クマが出た!…「かわいそう、殺さないで山に帰してあげて」という声に従った結果…害獣駆除はやはり深刻な状態になっているよ
以前このページで野生のクマが住宅地に出没するたびに猟友会に射殺されるというニュースを見て
「かわいそう、殺さないで麻酔銃で撃って山に帰してあげて」
という声が出るが、それがいかに無茶な要求かということを書いた。
詳細はこちらを参照。
クマが出た!…とニュースになるたびに「かわいそう、殺さないで山に帰してあげて」と声はあがるけどあれって仕方がないんだな
もう一度あらましを書くと、住宅地に現れたクマやイノシシ、シカなどの大型害獣は基本的に警察が猟友会に依頼して射殺する以外に方法が無い。
その理由は
1)猟友会が使用する散弾銃やライフル銃では麻酔弾は使用できない(構造的に不可能)
2)麻酔銃はガスガンだがこれも警察によって実銃認定されており、所有するには公安委員会の所持許可証が必要
3)環境省のサイトでも広報されているが住宅地での麻酔銃の使用は法令で禁じられている
4)特別に麻酔銃の使用許可がおりても麻酔弾の薬剤は劇薬指定がされているため専門の獣医、薬物研究者以外は扱えない
5)薬物を扱える麻酔銃所持者がたまたま出没地域にいたとしても麻酔銃は効果が出るまで数十分かかるため、その間凶暴化した動物の被害が出ないように封じ込めが必要
6)麻酔銃での駆除に失敗した場合も結局猟友会が猟銃で害獣の反撃を止めるために待機しないといけない
こんな条件をクリアするのは不可能に近いし、クマの駆除に何週間も許可申請をしていたらそのうち人的被害も出るかもしれない。
結局警察から猟友会に依頼して、猟友会メンバーのボランティアがクマを射殺するという結末になる。
ところが実際に麻酔銃で害獣を駆除したらどうなるかという実例が、前回の記事を書いたちょっと後に起きた。
それがこちらのニュース。
見附の県営住宅・階段踊り場にクマ 5階建て25世帯入居 捕獲され死ぬ | /新潟日報モア
事件の概要は以下の通り。
1月21日
新潟県見附市の県営今町住宅の階段の踊り場にクマが1頭いると通報があった。
クマは体長約1メートル。
4階と5階の階段の踊り場で動かず、うずくまった状態。
見附市の依頼を受けた上越市の業者が麻酔銃3発を撃ったところ、午後1時前に死んだ。
この事件でけが人はいなかった。
事件を報じる新潟日報の記事のWeb版
この時の駆除体制だが、市と警察はクマをこの県営住宅の階段の踊り場に完全に封じ込めたと判断した。
住民には室外に出ないように警告して、一階の入り口を封鎖。
これで害獣が凶暴化して住民に被害が及ぶ可能性がないと判断して、麻酔銃の使用に踏み切った。
消防のはしご車に麻酔銃の使用許可を持った業者を乗せてその上から射撃させたという。
これで凶暴化した害獣の反撃でけが人や犠牲者が出る可能性はないと判断した。
しかし実際に撃ってみるとクマは一向に鎮静化しない。
一般的に野生動物を麻酔銃で撃つと、生存本能から激しく抵抗して凶暴化するのはこの界隈の常識。
結局1発では効果がないと判断して3発撃ちこんで薬剤が致死量を超えてクマは死んだ。
見附市からそう遠くない上越市に麻酔銃を扱える駆除業者がたまたまいるということで、市役所がこの業者に依頼したらしい。
県の発行する麻酔銃を使用した狩猟許可が必要だったはずだが、それは市がなんとかしたのだろう。
ところが1発では効果がないということで結局3発撃ちこんだ。
普通麻酔弾を扱える劇薬物取り扱い責任者なら、体長1メートルのクマに必要な薬剤の量や致死量も知っているはずだし、知らないと取り扱いの資格なんか取得できない。
知っていて3発撃ち込んだのか、パニクって3発撃っちゃったのか、1発撃ってもクマが全然弱る様子がないので市役所の職員に「早くなんとかしろ」といわれて3発も撃っちゃったのか細かい事情はこの紙面ではわからない。
麻酔銃というけど、こういう場合には大抵筋弛緩剤が使用される。
麻酔で眠らせるわけではなく、筋弛緩剤で害獣の運動能力を鈍らせて動けなくなったところを捕獲するというのがこのタイプの麻酔剤の使用法。
当然体は動かなくなっても意識ははっきりしている。
手術用の全身麻酔とは全然別物だ。
筋弛緩剤を有効量の3倍も撃ったら、普通致死量を超える。
すると撃たれた動物は呼吸ができなくなって、意識がはっきりしているのに窒息して悶絶死する。
これこそかわいそうなんじゃないか?
