Carrier Landingsの機種とメニューを増やして遊んでみた
アプリの紹介ページで取り上げたMac向けフリーウエアのフライトシミュレーターアプリ、Carrier Landingsで最近もっぱら遊んでいる。
Mac向けのフライトシミュレーターアプリは過去にも幾つかあったが、オープンソースであまりにもインストールと操作が難しすぎるものとか、逆に操作もインストールも簡単だけどゲーセンのシューティングゲームレベルのものしかなかった気がする。
このCarrier Landingsでとても感心したのは、飛行機の振る舞いというか「飛行特性」という言葉を使うのだが、そういうものをとても忠実に表現しようとしているところだ。
例えば多くの人は飛行機は操縦桿を引いて機首を上に向ければ高度を上げて、下に向ければ高度を下げると思っている。
ところが実際には下に向ければ高度を下げ始めるが、上に向けると高度を上げる場合と下げる場合がある。
飛行機の特性を理解するには常に
運動エネルギー=位置エネルギー
という飛行機の特性を理解していないとここらあたりがわからない。
さらに言うと、高度を下げたい場合は普通は機首をいきなり下げないで、左右どちらかにバンク(機体を傾ける)して機体を滑らせながらコースを補正しつつ高度を下げるのが安全だ。
ペダルで機首を左右に振ると左右に曲がるわけではない。
左右に曲がりたい時にはやはり操縦桿を左右に傾けてバンクさせながら昇降舵を引く。
方向舵は寧ろコースの微調整と横風対抗のために使うことが多い。
ここら車の運転とはかなりイメージが違う。
こういうニュアンスをちゃんと表現しているのが、飛行機好きには嬉しい。
嬉しいのだが、ここらの細かいニュアンスをアプリの紹介ページであまり書けなかった。
アプリの紹介ページは、あくまでアプリのレビューのページで飛行機が大好きで飛行機好きがなぜこのアプリにグッとくるのかを詳しく書いているとページの目的から外れてしまう。
しかしよく考えたら趣味とかその他のことを制限なしに書くこのページがあるではないか…
このアプリはフリーウエアとしても充分飛行機好きが遊べると思うが、最近App内課金をしてコースメニューと新規の機体を幾つか手に入れたのでそのことを書きたくなった。
新規で手に入れたのはまずソ連の幻の試作戦闘機Su-47
サンダーバード2号のような前進翼とカナードがユニークだがこの前進翼が
機体の安定性と運動性能に悪影響がないのか興味があるところだった
もう一機が防衛庁が調達を希望したがフラれてしまったF-22ラプター
増槽を使用した場合の燃料の総量が12t(!)、機体総重量32t(!!!)という
重爆並みの大型機だがこれで戦闘機という驚きの米軍次期主力ステルス機
こんなにどでかい飛行機が戦闘機として役に立つのか
とも思うが本職のパイロットからは評価が高いらしい
これは課金とは関係ないが従来のF/A-18も
今回のバージョンアップから増槽タンクが使えるようになった
そのおかげで合わせて10tの燃料が積めるようになったので
2000海里程度の行動半径は確保できてほぼ実機と同じ諸元になった
今回入手したメニューは長距離ナビゲーションのシュミレーターと
世界の空港、空軍基地のデータを使用できるようになった
デフォルトの島の周りをぐるぐる飛んでいるのはそろそろ飽きたので長距離飛行を体験した
地図と航法レーダーのようにコースと現在位置、
Rep-PT(現在位置の呼称)などの詳しいチャートの上を飛ぶ
例えばロシアのキエフからバグダッド空港を経由してマスカット空港に
飛行するというややきな臭いフライトプランを立てた
全行程2,100海里で無給油で飛ぶにはギリギリの
距離だがバグダッドで給油するなら余裕の飛行プラン
途中の線が細く曲がっているのは平時の場合軍用機でも民間と共有の空域制限は
守らないといけないので細くコースを調整しながら飛ぶ必要があるため
一人で大空を飛んで自由自在…というわけにはいかないというリアルなシュミレーターだ
さてまず気になる機体の飛行極性だがSu-47はとても舵が軽く運動性能は高い
その分ロール方向の安定性が悪いのは予想通りだが
