砲艦サンパブロ〜名優マコが輝いていた時代の名作…戦争をテーマにするんならここまで考えさせる作品にしてほしい
砲艦サンパブロ
戦争と国家への誇り、友愛と外国人への憎悪が人に何をもたらすのか…とても深い映画。
先日マイケル・ベイの「パールハーバー」のことを書いていたら、そういえばブルース・ウイリスが出演していた「エアー・ストライク」という中国映画も思い出すたびにムカつく映画だったよな…とかいろいろ思い浮かんできた。
中国が90億ドルだかの巨額を投じて制作した超巨編反日映画なんだけど、反日要素の部分はもう相当批判が出ているので置いておくにしても、重慶爆撃当時の中華民国空軍のI-16でゼロ戦を撃墜したとか、その日本人が操縦するゼロ戦は爆装して重慶市民を一人ずつしらみつぶしに虐殺したとかいう描写が、もうデタラメを通り越して悪意しか感じないような嘘くそでっち上げ映画だった。
細かいことを言うと重慶爆撃に参加したゼロ戦はまだ先行量産型の11型で、爆撃どころか爆弾を吊り下げておく装置もついていない。
それに機銃掃射で市民を一人ずつ虐殺したというのも嘘で、戦闘機なんてたった700発、射撃時間にしたら40秒程度分しか弾を積んでいないのであんなにばかすか撃ったらすぐに弾切れになってしまう。
弾切れになった戦闘機はただの遊覧飛行と同じで、後は何もできないのであんな無駄弾を撃ったはずがないと思うのだが、日本人を悪者にできれば考証なんかどうでもいいというのが反日中国映画だからしかたがない。
そういうアクションさえあればOKみたいなムカつく嘘満載の映画をけなし続けるのも少しは意味があるのかもしれないけど、思い出しても気分が悪くなる映画なのでもうこの手のアフォ映画の悪口は書かないことに決めた…というか前からそういうポリシーだったのだけど、そうすべきだと再確認した。
ブルースウイリスとかなんであんな映画に出たのか、フィルモグラフィーに残るんだからキャリアに傷がつくよ…とか思っていたら「パールハーバー」のマコのことを思い出した。
マコこと日系アメリカ人の俳優岩松信は、チープなアクション映画に出てくるセリフ棒読みの変なおじさん…と思われるは残念な名優。
この人「砲艦サンパブロ」でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
アカデミー賞とったりノミネートされている映画が良い映画とは思わない(特に最近15年ほどの受賞作はヒドイ)が、この映画は納得がいく作品だった。
あらすじはこんな感じ。
アメリカ海軍戦闘艦USSサンパブロ号は揚子江の支流に係留して、在留米人の保護を任務とする…と言いながら船の整備運行や清掃、乗組員の散髪や髭そりまで中国人のクーリー(苦力)に賃仕事でやらせて水兵たちの日課といえば、毎朝国旗を掲揚して「掃討訓練」という名目で野次馬の中国人に水を浴びせるだけという要するに「忘れ去られた船」。
水兵たちもどうでもいい任務だと思っているから日常的にクーリーに自分たちの仕事をやらせている。
邦題の「砲艦サンパブロ」という勇ましい名前とはうらはらに米西戦争の戦利品という骨董艦
清朝末期、国民党が勢力を持ち始めた中国に駐屯するアメリカ人流の言い方をすれば
「エンジンがついたボロバケツ」というような船、遠目には遊覧船と区別がつかない
このボロ船にエンジン技術者として赴任してきたホルマン(スティーブ・マックイーン)は
エンジンルームで事故が起きたといういきさつから中国人のクーリー(マコ)に
エンジンの扱い方を教えることになった
この船に着任したエンジン技術者の水兵ホルマンは、道すがら知り合った伝道師の助手の女性(キャンディス・バーゲン)と親しくなる。
折しも列強が中国を割譲して植民地化していることに、中国人の反感が高まっていた時期。
