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映画に登場するプロップガン〜夢にも現実にも登場した
エクステンデッドバレル付きベレッタPX4…いや、どっちも悪夢だったのかな?

Guns at Nightmares

映画に登場するプロップガン〜夢にも現実にも登場したエクステンデッドバレル付きベレッタPX4…いや、どっちも悪夢だったのかな?

中国の古典文学に蒲松齢の「聊斎志異」という異聞譚がある。

古来より民間に伝わる不思議な物語を集めたという物語集だが、この中に「続黄粱」という話がある。

あらすじはこういうものだ。


ある男が進士の試験に合格し旅に出た途中で、寺にいた占い師に運勢を見てもらったところ
「あなたは大臣にまで出世する」
という八卦が出て有頂天になる。
折からの雨をしのいで寺で雨宿りをするが、そこで休んでいると皇帝よりすぐに出仕せよとの使いが来る。
やがて功なり出世を極め大臣にまでなるが、人に陥れられ没落して、地獄に落ち生まれ変わり貧しい家の娘に生まれ変わって来世にまで苦難を極める…というところで目が醒める。

その雨宿りしていた部屋で座禅をしていた僧がひとこと
「大臣の位を極めるという占いは当たっていましたかな?」


夢というものは不思議なものだ。

大概目が覚めた後はどんな夢を見たか詳しくおぼえていない。

しかし時にまるで現実ではないかと思うようなリアルな夢を見ることがある。

そして夢の時間はリアルな時間とは全くシンクロしていない。


この聊斎志異の続黄粱のくだりはオリジナルがあって「邯鄲の夢」という逸話がある。

これも同じように宿で黄粱の粥を注文した男がうたた寝をして、その後位人臣を極め大臣にまで出世するが夢から目覚めてみるとまだ粥が炊き上がらぬほどの時間しか経っていなかった…という話。

聊斎志異の方が一度地獄に落ちて来世の人生まで短かい夢の間に体験してしまうわけだからスケールが大きいが、共通しているのが夢の間の時間は現実の時間よりもはるかに早く経過するという点。

お粥が炊き上がる前に一生分の人生を体験してしまうとか、雨宿りのうたた寝の間に来世の人生まで体験してしまうという時間の経過に大きな落差がある。





ベレッタの最新モデルPX4と「トーテム」のコマ



インセプション

この映画ではまさにこの「邯鄲の夢」や「続黄粱」のような夢の性質が描かれている。

コブ(レオナルド・ディカプリオ)は企業や組織に依頼されてターゲットの人物の夢から秘密を抜き取る「エクストラクト」という特殊な技術で名を馳せている。

ある時エクストラクトをしかけた日本人「サイトー」(渡辺謙)に、
「これはテストだ。夢から何かを抜き取ることができるなら、何かを植えつけることもできるのだろ?」
と持ちかけられる。

夢に何かの概念を植えつけることは彼らの業界では「インセプション」と呼ばれており、それは不可能だと信じられている。
ところがコブは「可能だ」という。

なぜなら一度やったことがあるからだと。


サイトーの依頼である人物の夢にある概念を植えつける試みが始まるが、秘密を盗むのと違って植えつける方ははるかに困難なプロセスが待っていた…という物語。


このストーリーで夢の性質について幾つか面白い設定がある。

一つは邯鄲の夢のように夢の中では現実よりも数十倍も時間が速く進むということ。

もう一つは夢の生成過程。

人は建物のデザインを考える時、ある時突然建物のディテールに至るまで瞬時に思い浮かぶことがある。

これがインスピレーションだが、夢とは常にインスピレーションがわき続けているような状態。

そのインスピレーションが湧く過程を乗っ取ることで夢をコントロールすることができるというもの。


そして夢の中でさらに夢を見るという夢の階層化が可能であるというルール。

コブとその妻のモルは階層化された夢の世界で数十年もの人生を一度体験している。

夢から強制的に目覚めるには、夢の中で自分の頭を銃で撃つ方法と、現実や上の階層の他の人から「キック」してもらうことで目覚めるタイミングもコントロールできるというルールも登場する。


