Previous Topへ Next

飛行機はなぜ飛ぶのか実は科学でまだ解明されていない…
なんて与太が面白おかしくネットに流れているのを知った
〜飛行機が飛ぶ原理は単純ではないが未解明ではない

Reason They Fly

飛行機はなぜ飛ぶのか実は科学でまだ解明されていない…なんて与太が面白おかしくネットに流れているのを知った〜飛行機が飛ぶ原理は単純ではないが未解明ではない

科学や技術の話を一般の人にもわかるように面白くわかりやすく説明しようとすると誤解を生じるサイエンスライターの罠

最近面白いサイトを見つけた。
飛行機は飛ぶ原理が解明されていない怪物?! 身のまわりのモノの技術(5)【連載】 | 暮らし | 毎日が発見ネット|人生のちょっと先のことがわかる対策メディア

その一節を引用すると…

『実際、紙飛行機が飛ぶのはこの渦が原因であることが知られている。しかし、渦の理論はカオス理論の一つであり、最新のコンピューターでも精度の高い計算はできない。そのため、正確な空気の流れは理論的にはつかめないのである。』

『飛行機が飛ぶしくみは、これらの説明が一体になったものと考えられている。我々はしくみを完全に計算しきれない怪物に乗って旅行を楽しんでいるともいえるのだ。』


えっえ〜〜〜!本当なの?

これを知ってからググってみたらネットには結構
「実は飛行機が空を飛ぶ原理は未解明」
という話が蔓延していることを知った。

このことをうまく説明しているサイトがどこかにないかなと探していたら、こういうサイトも見つけた。
「飛行機がなぜ飛ぶか」分からないって本当?:日経ビジネスオンライン

結論からいうと飛行機が空を飛ぶ原理は未解明だというのはウソだ。
その原理は解明されているし、飛行機の性能を決定する空力はコンピューターによるシミュレーションが普及してきたおかげで実際に風洞実験をする前からかなり正確に計算できている。

ただしその原理は実は単純ではない。

単純ではないことを科学技術に疎い人にもわかりやすく説明しようとすると、いろいろ落とし穴があって矛盾が出てくるので
「実は飛行機がなぜ飛ぶのか本職の技術者もよくわかっていないんじゃないの?」
という誤解の元になっている気がする。





飛行機がなぜ飛ぶか…それは翼が揚力を生むからだ…としてこういう図をよく見かける
翼は抗力と揚力を生み飛行機はエンジンで推進力を生むので揚力と重量が打ち消しあって浮き上がり
推進力が抗力よりも大きいと前に飛ぶという説明
これ自体は正しいが、じゃなぜ翼が揚力を生むのかという原理が問題だ




翼はこういうアーチ型の形をしているので翼の下を通る空気よりも上を通る空気の方が遠回りをする
するとその分だけ空気が薄くなってベルヌーイの負圧の定理により
翼は上に吸い上げられ揚力が生まれるという説明がされる


この翼がアーチ型をしているおかげで空気が遠回りをして、翼の上下で気圧差が生じ上に吸い上げられるので飛行機が飛ぶという説明は、ビジュアルでわかりやすい。
それにこの説明はあながち間違いではない。
でもこれで飛行機が飛ぶ原理がすべて説明できるかというとそうではない。
これは飛行機が飛ぶ原理の何割かにすぎない。





ここで一つの思考実験
飛行機の空力特性を割と忠実に再現しているお馴染みのCarrier Landingsで説明する
翼がアーチ型になっているから揚力が発生するなら背面飛行をしていると
揚力は下向きになってしまうので飛行機はいつか墜落するのかという実験だ




結論からいうと背面飛行でも飛行機は墜落しない
一定の速度と高度を保てるようにスロットルを調整すれば
燃料がなくなるまで背面で飛び続けられる
飛行機よりも操縦士が先に失神して墜落してしまうので実機を使って真似してはいけない




同じ速度、同じ高度を維持する通常飛行と比べてスロットルの位置はほとんど変わらない
背面飛行の方がわずかに効率は悪いがわずかな差だ
背面飛行の時の仰角は上空に傾ける…つまり操縦桿を「降下」方向に
倒すのでわずかな燃費の悪化は生じるがほとんど差がない
つまり翼がアーチ型になっているのは空気を遠回りさせて
わずかでも燃費を稼ぐためであって飛行機が空を飛べる根本原理ではない


