血種の馬だけの呼び名だとか。
Cz P09をいじってみて、見た目は全然違うがやはり血統というのはあるのだな…というような感想を持った。
面白いな。
面白いからこそ、ここは頑張ってP09のセーフティメカやDAOコンバージョンメカも再現してほしかったなと思う。
でも台湾メーカーって今まで華山のマッドマックスタイプのショットガンぐらいしかいじっていなかったけど、なかなかレベルが高いなと感じた。
2019年11月10日
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