アルタモントのリアルパールグリップをてにいれた2〜早速ニッケルメッキのガバにつけてみたら、おお、あの映画のあのシーンが…
ガバメントって今さらいうまでもなく20世紀の初めから末まで米軍の制式自動拳銃だったテッポだから、イメージ的にはミリタリーな銃…なんだけど、いろいろなコンメモリアルモデルも製作され、ニッケルメッキや金メッキ、エングレービング、金象嵌などが施されたほとんど美術品のようなモデルも存在する。
アメリカやヨーロッパなんかには銃を撃つためではなくコレクションするために、こうしたコンメモリアルモデルばかり蒐集しているマニアとかもいる。
メッキやエングレービング、象嵌が施されたテッポは普通の市販の銃と違って、値段も数倍、場合によっては数十倍、数百倍になったりするので、そんなマニアの目の前で弾を込めて実際に撃ったりしたら卒倒されかねない。
そこまでいかないけどパールグリップなんかをメッキモデルに着けたりするのもまあ金持ち趣味かも。
そういうテッポを持つことが流行った時代もあった。
おそらく西部開拓時代末期から禁酒法時代にかけてはメッキモデルにエングレービングやパールグリップを着けるような銃を持つことが流行った時代だった。
だからローリングトゥウェンティの時代をテーマにした映画にはそういうデザインの銃が結構登場する。
そういう映画の原点的な体験だった「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde, 1967)」でフェイ・ダナウェイが持ってた銃が確かパールグリップでニッケルメッキのS&W M10だったよな…と記憶を手繰ったらこれは正解だった。
例によってInternet Movie Firearms Databaseの助けを借りていろいろ調べてみた
ニューシネマの金字塔という評価が定着している「俺たちに明日はない」のワンシーン
銀行に押し入ったボニーアンドクライドの一味の一人ボニー役のフェイ・ダナウェイは
4インチ、ニッケルメッキのS&W M10にパールグリップを着けていた
チラッと見えるだけのワンシーンだったんだけど覚えているもんだな…
この映画1967年の封切となってるのでニューシネマと言いながらもはや古典に属する
アメリカ人なら誰でも知っている銀行強盗の物語となるとどうしても陰惨で非情な内容になりそうなテーマだが、この映画は「スタイリッシュムービー」というようなジャンルの走りだったかもしれない。
だからかボニーにパールグリップの銃を持たせている。
そういえばフェイ・ダナウェイとウォーレン・ビーティのファッションも注目を集めていたな。
こういう銃の選択が映画の雰囲気をガラッと変える要素になるのかも。
そこで先週からいじっているアルタモントのリアルパールグリップ付きのニッケルメッキガバ
こういう感じの銃が出てくる映画ってたくさんありそうなんだけどいくつかデータベースから拾ってみた
タイタニック
これはもうタイトルを言うだけで
「そうだよね、あのシーンに出てきたよね」
とみんなピンとくるような作品。
世界最大にして最速の豪華客船としてデビューしたタイタニック号の遭難事件。
運航会社のひどい手抜きで、実は乗客の半分も乗せられないほどしか救命ボートを積んでいないのに、北大西洋の処女航海で巨大氷山に接触して浸水・沈没、乗客の3分の2にあたる1500人が亡くなるという悲惨な事故になった。
そうした誰でも知っている事故の経緯の裏で、実は誰にも知られていない悲恋の物語があった…というようなお話。
婚約者を奪われ怒り狂った鉄鋼王の御曹司が、アメリカに行って一攫千金を夢見る青年と駆け落ちしようとする婚約者を銀色のガバで追い回して沈みゆく豪華客船の中でぶっ放しまくるというある意味シュールなというか初見当時は結構意表をつかれた物語だった。
(実際に観るまではポセイドンアドベンチャーみたいなものを予想していたので…)
婚約者を奪われ怒りに狂った鉄鋼王の御曹司(ビリー・ゼーン)は
名も知れぬ移民と逃げる婚約者を45口径で追い回す
執事兼用心棒に持たせていたニッケルメッキ、パールグリップのガバを奪いとって…
ディカプリオが監禁されるシーンで銃のアップが出てくるが
よく見ると見事なエングレービングが施されている
お金持ちが持ってそうな豪華な装飾モデルだ
しかしこのアップでちょっと矛盾点を見つけてしまった…
こちらが実際に撮影に使用されたプロップガンでステンブリッジガンレンタルから借りたM1911とのこと
ただしタイタニック号の事故は1912年の春、M1911の米軍制式が決まった翌年で
まだ100挺ほどがテスト運用されている時期なので一般には市販されていない
NRAのメンバーに数挺が記念として送られたという記述があるのが1912年の夏のこと
