S&W M&P9 VTACモデル〜東京マルイのガスガンを入手…SIGMAで大コケしたS&Wはどう復活の道を切り開くのか…
Smith & Wesson社という会社の創業期からリボルバーで民間、警察用である程度成功した頃までの歴史に注目していろいろ綴ってきた。
その後S&Wはどうなったかという話を続ける。
シングルアクションの中折れリボルバーでアメリカ軍制式拳銃に採用される見込みが薄くなったS&Wは、中折れシングルアクションに見切りをつけてダブルアクションリボルバーをリリースした。
のちのM10 Military and Policeだ。
1899年のことだ。
このリボルバーは民間用、警察用としてヒットしたが時代はオートマチックが優勢になってきた。
S&Wもオートマチックを開発してきた。
特に最初に手がけたM39はなかなかバランスも良く、手堅くまとまったオートだった。
しかしその後米軍制式拳銃トライアルに参加するためにこれをダブルカラム化したM59でこけて、その改良型のセカンドジェネレーションオート、サードジェネレーションオートをいろいろ開発し、中にはそれなりに評価が高いものもあったが全体として鳴かず飛ばずだった。
そこにグロックショックが起きた。
オーストリアの全く無名のナイフメーカーが突然ポリマーフレームにストライカー方式、マニュアルセーフティなしの17連発というオートを出してきて、これがあっという間に世界の軍用・警察用拳銃を席巻してしまった。
グロックの一番いいのはホルスターから抜いて引き金を引くだけで弾が出ることだった。
当たり前のように聞こえるが、実は警察用拳銃で一番大事なことは
「撃ちたいと思った時には確実に弾が出る、撃ちたいと思っていない時には絶対に弾が出ない」
というリライアビリティで、命中精度とかマンストッピングパワーとか破壊力とかそんなことよりも何よりもこれが大事だ。
オートを嫌いリボルバーにこだわる人の言い分は
「オートはワンインチェンバーだのセーフティだの今撃てる状態になっているかどうかがよくわからない
ダブルアクションのリボルバーはとにかくトリガーを引けば弾が出る」
ということだった。
グロック以降この言い分は意味をなさなくなった。
グロックはトリガーそのものがセーフティの代替になるメカで、マニュアルセーフティを廃止してしまった。
厳重なオートマチックセーフティとセミダブルアクションで常にチェンバーに一発入れて持ち歩いても安全になった。
つまりリボルバーと全く同じ使い勝手になった。
しかも錆びにくいポリマーフレーム、マズルジャンプを抑えるハイグリップが可能なストライカー方式だからリボルバーにこだわる意味がなくなってしまった。
リボルバー一辺倒だったアメリカの警官もみんなグロックを使い始めた。
このことに一番危機感を感じていたのが警察向けリボルバーの最大手メーカーだったSmith & Wessonだった。
その危機感が悪い方向に出てしまったのがSmith & WessonのSIGMAというオートだった。
Smith & Wesson SIGMA SW95実銃
実はグリップデザインがグロックより優れているという一部の意見もあるが
メカがほぼグロックの丸コピーであるだけでなく真横から見るとスライドと
フレームの隙間から向こうが見える設計の雑さなど評判は散々だった
そしてグロック社から知財裁判を起こされ多額の和解金を支払う破目になった
SIGMAの失敗で多額の和解金を失っただけでなく、これでS&Wはすっかり評判を落としてしまった。
経営も傾いてしまいS&Wは外国資本の傘下に入ってしまった。
その起死回生の一手ということなのか、S&WがリリースしたオートがM&P9ということになる。
グロックの影響は拭い去ることはできない。
基本的にはグロックのコピーであることは変わらないのだが、正直グロックはグリップデザインがあまり良くないのでその分M&P9にアドバンテージがあった。
SIGMAでグロックに事実上の知財使用料にあたる和解金を払ったのに、同じようなセミダブルアクション、ストライカー方式のオートでどういう抜け道を使ったのかはよくわからない。
