KSCのSmith & Wesson 945〜S&Wのパフォーマンスセンターの45口径コンペティションガンを正確に再現したガスガン
スミスアンドウエッソンという会社は世界初の貫通型蓮根弾倉のリボルバーを実用化したり、警察用のサービスリボルバーのMilitary and PolisやCombat Magnumなどで公用拳銃のシェアを独占するなどリボルバーの会社というイメージが強かったのだけど、1980年代にリボルバーの退潮が始まってヨーロッパから十数発も装填できる大火力のオート拳銃が入ってくるとどうも後手を踏んでいるというイメージになってきていた。
対抗するためにS&Wブランドのオートを開発するが、もともとS&WオリジナルのM39という筋のいいオートがあったのでこれをベースにした。
M39はワルサーのダブルアクションメカとブローニングのデザインのいいとこ取りで、なかなか枯れたオートだった。
これを多弾数装填の流れに合わせるのと当時進行していたガバメントM1911の後継制式拳銃のトライアルにもチャレンジするためにダブルカラム化したのがM59だったが、残念ながら軍にも民間にも不評だった。
このM59のやっつけ仕事のおかげで「S&Wのオートは扱いにくい」 というイメージがついてしまった。
その後もセカンド・サードジェネレーションでグリップデザインなど改良したが、一度ついたイメージは払拭できない。
そんななかS&Wの内部にガンスミスレベルのデザイナーを集めてメインストリームのオートとは違うオートを開発し始めたのがパフォーマンスセンター。
わざわざ高価な個人カスタムに手を出さなくても、S&Wのコマーシャルラインよりほんの何割か増しでレースガン並みのハンドガンが手に入るということで、パフォーマンスセンターの製品は結構人気があったそうだ。
アメリカ人の45口径信仰に合わせて45ACPのラインも展開したが、一部を除いて相変わらず評価がいまいちだったのをパフォーマンスセンターがテコ入れしたのが945。
S&Wの45口径のオートM4505
M39/59以来のデザインで45口径にスケールアップしたハンドガンで
映画「インソムニア」ではアル・パチーノの「公務ではS&Wの45が信頼できる」というセリフがあるが
一般的には9mmの5906あたりと同じ使いづらいハンドガンという評価だった
お馴染みのインターネット・ムービー・ファイアアーム・データベースによると
「4506のスライドとM1911のシングルアクショントリガーフレームを組み合わせ、独自形状スライドデザインでマガジンを含め全てのパーツはM1911と互換性がない」
と記述されている。
のちのグロックの丸コピーで知財裁判に敗訴する「貧すりゃ鈍す」のスミスアンドウエッソンと違って、この当時は製品特許期限切れのガバの丸コピーもプライドが許さないという感じなのだろうか。
KSCのパフォーマンスセンター945
KSCの再現性の高さに最近結構惚れ込んでいて
オールシルバーメッキ945はもうKSCのカタログから落ちているけど
ほぼ新品コンディションの出物があったので手に入れた
もう軍拡しないという誓いは年末まで守られなかった…
(上)Smith & Wesson Performance Center 945実銃と(下)KSCのパフォーマンスセンター945ガスガン
パッと見てわかる特徴は肉抜きされた軽量化スライドにスケールドセレーション(うろこ状滑り止め)
細身でトリガーガード根元がざっくりえぐられているなど単なるM1911コピーでないのが見て取れる
(上)Smith & Wesson Performance Center 945実銃と(下)KSCのパフォーマンスセンター945ガスガン
もう一つの特徴のエキストラクターが露出したデザインになっていること
KSCはライブではないものの別部品でこれを再現するなどモデルガンメーカーらしい再現度
(上)Smith & Wesson Performance Center 945実銃と(下)KSCのパフォーマンスセンター945ガスガン
KSCは実際にパフォーマンスセンターに取材して刻印のデザインなどを再現している
