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映画に登場するプロップガン〜テッポのメカなどが謎解きに
なっているミステリー…分かっている制作者はちゃんとわかっている

Guns work as keys

映画に登場するプロップガン〜テッポのメカなどが謎解きになっているミステリー…分かっている制作者はちゃんとわかっている

映画やドラマに登場する銃の扱いにずっと不満を感じている。

洋画アクション映画では銃は単なるアクションのシンボルで、日本のミステリーや刑事ドラマに登場する銃は単なる殺人のシンボルでしかない。

だから銃の形をしていれば何でも構わない。

当節ハリウッド映画や香港映画でグロックを使うのが流行りだから、日本の刑事ドラマでも刑事やヤクザがグロックなんか振り回していたりする。

そしてグロックで相変わらず弾がなくなったら
「カチッ カチッ」
とか音がして弾がないことに気がつくなんてバカパターンを繰り返している。

もう断言するが日本の刑事がグロックを持つことなんか絶対にありえないしヤクザだってまずグロックなんか持っていない。

そしてグロックで弾切れカチカチなんて演出している制作者は、銃がどういう仕組みで弾が出るかなんて絶対に一度も調べたことがない。
絶対に仕組みをわかっていないと断言していい。


鍵のかかった部屋「はかられた男」

そんななか最近見たドラマでちょっと感心したシーンがあった。

密室トリック専門の謎解きをする嵐の大野智が、絶対に解けない密室殺人を次々に解き明かしていくミステリー。

密室のなかで男が銃を持って死んでいた。

男の手には硝煙反応、弾は口を貫通して男はほぼ即死。

状況から警察は自殺と断定するが、自殺にしては不審な点がある。

銃を使って自殺するなら普通銃口をくわえるようにして撃つのに、男は口から銃を離して撃っていた。

はたして本当に男は自殺なのか?


この銃について元ヤクザから説明を聞くシーンでのヤクザの説明

「この銃はグロックG17といって引き金を引くだけで自動的に安全装置が解除される銃です」

おや?銃については大抵おざなりなミステリーにしてはG17の説明がやけに的確。

普通は樹脂製の銃でレントゲンに映らないとか適当なデマのような説明しかしないのに(「レントゲンに映らない」は嘘です)


と思ったらこの説明がやっぱり伏線になっていて、このトリックにはグロックのトリガーメカが重要な意味があった。

このトリック、銃がベレッタでは成立しない。

グロックでないとダメというお話で、テレビの制作者のなかにもちゃんと銃のことがわかっている方がいるんだと感心した。

一気にこのシリーズのファンになりました。

このドラマ、銃のことだけじゃなく他のトリックも本当によくできている。




インソムニア

「インターステラー」「インセプション」のクリストファー・ノーランの監督作品。

「インセプション」で銃のチョイスが面白いという話を書いたが、この監督さんもディテールに細かい細工をいろいろしてくる人で例えばこの映画は謎解きには銃の知識が必要になる。

ストーリーはアラスカの辺境で起こった殺人事件の捜査にサンフランシスコ市警の刑事二人が、捜査の応援に来るというきっかけで始まる。

この二人は同僚刑事なのだが、内部監査の調査対象になっておりほとぼりを冷ますために上司からアラスカの応援に飛ばされたという事情が明らかにされる。

ところがベテラン刑事(アル・パチーノ)を尊敬していた同僚は内部監査に情報を売ったと告白し、二人の関係にヒビが入る。

そんななか霧のなかで待ち伏せして殺人犯を逮捕するはずが、パチーノがこの同僚を誤射してしまうという事故が起こる…という物語。





霧のなかで殺人犯を追うパチーノ
手にはS&Wの45口径(おそらくM4505)を持っている




これはMGCのM59のモデルガン
これは9ミリ口径だがパチーノ達SFの刑事達は劇中で
「Smith & Wessonの45口径」と言っているのでおそらくM4505あたりを使っている




霧のなかで犯人の影を一瞬見失ったときにパチーノは45口径をホルスターにしまい
なぜかヒップホルスターからバックアップのワルサーPPKを取り出す
そしてこの銃で同僚を誤射してしまう




スズキのワルサーPPK/Sのモデルガン
口径は38口径(9mmの380ACP)




犯人が現場に残していった銃はS&WのM10Military and Policeの旧モデル
このときにとっさに同僚を撃ったのは自分ではなく犯人だと見せかけるトリックを仕掛ける




コクサイのSmith & Wesson M10 Military and Policeのモデルガン
口径は38口径(9mmの38スペシャル弾)




現場に残された弾頭から犯人は38口径を使用していたことが判明した
そしてパチーノの同僚を射殺したのも38口径だったことが判明
あとは銃が見つかれば誰が射殺したかもすぐに特定できる
ところがパチーノは見つけたミリポリを隠し持ってたまたま見つけた犬の
屍体を撃ってこの弾を検死から回された弾とすり替え弾道検査にわたす