意外に加速がなく最高速もマッハ1.4(10,000米換算)と低い
垂直上昇時の失速も早く全体にエンジンが非力という印象
このフライトシミュレーターアプリの何が良いかって着陸のアプローチの時に
機首を下に向けて突っ込まないといけない一般的なPCシュミレーターと違って
進入時の減速は逆に機首を上に向けてするという実機の特性をちゃんと再現していることだ
着艦の時には特にこれは大事で飛行甲板に上から
叩きつけるように着艦する艦上機の雰囲気が再現されている
着艦の進入はこのように腹を見せながら降りてくることになる
そして Su47はこのピッチング、ローリングの反応が良く
海空共用機を想定して開発されたが空母での特性は良いと思った
スホイ設計局が独自判断でこういう飛行機が必要になるだろうと開発された飛行機らしいが
結局ソ連でもロシアでも採用されず「珍しい飛行機」というカテゴリーになってしまっているそうだ
米空母(おそらくステニス)に着艦したソ連海軍のSu47という仮想戦記的な図
こうした軍用機の性能や諸元は多くの場合機密になっているので
実機が本当にこのシュミレーター通りの特性なのかどうかは確かめようがない
でも動かしてみると「なるほどこんな感じなのかもしれない」と納得するものはある
もう一つのF-22を着艦させてみた…が、このあと海にぼちゃんとはまる
そう、F-22は空軍向け専用機なので着艦フックなどの空母用の装備がないのだ
左巻きの人らが戦闘機があって空母があればすぐに他国を侵略できる…みたいな無茶をいうが
空母で運用するように作られていない飛行機にあとから
着艦フックをつけてもぶっ壊れるだけで使い物にならない
その意味では今の自A隊の装備は真珠湾攻撃のような用途には全く向いていないのだ
F-22のシルエットはいかつい平面形とは裏腹に非常にフラットで上下方向に薄い機体だ
そのため空力はかなり良いようで一度加速すると速度をロスしない
しかし加速も減速も遅いのがすぐに気がついた点…最初エンジンが非力なのかと思ったが
エンジンは強力で垂直上昇性も高い
要するに機体が重いので機動が自在というわけにはいかないらしい
その割には旋回性能は悪くないので本職の自衛隊パイロット達からも
評価が高いのはそういうところなんだろうと思う
F-22の水平最高速度の測定中
3万フィート換算でマッハ2.1、海面高度でマッハ1.9というところ
Su47はマッハ1.4/30.000ftだからかなり速度性能には開きがある
これはエンジンが強力なF-22に軍配が上がるということなのだろう
F-22の着陸アプローチの様子
ラプターは直進性が強くSu47やF-18よりも安定している気がした
ただしなかなか減速しないのでランウェイの上にいるのにそのまま降りてこない感じ
いきおいタッチダウンの時の機首上げの角度も大きくなりがちだがこれは海軍式の着陸
空軍はあまりピッチアップしないでまっすぐ降りてきてランウェイを端から端まで使い切るのが作法
このように機種によって進入時の速度の感じや失速特性がかなり違う
実機もこうなのかはわからないがこういう機体ごとの特性を
ちゃんと表現してくれるこのアプリにはグッとくる
それと戦闘機で1万時間の経験があってもすぐに民間航空機の
機長になれるわけではないという本職の話も納得出来る
完熟しないと事故を起こすほど特性の違いは大きい
夕景のマスカット空港にアプローチ中のF-22
地表のテクスチャーは日中と夜景ではちゃんと違ったものが用意されている
そしてこの地上のテクスチャーはGoogleマップのように実際の風景を忠実に再現しているわけではなく
市街地、山岳地帯、砂漠など幾つかのバリエーションを繰り返して貼り付けているだけだ
だから自分が住んでいる地域の上空を飛んで自宅を探してもどこも同じ風景しか流れていない
正確に再現されているのは空港・空軍基地の滑走路レイアウトと
海岸線だけでこれは動きを軽くするためには仕方がない
ポケモンGoのようにやたら重くなったらハイスペックマシンでないと動かなくなるだろう
MacBook Proでも肩で息している感じだし…
那覇から飛び立って韓国のクンサン基地経由で中国のチョンチンに向かい