これは面白い。

今度リアルな夢を見たら、一度自分の頭を銃で撃ってみて目覚めることができるか試してみたいが夢は自由にコントロールできないのが普通だ。





ファーストシーンとラストシーンに登場する海岸に漂着したコブ
その腰には拳銃が手挟まれて警備員が日本語で「おい!これを見てみろ」と叫ぶ
吹き替えなしで観ている映画で突然日本語が聞こえてくるとびっくりする




このディカプリオの腰に隠された拳銃はベレッタのPX4ストーム
9ミリパラベラム弾を17発装填できる近代ポリマーピストルだ




夢をコントロールすると今現在いる場所が現実なのか見分けがつかなくなる
コブはエクストラクトに失敗すると「トーテム」のコマを回してこの世界が現実か確かめる
コマが永遠に回り続けたらその世界は夢で、止まれば現実だ




コマのそばに銃を置いたのはコマが止まらないのを確認したら自分の頭を撃ち抜くためだ




インセプションには成功したがコブとサイトーは夢から
帰ってくることに失敗し夢の中の虚無に落ちてしまう
虚無の中でサイトーは数十年経過し記憶もおぼろな老人になっていた




何もかも忘れかけていた老人はコブのトーテムの
コマを見て「これに見覚えがある」とつぶやく




夢の中の最初のコブの発砲シーン
面白い射撃スタイルを見せてくれる
CARシステムのような肘を曲げた射撃姿勢だが撃つたびに
エジェクションポートに左手のひらをかざして薬莢が飛ぶのを遮っている
薬莢が飛んで音がするのを嫌っているということなのかもしれないが
薬莢が飛ぶ音よりも発射音の方が大きいはずだからあまり意味がない気がする
でもなんかかっこいいのでつい真似したくなる




最初のエクストラクトのシーンと同じコンビネーションの東京マルイPX4




コブが使用するPX4についているサイレンサーは大型で中央にくびれがある
この形態は紛れもなくMK23向けのSOCOM仕様のサイレンサーだ




SOCOMサイレンサーを付けた東京マルイPX4
SOCOMサイレンサーはピストン・シリンダー方式のガスバイパスで
音を抑える仕組みなので中央にストッパーを固定するくびれがあるのが特徴




エクストラクトがばれてアーサーにが人質になってしまったので銃を置くコブ




このカットではっきりSOCOMサイレンサー付きのPX4であることが確認できる




サイレンサーを使うのは最初の夢のシーンだけだがその後の現実でも
夢の中でもコブの使用する銃はサイレンサー取り付け用の
ネジ切りされているエクステンデッドバレルを付けたままだ




コブの使用銃のPX4と妻のモル使用のSIG P230




このSIGのP230もワルサーPPKの流れをくむ32口径の傑作自動拳銃
そのうちこれはこれ単体で取り上げる




前回も紹介したがこのタイプのバレルはサイレンサーを使用しない時には
ネジ切り保護用のキャップを使用するが映画ではキャップを付けずに
ネジ山むき出しでそのまま使用している




PX4という銃について
17発という大火力でありながらM92FSよりもコンパクトになったイメージ




それはスライド上部を大きく切り欠いてロッキングブロック方式だったM92スタイルを廃止し
ロテイティングバレルロッキング方式でスライドをコンパクトにしたのが大きい




マルイのガスガンは前回実銃との比較写真も載せたがスタイル、質感を正確に再現している
グリップの刻印は凸型、スライドの刻印は凹型なのも再現されている
PX4CUSTOMとなってベレッタマークも正一稲荷マークになっているのが惜しいところだが




