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映画に登場するプロップガン・マルシン・ワルサーP38〜
リアル化のリファレンス資料はこれ…それと印象に残ったフィルム

P-38

映画に登場するプロップガン・マルシン・ワルサーP38〜リアル化のリファレンス資料はこれ…それと印象に残ったフィルム

マルシンのワルサーP38をダミーカート化して見てくれもリアルにした話の続き。

ワルサーP38とはどういう銃か…なんていう生い立ちの話は超有名な銃なのでそこら中に解説があるのでそちら参照…

それまでのドイツ軍の主力拳銃として実績のあったP08や将校用の護身拳銃としてすでに支給が始まっていたPPKに続いて1939年、つまりポーランド侵攻の年に支給が開始された。

その時から戦後モデルのP38-II、P1に引き継がれるまで6年間生産されたが、チューリンゲン(当時)のワルサー工場だけでは生産が追いつかないのでモーゼルヴェルケ、シュプレーヴェルクなどでもライセンス生産されたために外観については生産地、時期によって結構ばらばらでモデルガンやエアガンもどの時期のどの個体をモデルにしたかで結構解釈が異なる。

表面の仕上げもブルーイングから、パーカー、塗装、いろいろあるようなのでどれが正しい、どんな色が正しいというのも一概に言えない。

今回はいろいろ調べて1943年製のモーゼルモデルをリファレンスにしたがちょっと集めた資料をもとにP38を考察してみる。





前回もちょっとあげたリファレンス用の写真
(上)1944年製造のモーゼル製P38実銃と(下)マルシン・P38モデルガン
ごく初期の頃P38のスライド左側にはワルサーのペナント刻印が入っていたが
制式採用と同時に戦時体制に入ったので製造所秘匿のためメーカーはコードで刻印するようになった
ワルサー製造はac、モーゼルはbyf、svw、シュプレーヴェルクはcyqの刻印が打たれた
上の実銃はbyf44と打たれているのでモーゼル44年製、下のモデルガンはac43と
打たれているのでワルサー43年製ということが刻印から読み取れる




これはワルサー製造の1941年製P38実銃
全体に非常に丁寧なポリッシュがかけられておりブルーイング仕上げも丁寧で綺麗
ワルサー戦時モデルというと表面はザラザラというイメージがあるが
初期の頃はこんなに丁寧に工作されていた




このグリップはプラスティックやベークライトではなくエボナイトが使われている
エボナイトはゴムを高温高圧整形した合成樹脂て肉引きがなく経年劣化や変色もない
身近なところではボウリングのボールに使用されているのでイメージしやすい
ベークライトと違って表面が非常にキレイで艶があるのが特徴
エボナイトグリップはこのように真っ黒な色に染色されていた




この真っ黒なエボナイトグリップP38は同じエボナイトグリップ仕様のルガーP08と並んで
「ブラックビューティ」と呼ばれてワルサーコレクターの間でプレミアがついているそうだ
大戦初期の頃にごく少数が親衛隊などに配給され稀少性もあるためオークションでも高値がつくとか




これはモーゼル製造の1943年製実銃
これもブルーイング仕上げだがグリップはベークライトに
変わり表面のポリッシュもほどほどになった
この時代の標準的な仕上げ




(上)モーゼル製造1943年製実銃と(下)マルシンP38モデルガン
今回の仕上げのイメージのモデルにしたのがこの写真
大戦中期の頃のまだ比較的丁寧に工作していた時代の仕上げ
グリップは赤っぽいフレアの入ったベークライトでブルーイングは
つやありのブライトからつや消し気味の黒っぽい色合いに変わった




そして大戦末期に入ると何年製造かという刻印も省略されるようになってきた
ワルサー製のおそらく1944年か1945年製造の実銃
ワルサーのベークライトグリップは赤っぽい色合いが多いがこの個体は黒に近い色




遠目にはグリップが黒っぽいので「ブラックビューティ」かと思うが拡大して見ると
グリップが明らかにエボナイトではなくベークライトが使用されてザラザラな仕上げ
まあつまりこういう色合いも時期によりいろいろ変わるということだ




これをなぜ44-45年製と思うかというとこの工作の荒さ
レシーバーの溝などミーリングマシーンで削ったままザラザラで
放置されており表面もポリッシャーでさっと撫でた程度の仕上げ




これも大戦末期のシュプレーヴェルク製の実銃
ベークライトグリップの色合いはワルサーよりも赤みが少ない気がする
ポリッシュの雑さは上のワルサー製とどっこいどっこい




1944年製のワルサー製造の実銃
この頃になると刻印の位置やルールもバラバラになってくる
比較的赤っぽいフレアが細かいベークライトグリップ
刻印のホワイトは戦後にコレクターが入れたものだと思われる




(上)1944年製のワルサー製実銃と(下)マルシン製P38
スライド左側にはドイツ国軍のプルーフマークが刻印されている
モデルガンにはマルシン製造の刻印のみ




(上)1945年製のワルサー製造実銃「グレイゴースト」と(下)マルシンP38
この個体のベークライトは比較的暗めの色合い




大戦末期になってくるともう表面仕上げもかなり雑になってくる
トリガーバー、スライドなどの表面に製造工が手でヤスリをかけた跡がはっきり残っている
ベークライトグリップも表面はザラザラ