そこから関空にまっすぐ帰ってくるというプランを設定した
総行程およそ2000海里
ただいま北朝鮮の領空を侵犯中
世界中どこでも電波標識はそこら中にあるのだがここだけは何もない
たま〜〜にGPSレポートポイントの地図標識があるだけだ
そして夜の北朝鮮は見事に真っ暗だ
夜景の明かりが一つもない
単にテクスチャを貼る資料がないため省略したか実際の北朝鮮の闇を再現したのかは知らない
しかし国際ステーションからもこんな風に見えるそうだからリアルとも言える
これはどこの空港だったかなぁ…25の方位標識をつけているから
関空やクンサンではなかった気がする
ちなみにこの滑走路の番号だが滑走路の方位を表しているので
この場合250度つまり西南西からのアプローチウエイだという意味
反対側は07という数字が書いてあるはずだ
ちなみにアメリカの空母の飛行甲板にも数字が書いてあるが
あれは艦体番号で74はステニス、エンタープライズは65、ニミッツは68で
それぞれ艦体番号のCVN-74、CVN-65、CVN-68からきている
現在建造中のケネディが79、次世代エンタープライズが80なんだそうだ
最近のバージョンから増槽タンクも追加され燃料搭載量もリアルに
なってきたので実際の行動半径がどれくらいあるかテストしてみた
香港空港からヤンゴンまでおよそ1,100海里、無給油で往復はSu47では
全然足りないしF-18も給油しないとかなり無理な距離
F-22は短距離選手なのかと思ったら唯一クリアできた
夜間のアプローチは計器のIFLOLSが頼りだが最後は目視で
標識灯を見ながらという昔ながらの方法がやはり確実だ
滑走路脇のライトは赤のライトのところは滑走路外で危険
緑の線から先が着陸可能なエリア、誘導ライトが
途絶えるところが安全なエリアという表示になっている
夕景の着陸進入
夕景のタッチダウン
着陸風景遠景
こうして遠目に見るとすごく広いところに降りるので誰がやっても
簡単に降りられそうに見えるが飛行機の速度が実際には操縦を難しくしていると思う
先ほどと同じ25番滑走路へのアプローチ
これってヤンゴンだったかな…そんな気がしてきた
タッチダウン直後のフォロー視点の再生画像
操作画面についても一言
一般的なゲームソフトの目線はこういう機体が見えているフォロー画像が多いと思うが
操縦に必要な情報はすべてHUDに表示されるので
実際にはフロントビューの視点が一番操縦しやすいと思う
これがHUDに表示される情報
中央のはしごみたいなのは機体の姿勢と運動エネルギー方位、
右の数字と目盛りが高度、左の数字と目盛りが速度、上のゲージが方位を示し
左上のレーダー兼IFLOLSが着陸目標の方位や滑走路の傾きなどを示している
ここに直陸目標や電波標識までの距離なども数字で表示される
こうしたヌーメリカルな情報を頭の中で再構成して三次元的な飛行機の姿勢をイメージする
このアプリをかなり初期からフォローしているがここらの表示は随分リアルになってきた
右上の地球儀マークアイコンをクリックすると航法地図に切り替えられる
その航法地図に切り替えた様子
Rep-PTはいわば航空用の番地表示のようなものでその位置決めのために
電波標識(民間はVOR、軍用はTACAN)などの位置も書き込まれている
お日様マークみたいに囲われているのはすべての民間空港、空軍基地などの所在地を示す
飛行機のアイコンを航路線の上に合わせて運行すると目的地に着く
また燃料損失・機関故障などの時にどこに緊急着陸するかもすぐ判断できる
それにしても先ほどの北朝鮮の航路図と目標の数の違いがすごい
飛行機を囲む円形のゲージは半径10海里の円に
なっているのでアプローチの距離をこれで決定できる
ゲージは方位も示しているので滑走路番号もわかっていれば
これをもとに大まかにアプローチしてしまうこともできる
バグダッド空港に進入するF-22
砂漠のテクスチャーは海に近いのか市街地よりも表示がやや早い
ほぼ理想的なアプローチだと思う
以下情景写真としてお楽しみください
市街地のテクスチャーは昼間よく見ると上からの情景なので横から見るとぺちゃんこ
でも遠景なら気にならない…かな
エントリー!