ただM&P9は実用一点張りなグロックやその丸コピーのSIGMAとは違い、エルゴノミクス的なデザインの工夫が随所に見られる美しいデザインになった。
今回入手した東京マルイのM&P9 VTACカスタムガスブローバック
MP9はポリマーフレームにハンマーがないストライカー方式の最近のモダンオートの標準形
実銃はスライドがステンレスでフレームはナイロン系のポリマー
トリガーはグロックタイプのトリガーセーフティがついているが
トリガーを二分割しているセーフティ操作はSIGMA譲りだ
顎に20mmのピカティニーレールも装備し拡張性もモダンオート標準レベル
グロックと決定的に違うのはマニュアルセーフティがあること
セーフティなしのオプションも選択できるがこういうものをつけてしまうのは
羹に懲りて膾を吹くということなのか…
ちなみにS&WのカタログではM&PはModel2.0に移行しておりこのタイプは型落ちになっている
サムセーフティの安全ポジション
サムセーフティの激発ポジション
グロックと同じストライカーを半分コックした状態でスタンバイして
トリガーでストライカーを残り半分コックするセミダブルアクションなので
サムセーフティはシアをロックするだけでデコッキング機能はない
アウターバレルのチェンバーには9mmの刻印がある
チェンバーのくぼみと穴はカートリッジが装填されているかどうかを
視覚的に確認できるローディングインジケーター
スライドを引き切ったポジションから少し戻すとテークダウンレバーが90度回せる
レバーを回すとフィールドストリッピングが可能になる
フィールドストリッピングが完了したM&P9ガスガン
遠目には実銃と同じ構成になっている
インナーバレルのチェンバー周りに真鍮のプレートが巻いてあり
先ほどのローディングインジケーターの穴からこのプレートが見えて
実銃の装填状態と同じ見た目になる
残念ながらガスブローバックではストライカー方式のメカは構造的に再現できないので
フレームにはハンマーがありこのハンマーがバルブノッカーを叩くという構造になっている
ゆえにガスガンはシングルアクションオートと同じ仕組みになる
ハンマーが落ちてバルブノッカーを叩いた様子
ハンマーダウンの状態でマガジンを装填するとノッカーは上に押し上げられ
バルブと直接コンタクトしないのでハンマーダウンの状態でマガジンを装填しても暴発は起きない
一度スライドを引いてハンマーをコックしないとブローバックは起きないので
要はシングルアクションのガバと同じようなメカになるのが実銃とちがうところ
ブローバックが起こってハンマーがコックされた後もノッカーが
残ってバルブを押し続けるノッカーロックが装備されている
このノッカーロックは丸で囲んだリリースをスライドが押すことで解除される
これによりマルイの強いブローバックのキックが実現しているようだ
ショートリコイルロッキングメカはブローニング方式のティルトロック
なのでスライド後退時はバレルは上を向いている
サイトはS&WのVTACカスタムに準じて上に集光ファイバーが見える
ロッキングメカはエジェクションポートにチェンバーがはまり込むSIG方式
スライドが後退するとアウターバレルのチェンバーが下に沈むのが確認できる
このVTACサイトの効果はこんな感じ
明るい場所では上のサイトポイントが光って照準できる
暗いところでは下のトリチウムサイトが光って見えてこちらを使ってサイティングできる
これがどの程度実戦で役にたつかわからないが暗いところでは
フロントサイトを見失いやすいので効果もあるのかもしれない
(上)Smith & Wesson M&P40実銃と(下)東京マルイのM&P9のガスガン
(上)Smith & Wesson M&P9のVTACサイトモデル実銃と(下)東京マルイのM&P9 VカスタムFDEモデル
ブルーイングで始まった銃の仕上げはパーカライジングになり最近は塗装になっている
そして塗装なら別に色は黒でなければいけない理由はなにもないので
こういう砂漠色やカモフラージュもありということになっているらしい
ちなみに東京マルイのガスガンはマガジン込みで620gと軽い気がするが
