LSのL85A1の整備…プラモデルメーカーが本気出したエアソフトガン…だが製造元は空中分解したという…
子供の頃、近所の駄菓子屋兼模型屋の店頭に72分の1スケールのゼロ戦が売っていて、それが21型、52型、22型とシリーズで並んでいたので結構何機も買って組み立てていた思い出がある。
駄菓子屋の店頭で売るぐらいだから値段も当時一機100円と、60年代の小学生にもお手ごろな価格だった。
72分の1スケールの飛行機は他社からもいろいろ出ていたのだが、このゼロ戦のシリーズは非常にスタイルが良くまた部品のハメ合わせが良かったので小学生にもキレイに作れるのでお気に入りだった。
作りやすいだけでなく補助翼や、方向舵などの各翼には羽布張りの彫刻までされていて100円という値段なのに非常に精巧な感じがした。
このプラモデルがLSというメーカーの製品だった。
そのLSのプラモデルのラインナップが、ゼロ戦、彗星艦爆など旧海軍機に偏っているのもこだわりがありそうだった。
ひょっとしたら創業者が旧海軍の出身者だったとかそういう事情があったのかもしれない。
それでこのLSというプラモデルメーカーがずっと気になっていた。
数年後のリアル厨房時代にはLSのスーパースケールシリーズのワルサーP38、ルガーP08などを組み立てていた。
LSのテッポのプラモデルは弾は出ないし火薬も発火できないが実銃のメカニズムを忠実に再現していて、ショートリコイルロッキングシステムという近代の大型拳銃独特のメカが存在することは、このLSのシリーズで学んだ。
LSのスーパースケールシリーズの1/1スケール ワルサーP38
この通り普通のプラモデルと同じくスチロール樹脂のモナカ構造で
カートリッジもメッキしたプラだったがメカはとても良くできていた
私が持っていたのはこれと同じP38戦時モデルだが他に
「0011ナポレオンソロ」に登場するUNCLEモデルというのもあった
実は正直いうとこのP38はメカは正確だったが、プロポーションの捉え方がちょっと変だった。
(ちょっと左右に分厚くて全体に寸詰まり)
ところが次のルガーP08でメカだけでなくプロポーションもリアルに仕上げてきたので「さすがあのゼロ戦のLSだな」と感心した。
その後模型趣味は卒業したのでLSというメーカーにも縁がなくなったと思っていたが、20年後に突然LSという名前をエアソフトガンで再度認識することになった。
それがこの英国軍制式自動小銃L85A1のエアソフトガンだった。
LSのL85A1組み立てキットの完成品
これはモナカ構造なのでプラモデルといってもいいかもしれないが
ABS樹脂製でエアコッキングライフルとしてもそれなりの性能
実銃のエンフィールドL85A1(上)とLSの1/1スケールエアソフトガンL85A1(下)
プラモデル的なモナカ構造の上に当時のエアソフトガンよりも価格も安かったが
さすがLSだなと思わせるような正確なプロポーションだった
これがすっかり錆付いていたので分解掃除した
バレルはこの通りアルミパイプでさすがに今の水準から見るとおもちゃ臭いが
これでも5メートルで10センチ以内のグルーピングは出ていたから
当時としては画期的な命中精度だった
真っ赤に錆びていたボルトカバーを錆び落としした
LSには相当のメカマニアがいたらしくこのバネで自動的に開くダストカバーを再現していた
これが開いた状態
そして閉じた状態
本当はコッキングノブが一番後ろまで行けば本当にコッキングだけで
開きそうだがエアコッキングにはそこまでのストロークは必要なかった
ダストカバーの下のレバーはボルトキャッチリリースでさすがにこれはダミー
トリガーの上にあるクロスボルト式のセーフティはちゃんと再現されている
左側が飛び出しているこの状態だと発射可能
左側が押し込まれて右側が突出しているときは安全状態
のちに「弾が出る鈍器」とまで酷評されるL85だがこのクロスボルト式セーフティもなかなか評判が悪い
グリップの中はM16シリーズと同じくがらんどう
実銃ではここはクリーニングキット格納スペースだったと記憶している
モナカ構造なのにもかかわらずレシーバーの左右の合わせは
ぴったりでパッと見モナカ構造とは気づかない
このハメ合わせの技術はさすがLS
フラッシュサプレッサーはM16と同じバードケージ型
だけど6穴のM16に対して5穴のL85の発射炎は星型に広がる
サプレッサーの後ろの突起はバヨネットやグレネードを固定するため
L85のらしい部分はこのフォアエンドまわり
樹脂の三角グリップに大きなクーリングホールをいくつも開けて