先ほど挙げたリンク先の「飛行機がなぜ飛ぶか」分からないって本当?:日経ビジネスオンラインでは、翼は流線型をしている必要はなく、アーチ型である必要もない。
クッタ・ジューコフスキーの定理で説明すれば、翼は充分な仰角と速度があれば揚力を生み出すことができるというお話をされている。

見事な説明だと思うし、これが凧や紙飛行機でも空を飛べる原理だし、実際第一次大戦期以前の飛行機は
凧式飛行機械
という不名誉な名前で永らく呼び習わされていたのも案外的はずれではなかったということになる。

ところがさらに話は込み入ってくる。





もう一つ思考実験を
飛行機が機体を垂直に傾けたら翼も垂直になるので揚力を生むことができない
この場合飛行機はすぐ墜落するのか…というと墜落しない
充分な推力さえあればいつまでもこの状態のまま飛んでいられる
じゃ、翼なんて必要ないじゃん!ということで話が迷路に入っていく


この垂直に機体を傾けた時になぜ飛行機が墜落しないのかを考えると飛行機が飛ぶ原理の一番大事な部分が見えてくると思う。
主翼が揚力を生成するから飛行機は飛ぶ。
これは離着陸の時には根本原理だと思うが、飛行機のマニューバビリティ全部をこれで説明することはできない。

垂直になった飛行機はなぜ墜落しないかというと充分な推力があるからということになる。

主翼は垂直になっているので主翼が生成する揚力はゼロだ。
しかし高度を維持するために垂直尾翼を微妙に機体が横滑りする方向と逆に切る。
このキャプチャの場合は左に舵を切る。

するとエンジンの噴射方向は水平ではなくやや下を向くために上向きの推力を一部得られる。
さらに主翼は揚力を生まなくても胴体はわずかな揚力を生む。

こういうマニューバーをしている飛行機の様子をとらえているのは、最近の映画でいえば例えば「永遠のゼロ」。
この映画ではミッドウエイ海戦で被爆して大破した連合艦隊旗艦の赤城の上空を主人公の操縦するゼロ戦が垂直に機体を傾けたまま通過してその惨状に主人公が呆然とするシーンがあった。
あるいが「オブリビオン」という映画ではトム・クルーズが操縦する飛行機が狭い谷間の間を、飛行機を縦にしてすり抜けるシーンもあった。

あんなことしたらすぐに横滑りして飛行機が墜落しないかというとそうはならない。

推力の一部を高度を維持することに使用するためには充分な推力が必要だし、本来揚力を生む目的で成形されていない胴体などで揚力を得るには充分な速度が必要だ。
つまり飛行機が飛ぶには一番重要なのは充分な運動エネルギーがあることだとなる。
充分な運動エネルギーがあればこういう揚力を得られるはずがない姿勢でも飛び続けられる。

朝鮮戦争を戦った米空軍パイロットの手記も読んだことがあるが、彼らが飛行中に一番気にしていることは「キネティックエネルギー(運動エネルギーkinetic energy)がどれくらいあるか」の一点に尽きる。
彼らは残弾数や燃料計よりも重大な関心を持って常にそれを気にしながら飛んでいる。

運動エネルギーは
運動エネルギー=速度×高度
というような式で表現できる。

低空でも速度があれば大きな運動エネルギーがある。
速度が遅くても高度が高ければ大きな運動エネルギーを持っている。
運動エネルギーは高度と速度の積で表現できる。

そして運動エネルギーを失った時、つまり速度を失って姿勢を立て直す充分な高度もない時に飛行機は墜落する。
逆にいえばそのどちらかが充分にあれば飛行機は墜落しない。





離艦する時の飛行機の様子
フルフラップといって主翼の後端のフラップを目一杯に
下げた状態でさらに前縁スラットも目一杯下げている
フラップを下げることで翼断面のアーチ型の角度をよりキツくすることで揚力の効率を上げ
そのために気流が翼上面から剥がれて失速・ピッチアップが起こるのを防ぐためにスラットの
隙間から気流を翼の上に逃がして低速で仰角を大きくとっても大丈夫なように工夫されている
仰角を大きく取ることで大きな揚力を引き出し最大36トンの巨大な機体を短距離の加速で持ち上げる
そして何よりも大事なのはエンジンをフルスロットルでアフターバーナーまで噴かして
出力全開で加速しているがその排気を大地効果を得るためにスラスターパネルに噴きつけて
その上でカタパルトで強制射出もして加速度も最大に引き出す工夫がされている