あるものはアメリカの利権を確保するため、あるものは中国人にキリスト教の恩恵を与えるためにここにきたというが、女性は中国の若者に農業を教えて彼らを助けるために来た教師だという。
あなたはなぜここに来たの?と問われると学校で起きた問題が自分のせいにされてしまい、いくら弁明しても
「少年院に行くか海軍に行くかどちらか選べ」
と言われたので海軍に来た、専門はエンジンだからエンジンのあるところならどこにでも行くと朴訥に答える。
着任したホルマンはこの船のエンジンの整備から操作まですべて中国人にやらせている「しきたり」に反発してすべて自分でやろうとするが、これが仲間の水兵たちの反感を買う。
「この賃金で彼らも助かってるんだから中国人の仕事を取り上げるな」
渋々クーリーの元締めにエンジン整備をやらせたところ事故が起きこの元締めが死んでしまう。
クーリーたちの反感も買ったホルマンは上官の命令でエンジン操作を一人の中国人青年(マコ岩松)に教えることになった。
ただ一人親しくなった仲間の水兵フレンチー(リチャード・アッテンボロー)が一目惚れした中国人女性メイリー(マラヤット・アンドリアンヌことエマヌエル・アルサン)を助けるためにホルマンは青年にボクシングを教えて、フレンチーの恋敵を伸してしまうなど三人の熱い友情物語に…
しかし時はまさに「義和団事件」勃発の前夜。
メイリーは中国人の排外主義者たちに殺されてしまい、その汚名は彼女が亡くなった現場にいたホルマンに着せられる。
ホルマンに反発したクーリーの企みでホルマンの助手の青年は義和団蜂起の民衆に捕らえられ惨殺されてしまい、さらに彼らは
「殺人者ホルマンを引き渡せ」
とサンパブロを包囲して迫る。
威嚇射撃をして蜂起市民を追い払えと命じる艦長に「機銃が故障しました」と命令を聞かない水兵
それどころか他の水兵たちまで「ホルマンを引き渡せ」と叫び始め艦上は叛乱寸前の状態に
義和団の蜂起が中国全土に広がったため在留米人保護のため居留地に向かった海兵たちを
「ここは中国である、武器を持った外国人は直ちに退去せよ」と排除する国民党軍
艦長は本国から「中国人と無用な争いを起こしてはならない」と命令を受けていた
しかし国民党につまみ出された副長に「こんな屈辱は生まれて初めてです」と泣かれ
自らも艦を叛乱状態にしてしまった屈辱から銃をしげしげと眺め始める
ところがそこに義和団の武装蜂起が起こりついに本国より「武力を使ってでも米人を保護せよ」との命令が下る
艦は揚子江上流に向かいキャンディス・バーゲンらがいる教会のアメリカ人を保護する任務に向かった
青年兵が守るバリケードを突破する時に戦闘旗(星条旗)が上がって初めて乗組員たちの戦意が高まる
砲艦といっても武装は船首の50mmほどの榴弾砲と両舷の機関銃だけ
あとは水兵たちが手にしたライフルとサーベルだけという大時代的な船
戦法も敵艦に乗り移ってチャンチャンバラバラという帆船時代の戦法しかない
中国の片田舎の川に係留された忘れられた小さな船「サンパブロ」はたまたま歴史の最前線に立たされ、米海軍唯一の中国奥地の米人保護任務のために義和団と戦闘をする最先頭の艦となってしまった。
奥地で中国人の学生たちに農業を教えるシャーリー(キャンディス・バーゲン)
保護に来た米兵に「中国人とは信頼関係があるから大丈夫」と保護を拒絶する
再会したホルマンがクーリーにエンジンの操作を教えていると聞くと
「あなたも教師になったのね」と素直に喜んだ
ところが義和団武装蜂起が深刻化して米国人が惨殺されるかもしれない情勢になり
揚子江のバリケードを突破する戦闘に参加したホルマン
そこで撃ち倒した学生がまさにシャーリーの教え子の一人だった
アメリカ人の安全を守るのはアメリカ国旗を掲げた海軍艦艇の兵の義務であると説く艦長に対して、宣教師は