スライドのセーフティの安全ポジション




セーフティを発砲ポジションにしてハンマーをハーフコックポジションにしたところ




ハンマーをフルコックポジションに引いたところ




ハンマーをレストポジションに落としたところ
どのポジションでも服やホルスターに引っかからないように
邪魔にならない位置にデザインされている




エクステンデッドバレルはサイレンサーなどのアタッチが取り付けできるのが目的だが
ちゃんとライフリングが切られていて内側にクラウンの表現もある




PX4のフレーム下部にはシリアルを打刻したプレートが埋められている
ポリマーのフレームにはしっかりパーティングラインが残っているが
これは実銃もこうなのでうっかり削ってパーティングラインを消したりしないこと




フレームのシボ、スライドの焼き付け塗装の黒などABS製ではあるが
実銃の雰囲気をなかなか再現しているマルイのPX4



映画はクリストファー・ノーランというイギリス人の監督の作品。

この方ははっきりした作風があって、同監督作品は
「インソムニア」、「インターステラー」、「ダークナイト」、「ダークナイトライジング」、「バットマンビギンズ」、「メメント」、「プレステージ」、「トランセンデンス」、「ダンケルク」
とこうして作品ラインナップを並べてみると
「ああ、確かにイギリス人だなぁ」
と思うストーリーテリングの巧みさと重苦しさを兼ね備えているような監督。

私の好みの監督さんです。

このインセプションもド派手なアクションシーンで、公認会計士が監査するようなハリウッドのプロデューサーにも受けがいい作りになっているが、ストーリーの核になっているのは夢の中で人の情念の核の部分があきらかになっていくという話で、実はアメリカ人好みでもない。

ノーラン監督はハリウッドの重工業のようなプロダクトポリシーに合わせつつも、そういう芯の部分は譲らないバランスがとても巧みな監督で、ハリウッドに行って骨抜きになってしまう外国人監督の中では異色だと思う。


話題になったラストシーンも、コブは家に帰れたのか帰れなかったのかがはっきりとは描かれていないが、ちゃんと見ていればそれはあきらかだと思う。

コブとサイトーは川に沈んでいく車から脱出することができなかった…

最初の階層の夢に戻ることに失敗したのだから、サイトーが落ちていったところにコブが迎えに行っても戻るすべがないはずだ。

それでも最後空港のシーンで、無事入管を通ってアメリカに入国ができた。

だがよく見るとそこにいるはずのない人が映っている。

パリの大学で教鞭をとっているはずのマイケル・ケインがなぜ西海岸の空港でコブを出迎えるのか…

コブは家に戻って、コマを回すが子供たちと再会できた喜びでコマが止まったかどうかまで見ていない。


これは結局サイトーを連れ戻しに行って失敗し、コブとサイトーは夢の中で廃人になってしまった…そして廃人になったコブとサイトーは自分の望むものになれる…

サイトーはビジネスの成功を実現し、コブは家族と再会する…という夢の煉獄から永久に脱出できなくなってしまう…

このラストシーンはコブの贖罪の象徴なのかもしれない。

コブってひょっとしてヤコブからきているのかな

このラストシーンは旧約聖書のヤコブの階段だ。

そういえば…子供達の声は天使のようだというくだりがあった。

コブは家に帰ることに失敗した。

しかし旧約聖書のヤコブの階段にちなんでいるなら…

ヤコブは天国に通じる階段を見つけ、やがて神によって赦しを与えられ、イスラエルと名前を変えて再び地上に相見える…という示唆まで含んでいるのかもしれない。


ラストシーンをわかりにくくして、表面上は家族に会えました…というハッピーエンド風にしたのはアメリカ映画だからだろう。

アメリカの観客と映画プロデューサーはバッドエンドを許さない。

しかし、ここまでのストーリーでハッピーエンドはあり得ない…作家の良心が許さない…だから一見ハッピーエンド風という作りにしたんだと思う。

クリストファー・ノーラン、なかなかしたたかな監督さんだな。








2020年5月26日
















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