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本十二月八日未明は歴史的事件の起こった日時〜にちなんで
映画の嘘シーンをあげつらってけなす「パールハーバー」「トラ・トラ・トラ!」

Tiger! Tiger! Tiger!

本十二月八日未明は歴史的事件の起こった日時〜にちなんで映画の嘘シーンをあげつらってけなす「パールハーバー」「トラ・トラ・トラ!」

パール・ハーバー

映画が好きで、概ねどんな映画も楽しんで観ることができる人なんだけど生涯のうち何度見てもムカつく映画というものも何本かある

そのうちの一本がこのマイケル・ベイが監督した真珠湾攻撃を描いた「パール・ハーバー」

もうムカつくのでアマゾンのリンクも張らない。

公開当時から日本人への差別意識丸出しとか結局アメリカ人にとって外国人はSFのエイリアンと同じとか映画の出来の悪さや日本人の描かれ方について相当批判が出た。

そういう視点の批判はそういうことを書いてる人がいっぱいいるのでそっちに任せる。

そうは言っても真珠湾の空襲をCGも駆使してリアルに描いた映画でしょ…とか思っている人に
「冗談じゃない、こんなのデタラメの嘘くそもいいところだから、これをリアルとか言わないでね」
ということを言いたいために、飛行機好き、軍モノ好きの視点からあげつらってみる。


あらすじはこんな感じ

飛行機に憧れる少年二人、成長して同じ陸軍の航空隊に入隊した。

そこでガールフレンドなんかできたりする。

しかしヨーロッパで戦争が勃発。

一人が英空軍の志願兵としてヨーロッパに渡る。

ドイツ軍に撃墜され行方不明に。

恋人が死んだと思ったガールフレンドを残った幼馴染が慰めるうちに二人は恋に

死んだと思った幼馴染は実は救出されていて、戻ってきたら恋人を友達に取られていた…

二人殴り合い

憲兵の取り締まりから逃れて仲直り…

と、ここまでは真珠湾攻撃とは何の関係もない全く無駄なシーンが延々とおよそ1時間半も続く。


主人公たちが愛だの恋だのふやけたことを言っているうちに、暗闇では日本人たちが着々と陰謀を巡らせていた。

そして二日酔いの朝、彼らは日本人の企みを知る…というお話。





バトルオブブリテン(英国本土防空戦)に志願した主人公は乗機のスピットファイアを撃墜される…
のは、いいんだけど、このスピット20mm機関砲のカウルを翼につけている
このタイプが登場したのは第二次大戦末期の1944年ごろと記憶している
真珠湾攻撃は英国の戦いの翌年という時代背景を説明する意図もなさそうだし
出てくる飛行機もデタラメだしなんの意図でこのシーンを挟んだのか全くわからない
多分恋の三角関係の背景を無理やり作りたかったという意図以外何もない




そして仲直りした幼馴染二人の頭上すれすれを日本軍機が飛び抜けていく…
のはいいんだけど、この白ふちなしの日の丸がついた深緑色の迷彩は
太平洋戦争末期の塗装で真珠湾攻撃の1941年にはまだこんな塗装はなかった




そしてこのゼロ戦も52型という戦争末期の型で1941年には
これのプロトタイプの32型もまだ図面しかなかったはず
おそらくリストアされた実機の飛んでる映像をCGで合成したから
こうなったんでしょうがこの時代の主力機の21型の飛行可能な
実機がないから仕方ないとはいえ飛行機好きな人だったら
誰でもわかる間違いだからなんとかするべきだったのでは?




日本軍の空襲に敢然と立ち向かった主人公二人がカーチスP40に飛び乗って
ゼロ戦相手にチキンレースはやるわトラップ攻撃を仕掛けるわで
日本軍を軽く1飛行隊壊滅させてしまう
んな、アホな、P40ではゼロ戦に対して速度だけでなく旋回半径や上昇力、
機動力すべてで負けているのでこんな低空での格闘戦では
よほど油断した日本人でない限りとてもじゃないけど撃墜なんてできない
逃げ回ってなんとか生き残るのが精一杯だと思う



真珠湾を描いた映画でいつも話題になるのは、アメリカ軍は真珠湾でこんなに日本軍に反撃ができたんだろうかということ。

実はアメリカは真珠湾の空襲を予想していたとかいろんなヨタに近い陰謀論がいっぱいあるが、ゼロ戦と当時の米陸軍の主力機のP40、海軍のF4Fでは、性能差がありすぎてゼロ戦の攻撃をかわすのが精一杯でまともにやりあって反撃なんかとても無理というのが概ねの見方なんだけど、意外にそうでもないかもしれない。




トラ・トラ・トラ! (ニュー・デジタル・リマスター版)

真珠湾攻撃を扱った20世紀FOXが作ったおなじアメリカ映画なのでやはりアメリカ視点なんだけど、こちらは日米合作映画。
日本のシーンは舛田利雄、深作欣二が監督するなど、ちゃんとしたパールハーバー事件を描いた映画。

