マテバ2006Mのデザインと歴史〜こんな変なテッポどういうやつが作ったんや?という話
前回の攻殻機動隊のエピソードで「左利きのキャッチャーミット」の下りで書き漏らしたことがあったのでちょっと続ける。
授産施設に潜入捜査をかけたトグサに「笑い男」の正体と思われる「アオイくん」の特徴を尋問するくだりで、トグサが答えた数少ない特徴が
「左利き用のキャッチャーミットを持った少年」
だったが、これを聞いたバトーが
「左利きのキャッチャーミットってのはなぁ、ありそうでありえないという意味のネットスラングだよ」
というくだりがあった。
これも気になっていたので本当にそういうネットスラングがあるのか「左利きのキャッチャーミット」で検索をかけてみた。
そしたらありそうでありえないどころか、普通に検索結果の1番目と2番目でAmazonや楽天市場の左利きのキャッチャーミットがかかってきた。
普通にあるじゃん!
と、思ってさらに調べていたら確かにものとしてはあるのだが、プロ野球の12球団で左投げのキャッチャーは存在しないことに気がついた。
左利きのキャッチャーはいる。
が、しかし左利きのキャッチャーは大抵は右投げ、左打ちというように捕球は右に矯正しているので、左利きのキャッチャーミットを使っている人はいない。
今現在いないだけでなく、過去にも存在したことはない。
もし今後左投げのキャッチャーがどこかの球団で正捕手になったらプロ野球始まって以来で、それはそれでニュースになるというぐらい珍しいことだ。
これには理由がある。
ピッチャー、野手、バッターそれぞれ右と左どちらが有利かというのはポジションや打順ごとにいろいろセオリーがあるのだが、ファーストの場合右利きは不利ではあるが絶対ダメかというとそうでもないらしい。
ところがキャッチャーは左投げは絶対的に不利なんだそうだ。
2塁牽制の時に、打者が右だと投げるのに邪魔で右利きキャッチャーより遠くホームベースから離れないといけない、3塁のエンドランのランナーを刺すときにはほとんど180度回転してから投げないといけないなど牽制がワンテンポ遅れる。
なによりホームベース上のクロスプレイの時に右手でバックホームを受けるとどうしても追いタッチになってしまうなど不利な点はあげたらきりがないらしい。
例の攻殻機動隊のテレビシリーズの制作に参加したお知り合いの息子さんの漏れ聞こえる話では、このアニメの制作のためにあらゆる時代背景、技術情報の進歩、社会情勢の変化の予測を広範にブレーンストーミングして
「現在はそうじゃないけどこの時代にはこうなっているかも」
という状況を徹底的に洗い出したのだそうだ。
「枝をつける」
なんて用語もシリーズで頻繁に出てきたが、現在の通信用語では使われていない。
この時代には敵の通信コードを特定してその内容を盗んだり偽情報を逆流させたりすることをこういうとか、未来には発生しているかもしれない隠語もブレストで幾つも考えたらしい。
この
「左利きのキャッチャーミットはありそうでありえないというネットスラング」
というのも、そういうブレストの結果のこの時代には発生しているかもしれないネットの隠語ということなのかも。
「反乱するアンドロイド」の回で「地道な聞き込み」と称して9課のメンバーが何をやっていたかというと、違法薬物をさばいていたクラブのマスターを脅迫するとか、ヤクザをボコるとかそういうシーンがちらっと描かれているのもブレストの成果なのかな…
【マテバという会社について】
昔々、イタリアの田舎におじいさんがおりましたとさ。
おじいさんはイタリア人がお店で食べるパスタを手打ちするお店の人が難渋しているのを見て、パスタを作る機械を発明しましたとさ。
おじいさんの機械のおかげでパスタがたくさん作れて、お店の人もお客さんも皆喜びましたとな。
そのおかげでおじいさんの会社はそこそこ繁盛しましたとさ。
そのおじいさんには息子がおりましたんじゃ。
おじいさんの会社がそこそこ繁盛したので息子は若いうちから猟銃をいじったり、ピストル射撃の道楽に入れ込んでおりましたそうな。
「おら、ピストルを作ってみたい」
息子はそういうとパスタ工場の中に自分の工作部屋をつくりましたとさ。
息子はそこでピストル射撃競技用のピストルを作り始め、工作室に「マキーネ・テルモ・バリスティッチ」という看板を掲げました…
意味は「熱弾道機械」というこの工作室の名前が長いので、頭の一音ずつ取って「マ・テ・バ」としました…
そして「マ・テ・バ」のブランド名でピストルを売り始めましたとさ…
息子のエミリオ・ギゾーニが目指したのはラピッドファイアピストルなどの射撃競技用の拳銃