揚力は速度が上がれば上がるほど大きくなるからスラットや
フラップなど大げさな高揚力装置は速度が出れば必要なくなる
さらに離艦直後の大きな仰角も必要なくなるのでどちらかというと
機首を押さえて高度が上がり過ぎないように調整する
さらに音速を超えると大きな縦横比をもった揚力を得やすい主翼は
逆に邪魔になるので後退翼で折り畳んでいる
VGウイングは縦横比を変えるだけでなく主翼断面形を超音速で有利な
鋭利な板という形に近づける狙いがある
つまり速度がすべてで速度があれば揚力はどういう形でも得られる




F14の計器版
飛行機の計器板はメーターが3つぐらいしかついていない車のパネルと比べてカオスに見える
しかし実はほとんどの飛行機は同じレイアウトになっていて
しかもそのレイアウトは1930年代の大戦間期頃から現在までほとんど変わっていない
大体パネル中央に機体の姿勢を表示する地球儀のようなジンバルが鎮座している
その右か左のすぐ隣に高度計と速度計、降下率計と横滑り計が並んでいる
そしてパネルの右隅か左隅(このキャプチャの場合はパネルの下)に
回転計、圧力計、流量計などのエンジンの計器が並ぶ
つまりパイロットは常に姿勢と速度と高度、横滑り、降下率を気にしていることになる
手練のパイロットは初めて乗る飛行機でも計器版が何を表示しているかすぐにわかるのは
計器版のレイアウトがほぼ万国共通だからだ




近年では特に戦闘機などの敵影を一瞬でも見逃せない用途の飛行機は
HUD(ヘッドアップディスプレイ)でこうした計器のパラメーターを
操縦席の正面ガラスパネルに表示するようになった
その表示はやはり姿勢、速度、高度、進行方向インジケータ(降下計と横滑り計が一体化したカーソル)
が中心でパイロットはやはり運動エネルギーを一番気にしていることがわかる
その次が方位や目標との距離、レーダー、IFLOS(着陸誘導計)、燃料計ということになる


飛行機が飛ぶ理由は翼が揚力を生むからだが、実はその翼が揚力を生む原理が充分に『専門家』の間でもコンセンサスを得られていないようだ。
飛行機はなぜ飛ぶかのかまだ分からない??

リンク先の航空工学の先生は循環説を信じていて、それ以外の説を唱える人をすべて「理解できていない人」と断じているが、揚力がなぜ生まれるかという設問と飛行機がなぜ飛ぶかという設問は、微妙に問題にしている事柄が違うように思う。

垂直飛行のキャプチャで書いた通り実は飛行機は揚力がなくても飛べるからだ。

揚力がなくてはどうにもならない場面もある。
それが離陸と着陸の時で、それ以外の局面では必ずしも揚力は必要とも言えない。
ただ常時揚力を得ていた方が燃費は良くなるケースが大部分だから、揚力が必要なのは離陸時の機体を持ち上げる力を得るのと着陸時のソフトランディングのために必要だが大部分の場面では機体性能を引き出すための効率を上げるために一部揚力も必要ということになる。

ここでは主翼が揚力を生成する原理はまだわかっていないという議論ではなく、飛行機が飛ぶ原理はよくわかっていないという都市伝説を否定するのが目的だった。
揚力の生成原理にはどうも議論があるようだが、揚力は飛行機が飛び続ける上ではどういう場面でも必要な要素ではないし、飛行機が飛び続けるにはもっと重要な要素があって、このことは完璧に解明されているということを書きたかった。

サイエンスライターが科学知識に疎い素人にわかりやすく物事の原理を説明しようとすると、とんでもない間違いを起こしやすいという実例がこの「飛行機が飛ぶ原理は実はまだ解明されていない」という与太話に結構盛り込まれている気がした。




2018年4月28日
















Previous Topへ Next





site statistics
青木さやか