S&Wのレーザー刻印の雰囲気を ガスガンでもみることができる
スライド右側の刻印
U。S。A。とピリオドが丸になっているパフォーマンスセンター刻印の特徴も再現
あとスライド前端にレールがありレシーバー内側の突起と噛み合うS&Wスタイルスライドなど
細かくみるとM1911というよりはやはり45のS&Wオートの特徴が盛りだくさん
露出式エキストラクターとマニュアルセーフティ跡地の黒いフタ
斜めにカットされたスライドキャッチシャフト
いずれもガバにはない特徴
KSCらしくライセンスの障害さえなければ刻印はとてもリアル
ガスガンの刻印はダストカバー下の「JASG」刻印のみ
マガジンにもパフォーマンスセンターの刻印
M1911系とは実銃も互換性がないので「M945以外に使用できない」と注意書き
(右)Smith & Wesson Performance Center 945実銃銃口と(左)KSCのパフォーマンスセンター945ガスガン銃口
945の特徴はブッシングでラフにバレルを保持するガバと違ってバレルを保持するリングが
ブッシングの中で自由に動きバレルの傾斜・移動の抵抗を減らししかも正確に保持できる工夫
このブッシングのメカをKSCは正確に再現している
KSCのバレルブッシングは実銃の通り真鍮製のスフェリカルベアリングになっていて
バレルの角度が変わってもガタつかずがっちり保持できる仕組み
このリング状のベアリングをこの角度にすると抜き取ることができる
このスフェリカルベアリングは真鍮製なのがリアルではあるんだけど
ガスガンの場合バレルのメッキを削ってしまいそうなのと真鍮だと抵抗もあるので
ジュラコン樹脂製のカスタムパーツのリングも入手
抵抗がないのでブローバックが速くなるとの触れ込みだが
そこはあまり違いがわからないがメッキが削れるのは防げると思う
あとはメッキモデルなのでヘビーウエイトでない分
軽さが気になるので鉛ウエイトを仕込む
とは言っても内部のウエイトを仕込める空間はグリップの内側の
レシーバー肉抜きのスペースしかないのでここを鉛筆で型取り
ここの形状にギリギリ合わせた鉛シート2枚合わせを左右グリップ内側に貼り付ける
分解の手順は大体ガバに近いがKSCはハンマーとシア・ディスコネクター周りは
サブシャーシに真鍮パイプで打ち込んでありポンチで分解できないこともないが
どうも「分解するな」という意図でこういう構成にしたらしい
分解していたらインパクトピンがぽろっと抜け落ちてこれを間違えて
逆に刺してしまい一回空撃ちしたらこの通りボロボロに崩れてしまった
KSC得意の焼結金属製らしいが鉄の削りだしよりはやはりだいぶ強度は低い
教訓としては「KSC製品はマガジンを入れずに絶対空撃ちするな」ということか
インパクトピンはWebで申し込んで1日でスペアパーツが届いた…相変わらず素早い対応
インパクトピンお取り寄せ事件などいろいろあったが正常に動くようになって
ウエイトも仕込んだパフォーマンスセンター945
45ACPダミーカートと並べて情景写真
実銃は他社のM1911コピー品の倍以上の価格だったが
それでも人気を博した…というのはよくわかる
実用的なだけでなく見た目も美しいと思う
KSCのグリップパネルは木目を印刷した樹脂ではなく
最初から木製グリップがついているのもポイントが高い
KSCのブローバックの特徴でノズルがホールドオープンの時に突き出す
しかし逆にガスガンを見分けるポイントはここぐらいしかない
パフォーマンスセンター945の分解手順
スライドの切り欠きをスライドキャッチシャフトに合わせて
右から押し出すのはガバと一緒だがリコイルスプリングガイドの
プランジャーがこのシャフトを固定しているので
スプリングガイドを少し前に引っ張らないと抜けない
通常分解
バレルもブッシングのデザインのおかげで
スライド下からすんなり抜ける
945のスミスアンドウエッソン的特徴
リコイルスプリングガイドのセンターにスライドキャッチを固定するプランジャーがある
さらにスライドキャッチの下向きテンションはレバーの中のプランジャーで得る
この仕組みはM39/59以来のメカ
バレルはリング式ではなくスロープでティルトするモダンなデザイン