パチーノは同僚を誤射したが、そのとき手にしていたのは38口径のPPK。

犯人が逃亡したときに発砲した銃も38口径。

現場に残された犯人が発砲したと思われる弾頭も38口径だった。

パチーノは内部監査に目をつけられ調査中の身の上、事故とはいえ同僚を撃ったとなれば
「わざとではないか?」
と疑いをかけられることになる。

とっさに現場で見つけた犯人の遺留品のS&W M10を懐に隠し、この銃から発射した弾頭を同僚の検死解剖で受け取った弾頭とすり替えた。

あとはこのM10を犯人の部屋から発見させれば、同僚を撃ったのはこの殺人犯ということで決まりのはずだった。

パチーノ達が使っている45口径は弾の大きさが38口径と明らかに違う。

銃創の大きさも明らかに違うので、誰も疑わない。

そしてPPKが使用する38口径(380ACP弾)とミリポリが使用する38口径(38スペシャル弾)は弾頭の重さがほぼ一緒で、口径が同じなので銃創の大きさも変わらない。

解剖で回収した弾頭を見ただけでは本職の刑事でも380ACPなのか38スペシャル弾なのかを区別することは難しい。

が、もちろん本職の鑑識にかければPPKの380ACP弾なのかM10の38スペシャル弾なのかはすぐわかるので、鑑識にかかる前にこの弾をすり替える必要があった。


弾のすり替えには成功したが、犯人の家に隠したはずのM10はなぜか最初に容疑がかかった全然関係ない人物の部屋から発見された。

そして犯人(ロビン・ウイリアムス)から電話。

この犯人はパチーノの捏造を知っていてそれを逆手に取ってきた。

犯人(ウイリアムス)は少女殺しは事故だと主張する。
パチーノの誤射も事故ならお互いこのことは黙っておき、容疑をかけられた少年に罪をかぶってもらおうと持ちかける。

「10分も殴り続けておいて事故だと言い張るのか?」
と拒否するパチーノにウイリアムスは
「じゃお前はどうなんだ?本当は同僚に死んで欲しいと思っていたんじゃないのか?」
と畳み掛ける。

そう、あの時パチーノはなぜ銃をPPKに持ち替えたのか?
なぜ現場で見つけたM10をその場で隠したのか?


アラスカの白夜のために夜中でも日が沈まない。

そのために不眠症が何日も続き、だんだんパチーノも錯乱していき何が真実かわからなくなってくる。

そして容疑者の少年を少女殺しと同僚の刑事殺しの犯人として逮捕してサンフランシスコに帰ってめでたしのはずだったが、パチーノの講義を警察学校時代に受けて彼を尊敬していた女性刑事だけは真相に近づいていた…
古い捜査資料を読み返した彼女はパチーノが「バックアップのPPKを使用した」との一文を発見する。
PPKは38口径!…という深い物語。


人はひとつ嘘をつくと、結局その嘘を守るためにいくつも嘘をつかなくてはならなくなる。

たとえその嘘をついた動機が、正義を守るためであったとしてもだ。

パチーノは元は正義感の強い、清く正しい刑事だったことが語られる。

しかしひとつ嘘をついたために結局彼の経歴は嘘にまみれることになった。

ラストシーン、真相を知った女性刑事が
「真実を知っても誰のためにもならない
このことは黙っておく」
というとパチーノが
「常に正しくあれ」
とひとこと言い残す


銃のことがわからないとちょっとストーリーにわかりにくい部分があるが、そういう知識があると
「これは完璧な脚本だな」
と感心する。

これがまだ売れっ子になる前の作品だというから、クリストファー・ノーランやはり只者ではない。


ちなみにタイトルの「インソムニア」は不眠症のことだ。

MacBook Proなどのモバイルの蓋を閉めてもスリープしないようにするアプリにInsomniaXというのがあった。

こういうアイコンだ。






クリストファー・ノーランは銃器や兵器に造詣が深いというのは前々から感じていた
インセプションでは潜在意識とSCARで戦うアーサーに「どうせ夢なんだからでっかく行こうぜ」
とイームズがリボルバーランチャーを取り出してきてぶっ放す
セオリー通り生真面目なアーサーと大胆かつ大雑把なイームズの性格がプロップで表現された




ダンケルクの敗走を描いた「ダンケルク」では英軍の兵装、スピットファイア、
ハインケルなどの戦闘機、爆撃機も実物を使用するリアル主義を見せた
着水、不時着するスピットファイアもCGではなくほぼ実写




「メメント」ではまたS&Wの銃が印象的に使われていた
ファーストシーンで薬莢が飛び上がり銃の排莢口に入っていく逆回しで
この物語は現在からだんだん過去に遡っていくストーリーだということを暗喩している
ナレーションではなく映像でそれを納得させる巧みな語り口だ



2020年6月22日
















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青木さやか