東京マルイ 89式5.56mm小銃2〜ちょっとタッチアップ…それとやはり気になるAR-18との関係
前回最後にちょっと触れたがガスブローバックの89式小銃のマガジンの残弾表示窓が、マルイはモールドだけの表現だったのでメッキゴールドを塗ってタッチアップした。
その仕上がり具合の写真を載せていなかったので今回ちょっとあげる。
それよりなにより何故今89式なのかというと、昔から気になっていることがあってAR-18と89式のメカの関係性はどうなっているのだろうということが知りたかった。
今回ガスガンがなかなか実銃に近い部品構成になっていて、聞くところによると防衛省でも導入教育用の教材として何挺か採用したという話も聞いたのでそんなにリアルなら何かわかるかもしれない…ということもあった。
残弾表示窓にアサヒペンのメッキゴールドスプレーを塗料皿に取って面相筆で塗装した
ちょっとしたことなんだけどこれだけのことでリアリティが増す
さてこの89式小銃の外観がとても気になっていた
これはアーマライト社製のAR-18実銃の写真
89式のアウトラインがこれに非常に似ていることとAR-18は一時期豊和工業が
ライセンス契約をして生産していたことなどからAR-18のコピー品という評価がある
それは本当なのか知りたかった
チェンバーの周りにはマイクロロテーティングロッキングのリセスがある
ボルトが回転してボルトのロッキングラグ(歯)がここに噛み合って抜けなくなる
リセスに噛み合うボルト側にロッキングラグ
ガスガンはここがブローバックのピストンになっているが実銃は
ここがボルト本体でボルトを咥えている構造はボルトキャリアと呼ぶ
キャリアーが後退するとカム構造でボルトが回転してロッキングが外れる
この辺の構造はAR-18もM16もAUGも89式もそんなに変わらない
問題はボルトキャリアを動かすガスピストンのレイアウト
89式はフロントサイト下のレギュレーター部分にガスバイパスがあり
このガスがシリンダーに導かれピストンを押してボルトキャリアの後退が始まる
ボルトキャリアの後退が始まるとすぐにピストンがガス抜きの穴を通過してガスが抜ける
このピストンがボルトキャリアと別部品になっているのがショートストロークピストン方式(別名玉突き方式)
キャリアとピストンが一体化しているのがロングストロークピストン方式
前者の代表はAR-18、AUG、L85、FN.FALなど後者の代表はAK47、M1ガーランドなど
小銃の自動機能の大まかな分類について。
小銃は火縄銃の発明以来、ずっと先籠め式がミニエー弾仕様のエンフィールドライフルまで続いたが連発銃が欲しい、速射ができる小銃が欲しいという要望は各国ともあった。
そこで金属薬莢をトラップドアで籠める方式、レバーアクションライフル、ボルトアクションライフルが次々発明されたが、やはり引き金を引くだけで釣瓶打ちができる自動小銃が欲しいということになっていくつかの方式が考案された。
初期の頃には拳銃と同じようなメカのシンプルブローバックやイナーシャ方式(反動利用方式・ショートリコイル方式)、銃口の発射ガスでバレル・チェンバーを前進させるガストラップ方式(ブローフォワード方式)などが試作されたが、これらの方式は反動が大きく発射ガスが高圧になる小銃には向かないのか発展することもなかった。
現在の主流は大まかにロングストロークピストン方式・ショートストロークガスピストン方式・リュングマンガス方式などのガスオペレーション方式。
豊和工業が89式開発の参考にしたAR-18はショートストロークガスピストン方式だったが、完成した89式はむしろAK47に近いロングストロークピストン方式だった。
アーマライトAR-18の構造図
ガスシリンダーがバイパスした発射ガスに押されて後退して
シリンダーロッドがボルトキャリア上端を叩いてボルトのロック解除をする
銃身に空いた穴からバイパスしたガスはレギュレータ兼用のピストンの中を通って
後ろに吹き込まれこのガスがシリンダーを押してシリンダーの方を後退させるというメカ
AR-18と同じショートストロークピストン方式のHK416の構造概念図(via Wikipedia)