ガスガンだからこういうところのメカもちゃんと再現されている
バレルチェンバーは本体と同じブラスト風つや消しメッキだったが
実銃写真はヘアラインが入っている感じだったので例によってスポンジヘアライン加工
結合もちょっとコツがあってバレル・スプリングを載せたスライドを
レシーバーにはめるときにリコイルスプリングガイドを
少し引っ張っておいて固定位置にはめ込むとスムーズ
スライドキャッチのプランジャーがレシーバーの突起のスロープを押して
下向きのテンションを得るメカはスミスアンドウエッソン的
マガジンフォロワーは一番下まで下げるとストッパーで
止まるのでBB弾ロードはローダー無しでも可能
空撃ちしても大丈夫かまではなんともだが撃てないこともない
マガジンのカバーだけでなく底にもS&Wの刻印
さすが細かい
マガジンキャッチのデザインもガバというよりはS&W的
トリガーガード根元がざっくり削り込んであってハイグリップが可能
実銃は1600〜2000ドルとなかなか高価だったがこういうところから
ガンスミスの個人カスタムに比べたら安いという感覚で売れたのかも
セーフティはアンビでワイドタイプ
サイトはBO-MARをつけている個体もあるし
こういう形状のタイプもあるようだ
KSCの945とWAのガバカスタムガスガンの比較
WAはそもそもスタイルがずんぐりむっくりしているんだけど
比較するとガバとの違いもイメージできる
マルイのS&W MP9とKSCの945
スケールドセレーション(うろこ状滑り止め)の伝統は最新作にも受け継がれている…
のだが中身は全然別物…知財裁判で負けたシグマのガワを今風に変えただけで
グロックの特許・意匠保護の時効を待って焼きなおしたのがMP9だが
それなりに売れて倒産寸前だったS&Wの救い主になったのは皮肉
ホールドオープンするとしっかりバレルも後退する
ティルトロックのバレルはガバほど上を向かない
とてもキレイな姿をしていると思う
そのバレルはヘアラインを入れてこんな感じ
エジェクションポートのチェンバーのヘアライン
ここにもパフォーマンスセンターの刻印
こういうテッポにはミリタリーなホルスターは似合わないんだけど
スポーツタイプのホルスターとマグポーチってこれしか持ってないんだよなぁ
そのうちね…そのうち…なんとかするね…
ところでちょっと笑ったのがこのKSCの取説の最後のページの実銃の解説。
一流メーカーS&Wの迷走 より
「…4ケタ番号の商品名の導入、製品全般にわたる多数のマイナーチェンジ新製品の追加が市場や流通での混乱に拍車をかけ…同時にS&W社製品の品質低下が噂され始め…S&W社経営陣の思惑は裏目に出始め…やがて売り上げ低迷をバリエーション新製品で埋める→付け焼き刃的企画で短絡的に製作されたバリエーションは魅力に乏しく思ったほどの売り上げ確保ができない→それを埋めるためにさらに新作追加→突貫工事的生産なので高品質が維持できない…と悪循環に陥りS&W社は迷走…」
KSCのマニュアルライターが1990年代のS&W社の経営不振の原因をこう分析しているが、これって今の日本のトイガンメーカーの不振の分析そのものみたいに見える。
ライターさん常日頃自分が感じている不満をここにぶつけたのかな?
今画期的な新製品は台湾や中国からしか出てこない。
日本のメーカーは全く新しい金型を使った新製品はもう何年も出さず、既製品のマイナーチェンジ(マグナポートの穴をあけるとか、色違い、バレルの長さ違いとか…)で御茶を濁す…バリエーションで異なる修理部品の流通にも混乱をきたし壊れたトイガンは修理できない…マイナーチェンジの魅力不足で新製品は売れない…さらに売り上げテコ入れのためにマイナーチェンジ製品を発売する…これってまったく日本のトイガンの現状じゃないか…
KSCもここ何年かはバリエーションではない全くの新製品を出していないんじゃないかな。
PTS、KWAと共同開発したと思われるMASADAなんて面白い前例だったと思うんだけど、あまり成功しなかったのかな?…
KSCさんはS&W症候群から脱却して、焼き直しではない魅力的な画期的新製品を出して欲しいなぁ…
2023年12月20日