「何が国旗だ、旗なんかどうでもいい、大事なのは人なんだ」
と反発する。
しかしその宣教師も虚しく武装蜂起の暴徒に射殺されてしまう。
旗に命をかけた艦長も戦死してしまう。
ホルマンは最後に残された愛する人を守るために、自分が囮になって彼女を逃がすために最後の戦いを始める…
このマックイーンがボイラーエンジンの仕組みを教える中国人のクーリーがマコこと岩松信、「パールハーバー」で山本五十六を演じた棒読みおじさんの若き日の姿だった。
マコは日系アメリカ人だが、生まれも育ちも日本の兵庫県という日系一世だ。
マックイーンがボイラーエンジンのスチームの流れを教えるくだり
「これがメインバルブ(Main Valve)だ」
と教えるとマコが復唱して
「メインワウ」
「メインワウじゃないMain Valveだ」
「メインワウ」
「OK、メインワウだ」
「そしてこっちがロープレッシャーバルブ(Low Pressure Valve)だ」
「ロープレッシャーワウ」
「そう、ロープレッシャーワウ…」
マックイーンが諦めたような顔をしてバルブを「ワウ」と呼び始める。
英語のVは下唇を噛んで発音するのでBよりもWに近いようにアジア人には聞こえる。
Lは上の歯の裏に舌の先を着け、特に米語の場合は歯の間に舌先を挟んで発音するのでラ行よりもワ行に近く聞こえる。
Valveはバルブじゃなくてヴァウヴと言っているように聞こえる。
だからメインワウ、ロープレッシャーワウなんでしょうね。
日本語の吹き替え担当はここで苦労して「バルブ」を「バブル」と言い間違えているというストーリーにしていたけど、これは吹き替えじゃない方が面白い。
この演技でアカデミー賞ノミネート。
その小柄なマコがマックイーンに仕込まれて巨漢のアメリカ人水兵をボクシングで倒してしまうシーンは、大国アメリカに対するアジア人の誇りが沸き起こってやがて大国を倒すというアジアの興隆の象徴だったのかもしれない。
しかしマコ演ずる青年は義和団の蜂起で中国人に殺されてしまい、メイリーも排外主義者の市民に惨殺される。
誇りを取り戻した中国人が侵略者に打ち勝つという「エアー・ストライク」のような単純な話じゃない。
融和主義者も排他主義者もみな等しく時代の激流に押しつぶされるという話だ。
アメリカ人の誇りの星条旗を掲げることでサンパブロの乗組員は再び団結したように見えたが、その星条旗はアメリカ市民には拒否される。
中国人との信頼こそが重要なのだと説く宣教師は中国人に射殺され、クーリーからも水兵からも反発を受けたマックイーンは友を失い行き場所も失って、たった一人ほのかに心が通っただけの女性を助けるために命を投げ出す…悲しい物語だ。
アッテンボローが一目惚れする中国娘メイリー役のマラヤット・アンドリアンヌ
この人は女優としてはパッとしなかったがのちにフランスに帰化し
エマヌエル・アルサンというペンネームで小説「エマニエル夫人」を書きヒットする
これが映画になって世界中で大ヒットしたのは記憶に新しい
以前ジョン・ブローニングの項目でも書いたが、テッポ好きの映画評なのでもう一度書いておく。
この映画でマックイーンが持っている機関銃みたいなライフルはBAR・ブローニング オートマチック ライフルという銃。
BARは世界で初めての分隊支援火器といえる銃で、連射でも高い命中精度を維持できる。
一人で手に持てる大きさで制圧射撃ができる銃として、のちのM16やAK47のような突撃銃の原型になった。
BARの重い連射音はこの映画のラストシーン、マックイーンが単身民兵と戦うシーンで確認できる。
2020年12月10日
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