バイパスしたガスがシリンダーを押してシリンダーに繋がったロッドがボルトキャリアを叩いて後退させる
シリンダーロッドは数ミリ後退してボルトキャリアを叩くだけなので「玉突き方式」とよく呼ばれる
AK47のロングストロークピストン方式の概念図(via Wikipedia)
銃身からバイパスした発射ガスはシリンダーに入りピストンを直接押し下げる
ピストンはボルトキャリアと一体型になっているのでこの力でロックが解除される
ピストンはボルトキャリアと同じストロークだけ後退するからロングストロークピストン方式と呼ばれる
単純かつ部品数も少ない構造になっている
(上)GHKのAKMガスガンのボルト、リコイルスプリングユニットと
(下)東京マルイの89式のボルト、リコイルスプリングユニット
実銃の場合はガスピストンの部分がボルト本体になるが外観上はどちらも実銃そっくり
部品の形がリアルなのでこういう比較ができる
(上)GHKのAKMガスガンのボルト、リコイルスプリングユニットと
(下)東京マルイの89式のボルト、リコイルスプリングユニット
どちらもガスオペレーションのピストンがボルトキャリアと一体部品になっていて
リコイルスプリングがピストンの軸の中に収納される構造もそっくり
89式は板金プレスのレシーバーやボルトキャリアと一緒にボルトレバーも前後にガチャガチャ動く動作とか筒型のアッパーレシーバーとかAR-18に似ている部分も多い。
見た目の雰囲気は似ているんだけど、メカはAK-47とAR-15のいいとこ取りをしたなという雰囲気。
上記比較のようにガスオペレーションはAKそっくりのロングストロークピストン方式で、トリガーメカ周りはAR-18というよりは同じユージン・ストーナーの基本デザインのAR-15、つまりアメリカのM16系に似ている。
ただし3ポイントバーストのメカはM16A2のカウンターダイアルに対してカウンターカムというベレッタM93Rに似たスタイルを持っている。
外観やレシーバーの板金プレスの工作方法をAR-18を参考にしたが中身は全然別物というのが結論。
そしてその重量に注目してみると89式は二脚架という余計な重石があるにもかかわらず、ドライウエイトは3500gでAK47(3730g)やAUG(3975g)、L85(4750g)よりも軽くM16A2(3500g)と同等、AKM(3290g)よりはやや重いという位置付け。
重量軽減についてはAR-18ゆずりの板金プレス工作が成功したようだ。
ロングストロークピストン方式とショートストロークピストン方式のそれぞれのメリットデメリットについて、
「ロングストロークピストン方式は後退する構造が大きく重いのでフルオートで銃がぶれて実用的でないのでショートストロークピストン方式が有利」
というような解説をしているサイト・ブログが多いがそれはどうかなと思う。
実際にはショートストロークピストン方式もシリンダーロッドの動く距離こそ確かに短いが、大きな運動量がないと玉突きでボルトを後退させることができないから、反動や銃のブレの面でどちらが有利というのは一概に言えないと思う。
むしろ玉突き方式は設計上復座バネの同軸にロッドを置くのが難しいので、各部品に大きな捻り応力がかかり、部品間の精度を正確にしないと故障の原因になる。
それに比べてAK47/AKMシリーズがまさにこれを証明したが、ロングストロークピストン方式は部品間のクリアランスは非常に大雑把でもよく、むしろクリアランスが大きければAKのように泥に浸けてもすぐに射撃ができるという耐久性につながるので有利になる。
フルオートの射撃精度が低下するというのは、ロングストロークピストン方式のM1ガーランドをそのままフルオート化したM14試作の時に、このM1型の大きなボルトキャリアがフルオートで前後運動するのが体の大きな米兵ですら抑えきれないということで問題になったエピソードが影響している。(のちにショートストロークピストン方式に改良されるがあまり成果は出ず)
これを解消するのが前後運動するピストンそのものが存在しないリュングマン方式で、リュングマンのガス圧を受ける構造がボルト内部に移ったのがM16のユージン・ストーナー方式だった。
