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コルトシングルアクションアーミー…ことピースメーカーが
登場する映画および登場しない映画…これが結構時代考証の目安になったりする

SAA on movies or not on movies

コルトシングルアクションアーミー…ことピースメーカーが登場する映画および登場しない映画…これが結構時代考証の目安になったりする

テッポをひとつ取り上げたらそれが登場する映画を取り上げるというポリシーを考えていたが、ピースメーカーが出てくる映画なんて40や50はすぐに挙げられるので紹介する意味があるのか…というぐらいにピーメはポピュラーなテッポだ。

むしろピーメが出てくる映画と出てこない映画…という比較をしたら面白いんじゃないか…という気がしてきた。

普通に考えたらピーメが出てくる映画って西部劇だけども、西部劇の名作を順番に紹介…なんて面白くもなんともない。

実際の西部開拓時代ってどんな時代だったのか…という話の方がきっと面白い。





コルトシングルアクションアーミーことピースメーカー
これが登場する映画は一体何本存在するんだろう…と振っておいて
数える気全く無しというぐらい映画ではポピュラーなテッポ




イーストAさんのカタログから典型的なハリウッドスタイルのガンベルト
これをズボンのベルトよりも低い位置に斜めに巻いて
銃を思いっきり低い位置に吊るのが映画のスタイル
実際にこれを巻いてみればわかるがこれに火薬を仕込んだ銃を吊ると
銃を取り落としそうな気がしてものすごく歩きにくい…というか歩けない
ましてや馬に乗るなんてありえない…というぐらい安定しない




True West Magazineより実際のテキサスレンジャーの写真
使用している銃器から1880年代初旬の写真と思われる




彼らが使っているガンベルトはズボンのベルトと同じ高さに巻くタイプ
そこにハイライドという拳銃のグリップがベルトよりも高い位置にくるホルスターを全員つけている
全員がアーティラリー、キャバルリータイプ以上の長い銃身の銃を吊っていることにも注目




同サイトからテキサスレンジャーのメンバーのひとりジム・ホーキンスの肖像写真
やはりハイライドのフラップ付きホルスターに7.5インチの銃を吊っていることに注目
つまり実際の西部開拓時代には西部劇みたいなカッコして歩いている人は一人もいなかった



OK牧場の決斗

西部開拓時代の実際の写真を見ると映画とかなり違うことに気がつく。

ジョン・フォードの時代にはウエスタンのガンマンは、折り目がピシッと入ったスーツを着てパリッと糊の利いたシャツにローライドのファーストドローのガンベルトを巻いていた。

時代が降るにつれて悪役は小汚ないデニムシャツで善玉は糊の利いたシャツという使い分けができて、さらにニューシネマ以降の西部劇は悪役も善玉も埃まみれの汚ないカッコをするということにルールが変わってきた。

実際の西部開拓時代の写真を見るとジョン・フォード時代ほど身綺麗ではなかったが、ニューシネマほど小汚ないやつばかりではなかったことがわかる。

写真を撮るときはさすがにスーツを着てその下にハイライドのガンベルトを巻くというのが実際の西部の男の身だしなみだったようだ。

映画「OK牧場の決斗」はこのジョン・フォード時代の綺麗なガンマンとニューシネマの小汚ないガンマンのちょうど中間の時代で、カーク・ダグラスやバート・ランカスターは身綺麗なカッコをしている。

そして登場人物はすべてコルトのピーメの4.75インチシビリアンモデルを使用している。





「OK牧場の決斗」の決闘シーンのクラントン一家
全員がファーストドロー用ガンベルトにシビリアンタイプ(4.75インチバレル)のピーメを吊っている




これはドク・ホリデー(カーク・ダグラス)が女のことでリンゴーキッドと揉めているシーン
机に置いた銃を手に取ったら即撃ち合いになるという一触即発のシーン




同アングルのアーティラリー(5.5インチバレルモデル)
これと比較すると映画の銃は銃身が短いのがわかる
実際の開拓時代はみんな長い銃身の銃を使っていたが
西部劇では4.75インチの短い銃を使うというの決まりみたいなものだ




実際のドク・ホリデーが使用したのはピーメではなくコルトのM1860アーミーの
コンバージョンモデル(金属薬莢を使用できるように改造されたパーカッションモデル)
これはHWSのモデルガンだがこの銃身をさらにソウドオフして短くし
トリガーガードも切断してトリガーを紐でぐるぐる巻きにして引き金が
常時引きっぱなしになるようにしてファニングで撃ったらしい
このドク・ホリデーの改造モデルが「西部の早撃ちは短銃身」
というイメージにつながったのかもしれない



