Beretta PX4 Storm〜東京マルイ製のベレッタ「嵐」はやはり洗練された美しさだった
日本車のデザインは無個性で、ヨーロッパは伝統の個性を守り続けているのでやはりヨーロッパ車は日本車より優れているという議論がある。
例えばベンツの楕円形のフロントグリル、
BMWの豚の鼻のような二つ穴のフロントグリル、
ロールスロイスのイオニア建築のようなフロントグリル…
フロントだけでなくフェラーリのレーシングカーのシャーシにフルカバーのボンネットをくっつけただけのような車体構造、
板金プレスを組み合わせて遠目に微妙なカーブに見える車体のシトロエン…いろいろ各メーカーこだわりがある。
それに比べてトヨタの定番デザインは?
日産の定番デザインは?
ホンダの定番デザインは?…
となって
「日本車には個性がない
ヨーロッパ車には各メーカーに唯一無二の個性がある
よってヨーロッパ車の方がデザインが優れている」
という三段論法になるらしい。
個人的には自家用車のデザインにはあまり興味がないのでベンツだろうが、トヨタだろうが自分の手に合った車に乗ったら良いんじゃないの?…としか思わないのだが、こういうデザイン論は確かにある。
銃器の世界は大きな流れを作ったコルト大佐、ジョン・ブローニング、グロックのデザイナーなどがそれまでのデザインを一新して世界中の銃器開発メーカーが一斉にそれに乗っかるという傾向だが、やはり車のように
「我が道を行く」
というメーカーも特にヨーロッパにある。
例えばその代表がイタリアのベレッタ。
ベレッタはその源流をたどると、16世紀にベニスの兵器廠にバレルを納入した記録にまで遡れる。
製鉄業が盛んだった北イタリアのガルドネで工房を営んでいたマイスターベレッタは、この記録によれば日本でまだ武田信玄と上杉謙信が川中島で激突していた時代から銃器の製造に携わっていたらしい。
まだ日本にマッチロック式銃(火縄銃)が伝来して20年ほどしかタイムラグがない。
そんな伝統ある銃器メーカーだから、自動車のフロントグリルのデザインのように伝統にこだわりがある。
ベレッタのこだわりとは誰もがそのデザインで一番目を惹かれるスライド上部のバレル周りの大きなカットだ。
ベレッタのトレードマークのスライド上部の大きなカットは自動拳銃の処女作のM1915ですでに完成していた
このカットは薬莢がエジェクションポートに引っかからないようにデザインされたという解説を時々見かけるが
その原型のM1915を見るとカットとエジェクションポートが分かれているので間違いだと思われる
このデザインを見るとスライドを軽量化するとかバレルの放熱を助けるとかそういう目的だった可能性が高い
そしてこれがベレッタの伝統のアイデンティティーになった
このデザインは70年以上ベレッタ自動拳銃のトレードマークになった
M92Fでもバレル上部からエジェクションポートまで広い範囲がカットされている
このデザインはこの後ブリガーディア・エリートにまで引き継がれたが米軍制式拳銃トライアルで
スライドの破損が問題になる要因の一つになった
このカットが問題なのではなくカットとワルサー式のプロップアップブロックロッキングの
組み合わせがスライドの設計を制約し現在のモジュラーピストルの流れに乗ることもできない原因になった
そしてM1915以来80年後にM8000クーガーでついにベレッタのトレードマークを捨ててしまった
クーガーではスライド上部のカットを廃止してブローニングタイプの自動拳銃のように
スライドがバレルをすっぽりと覆う形になった
ブローニング方式の軍門に下ったと思われるのがしゃくだったのかショートリコイルのロッキング方式は
ブローニングタイプのティルトバレルではなくバレルが回転してロックする独自デザインに変更された
さらに10年後2005年にベレッタは世界の潮流になっていたポリマーフレームを導入した「嵐」を投入した
角ばったデザインだったクーガーに比べてモダンなポリマーハンドガンなのに
どこか丸みを帯びた優雅なデザインになった
(上)Beretta PX4 Storm(Full size version)の実銃と(下)東京マルイのPX4ガスブローバックガン
マルイの電動ガンは過去にもいくつか所有していたがガスブローバックは初めて
ヘビーウエイトではないABS樹脂製だが非常にかっちりした作りで実銃の雰囲気を醸し出している
(上)Beretta PX4 Storm(Full size version)の実銃と(下)東京マルイのPX4ガスブローバックガン
PX4はメカニズム的にはクーガーとほぼ同じロータリーバレルロッキングのダブルアクション
グロックのようなセミダブルアクションという新概念ではなくM84やM92以来の伝統的なダブルアクションだ
デザインはモダンだが案外メカニズム的には保守的な構成になっている
マルイのPX4はガスガンなのでこの独特のロッキングメカを再現している
スライドストップがかかってホールドオープンした様子
メカは保守的だがポリマーのおかげでグリッピングは改善したしレバー類の操作感は悪くない
セーフティやスライドストップが指がかかりにくくて解除に失敗するということもない
そして近代のポリマーオートの通例で四角い面構え…なんだけど
G17やP8などの真四角な顔に比べるとどこか優美な曲線を感じる
スライドを固定するテイクダウンレバーはグロックと同じラッチ式に変更された
東京マルイはベレッタの商標権問題を回避するために刻印にBerettaの文字は無い
PX4StormとなっているべきグリップマークもPX4Customとなっている