この当時は…というより今でも愛用者が多いがラピッドファイアピストルはワルサーGSPの独壇場
5発の22LR弾を箱型弾倉に込めてストレートブローバックで自動排莢・装填するオート競技銃だった
ラピッドファイアピストルは20m先の2センチの蛇の目を一発6秒の持ち時間で5発撃つという過酷な競技
GSPはこれ以上手の入れようがないぐらいの完成度だった
最初にエミリオがチャレンジしたのはGSPと同じく箱型弾倉に22LR弾を縦に込めて
ボルトの後退で排莢・装填をする自動拳銃のMTR1
これはMTR1発売に関連してアメリカに特許申請をした書類
「反動利用型自動拳銃に関する特許」という表題になっている
見たところGSPのようなストライカー方式ではなくハンマー方式でボルトにリコイルスプリングを
内蔵してチェンバーの左右を大きく切り欠いて排莢詰まりの不安を取り除いた設計
左右ウイングのようなブリーチの形状がのちのUnicaなどのブローバックの形状を連想させる
この人もなかなかデザインの傾向がはっきりしているというかクセの強い人だったようだ
この設計からも自動拳銃の信頼性を改善したかったという意図が感じられる
このあとのギゾーニが一貫していたのはリボルバーというスタイルにこだわったこと
そして銃身の軸線とグリップが離れていない銃口の跳ね上がりが少ないレイアウト
2作目のMTR8では銃身軸線とグリップのギャップを広げないためシリンダーをトリガーガード前に置いた
MTR8で直線的に後ろにスライドしてストライカーをコックするトリガーが採用された
ダブルアクションだけでなくシングルアクションも可能なコッキングレバーも特徴ある
MTR8に関連して申請された米国特許の書類には
「昇降するリボルバーで優位になる装弾数」とある
ポイントはそこだったのか…という感じ
MTR8では100度以上回転するヨークに支えられたシリンダーが左下に開く
この構造のためフレームサイズにシリンダーサイズが制約されず8連発も10連発も可能
実際ここには12連発のシリンダーが描かれている
一般的なリボルバーの倍の火力というのが売りだったようだ
MTR8は38口径の38スペシャル弾を8発円形クリップに挟んでシリンダーに装填する
このクリップのおかげで8発を一瞬で再装填できる…
というところにエミリオは未来を感じたのかもしれないが
彼の思い通りにならなかったのは「クリップを紛失したら装填できない」
「バラダマを装填できない」などのユーザーの不満のためだったようだ
その後もいろいろ紆余曲折あってたどり着いたのがノーマルな6連発のリボルバーのMTR6
シリンダーをトリガーの前に置くのはどうしても銃がデカくなるしフロントヘビーになるので
ノーマルなリボルバーのようにシリンダーをフレームの中に収めた
その結果サイズや重さは普通になったが装弾数は6発程度と制約される
シリンダーをトリガーの上に持ってきたので例の銃身軸線とグリップを
離さないというエミリオのこだわりで銃身はシリンダーの下側に移された
スライドしてハンマーをプッシュするトリガー構造以外はかなり2006Mに近づいてきた
グリップの中に予備弾を収納してすぐに再装填できるこのタイプはMTR6+6
事実上12連発に匹敵するというのはエミリオの推しだったようだ
その予備弾を一瞬で再装填できるというメリットを活かすために
カートリッジを円形クリップで装填する構造が残った
クリップの邪魔にならないようにシリンダーヨークは200度近く上に開くようになった
この特許資料を見るとやはりシリンダーが上に開いて一瞬で
クリップ装填できるというのがMTR6の特許の肝のようだ
マテバ社のMTR6シリーズのカタログ
MTR6はカートリッジの装填に円形クリップが必要になるというのは
コンシューマーにはやはり欠点としか映らなかったようであまり売れなかった
(上)MA・TE・BA 2006M実銃と(下)マルシンのマテバ2006M
円形クリップ仕様で事実上12連発…というエミリオの頑固なこだわりはさすがに続かなかった
MTR6+6は結局ノーマルな6連発のリボルバーの2006Mに改良されて製品化された
(上)MA・TE・BA 2006M実銃と(下)マルシンのマテバ2006M
水鉄砲の引き金みたいに真後ろにスライドするトリガーも重くてタイミングが
わかりにくかったのかS&Wのダブルアクショントリガーと似たような構造に変更された
2006MはMTR8以来のねじ込み式のバレル構造を引き継いだので
専用工具一つで様々な長さのバレルに交換が可能な構造は残った