この映画は前にも書いたが銃器の考証的にはちょっと問題がある映画で、この時代には存在すらしないバントラインスペシャルが登場したり、全員がピーメのシビリアンで撃ち合いというのも違和感がある。

1881年ならもちろんピーメは市中にも普及し始めているが、前にも書いたようにコルト社と陸軍の間に軍への納入を優先するという契約があったために、そんなに普及していなかったように思う。

ワイアット・アープはピーメではなくS&Wのモデル3かスコフィールド銃を使っていたという説のほうがまだリアリティがある気がする。

銃器だけではなく事実関係もかなり実際と違っていてリンゴーキッドはこの「OK牧場の果たし合い」には参加していないし、女関係でもめたのはリンゴーとドク・ホリデーではなくワイアット・アープとクラントン一家の肩を持っていた郡保安官だった。

まあ、西部劇なんて日本の時代劇と同じで歴史劇ではなくただのエンターテインメントなんだから、事実と違ったって面白ければいいということかもしれない。

日本の時代劇だって遠山左衛門尉は桜吹雪の刺青を入れていたわけではないし、水戸光圀は諸国を漫遊したわけではない…というようにいっぱいウソがある。




ワイアット・アープ

同じく「OK牧場の決闘」を取り上げた映画で、かなり時代は下るがローレンス・カスダン監督、ケビン・コスナー主演の「ワイアット・アープ」はやはりピーメ使用説を支持しているみたいだが、時代が最近な分だけややジョン・スタージェスの時代よりは考証がされている。

カスター将軍の銃の映画のページでもちょっと取り上げたが、若き日のワイアットが初めて手にする銃はピーメではなくM1851アーミーのコンバージョンモデルというピーメよりもちょっと古いモデルを使用しているところなんか
「ちゃんとしているな」
と思った。

この映画の冒頭シーンでこれからOK牧場に向かうワイアットのシーンがある。





「ワイアット・アープ」の冒頭タイトルバックのシーン
酒場の机に置かれたのはピーメのキャバルリー7.5インチモデル




同じアングルのCMCキャバルリー7.5インチ
ケースエジェクターロッドよりも銃身が1.5倍長いのでキャバルリーであることが確認できる
ローレンス・カスダン監督はピーメ使用説を支持しているようだが
さすがにキャバルリーを使用してリアリティーには気を使っている



許されざる者

アメリカのオールドタイマーな西部劇もマカロニもニューシネマも銃器の考証についてはいい加減な映画が多いなと思っている。
そうしたなか90年代にウエスタンのリバイバルブームが起きて西部劇映画が何本かヒットした。

上のローレンス・カスダンの「ワイアット・アープ」もその一つだが、このリバイバルウエスタンの走りになったのがクリント・イーストウッド監督・主演の「許されざる者」だった。

クリント・イーストウッド監督は俳優としては結構荒唐無稽な映画にも出演しているが、自身の作品についてはリアリティーを追求する監督として定評がある。

「ハドソン川の奇跡」では廃機になったA320の実機をプールに浮かべて、ハドソン川に不時着水した乗員乗客の脱出劇を再現して見せたし、硫黄島の決戦を描いた「硫黄島からの手紙」では日本人のキャストを集めてすべてのシーンを日本語で撮影した。

そういう人だから西部劇の描き方も、
「実際の西部はこんなところだったに違いない」
「実際のガンファイトはこんな風だったに違いない」
「実際に人を銃で撃ってしまった人間はこういう心理になるに違いない」
というところをリアルに描く手法が取られていた。





辣腕保安官(ジーン・ハックマン)が守る町に
賞金稼ぎに来た「イングリッシュ・ボブ」を取り囲む保安官助手だち
ちゃんとハイライドホルスターのガンベルトを腰につけているのがポイントが高い




そして物書きのボーシャンプ君を制圧するレミントンM1875アーミーを持つ助手




このレミントン1875アーミーはコルトのSAAをかなり意識して作られた銃なので遠目にはそっくり
だがよく見ると銃身の下に三角形のフィンがあるのがレミントン、ないのがコルトと見分けられる




これがレミントン1875アーミーのプロフィールショット
イーストウッドの映画はこれまでのピーメ一辺倒だった西部劇の
嘘っぽさを脱却して実際の開拓時代にはいろいろな銃がごった煮のように
使用されていたはずだというリアリティーにこだわっているのがいい