そしてユージン・ストーナー自身はその後ストーナー方式よりもショートストロークピストン方式を中心に開発を進めるので、本家も有望なのはショートストロークピストン方式とロングストロークピストン方式の二方式に絞られると考えていた節がある。
「ショートストロークピストン方式は運動する部品が小さいから有利」とは開発者は考えてない例を一つ
AUGはメカ的にはAR-18のショートストロークピストン方式をかなり踏襲しているが
ガスシリンダーの中のピストンが直接ボルトキャリアーロッドを叩く玉突き方式で
これだと動く部分の質量はロングストロークピストン方式と大して変わらないことになる
ワンタッチでバレルを交換できるモジュール化のためにこういう構造になったが
部品サイズはモジュール化のために犠牲にしてもいいほどのメリットしかないことになる
ショートストロークピストン方式のメリットはむしろ発射ガスをレシーバーのメカと
完全に切り離せるメンテナンス性の良さということの方が大きいと思われる
AR-18は廉価版のM16として開発され、レシーバーだけでなく内部部品の多く、シア、マガジンキャッチ、ホールドオープンメカ、ストックヒンジなどがプレス加工で作られている。
AR-18のプレス部品だけで構成されているメカを見ていると往時のMGCのモデルガンのような雰囲気だ。
モデルガンを作れるぐらいの工業力がある国なら、どこでもAR-18は自国生産が可能だ。
結局制式採用する国がどこも現れなかったのはアーマライトの工作の荒さとか、ストックヒンジがすぐに壊れる、はめ殺し部品が多く壊れたら修理が困難とか、軍用には向かない欠点のせいだった。
どちらかというとゲリラ用かもしれないが、そっちのジャンルはAKMという強力なライバルがいたのでどちら界隈でも普及しなかったのかも。
豊和工業も次期自動小銃トライアルに向けてと銃器の輸出を工業化するためにAR-18をライセンス生産してみたが、このままでは防衛庁の要求仕様も満たせないし、民間向けのAR-180の生産も当時の国会で社会党議員に
「武器輸出にあたるのではないか?」
と追求され
「技術導入は小銃の軽量化については参考になる」
と苦しい答弁になるなどなかなかババを引いた感じかもしれない。
それでも実際に輸出されたAR-180は評判は悪くなかったようでアメリカのテッポ好きは
「AR-18はホーワ製がアタリ」
とか言っていたようだから結構出回っていたのかもしれない。
工作が荒かったからヒットしなかったが、基本設計は優秀だったからAR-18のメカはその後イギリスのL85、オーストリアのAUG(STG77)などに強い影響を残した。
その話もそのうち書くけど、89式については内部メカはむしろAKM寄りだけどプレス製のレシーバーで、アッパーが筒状になっているなど89式にもAR-18の影響は確かにあると思う。
自衛隊が使用する実銃の89式小銃
例によってストックピンは黒ビニテでぐるぐる巻き、規整子(ガスレギュレータ)は
緩んで脱落しないようにケーブル養生用の針金が巻かれている
制退器(サプレッサー)はかなり銀色になっているが完全に銀色になっている個体も見かける
カーボンを掃除したらいずれ皆そうなるようだ
自衛隊駐屯地祭で展示される89式
AIMPOINTタイプのドットサイトをつけている
自衛隊ではこのタイプの光学サイトが一番多いようだ
ブランクアダプターをつけた89式
自衛隊ではこの小型タイプと接近戦訓練用のもう少し大型のタイプと2種類使っているようだ
上のAIMPOINTタイプの官給品とはちがってACOG+RMRを使っている例も見つけた
RMRのマウント位置が若干違うがとりあえずウチの89と同じ組み合わせ
89式はさすがに民間で所有している人がいないので、海外コレクターやガンエクスチェンジは全く参考にならなかった。
写真はほぼWikipediaか自衛隊の広報写真ぐらいしかない。
仕方がないがそれでも例によってストックに手書きのステンシルを書いている様子とか、ビニテをぐるぐる巻いている様子などの写真は少しは手に入ったのでまたそのうちリアル化でもしてみるかもしれない。
2022年1月5日
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