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修復したSIG Sauer P230見てたら実銃のことや映画の登場シーンを
調べたくなった…やはり女性が持つとサマになる銃なのかな…

SIG Sauer P230

修復したSIG Sauer P230見てたら実銃のことや映画の登場シーンを調べたくなった…やはり女性が持つとサマになる銃なのかな…

修理ついでに調整、外観仕上げをやり直したKSCのSIG P230が気に入ったので、ところでP230というテッポについてどれほどのことを知っているだろうかと振り返り少し調べてみた。

SIG SauerはドイツのSauer(ザウアー社)とスイスの姉妹企業だったSIG(スイス工業団)のブランドネームで、のちに両社が合併しその名を使用したSIG Sauer GmbH(シグ・ザウアー・ゲーエムベーハー)がスタートしたのが1976年。

そしてこのP230が開発されたのは1977年なので、創業後最初ぐらいのオリジナル製品だった。

スイスのSIGはフレームがスライドを包む形の自動拳銃P47/8(P210)やスイス軍制式ライフルSG550の原型になったSG540突撃銃などで評価が高い銃器メーカーだった。

その合弁企業が最初に斬り込んだ「中型拳銃」というジャンルは、当時はワルサーPP・PPKがほぼ独占的に占有していた。

中型拳銃というジャンルは私服警官や民間の護身用拳銃として実は大型拳銃よりも大きな市場があるはずだが、それなりに完成度の高いワルサーPP・PPKの牙城に食い込むには新機軸が必要だったはず。






FN ブローニング M1910(実銃)
ワルサーPPK以前は中型拳銃の世界は群雄割拠だったが最大勢力はこのブローニングの代表作
日本を含む世界中の警察、軍で採用されただけでなくテロリスト御用達でもあった
特にオーストリア皇太子暗殺事件にも使用され一発の銃弾で
1600万人の死者を出すなど殺傷能力の高さは空前絶後




ワルサーPPK/S(スズキのモデルガン)
ナチスの軍用銃というイメージが強かったが実はその出自は
警察用拳銃でナチスとは関係ないという話をPPKのページでも書いた
ファイアリングピンを直接ブロックしてハンマーをデコックする安全性が高いセーフティが特徴
それとセットでダブルアクションを実用化したことでDAピストルの源流になった
さらに某国のスパイ映画でも人気を博し中型拳銃といえばPPKという時代が続いた




モーゼル HSc(実銃)
ワルサーPPKは優秀な銃だったが構造が精緻なので生産性に疑問を
感じたドイツ軍がそのリダンダンシーとして採用したのがモーゼルのHScだった
これも優秀な拳銃だったが威力の割には重いなどPPKには及ばなかった




エルマEP752(実銃)
中型拳銃市場に斬り込むメーカーはSIG以外にもいくつもあったが
どれもこれもPPKを模倣するという形での参入だった
エルマルガーは有力な競技用、民生用拳銃メーカーだったが
やはりPPKのデッドコピーで値段の安さで勝負するという方向だった
それだけワルサーPPKはやはり優秀だったということなのかもしれない




アストラA60(実銃)
スペインのアストラはどちらかというとモーゼルのHScをベースに
それをシェープアップするという方向性で新しいアプローチを見せたが
やはりPPKを超えることはなかった




SIG Sauer P230(KSCガスガン)
このPPKの牙城に斬り込むに当たってSIGのアプローチはデコッキングレバーを装備すること
そのかわりマニュアルセーフティを廃止するというユニークなアプローチだった
トリガーを引き切ったとき以外ハンマーはブロックされて落ちても暴発が
起きないオートマチックセフティを装備するこの後の世代の銃の源流になった



P230の最大の特徴はセーフティを廃止したということだと思う。

SIG伝統のデコッキングレバーをフレームの左側に取り付けた。

デコッキングができてオートマチックセーフティが標準装備されているなら、デコックした状態で暴発はあり得ないのでマニュアルセーフティは必要ないのではないか。
むしろデコックした状態でさらにセーフティもかかっていたら、いざ本当に射撃が必要になった時に遅れをとる危険性もある。