実銃の場合はそこから中にガスピストンがあるのが見える
実銃はメンテナンスのため上のドアを開いてガスピストンの掃除ができる
LSはさすがにそこは省略している
湾岸戦争時に数十項目もの「欠陥」が指摘され「殴るだけでなく
たまに弾丸も発射できる棍棒」と酷評されたL85の根本問題がここに写っている
AR18のメカを参考にブルパップ構造にした関係で
銃身の冷却のためにレシーバーにも冷却用の穴が開いている
この穴から砂埃がザクサク機関部に入り込んでボルトが動かなくなってしまう
のちの近代化改修でボルトやピストンのクリアランスを大きくし埃が詰まりにくくして
「弾が出る鈍器」の汚名は返上したがこの問題は根本的には解決していない
レシーバーの上に乗っているSUSATサイトにも興味津々だった
(右)は実銃のSUSATサイトのサイトビュー(via Wikipedia)と(左)はLSのサイトビュー
LSは倍率1倍の透明プラが入っているだけなので雰囲気でポイント代わりの針金を入れた
さすがにプラモデルでSUSATのサイトビューまでは再現してくれなかったのは仕方ない
実銃のSUSATはレティクル方式ではなく左のようにサイトポイントが真ん中に屹立している
暗くなるとこれが自照式で光る構造になっているがとても見づらいということだ
この真ん中のタワーが邪魔なので近代化改修の一環で今はACOGに換装されつつある
SUSATサイトが壊れたら文字通り棍棒になってしまうので
その上にバックアップのアイアンサイトもついている
申しわけ程度の拳銃レベルのサイトだがLSに関してはこちらの方が実用的
レシーバー左側には前からマガジンキャッチレバー、
ボルトリリースボタン、セミ・フルセレクティブレバーが配置される
このうちLSはマガジンキャッチだけが稼働して他はダミーだが
位置関係はなかなか正確
マガジンキャッチレバーを押すことでマガジンが抜けるのは実銃通り
実銃はボルトにコッキングレバーが直接付いている関係で発射時に
これが激しく前後し左で構えるスイッチシューティングはほぼ不可能とか
そのコッキングレバーに薬莢が衝突しエジェクションポートに逆戻りするという信じられないような
ジャムが多発するなどよくもこれだけ欠陥を集められたものだというぐらい問題があったそうだ
LSのエアガンはなぜそれが欠陥になるのか構えているとなる程と思えるリアリテイがある
そのL85だが最初から欠陥銃だったわけではない
むしろこの原型のXL70では世界最優秀かつAUGもしのぐ最先端のブルパップになる可能性があった
M16系とは違いフローティングバレルを最初から装備していたので命中精度も高かったが
4.85mmの高速小口径弾をアメリカのゴリ押しで5.56mmのNATO弾に変更したL85でつまづいた
ロンドンの観光名物・バッキンガム宮殿の近衛兵の衛兵交代(via Wikipedia)
子供の頃見た絵葉書ではエンフィールドを持っていたが今は近衛兵もL85を持っている
イギリスは今でもこの真っ赤な制服に熊の毛皮の帽子をかぶった近衛兵や
赤黒のトランプの兵隊みたいな制服のビーフイーター(ロンドン塔の衛兵)が継承されている
その伝統の衛兵たちが近代的なブルパップの銃を持っているのはなんとなく面白い
短機関銃で武装した機動警察に比べると平和な光景だとも言える
この写真では銃口の下にオフセットしたバヨネットのデザインがよくわかる
LSのL85の実射性能はキャプチャでも書いた通り5メーターで10センチというところ。
しかし設計されたのが80年代の終わり頃だということを考えると、なかなかの性能だと思う。
それに当時はL85なんてほとんど資料もない謎の制式ライフルだったので、それをこの精度で外観を再現してくれたLSのおかげでメカについてもいろいろ知ることができた。
このL85A1のキットを自宅近くの模型店で見つけて喜び勇んで購入したのが1993年だったと思うが、後から知ったことだがそのLSはこの前年に倒産している。
当時はバブル崩壊の後遺症に、物を集めたり組み立てたりするのではないゲームなどの形にシフトするホビーの変化なども重なって、模型メーカーやモデルガンメーカーがどんどん倒産したり廃業していた時期だった。
一説には昔ながらの精密プラモデルメーカーを遵守する幹部とエアガンメーカー派の幹部の対立があって空中分解したという話も聞いた。
最初期のゼロ戦やこのL85など、手にすると感動する製品が多かっただけに残念なことだった。
2020年11月24日
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