なので時代設定的にはちょっと合わないがそのうちの一挺ということになる
さらにM1911A1のハンマー、グリップセーフティがついているトランジションモデルだとすると
そういうものはまだこの世に存在していないので完全に考証的にはアウト
キャメロンは銃器にかなり詳しい監督なので知っていてこのチョイスをしたのかも
考証的正確さよりも見た目の豪華さと、この御曹司は誰も持ってない新式銃を
贈られるほどの超セレブなんだという設定を通したということか…
しかもその超レアな新式銃を執事に持たせるおぼっちゃま…という設定か
ビリー・ゼーンがこの超高級ガバを撃ちまくるシーン…
同じくホールドオープンしたパールグリップのシリーズ70
考証的正確さはともかく誰も持っていない巨大ブルーダイアを持っていたり
まだ一般に販売されていないガバの豪華装飾モデルを持っていたり
この御曹司はとんでもないセレブだという演出意図は感じた
アンタッチャブル
タイタニック号事件から時代は下って禁酒法時代。
アメリカは何をトチ狂ったか、酒を麻薬などと同じように禁制品にする「禁酒法」(英語ではprohibitionという。ズバリ「禁止」というだけで酒のこととわかる時代背景も面白い)を制定してしまい街の酒屋はコーヒーしか販売できなくなった…表向きは…
表向きは禁じられると必ずそれは地下組織の資金源になる。
ギャング達は郵便局の地下室で酒を密造しそれを密売して巨額の資金を得ていた。
その資金を背景にマシンガンや手榴弾まで調達して抗争を続けるギャングに司法も手を焼いていた。
ギャングを取り締まるべき地方警察もギャングからたっぷり賄賂をもらって真面目に取り締まりする様子もない。
中でもシカゴを拠点にするイタリア系マフィアのアル・カポネ(本名アルフォンソ・カポネというらしい)は密売、強要、殺人などあらゆる犯罪を犯して我が物顔だったので、連邦政府は警察から完全に独立した「アンタッチャブルズ」という特捜チームを結成する。
このリーダーに任命されたエリオット・ネス(ケビン・コスナー)は財務省出向。
張り切って密造酒摘発に乗り込むが大失態を演じ笑い者に…
司法警察の流儀がわからない財務省出向者にたたき上げの巡査(ショーン・コネリー)が警察の流儀を指導し始める…
アンタッチャブルは子供の頃にテレビシリーズで見ていて、当時は
「エリオット・ネス率いるFBIの面々は…」
というナレーションで毎回始まるのでネスはFBIの人だと思っていたが、この映画で実は財務省出身だということを知った。
さらにアル・カポネが最終的に有罪になった罪状は脱税のみで、それでも終身刑に近い刑期になったのは青天井方式のアメリカの刑事訴訟法の仕組みということもこれがきっかけで知った。
映画では捜査に行き詰まった時に、ふとメンバーの提案で脱税容疑で逮捕できることに気がついた…ということになっているが財務省が特捜に乗り出していたということは、最初からアル・カポネは脱税で挙げるつもりだったのかもしれない。
アル・カポネの公判中にその手下が銃器を携帯していることに気がついたネス
締め上げようとしたが警備の警官に銃器の許可証があることを告げられ渋々銃を返す…
しかし特捜のメンバーが殺された現場にこの男がいたことにネスが気がついた途端
この男は発砲を始めネスは警官からポリスポジティブを受け取って男を追跡する
このニッケルメッキのガバのアップ
同じくニッケルメッキガバの銃口のアップ
似ているんだけど…ガバっぽいんだけど最初に観たときから違和感は感じていた
弾切れになっても「どうした財務省?テメエは口先だけか?」と煽る男
このシーンで違和感の理由が判明…これはガバではなかった
例のDBから〜これは映画で実際に使用されたプロップガン
スペイン製の「スターモデロB」という9mm拳銃で遠目にはガバに似ているので
映画ではガバの発砲用のスタントをすることが多いという拳銃
45口径のガバは実はジャムが多く特にプロップガン化するとまともに
連射できない個体もあるので発砲がある撮影にはスターモデロを使うことが多いそうだ
ちなみに前半でコスナーが使用する黒いガバもよく見ると実はスターモデロ
このプロップ個体はタランティーノの「パルプフィクション」でも使われている
そういえばスティーブ・マックイーンの「ゲッタウェイ」でも発砲用スタントはスターモデロBだった
ガバになりすましているスペイン拳銃はハリウッドでは相当数ありそうだ
ちょっと気になって調べてみた。
スペイン娘のスターモデロBがガバのスタントをやっている映画は…
「ワイルドバンチ」「ゲッタウェイ」「パルプフィクション」「マックQ」「コンドル」「サバイバーズ」「MASH」…