それだったらスラッグ弾で一気にトドメをさしてくれる方がクマも苦しまずに済んだかもしれない。
しかも致死量を超えた筋弛緩剤を撃ち込まれたクマの肉は、ジビエにもならないし焼却処分する以外に方法がない。
結局「クマがかわいそう、麻酔銃で撃って山に帰してあげて」という声に配慮した結果、クマも地獄の苦しみで悶絶死して、市役所も余計な予算と手間をかけて、その間周辺の市民生活も完全に止めて、駆除したクマの肉は生ゴミにしかならない。
誰も喜ばない、誰も得しないという結果になってしまった。
もう一例。
猟友会のメンバーはクマの駆除を喜んでやっているわけではない。
警察との信頼関係で(所持許可するんだから協力しろよという圧力は多少あるかもしれないが)駆除に協力するわけだが、警察と市の指示でクマを撃ったのに
「住宅地での違法な発砲だったため銃の所持許可取り消し」
という処分を受けた事例が2018年に発生している。
こちらのブログでこの記事を知った。
有害駆除はやらない- 週末猟師
この所持許可取り消しの処分を受けた本人のブログがおそらくこれ。
有害駆除 やってらんないよ!
概要は以下の通り。
警察と市役所の立ち会いのもと、要請に応じてクマの駆除をしたハンターが「鳥獣保護法違反」の疑いで送検され、不起訴になったが銃の所持許可が取り消されたという事件。
なぜ所持許可が取り消されたのか、その理由を問い合わせているが明確な回答がないという記述がある。
どうも建物に向かって発砲したというのがその理由らしいが、当事者のブログを見ると無人の資材置き場のような建物だったらしいし、大体住宅地にクマが出るから駆除に行っているわけでそこで発砲できないなら駆除なんかできないということなのかもしれない。
ハンターは市職員と警察官の指示で発砲したとしており、市から周囲の安全は確認したと説明されていたらしい。
それなのに射線上に人が作った構造物があったために、猟銃所持許可を取り消されたということで不信感が広がっている。
そして何よりもまずいのはこの件で北海道の猟友会と警察の信頼関係は完全に崩れてしまい、クマが出たという通報があっても猟友会は誰も来ないのだそうだ。
駆除の現場にいくら猟友会といっても、銃も持たずに手ぶらで行ったら単なる野次馬となんら変わらない。
そしてクマやイノシシのような大型害獣に対して、警察装備のニューナンブやSAKURAのような38口径の拳銃では何の役にもた立たない。
撃っても害獣を凶暴化させるだけで、駆除も駆逐もできない。
自衛隊の災害出動は法的に無理だろうから、もうクマが出たら泣き寝入りで家に閉じこもるしか何もできない。
警察も見ているだけで手出しもできない。
前回も書いたが害獣が人里に出没するのはもう仕方がない。
山で餌を探すより住宅地に降りてきて、ゴミ箱を漁ったり住居に侵入したり畑を荒らす方がはるかに簡単に栄養価の高い餌を獲得できる。
そのことを学習してしまったクマやイノシシは、もう山で餌探しなんかしない。
繰り返し住宅地に現れる。
駆除法は射殺以外にほぼない。
麻酔で撃って山に帰すというのは、新潟の例のようにほぼ非現実的だから。
そして駆除に協力するハンターと警察、役所、住民や世論に信頼関係はない。
失敗したら自分の命すら危ないボランティアに、そんな逆風なのに参加したいハンターはいない。
上記リンクのハンターのブログでも「害獣駆除なんかやってられるか」という空気が蔓延している。
どうすればいいんでしょうね?
だからこれを使えと言いたいわけではない
かわいそうというなら知恵と金を出せという結論になってしまうのかな…
2020年7月30日
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