コルト M1861ネービーの所有者のカスター将軍って何者?…とかコルトのリボルバーの発達史とかこのテッポの周辺
フランクリンミントの「カスター将軍の銃」はモデル名がM1861 Navyというくらいだから1861年、19世紀の半ば頃に設計された銃。
この辺の時代の歴史や工業史については書きたいことが山ほどあるのだが、そもそもカスター将軍って何様?という話から。
小学生ぐらいの頃「宇宙大作戦(スタートレック)」と並んで当時の小学生にダントツの人気があった20世紀フォックスのテレビシリーズで「タイムトンネル(the Time Tunnel)」というアメリカのSFドラマがあった。
アメリカの国家プロジェクトで過去や未来に人間を送り込める巨大なタイムトンネルプロジェクトが秘密裏に推進されていたが、この未完成の装置が誤動作してしまい開発した科学者二人が過去や未来にランダムに飛ばされて回収不可能になる…というとてもスケールの大きいSFだった。
この装置の不具合はなぜか人類の歴史上の大事件のあった日時、場所にその直前に毎回二人を送り込んでしまうという不思議な不具合で、
「ランダムに過去に飛ばされるなら地球に酸素がなかった時代に飛ばされて数分で主人公が死んでしまうなんて確率がかなり高いはず」
とかツッコミを入れないで鑑賞するのがマナーだった。
そこはそれ、アメリカのテレビドラマだから…
20世紀フォックスのテレビシリーズ「タイムトンネル」のスチル(via
Wikipedia)
二人の男性の科学者がアリゾナ地下施設の巨大プロジェクト「タイムトンネル」を開発するが
予算打ち切りに反発して未完成のタイムトンネルに入ってしまい手前の女性科学者ら現代の
スタッフ総出で回収を試みるが制御がきかず、なぜか歴史的大事件のあった場所に次々二人は
転送されて時間の放浪者になってしまうというSF的には「どうなのよ」というドラマだったが
今にして思えばこのドラマのおかげで世界史に興味を持ったのだから大変教育的な番組だった
このタイムトンネルで二人が飛ばされるアメリカの歴史的事件の
最初が第5回目放送の「カスター将軍の最後」だった
肖像は「カスター将軍」ことジョージ・アームストロング・カスター中佐(via Wikipedia)
シリーズにはビリーザキッドやアラモ砦などアメリカ人に人気のあるエピソードも出てくるが、それらを抑えて最初に登場する西部開拓時代のヒーローが「カスター将軍」なのでよほどの人物かと思ってしまう。
二人は1876年6月24日のリトルビッグホーンに飛ばされ「カスター将軍」に出会う。
第七騎兵隊がインディアンとの戦いで全滅しカスターが戦死する前の晩というタイミングに。
二人はインディアンの急襲があることを警告するがカスター達は取り合わない…という内容だった。
カスター将軍もワイアット・アープやデイビー・クロケット、ビリーザキッドと並んでアメリカの西部開拓時代の人気のあるキャラクターだが、「傲慢で人の意見を聞かない」という評判も聞く。
このドラマもそういう定評を採用したのかもしれない。
映画に出てくるカスター将軍を追ってみるとこの人の毀誉褒貶がよくわかる。
モノクロ時代の西部劇「壮烈第七騎兵隊」ではエロール・フリンがカスターを演じる。
つまり2枚目の正義のヒーローとして描かれていた。
ところがアメリカの先住民族政策の問題が大きくクローズアップされ、1960年代の公民権運動などが社会的に盛り上がってくるとカスターは
「ワシタ河の虐殺事件で戦う意思のないインディアンの女、子供、老人に至るまで虐殺したダークヒーロー」
というイメージがついてしまった。
「ラストサムライ」でかつてカスターの元で戦っていたオルグレン大尉がカスターをひどく毛嫌いしているシーンが出てくる。
「わずか200人の手勢で2000人のインディアンに斬り込みをかけて戦死したカスターは英雄ではないか」
とカスターの戦いぶりを賞賛する勝元(渡辺謙)に対して
「傲慢不遜な男だ」