知っている映画だけでもこれだけあるし、観たことない映画も含めればもっとたくさん…
スターモデロBをガバの代わりに発砲シーンで使うというのはどうもハリウッドでは日常的にやっていることらしい。
それだけプロップ係がガバのプロップガンには手を焼いているということなのかもしれない。
カリートの道
アル・パチーノの代表作というと「ゴッドファーザー」や「スカーフェイス」を挙げる人が多いと思うが、個人的には一番好きなのはこの「カリートの道」。
意図して悪なのではなく、本人は善良であろうとしているのに結局巻き込まれて悪の道を突き進む男…という悲哀に満ちたブライアン・デパルマ監督作品。
ニューヨークのプエルト・リコ系麻薬ギャングの顔役だったカリート(アル・パチーノ)は、密告に遭い刑務所に収監されるが顧問弁護士で親友のデビッド(ショーン・ペン)の弁護で刑期が大幅に短縮され晴れて釈放される。
釈放されたカリートは
「もう二度とあんな所に戻るのは御免だ。これからはカタギの商売をしてバハマに移住してレンタカー屋をやるんだ…」
とこれからの夢を語る。
しかし本人がいくら更生しようとしても「麻薬王カリート」の悪名は付いて回る。
町のチンピラから顔役まで皆カリートを頼り、あるいは再び麻薬ルートの大物になるなら味方に引き入れるか敵対するか探りを入れてくる。
親戚の小僧に「つきあってくれ」と入ったビリヤード場で、
「ちょっとした取引で物を受け取るだけだから」
という親戚とは裏腹に長年の勘で入った瞬間から危険を察知するカリート。
やはり殺し屋の影が見えた瞬間カリートの反撃が始まる…
ビリヤード場での銃撃戦
丸腰で入ったカリートはチンピラから奪ったニッケルメッキのガバで
あっという間にその場にいたギャング数名を撃ち倒した
全弾撃ち尽くしてホールドオープンしたガバを手に洗面所に立て籠もって
「弾倉を入れ替えたぞ」と声をあげて牽制するカリート
もう弾は1発も残っていないのだがこれで威圧して相手が反撃するか見ている
実にケンカ慣れしたガンファイトだった
このニッケルメッキ、リアルパールグリップのガバはビリヤード場で
奪った得物で事件現場を離れるときに処分してしまうのだが
なんとなく「カリートの銃」として印象に残っていた
実はこの映画の前半数分間にしか登場しないのだが…
ポスターやビデオジャケットの写真のベースになっているのもこのシーン
なのでカリートはニッケルメッキ・パールグリップのガバを
使うという印象が残ってしまったのかもしれない
実際には本当にこの数分だけ
(上)実際の撮影に使用されたオート・オーディナンスM1911A1と(下)マルイマークIV・シリーズ70ガスガン
(上)実際の撮影に使用されたオート・オーディナンスM1911A1と(下)マルイマークIV・シリーズ70ガスガン
このプロップも9mmパラベラム弾を使用するガバそっくりさん
どうも純正のガバメントは発砲シーンでは使い物にならないというのはハリウッドでは浸透しているらしい
唯一無二の親友と頼みにしていた弁護士のデビッドにも裏切られ失意のカリート
デビッドの病室を見舞い銃を隠し持っているのを見て「これはテーブルの上に置いておけ」
とアドバイスするがこのとき「裏切り者は決して許さない」というカリートのオキテが発動していた
日本タイトルは「カリートの道」と直訳だが英題「Carlito's Way」はまさに「カリートのオキテ」の意
そしてデビッドの銃もニッケルメッキ、パールグリップのS&W M36チーフスペシャルだった
ファーストシーンの南国のリゾートのポスターを見上げるパチーノのシーンの意味がラストシーンであきらかになる。
釈放された直後は真面目に働いて、貯めたお金で南国のリゾートでレンタカー屋を営んで静かに暮らす…これが彼の望みだった。
しかしビリアード場で、あのパールグリップの銃を手にしたときから運命が狂い始めた。
でもどうしたらこうはならなかっただろうか?
結局何をどうしてもこうなるしかなかった…という諦めに近いような独白にかぶせて、最初のシーンのリゾートのポスターが踊り始める…
幻想的で物悲しいデパルマの傑作だった。
ミリタリーなM1911とは雰囲気が違うニッケルメッキ、パールグリップのシリーズ70
この組み合わせはハードボイルドなイメージなので古い写真風に加工してみた
アメリカンリアリズム調の水彩画風の加工はどうでしょう?
少しセピア調を入れた写真も
このイメージの銃が登場するフィルムをいくつか取り上げてみた…んだけど詳しく調べたら
みんなガバのそっくりさんだったというオチまでついて…なんだか楽しかった…
2024年2月19日
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