例えば冒頭の「冷酷な殺人鬼」ウイリアム・マニーが
生活に困って昔取った杵柄の銃を取り出してきて空き缶を撃つシーン
ここで使用するのはスターM1858ダブルアクションリボルバー
パーカッション式のダブルアクションという珍しいメカの銃で
昔「動く者は女も子供も殺す」という評判だったマニーが一度は改心したが
久しぶりに生活苦のために賞金を稼ごうとするなら取り出す銃は
ピーメなんて絶対ウソでこういう古臭い銃を取り出してくるところがリアルだ




イングリッシュボブから取り上げた銃を返す保安官(ハックマン)
銃身がしの字に曲がっていて当時はこんなことできるのかと疑問を感じたが
銃身には硬度の高い鋼鉄ではなくむしろ柔らかい軟鉄に近い素材を使うという話を聞いて
根気強くカナテコで叩き続ければこんなこともできるのかもしれないと思った
日本版の「許されざる者」では佐藤浩市がしの字型に
曲がった日本刀を國村隼に返すシーンが踏襲されている




賞金稼ぎの話を持ってきた「スコフィールドキッド」は文字通りスコフィールド銃を使う




これはワイアット・アープの銃ことS&Wのモデル3アメリカンモデル
このモデル3の弱点を改良したのがスコフィールド銃で
これも開拓時代には結構使われていたはずだ




この「スコフィールドキッド」はテッポの名前を自分のニックネームとして自称して
「俺は5人殺した、そのうちの一人はナイフで殺した」とか意気がっていたくせに
本当に人を撃ってしまうと砂を噛むような顔をして「金はいらない、もうウチに帰る」と
しょげ返ってしまう実はナイーブな善人だったという男
実際に生きた人を銃で撃つことは撃った方も人生観が変わるぐらいの衝撃があるはずだ
イーストウッド監督ならではのリアリティーがこの人物に籠められている
だからイーストウッド演じるマニーも「昔殺した相手の幻覚に苦しめられる」のだ



このイーストウッドの相棒を演じるモーガン・フリーマンもスペンサーライフルを持っている。

物語は1888年ごろということだからもう西部開拓時代は終わりかけの頃の話だが、主人公たちは南北戦争時代の古い得物を持っている。

かつては「動く者はなんでも殺す」と恐れられたマニー一味は、今ではすっかり改心して善良な農民になっている…しかし生活苦は容赦なく襲ってくる…仕方なく舞い込んできた賞金稼ぎの話に昔の得物を取って向かう…というストーリー展開にぴったりの銃が選択されている。




サムライマラソン

ピーメが出てくる日本映画についてもひとつ。

以前大老井伊直弼襲撃事件を描いた映画「桜田門外の変」がちゃんとコルトのM1851アーミーを使用していて時代考証が正確だと書いた。

今度はその逆の例を…


桜田門外の変で使用されたコルトM1851アーミーはコルト社製の純正品ではなく、実は水戸藩でコピーされたコピー品だった。

そもそもコルトが幕末の日本に来たのはペリー提督の黒船来航の時だった。

ペリーは嘉永6年(1853年)と嘉永7年(1854年)に来航しているが、この二回目の時にアメリカからいろいろな贈り物を持参している。

その中に陸蒸気(蒸気機関車)の模型などアメリカの産品が多く含まれていたが、コルトのM1851アーミーという当時の最新式拳銃も贈られていた。

このうちの一挺が水戸藩に渡り、産業振興に熱心だった水戸藩主の命でこのコルト拳銃の国産化が進められた。

この銃がのちに桜田門外の変(1860年)で使用され井伊直弼暗殺の嚆矢になった。

黒船来航も桜田門外の変も幕末期の日本史に重大な影響を及ぼす大事件だったが、この両方の事件にコルトの拳銃が絡んでいるのが面白い。





桜田門外の変で使用されたコルトM1851アーミー(のコピー品)
映画「桜田門外の変」ではCAWのモデルガンがプロップガンとして使用されている




「サムライマラソン」の冒頭の黒船来航のシーン
そもそもなんでサムライがマラソンをする羽目になったかという導入でペリーの浦賀来航が描かれるが
この時にアメリカ大統領よりの贈り物が金属薬莢のコルトシングルアクションリボルバー…




美しいカットなんだけどちょっと待てペリー来航は1853〜1854年、コルトのSAAの発売は1873年
さすがはアメリカ大統領、20年も未来の銃を持ってくるとは…ってこれじゃ井伊直弼はSAA
で撃たれたことになってしまい歴史が変わってしまうよ〜〜…というような大げさな話ではなく
時代考証ができていない映画の典型的な例がこういうこと
この映画の監督はイギリス人らしいけどアメリカと日本の時代考証にはかなり疎い人らしい
幕末モノでピーメやボルトアクションのライフルを持ち出してくる時代劇は
ほぼいい加減な作品と考えて差し支えない