と吐き捨てるオルグレン(トム・クルーズ)というくだりだった。
この二人の見方の対立はまさに公民権運動以前と以後のカスター観の移り変わりを象徴していた。
カスターがアメリカで人気があるのはやはり南北戦争のゲッティスバーグなどの激戦地で戦果をあげて「義勇軍少将」にまで上り詰めた経歴によるものと思う。
南北戦争の初戦は北軍は劣勢だったが、カスターは南軍を次々と打ち破ったので気に入られた将軍の引きで大佐に昇進するが、その将軍がリンカーンと犬猿の仲だったので失脚し、あおりを食ってカスターも中尉に降格、しかしゲッティスバーグで戦功をあげて「義勇軍少将」というよくわからない位階に昇格、なんせ戦時中、しかも初戦では負けそうだった戦争の混乱の中だったのでジェットコースターのような昇進・降格を繰り返した。
正規軍での最高位は中佐で「将軍」ではないが、カスターというと将軍、英語でもGeneral Custerと表記するのが普通だ。
上のカスターの肖像写真、カスターの肖像というとこの写真がかなり知れ渡っている。
これを見ると軍服も北軍の正規ユニフォームではなく、自前のかなりデフォルメされた軍服ででっかい星マークが「義勇軍少将」を主張している。
正規軍服よりもかなり派手な自前軍服を作るあたり、ナチスドイツのヘルマン・ゲーリンクに通ずる派手好きを連想させる。
カスターは勇猛果敢でその突撃は「カスターダッシュ」と呼ばれたそうだが、第七騎兵隊がリトルビッグホーンで全滅した時に大量の弾薬を出し惜しみして輜重隊の馬車に溜め込んで兵士に配っていなかったなど、本当に優れた戦争指揮官だったのか疑問視する向きもある。
ワシタ河の虐殺事件も戦術的には全く無意味な非人道的な行為だったという評価もつきまとう。
そのカスター「将軍」が愛用した銃は、さすがに戦死した1870年代後半にはコルトのSAAを使用していたと思われるが、南北戦争時代にはまだSAAはこの世に存在しなかったから、コルトのM1861ネービーあたりを使用していたというチョイスはありそうな感じはする。
このフランクリンミントのネービーのようにニッケルメッキと金メッキピカピカでエングレービングがびっしり入ったモデルを使用していたかどうかまではわからない。
このエングレービングモデルは南北戦争後に当時人気が高かったカスターに、民間から寄贈されたモデルではないかという気がする。
(上)Colt M1861 Navyの初期バージョンと思われる実銃と
(下)フランクリンミントの「カスター将軍の銃」
フランクリンミントは概ね1861のプロポーションを再現しているが
ローディングプランジャーの下のカーブがやや直線的なのがちょっと気になる点
ストックバットの形も違うがこれはこういう形もあるが
フランクリンミントのような形も両方存在するようだ
(上)ワイルドビル・ヒコックが使用したとされるM1861 Navy実銃と
(下)フランクリンミントの「カスター将軍の銃」
ヒコックの銃はニッケルメッキのフレーム、ブルーイングの
シリンダー・バレルに見事なエングレービングが入っている
ストックバットの形はフランクリンミントのものに近い
外観仕上げを一通りやってメッキの復元を検討中のM1861ネービー
この銃自体は南北戦争当時にすでに実用化されていたのでカスター「義勇軍将軍」が
ゲッティスバーグなどで使用していたのかもしれないが実際にはエングレービングモデルは
発火した後の手入れが大変なのでこれは記念モデルという気がする
しかし奴隷解放の正義の戦いを勝ち抜き合衆国憲法を守った銃として
アメリカ人のなんとなく心の深い部分に突き刺さる銃なんだろうなぁ
この象牙グリップのワシ(Eagle)とスターズアンドストライプスのレリーフも
そうした当時の気分を象徴していたのかもしれない
カスターって何者…という話で結構、文字数がいってしまったので、この銃の銃器発達史的意味についてはまた次回。
2020年2月18日
|
|