米国特許資料によると1987年にマテバはオートマチックリボルバーの特許を申請している
フレーム上部とシリンダー、バレルがシリンダー長の3分の1ほどのストロークでブローバックする
その後退運動の力でハンマーをコックしシリンダーを6分の1回転させると資料にある
装填排莢までしなくていいので大きなストロークは必要ないはずなのでこの構造になったようだ
この特許がのちにMATEBA modello 6 Unicaになった
オートマチックリボルバーは前世紀のウエブリーアンドスコット以来のことか
そしてマテバのオートリボルバーもウエブリーアンドスコットと同じ欠点を持つことになった
故障の心配があり構造が複雑で手入れが難しいわりには装弾数は6発しかない
オートとリボルバーの悪いとこどりとなってしまった
せがれどんは毎日せっせとテッポをこさえましたとさ。
しかし作っても作ってもちっとも売れやせん。
それでもエミリオのこさえたテッポに興味をもったドイツのお金持ちが、大きな工場を建ててくれてメリケンで売り出したら少し人気が出てきたとな。
工夫に工夫を重ねたせい・うにか(Modello 6 Unica)を「オートリボルバー」という名前で売ったらメリケンでは有名にはなったが
「かっこいいテッポじゃが、高いし重いし6発しか撃てんので撃ち合いには使えんのう」
という評判になって、これも結局赤字だったとな。
じい様のパスタ製造機工場もすっかりテッポ工場に様変わりして借金もかさんだので、エミリオは「マテバ」を売ってしまいましたとさ。
「マテバ」を売っぱらってしまったエミリオとテッポ職人たちは「きあっぱ」(Armi Sport de Chiappa)という会社に転職して自分好みのテッポを作り続けましたとさ。
エミリオらマテバの残党が転職したキアッパで製造した「ライノ」
ギゾーニこだわりのシリンダーの下側に銃身があってグリップとのギャップを少なくする設計
キアッパに移ったせがれどんは長年のこだわりのリボルバーをこさえつづけたが、人気を盛り返すまでもなく2008年についにあの世へ旅立たれたとさ。
キアッパに残された職人たちもほそぼそライノを作り続けておったとな。
一方せがれどんから「マテバ」を買ったのは、あのドイツのお金持ちを紹介してくれたお友達のセルジオ。
せっかくメリケンで少しずつ人気が出て「マテバ」の名前も有名になってきたので、この名前でガバメントやM1カービンのレプリカを作ったら売れるに違いないと「マテバ」を買ったが、これも鳴かず飛ばずじゃった。
結局お友達のセルジオも2005年に死んでしもうた。
その息子のバレンチノは
「こんな金にならんテッポ工場やパスタ製造機工場は要らん」
と相続したマテバを売ろうとしたが、誰も買い手がつかんかったのでそのままパスタ工場ごと廃業してしもうたそうな。
こうして「マテバ」を作った人々も去ってマテバの名は消えるところじゃった…
しかし2014年にマテバは再興され、2006Mも新マテバで生産が再開されたということじゃ。
これは旧マテバで生産されていた「PAVIA ITALY」の刻印がある2006M
バレルウエイトにさらにウエイトを増設してマズルジャンプを抑えている
こちらは2014年に再興された新マテバの2006M
「PAVIA ITALY」の刻印が廃止され「MADE IN ITALY」に変更されている
フレームに357Magnumの口径表示も刻印されるようになったのは米国基準に合わせるため
(上)MA・TE・BA 2006M実銃と(下)マルシンのマテバ2006M
マテバ復活の原動力に「攻殻機動隊」のアメリカでのヒットが関係あるのかどうかは知らない
アメリカには古式銃コレクターという階層も多いから丁寧な工作で仕上げられていた旧マテバを
好んで買い集めているマニアが多いのかもしれない
こちらが現在のマテバのWebサイト
MATEBA FIREARMS
しかしなんとも重いWebサイトじゃなぁ、再興したのはいいがこっちもあまりうまくいっとらんのとちゃうか?
マテバのWebサイトより2006Mのスペックと調整法の説明
トリガープルはダブルアクションで4.7kg、シングルアクションで950g
シアのリリースタイミングと重さをグリップの中と
リアサイトの上のスクリューで調整できると書いてある
マルシンはそこまで再現していないがこのこだわりは
やはり競技用の銃だという考え方なんだと思う
2021年7月1日
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