バレルユニットの正面にもシリアルの刻印があるのが興味深い




この時代は表面仕上げはブルーイングからパーカライジングに変わり
グレーっぽい姿から「グレイゴースト」とコレクターの間で呼ばれている
希少性からコレクターに人気…という話は聞かない
1990年代から2000年代にかけて連邦軍のP1も大量に退役して市場に流れたため
P38はコレクター垂涎というほどの人気もないし実銃はかなりコンディションが悪いらしい
実銃は撃つとリアサイトカバーが顔に向けて飛んで来たりするんだそうだ




マルシン製ワルサーP38戦後モデル
戦後1950年台後半からワルサー社は西ドイツで再創業しP38の生産を再開した
ワルサーP38(戦時モデル)、P38-II(戦後コマーシャルモデル)、
P1(ドイツ連邦軍制式拳銃)と名前をいろいろ変えたが中身はほぼ同じ
戦後モデルのこのグリップデザインや刻印は開戦直前にスウェーデン軍向けに
輸出された(建前)民間モデルのm/39がベースになっている
ナチスのイメージを払拭したいという思いがあったのかどうかは知らない
ほぼこのままのデザインで刻印だけ「P.1」と変更されて西ドイツ軍に採用されている



ワルサーP-38 ルパン三世

ワルサーP38が出てくる映像となると、ある程度以上の年齢層はかならず
「ワルサー ピィー サンジュウハチィ〜♪」
と口ずさむやつが出てくる。

テレビアニメシリーズで何本か映画にもなった「ルパン三世」の愛銃として記憶に残っている人も多いはず。

もとはモンキーパンチが週刊漫画アクションだったかに連載していた漫画だった。

漫画だから銃の詳細なんて出てこないしワルサーP38とルパン自身が明言したこともなかったんじゃないかな。

フランスの怪盗ルパンの孫を自称するルパン三世が使っている「P38」が戦時モデルなのかコマーシャルモデルなのか、なんとなくそんな設定も多分ないんだろうなと思っていた。

ところがテレビシリーズのスペシャルでズバリ「ワルサーP38」という番組があったことを最近知った。





この特番によるとルパンはある因縁から若い頃愛用していた
ニッケルメッキにエングレービング加工した戦時モデルP38を奪われ
ブルーイングの戦時モデルP38に持ち替えたというエピソードが出てくる
何れにしてもルパンの愛銃は戦時モデルだという詳細が初めて明かされる
このタイトル画像でも畝型滑り止めの戦時モデルグリップが描かれている

原作漫画もテレビアニメもエンドタイトルの歌の割には銃にあまり思い入れがある感じでもなく、いつもテッポの手入れをしている次元大介がちょっと律儀でカワイイなというぐらいの関心だった。

モンキーパンチのルパン三世とテレビシリーズのルパン三世はほぼ別物というのは定評のあるところだし、フランスの怪盗の孫がなんでドイツ軍の戦時モデルを愛用しているのかというのも必然性がよくわからないが、なんとなく
「ルパンは戦後コマーシャルモデルを使っているんだろうな」
という思い込みはこのスペシャルで完全否定された。

とにかく
「ワルサー ピィー サンジュウハチィ〜♫」
と歌っていたあの銃は先日から取り上げているこの銃だということがわかった。




ダーティハリー

ワルサーP38はドイツ軍の、しかもナチスドイツと戦後西ドイツ連邦軍の両方の制式拳銃なんだから戦争もの映画を探せば良さそうなものなのになぜか戦争映画で印象に残るものがひとつも思い浮かばない。

前々から思っていることだが、「戦争」というシチュエーションでは拳銃はほぼ役に立たないから意外に登場する場面が少ないのかもしれない。

軍用拳銃として超有名なガバやルガー、トカレフなんかもフィルムなどで印象に残った作品を挙げるとなぜか戦争映画が一つも出てこない。

むしろ平時の刑事物やアクション作品でないと拳銃に意味を持たせることができないのかもしれない。

早い話が迫撃砲弾や機関銃弾が飛び交っているところに、ピストル一つ持って飛び込んでいっても数秒後にはやられる映画の大部屋俳優の役しか思い浮かばない。





映画や報道フィルムなど戦争を扱った全ジャンルを通じて拳銃が印象的な扱われ方をしている唯一の写真
「大隊長」と題された報道写真・または「政治委員アレクセイ・エリョーメンコの死」
手にしているのはトカレフTT33で映画・ドラマ・報道フィルム・報道写真
あらゆるジャンルを通じてハンドガンに目がいく唯一の戦争物だと思う
そして赤軍兵士を鼓舞した社会主義英雄アレクセイはこの写真の次の瞬間に戦死する
拳銃ってどうしてもそういうやられ役でしかない




ワルサーP38という拳銃が強烈に印象付けられたのはクリント・イーストウッド主演の「ダーティーハリー」
この作品で悪役のスコーピオンがラストシーンで使用したのがワルサーP38だった