ステーブルオンランウエイ
タッチダウン!
クンサン基地の昼間のアプローチ
5海里切ったあたりでやっと滑走路の向きが分かる程度だが画面左上の
IFLOSのおかげでほぼまっすぐ滑走路にアプローチできているのが分かる
機体が重いにもかかわらず旋回は軽快なのはF-22のエンジンの出力以外に
この平べったい機体形状のおかげもあるのかもしれない
クンサンに接近中
クンサンは昔から米軍の基地があるところで那覇と並んでアジアの拠点だった
ベトナム戦争時代にはB52の運用拠点だった
その名残だろうか滑走路の割に敷地が広い
まだ滑走路上にいないがもうオフリミットエリアの中だ
やっと滑走路の上にたどり着いた
減速しながら機首上げして高度を落としていく
タッチダウン!
別アングルから…
夜間飛行時にアフターバーナーを炊くとよくわかるがF22のベクトルノズルの形状が四角
これもステルス化のためなのだろうか
航法地図の左上に時計アイコンボタンと給油機ボタンがある
時計ボタンまたはTキーを押すと時間を6分の1に短縮できるので
自動操縦でまっすぐ飛んでいる間の退屈を短縮できる
給油機ボタンは文字通り空中給油を受けられる
タンカー(空中給油機)にアプローチの様子
これがうまくいけば地球一周の旅だって可能なのだが
タンカーアプローチがハンパなく難しい
フォローで見るとこんな感じ
タンカーは230ktと速度も遅く上下左右にフラフラ揺れているので
アプローチの難しさは空母の比ではない
正直まだ一度もうまくいかない
ところで余談一つ。
このアプリをいじるまで知らなかったのだが、距離表示を永らくマイル表示だと思っていた。
映画でもよく
「距離◯◯マイル!」
とか言っているからアメリカはそうなんだろうと思っていたが、あれはアメリカの観客に分かりやすくするためにマイルと言っているだけで実際には航空無線では民間も軍用も海里(nm)を単位にするそうだ。
このアプリが表示している距離も単位はnmだ。
この1海里は地球儀の赤道面の1度の60分の一と決められているんだそうだ。
つまり1海里で1分だ。
なぜこうするかというと60海里飛べば地球儀の1度分飛んだことになり、600海里飛べば10度分、
例えばF-22の航続力の半分の1200海里飛べばちょうど20度飛んだことになりとても計算が楽だからだ。
速度にノット(kt)を使うのも同じ理由で、1ノットは一時間に1海里進む速度だから300ノットなら2時間で600海里、地球儀10度分を飛べることになる。
暗算で長距離の移動時間、移動距離などをすぐに計算できるのでこの単位を使うということらしい。
確かにこれは便利だ。
そしてジェット機のスピードの尺度として子供の時代から馴染んでいた「マッハ」という単位は今ではあまり使わないそうだ。
マッハというのは音の速度の何倍かという大まかな速度単位だが、音の速度自体が温度や気圧つまり高度によって大きく変わるため速度の基準になりにくいということだ。
マッハ1は海面高度では時速1224km/hだが、1万メートルの上空では1080km/hとかなり誤差が出る。
だから現在速度をこの換算表でいちいち換算しないといけないので、機械的にマッハ数を計測するのは現実的ではない。
地球の半径は不動の単位だから今ではノットを使うのが常識だということらしい。
2016年9月28日
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