ここでは当時の日米を取り巻く世界情勢や、当時の航空機に軍港攻撃をやらすのがいかに無茶でそれを実行するために日本海軍航空兵の努力なんかもちゃんと描かれていて史実に基づいている。

あらすじはこんな風

日米はかつての蜜月はとっくに終わりアメリカの経済封鎖のために日本は苦境に陥っていた(経済的にはちょうど今の北朝鮮のような立場だった)

日本の政治家は「ドイツと同盟を結んでアジアから手を抜こうとしてる英蘭仏から資源をかすめ取る」とか能天気なことを考えていたが、アメリカ海軍の本拠地がサンディエゴからハワイに移ったことが最大の脅威になったという始まり。

連合艦隊(戦時編成の艦隊のこと・英語のタスクフォースはまさに「対策本部隊」というような意味)の司令長官に着任した山本五十六は
「飛行機だけで真珠湾をやれんかな?」
と無茶を言い出す。

これには海軍一の航空の専門家も「そりゃ、無茶です」との感想。

ちょうどおなじ頃おなじことを考えていた人物がアメリカにもいた。

ハワイの太平洋艦隊総司令官に着任したキンメルは
「イタリアのタラント軍港を空襲した英海軍航空隊のようなことがハワイでも起きないとは限らない」
と心配するが前任者に
「ハワイはイタリアのタラントよりも海が浅いから心配するなって、専門家もそう言ってたぞ」
と慰められる

真珠湾攻撃案は反対意見も多かったが
「もし日米戦避け得ざるとき、真珠湾作戦は必ずやる。以降この作戦をやるやらないの議論は一切無用!」
と山本五十六は押し切ってしまう。

山本五十六自身はアメリカに武官として赴任した経験もある知米派で、日米戦には強い反対の立場だったが開戦となったら
「緒戦でできるだけアメリカの戦力を叩いてしまいたい」
という意図でこの作戦を押し通す。





ハワイ航空攻撃がなぜ無茶かというと海が浅いために魚雷が使えないためだった
そのため日本海軍は超低空飛行で魚雷ができるだけ沈まないように雷撃する激しい訓練を始める
鹿児島県の錦江湾でアクロバットのような低空飛行訓練をするシーンがしっかり描かれている




そして本番の12月7日(現地時間)国旗掲揚の儀仗兵の
頭上をかすめるような高度で真珠湾に侵入する日本軍機




ここでもカーチスP40で日本軍に反撃するパイロットの姿が描かれているが
さすがにカーチスではゼロ戦と対等には戦えないので頭上から一撃を掛けて
すぐに離脱を繰り返しゼロ戦に囲まれそうになったら雲の中に逃げるという
リアルな戦法で日本軍に一矢報いている
当時の航空兵にちゃんと取材してこういう演出にしたという内容だ



この米軍が本当にパールハーバーで日本に反撃できたのかという話で、この映画を批判する人もいるが実はこれはあり得た話かもしれない。

個人的に父親が海兵出身だった縁で、この映画のエキストラに参加した元海兵の体験談とかをいろいろ読む機会があったのだがこの映画のような話が結構あった。

艦攻のパイロットの体験談
「そういえば爆撃を終えて真珠湾から空母に帰投するときに後部座席の通信兵がバリバリ機関銃を撃っていたので、そのときに敵の戦闘機がいたのかもしれない。」

「我々が真珠湾上空に侵入して数分後には、米軍が対空砲を撃ってきたので『おお、さすがだなぁ』と思った」

当時の航空兵は、米軍は一方的にやられていたわけではなく反撃してきたと証言していた。


ちなみに上のブルーレイのジャケット写真は真珠湾攻撃隊長だった淵田中佐を演じた田村高廣なんだけど、実際の海軍の航空兵たちの証言によると
「田村高廣さんは当時の淵田中佐に生き写しで、本物が戻ってきたような気がした」
とのこと。


ところでマイケル・ベイの作品の話に戻る。

マイケル・ベイは「パールハーバー」を撮るにあたってこの20世紀FOXの「トラ・トラ・トラ!」をかなり参考にしている。

が、意味もわからず真似しているだけで元になった「トラ・トラ・トラ!」のシーンがどうしてそういう絵柄なのかを全く理解していない。





「パールハーバー」より山本五十六らが真珠湾攻撃作戦を検討しているシーン
どういうわけかふんどし姿の男たちがプールに模型の船を浮かべて兵棋演習をしている
後ろには鳥居に軍艦旗、軍極秘と左から書かれた文字、海上には長門クラスの戦艦が数隻…
もうどこから突っ込んでいいかわからないくらいに突っ込みどころ大杉なシーンだ




ベイ監督が参考にした元が多分この「トラ・トラ・トラ!」の真珠湾作戦方針決定のシーン
この映画でも兵棋演習の道具を並べているが兵棋演習は普通参謀室などの密室でやるのが常識
軍の作戦方針が兵に漏れたら噂になって敵に漏れるため屋外でやることは絶対にあり得ないはずだが
これは当時の価格で数億円かけて作った木製の戦艦長門実物大セットをできるだけ撮影に
使いたかったためあえて屋外で撮影したというちょっと貧乏ったらしい理由でこうなった




「軍極秘」がなぜおかしいかというとこれ
「パールハーバー」に出てくるハワイの地図に「オアフ島」と書いてあるが
戦前の日本人なら「嶼フアオ」と書かないと読めないはずだ
ここをリアルにしてしてしまうと現代の日本人でも読めなくなるのでこうしたのか?