実銃のスペックも680gと意外に軽いので重さもリアルなのかもしれない
ピカティニーレールが付いているならいろいろつけたくなるのが人情である
Smith & Wessonのオートの系譜
(左)東京マルイのM&P9と(右)WAのショーティ40ことおそらくSW M4004
(左)東京マルイのM&P9と(右)WAのショーティ40
こうして見比べるまでもなく同じS&Wのオートといっても
両モデルのメカ、デザイン、コンセプトに全く共通性はない
(上)タナカワークスのグロックG17と(下)東京マルイのM&P9
ポリマーフレームにストライカー方式、セミダブルアクションの
安全性をトリガーセーフティで担保する…
驚くほどメカやコンセプトに類似性がある
世間ではこれをパ◯リというが一応知財裁判の和解を経過して
リリースされた製品なので独自性はあるのかもしれない
(上)タナカワークスのグロックG17と(下)東京マルイのM&P9
もしS&WのM&Pに優位性があるとしたらグロックの直線的なデザインに対して
グリップがエルゴノミクス的なデザインになっていることだと思う
グロックは道具として面白いコンセプトを持っているが
人間工学的デザインはもひとつのような気がする
意外に握りにくいグロックとついグリップしたくなるS&W
M&P9のデザインは当節流行りのグリップアダプターを交換することで手に合わせられるもの
グリップ下の固定具を90度時計回りに回すと抜ける
これでグリップアダプターも簡単に外れる
私はミディアムが一番しっくりくるが調整量は非常に微妙なのでどのグリップでも問題ない
ガスガンは残念ながら構造的にストライカー方式を再現できないから
セミダブルアクションのトリガーフィーリングも再現できない
ハンマーをコックしてセーフティを掛けるシングルアクションオートと
同じ動きになっているのが何気に残念
ガスガンや電動ガンは所詮おもちゃだからね…いたし方ない
M&P9はH&KのP30などと同じようにスライドキャッチとセーフティが
アンビになっていてスライドリリースやセーフティ解除が左でもできる
近代のコンバットシューティングは左右両腕を使うスイッチシューティング
なのでこういう機能は重要なのかもしれない
M&P9も次期米軍制式拳銃トライアルに参加したようだが本命はSIGとグロックで
結局SIGに決まった経緯を見てもあまりS&Wは注目されなかったようだ
しかしSIGP320は謎の暴発事故を繰り返しておりそれに対してM&P9は
アメリカの警察で順調に採用数を伸ばしているようだ
メカの革新性やコンセプトのオリジナリティより道具としての
使い易さデザインの洗練性の方が重要ということなのかもしれない
グロックの知財権をどうクリアしたのかガスガンからはうかがい知れないが、一時期は海外資本に身売りしていたほど経営状態が悪かったS&Wも少し持ち直しているようで、チャプターイレブン(連邦破産法第11条)の適用を受けて破産してしまったコルトに比べればまだ復活の可能性があるようだ。
このM&Pという名前もMilitary and Policeの略で、S&Wの黄金時代の礎になったダブルアクションリボルバーと同じ名前を冠している。
一時期死に体になったS&Wの復活への意気込みが込められた名前なのかもしれない。
それにしても銃規制法のニュースが出るたびに日本のマスコミやSNSに
「コルトやS&Wなどの銃器メーカーが巨大資本に物を言わせて政治家に圧力をかけて銃規制を妨害している」
みたいな妄想が流れているが、実際にはアメリカの銃器メーカーは破産法を適用されたり身売りしたり青息吐息だったりする。
こういうことを知っていると、マスコミやSNSに流れている「巨大資本伝説」が全くのデマであることがよくわかるのだが関心のない人は
「この世のどこかに金儲けのために人命を軽視するような悪徳資本家がほくそ笑んでいる」
という扇動政治のプロパガンダを信じてしまうんだろうなぁ。
2020年6月17日
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