マークもベレッタっぽいものが付いているがよく見ると三本の矢ではなく
稲荷神社の正一位紋章のような独自デザインでごまかしている
PX4のロータリーバレルロッキング(固定位置)
チェンバー右上エジェクションポートにロッキングラグが突き出している
スライド内側のリセスと位置が合っていないのでバレルはスライドにロックされている
少しスライドが後退するとバレルは反時計回りに回転する
ロッキングラグが回りきってリセスと噛み合いスライドが解放された状態
ロッキングラグの形はブロックのようなクーガーのデザインに比べて
四角いスライドに噛み合う形に洗練されているが動作の仕組みは全く同じ
ブローニングタイプのティルトロッキングの場合ホールドオープンすると
バレルは上を向くのが通常だがベレッタはまっすぐ狙点の方に向いている
これは弾着が散るのを防ぐのにある程度有効かもしれない
しかしPX4はサブコンパクトモデルではブローニング式のロッキングメカを採用しており
簡単な部品交換でフルサイズからサブコンパクトまで9mmから45口径まで対応する
というモジュラーピストルの概念実現に結局このメカが足かせになっている
米軍制式拳銃トライアルでSIGに負けたのもそれが原因かもしれない
実銃の評価は分かれるところだがマルイのPX4は刻印以外はかなり雰囲気を再現している
メカもガスガンで可能な限り再現されている
ハンマーレストポジション
ハーフコックポジション
この状態からセーフティをかけるとレストポジションに安全に戻るのはM92以来の共通のメカ
ハンマーがフルコックポジションになった状態
フルコックになったハンマーがフレームの中に大部分隠れるのがモダンなデザインだ
セーフティをかけるとデコッキングメカにより
ハンマーダウンしファイアリングピンもブロックされる
マルイのガスガンもバルブノッカーをブロックするのでハンマーダウンのときだけでなく
セーフティ解除した後にハンマーを押しても暴発はしない
なかなか良くできている
グリップの後部も交換式になっていて標準のMと別にSサイズとLサイズが付属している
手の大きさに合わせて交換するが実銃はピンで固定されているのに対し
マルイはグリップ底を押すことでロックが解除されて実銃よりも優れている
特に理由がなければノーマルのMサイズでいいと思うが…
テイクダウンラグを引き下ろすとスライドがそのまま前に引き抜ける
数秒でフィールドストリンピング状態まで分解できる
マルイのPX4で感心したのはスライドストップが
噛み合う切り欠きの回りが金属部品になっていること
ここが削れてホールドオープンがかからなくなるというのが
ABSガスガンのあるあるなのでこの配慮は素晴らしい
外側の切り欠きは形だけのダミー
マルイの面白さはホップの調整が分解せずにできるこのギヤ構造
ギヤ経由でダイヤルを上に回せばホップは弱く、下に回せばホップは強くなる
バレルを回転させるカムとバレルの螺旋形の溝
KSCのクーガーとほぼ同じ構造だがバレル全体が回転するKSCに対して
マルイはアウターバレルだけが回転してインナーバレルは固定されている
命中精度的に有利なのはマルイ方式でメカとしてリアルなのはKSC方式ということになる
フレームの前部のアンダーマウンド回りは内側にしっかり
金属のサブフレームが仕込まれて強度を確保している
ポリマーフレームのアンダーマウンドレールはSIGや初期のグロックなど強く
締め付けすぎると歪んで動作に影響が出たり破損したりということが実銃でも起こった
PX4の実銃にもこういうサブフレームが仕込まれているのかどうか知らないが
もしそうならせっかくのポリマーの意味がない気はする
おそらくABS製のガスガンの強度確保のためのマルイ独自構造か?
マルイガスガンのバブルノッカーリリースの動き
スライドが戻った状態では下に見えるノッカーはマガジンのバルブに当たる位置にある
スライドが後退するとノッカーリリースが押し下げられ
ノッカーは後退して再びバルブを打撃できる位置になる
セーフティによるハンマーダウンなどのデコッキングは
デコッカーピースを押し下げることで動作する
セミオートを実現するディスコネクターがグリップ内側から
突き出しているのは過去のベレッタメカと同じ
(上)KSCクーガーと(下)東京マルイPX4
(上)KSCクーガーと(下)東京マルイPX4
メカだけでなくサイズ的にも同じようなクラスの銃だが直線と平面で
構成されているにもかかわらずPX4の方が全体的に丸みを帯びたデザインになっているのが面白い
(上)マルシンダミーカートモデルのM92Fと(下)東京マルイのPX4
大きな要素はほぼ改変されてしまったにもかかわらずベレッタはやっぱりBerettaだった
トレードマークを廃してロッキングメカもフレーム素材も変更されたのに
なんとなくデザインに源流から引き継いだ流れを感じるのはどういう要素からだろう
PX4を初めて認識したのはクリストファー・ノーランの
「インセプション」という映画でデカプリオが使っていた銃としてだった
伝統のデザインを切り捨ててしかし操作法は全く同じになるようメカは伝統のまま
扱いやすい銃だと思うがトライアルで負けたのはやはりモジュラーピストルとして中途半端だったからか
評価は分かれるところだがなんとなく美しいデザインではある
個性がないと言われる日本車メーカーはベレッタから何かを学べる…かどうかは知らない
2019年12月4日
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