同じく「パールハーバー」から「屋外作戦会議」のシーン
後ろには「尊皇」「勇戦」と書かれた幟が上がり丘の上では子供たちが凧揚げをしている
詩情豊かなシーン…ってアフォか〜い…と突っ込みが入るシーン
尊皇って尊王攘夷と皇国史観をごっちゃにしてるのかなんなのかもう意味がわからん
ちなみに山本五十六役はかつて「砲艦サンパウロ」でスティーブ・マックイーンの
中国人助手役をやった名優マコなんだけどなんでこんな名優がこんな役引き受けたの?




真珠湾に出撃するパイロットたちがふんどし姿でお祈りをする祭壇は金毘羅さん?布袋さん?
ろうそくをいっぱい立てた中華風の祭壇で一体何を拝んでるのか意味がわからん




これの元になったのは多分「トラ・トラ・トラ!」の出撃シーン
パイロットたちが神棚を拝んでいるがこの神棚は
ご神体が鏡なのでこれは「天照大御神」を祀っている
いうまでもなく天照大御神は日本国の国造りの神話に
出てくる女神で太陽神、そして伊勢神宮のご神体でもある
つまり彼らが拝んでいるのは「日本そのもの」ということ
そして出撃前に天照大御神に参拝するのは「武運長久」の祈願と
決まっているので金毘羅さんや恵比寿さんを拝むのとは全然意味が違う
多分そんな意味も知らないでこのシーンを真似したんだろうなと思う



山本五十六がなぜ真珠湾攻撃作戦にこだわったのか、ということも「トラ・トラ・トラ!」の方ではしっかり描かれている。

山本は真珠湾作戦の準備も進めながら、当時の内閣総理大臣の近衛文麿に
「日米和平交渉はどうなっているのか?」
と迫り、おどおどする近衛に
「もし戦争となったら海軍の見通しはどうですか?」
と聞かれるとムッとした表情で
「やれと言われれば半年や一年は暴れて見せるが、2年、3年となると全く保証できません。
もしもなどと言っていたらまとまるものもまとまりません。
外交にはラストワード(相手を言い負かす言葉)はないということをお忘れなく」
とやや半ギレで詰め寄る。

日米和平交渉の進捗を常に気にしており、真珠湾への出撃の最終会議でも
「攻撃の日時をX日としその前日までに和平交渉がまとまった場合引き返しを命じる」
と訓令する。 これにどよめいた各部隊の指揮官たちが
「決死の覚悟で出撃するのに引き返せと言われても収まりません」
と反発すると
「引き返せと命じられて引き返せない指揮官は、即刻辞表を出せ!
アメリカは日本がこれまで戦ってきたなかでも最強の敵となる
これは油断を戒めるために言っているのではない
私がこの目で見てきた事実である。」
と激昂する。

山本五十六には
「アメリカ相手に勝つ方法などない、外交交渉のために時間稼ぎができるだけだ
ならば初戦でできるだけ大きな被害をアメリカ軍に与えて少しでも時間稼ぎをするしかない
だから初戦は真珠湾攻撃以外にあり得ない」
という見通ししかなかったのだろう。


ところが外交官の手違いで日本の最後通告は真珠湾攻撃の1時間近く後に遅れてアメリカに手渡された。

陰謀でも騙し打ちでもなんでもなく、信じられない見通しの甘さと素人考えの手違いで宣戦布告は遅れた。

アメリカ人の気質をよく知っている山本は
「初戦でアメリカ人の戦意をくじくつもりが、これでは逆に眠れる巨人をたたき起こし奮い立たせたも同然だ」
と嘆息する。

その後の戦争の行方はまさにその危惧の通りになってしまう。


心血注いだ真珠湾攻撃作戦は結局日本を利したのかどうか…という歴史の皮肉がここに込められているのだが、マイケル・ベイの「パールハーバー」ではパールハーバー攻撃の後なんの説明もなくマコが
「眠れる巨人をたたき起こしてしまった」
とつぶやくという意味不明な演出になっている。

もう本当に20世紀FOXの名作の印象的シーンだけを適当にパクった映画としか言いようがない。


これなら相手は日本人ではなく宇宙から来た虫のようなエイリアンで、アメリカ空軍がエイリアンをボッコボコにやっつけるCG映画の方が批判が少なくてと良かったのにと思う。

こんな映画がそこそこのヒット作になって、これが史実だと信じているアメリカ人や日本人が少しでもいるかもしれないと思うとまたムカついてきた。

通常映画評は褒めることができない映画は取り上げないポリシーなのだが、記念日なのであえて取り上げてみたがやはり褒められるシーンがワンカットもない。



2020年12月8日
















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