安全性も高くしかも即応性も高い…これがワルサー方式のセーフティに対する優位性だった。

安全ならチェンバーに一発初弾を装填したままで携行し、いざという時は引き金を引くだけで発砲ができる…うっかり装填忘れとか安全装置解除忘れで反撃できずに被弾するという事故を防げる。
オートではあるがリボルバー並にシンプルに扱えるというのがこのシステムの特徴になった。





スライドキャッチを復元して気になっていた細かい部分も修正して表面仕上げも手を入れたP230




ホールドオープン状態のスズキのPPK/S




そしてSIGもホールドオープンがかかったスライドがうれしい




カラーリングは床井雅美の「最新ピストル図鑑」の写真を参考にパーカライジング風にして
さらにポリッシュして少し剥げかけたという感じのウエザリングをかけた




P230の口径は9mm Kurz(380ACP)と7.65mm(32ACP)、9mmPoliceの3種類
モデルになったのは380ACP(9mm Kurz)タイプ




(上)スズキのワルサーPPK/Sと(下)KSCのSIG P230
いずれもデコッキング機能付きのダブルアクション中型拳銃という括りだが
最大の違いはPPKのスライドについているセーフティにあたるものがP230にはないこと
というよりSIGはP220、P226など一貫してセーフティ不要論という信念があるようだ
そのかわりフレーム左側にデコッキングレバーがついた




スライドのセレーションが一般的な細かい溝なワルサーに対して
P230は初期型は同じデザインだったが後期型はこの12本セレーションに変わった
工作は簡略化されしかも滑り止め効果は細かい溝よりも高い
さらにP232にバージョンアップするとセレーションは7本に減らされた
無駄なものは徹底して省くという考え方のようだ
仕上げもブルーイングのPPKに対してSIGはパーカライジング仕上げ




SIGのデザインの優れたところはグリップデザイン
グリップにくぼみと人差し指と親指で反動を抑える突起がついた
のっぺらぼうのワルサーに比べて一日の長がある




(上)マルシン製のベレッタM84と(下)KSCのSIG P230
中型拳銃はブローニングのM1910の独壇場だったが映画の人気もあって
ワルサーPP/PPKがすっかり市場を占有していた
SIG P230がその市場を切り崩すと同クラスのベレッタM84、M85なども食い込んできた




ベレッタのM84は380ACPの13連発だが単列弾倉のM85あたりがPPやP230と同じ階級になる
セーフティがデコッキングを兼ねるPPKに対してコックアンドロックが可能なベレッタM84
そしてセーフティを排除したSIG P230、それぞれ考え方が違うがそれぞれ支持者がいる




(上)KSCのP230と(下)マルシン製のニューナンブM60
(に似ていると言われるガスガン、あ〜めんどくさい)
P230は岡田准一主演のドラマ「SP」で警視庁警護課の制式拳銃として知名度が上がった
その当時の一般の警官はニューナンブを使用していたからこのツーショット




SIG Sauer P230JP(KSCガスガン)
今の警察制式拳銃はP230JPというP230にマニュアルセーフティを復活させたタイプ
やはり安全装置がないと採用しにくいという日本の保守性が出たようなモデル
P230にセーフティをつけるのはなんとなくSIGの良さを殺しているような気がする




(上)SIG Sauer P230の実銃と(下)KSCのP230
アメリカのオークションサイトで似たようなコンディションの写真を見つけてきた
こういうマットなパーカライジングが剥げかけたコンディションのものも見かける




(上)SIG Sauer P230の実銃と(下)KSCのP230
それに対してこのようにスライドの側面をポリッシュして
それ以外の曲面をマットなままにする仕上げもよく見かける



インセプション

夢を乗っ取ってそこから重要な機密を盗み出す…そういう男たちに目をつけた日本人実業家が彼らに
「抜き取ることができるなら夢にアイデアを植えつけることもできるはず」
と大それた計画を持ちかける。

夢にアイデアを植えつけるという試みを始めた彼らは重層的な夢の迷路に迷い込み現実に戻れるのかどうかもわからなくなってきた…という時系列迷宮監督クリストファー・ノーランの面目躍如ともいうべき作品。