酒屋のオヤジを強盗してレジから金と一緒に奪ったP38は遠目には戦後モデルに見える
この銃を一撃で撃ち落としたハリーは「どうだ運試しをしてみるか?」と有名な台詞を吐く


この映画でスコーピオンが最初に使った狙撃銃は、旧日本軍が空挺部隊のために開発した「二式テラ銃」をスポーターライフル風のストックに付け替えた「アリサカスポーター」だったし、教会の向かいのビルで張り込みをしていたハリー達に短機関銃弾を浴びせるシーンでは旧ナチスドイツ軍のシュマイザーMP40短機関銃が使用されていた。

そしてラストシーンはワルサーP38で、それに対するハリーたちサンフランシスコ市警の得物はコルトディテクティブとスミスアンドウエッソンのM29、通称「44マグナム」だった。

これも日独枢軸軍を打ち破るアメリカの自由の戦士というシンボライズが含まれたプロップの選定だった意図は明白。

まあ、敵役、やられ役なんだけどそういう悪役の方が時として主役より魅力的に見えるということはある。

この映画でもS&WのM29よりもP38の方がリアル厨房だった私には印象に残った。





こうして外観はリアルになったマルシンP38だがまだ心残りはある




まだ私がモデルガンをいじり始める前のリアル厨房時代に
テッポのメカに最初に触れたLSのスーパースケールシリーズのP38
1/1スケールのプラモデルなので強度もプラモデルなりのものだったが
メカニズムはリアルに再現されていてショートリコイルロッキングシテムの
仕組みと目的を私はこのプラモデルを通じて知った




そのプラモデルで得たメカ知識からするとマルシンのモデルガンの
テイクダウンレバーを下ろすだけでは分解できないというメカが
発火モデルで擬似ショートリコイルを再現するためとはいえ情けなく見えた
マルシンは丸で囲んだピンをポンチか何かで抜かないと分解できない
工具なしに通常分解ができるというのがもうこの世代の銃の
必須条件のはずなのでこのデフォルメは本当にいただけない




これを再現するためにはやはりショートリコイルロッキングシテムをリアル化するしかない
(左)実銃ワルサーP38のロッキングラグ周りのメカ(右)ワルサー方式をほぼ踏襲したベレッタM92F
のロッキングラグ周りを再現したマルシンモデルガン


以前にも書いたが昔マルシンのP38がまだ新製品だった当時、馴染みのガンショップの常連さんの歯科技工士が白銀のインゴットを削りだしてこのロッキングブロックを自作してP38をリアルメカ化しているのを見せてもらった。

本当にロックしていたのでもちろん発火はできないダミーカートモデルだが、メカの再現性は完璧だった。

歯科技工士になるとあんなこともできるのかと思い、一瞬自分も歯科技工士を目指そうかとまで思った。


あれから幾星霜、残念ながら私は歯科技工士ではない。

なのであれをやるとしたらリュータでアルミのブロックかABSブロックを削り出すしかない。

どうせならアルミでやりたいけど、アルミの地金をあの形に削り出すのは骨だなぁ…

かといってABSなら少しは楽かもしれないけど、少しでも重量を稼ぎたいのにABSというのもなぁ…




【余談】

昔トレンチコートのベルトについていた輪っかがなんのためについているのか気になったことがあった。

ベルトに輪っかがついているのはなんとなく邪魔だと感じたからなんだけど、訳知り顔でこういう人がいた。

「トレンチコートというのは第一次大戦の頃に塹壕戦で使用された戦闘服だから、その輪っかは手榴弾を引っ掛けておくためのものなんだよ。トレンチは塹壕のことだからこの輪っかも戦争由来のものだ‥」

手榴弾を引っ掛けておくための輪っかだったら、なんでベルトの下じゃなくて上についているんだろうか?

下についている方がその目的には便利なはず…と思っていた。

そしたら何年か経って世間のトレンチコートのデザインもベルトの下に輪っかをつけるようになったので、そいつの説は本当だったのかなぁ…となんとなく腑に落ちない感じだった。

今回撮影資料として取り寄せたドイツ連邦軍のシステム95ピストルベルトのデザインを見て、この長年の疑問がスッキリ解決した。





今回の撮影資料・徳間書店の床井雅美著「ワルサーストーリー」とシステム95ガンベルト
このスイベルを見て長年の疑問がスッキリ解決した




トレンチコートのベルトについているこの輪っか
最近はベルトの下につけるのが主流だがトレンチコートが
流行りだした当時はベルトの上についていた
「それは手榴弾を引っ掛ける輪っか」という知り合いの
説がどうしても納得いかなかった




これってベルトにつけるサスペンダーを止めるためのスイベルだったんだ
とピストルベルトのデザインを見て気がついた
この兵士もベルトにサスペンダーをつけている




このサスペンダーをつけている様子
そうだよね、この目的だったら当然輪っかは上についてないとダメだよね
手榴弾を引っ掛ける輪っかなんて全然関係なかったじゃん!…と40年越しの疑問が解決した


2021年12月1日
















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