アメリカン・スナイパー

ピーメが印象的な使われ方をしている映画はないかなと色々思い出していた。

昔観たマカロニウエスタンだったと思うけど、裏切りを疑われたガンマンが主人公に突きつけたピーメの銃口を上に向けて、ローディングゲートから一発づつ弾を抜いていき「裏切っていない」ということを見せるというシーンがあったけど、映画のタイトルが思い出せない。

ピーメだからできるドラマチックなシーンだが(レミントン1875アーミーでもできる…とかいうことじゃなくて…)、そういう心理を描くシンボリックなプロップガンの使い方をできる監督はテッポのことをよくわかっていると思う。

そういえばマカロニウエスタン出身のイーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」でもピーメが印象的に使われているシーンがあったよねと思い出した。


アメリカの伝説的スナイパーのクリス・カイルは派遣されたイラクの戦地の狂気と敵スナイパー「ムスタファ」の影に帰国後も苦しめられる…
「ケリをつけなければ心も帰国することはできない」
と決意しムスタファとの決着をつけに行くが…

1920メートルという信じ難い遠距離狙撃を成功させムスタファを斃してもなお心が癒えないカイルは、帰還兵の心のケアをするボランティア活動を通じて初めて心の平和を得られる。

そして心優しい父親、夫として家族の元に戻ったクリス・カイルは…





優しい夫に戻ったカイルはコルトのシングルアクションを構えて密かに妻の背後に忍び寄る…
このシーンは有名な映画のワンシーンが元ネタになっている



明日に向って撃て!

その元ネタになっているのがこの映画。

「壁の穴」列車強盗団の「ブッチ&サンダンス」は度々襲ったユニオンパシフィック鉄道の社長の怒りを買いついに史上最強の賞金稼ぎのグループに追われる羽目になった。

山も川も越えて地の果てまで追いすがって来る不気味な追跡隊…その追跡をかわすためにサンダンスの恋人と3人でボリビアに渡る…というストーリー。

地の果てまで追われる羽目になる前に、ひととき平和な時間が彼らに訪れる。

サンダンスキッド(ロバート・レッドフォード)が忍び込んだのは恋人(キャサリン・ロス)の家。





「全部脱げ」「髪を下ろせ」「頭を触れ」と銃を突きつけながら命じるサンダンス
しかし実はサンダンスもブッチ(ポール・ニューマン)も彼女には優しく
ボリビアに渡ってからは彼女をスペイン語の先生として頼りにしている
この三人のつかの間の平和な日のワンシーンがこのふざけて銃を突きつけるシーン
クリス・カイルがSAAを持ち出したのはテキサスの男のつかの間の平和のシンボルだった




この映画はニューシネマの走りなのでまだ使用銃はピーメ一辺倒なのだが
ボリビア軍に囲まれたレッドフォードがケースエジェクターロッドを使って
排莢をするシーンがしっかり描かれていてそれまでの百連発コルトとは違うリアリティがあった



SAAにはピースメーカー、平和を築く者というニックネームがある。

6連発の火力が抑止力になり結果的に平和が訪れるという意味だ。

これとよく似た意味で「イコライザー」というニックネームもある。

暴漢に襲われたら体格がでかくて腕力がある方が勝つが、この火力があれば体格も腕力も関係なく、女も子供も平等の力を持つという「平等化する者」という意味だ。

イコライザーというとオーディオに興味がある人にはパライコ(パラメトリックイコライザー)、グライコ(グラフィックイコライザー)という言葉が馴染みがある。

あれは音の周波数帯域をコントロールして原音に近い波形に同等化するものという意味だが、あれと同じスペル。

アメリカで銃乱射事件が起きるたびに、日本のワイドショーなどでコメンテーターがわけ知り顔に
「なんで銃を禁止しないのでしょうかね?アメリカ人にはそんな知恵もないのか?」
みたいな無責任なコメントをヒステリックにしゃべる光景が毎回見られるが、この「イコライザー」という言葉を知ったらいかに彼らのコメントが実情を知らないかがわかる。

イコライザーがあるから平和があるのだと信じている人たちに「お前らはバカか」とかいくら言ったって何の意味もない。

デンゼル・ワシントン主演の映画タイトルにもなっているくらいなので、このイコライザーという概念はアメリカ人にはとても一般的なのだと思う。

よくわからない外国の歴史や思想、常識をああだこうだ批判するのはただの自己満足だということがわかる。




2020年3月23日
















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