その主人公コブ(レオナルド・ディカブリオ)のコントロールする夢にはその亡くなった妻モル(マリオン・コティヤール)が現れて彼らを妨害する。





夢の中に現れた死んだ妻が仲間を銃で脅すシーン
マリオン・コティヤールはノーラン組常連の印象に残る女優さんだが実はフランス人
なんとなくヨーロッパ的な雰囲気のある人だと思ったらそういうことだった




彼女が使用するのはセレーションが7本に改良されたP232
こちらはセレーションが12本ある同じアングルのP230
ヨーロッパ的な雰囲気を持った女優さんが持つには
ふさわしい洗練された雰囲気のテッポだった



アウト・オブ・サイト

つり銭詐欺師のような軽妙な脅しトークで誰も傷つけずに銀行を襲うというポリシーの銀行強盗(ジョージ・クルーニー)

だが結局しくじってムショ行き…そこで思わぬ儲け話を聞きつけ脱獄してそのヤマを踏むが、脱獄の巻き添えを食らって彼を追い回すことになった女性連邦保安官(ジェニファー・ロペス)は、追いつ追われつしながらいつしかお互いに惹かれ始める…という軽妙なアクション映画。

クライムアクションなのだが行きがかり上、元ケチな銀行強盗だったクルーニーが強盗の摘発に協力したり、連邦保安官のロペスがFBIの捜査をかく乱したり物語は意外な方向に脱線していく…

すごく良くできた脚本で面白い映画なんだけど、日本語の吹き替えも字幕も12ゲージのショットガンを「12口径の銃」と訳していたりちょっとがっかりな感じ。

そういえば以前にもこのこの映画の話を取り上げたときに書いたもが、この日本版のビデオのジャケットのリボルバーも裏焼きになっていたり、日本の映画関係者ってどうしてこんなに銃には無関心なんだろう…

他のジャンルならともかく、クライムアクションというなら銃の基礎知識は必須だと思うんだけどなぁ…





連邦捜査官の娘(ロペス)に父親が贈り物を送るシーン
「シャネルのスーツにしては小さいわね」という娘に「もっといいものだよ」と父
中身はSIG Sauer P232だった…この銃がこの後重要な役割を果たす




同アングルのKSC P230
誕生日に父から娘に銃を送るなんてことがアメリカでもよくあることなのかは知らない
娘の仕事が連邦保安官という銃を携行しないといけない職業なので「どうせ持つなら良い銃を」ということかも
日本の刑事ドラマで最近よく見かけるP230だが気の利いた使われ方をしている映画はめずらしい
これもスティーブン・ソダーバーグの映画だったと後から知って「さもありなん」と思った



ソルト

CIAの職員の女性(アンジェリーナ・ジョリー)が任務から帰還して結婚を機に休職する…というタイミングで
「ロシア諜報員が訪米予定のロシア大統領暗殺を企てている」
というタレコミをする人物が現れる。

彼女が聴取すると
「ロシアのスパイの名はソルト、イブリン・ソルト」
と男は続ける。
イブリン・ソルトはまさに彼女の名前だった…

ロシアスパイの汚名を着せて何かを企んでいるのか、それとも彼女は本当にロシアのスパイなのか…
と超高速サスペンスが続く…これもアクション映画の傑作。

アンジェリーナ・ジョリーの体当たりのアクションも見どころ。
室内に閉じ込められたら床掃除洗剤で即席の爆薬を作ったり、訓練されたエージェントは徒手空拳でも本人自身が凶器。

旧ソ連時代には何年も市民として潜入させて時が来たら突然スパイとして活動し始めるという、忍者映画で言うところの「草」のようなスパイが実際いたという話もある。

アメリカの高級外務官僚が実はKGBのスパイで、何年間もアメリカの外交機密をソ連に流していたという事件もあった。





身に覚えのないスパイ疑惑で追われる身となったソルトはCIAを脱出して自宅に戻るが誰もいない
すぐに追っ手が来るとわかっていたから机の下に貼り付けてあったSIGを手に紙一重で追っ手をまく




そしてこのSIG P232も中盤の重要なシーンで使用される
SIG P230は女性が持つと絵になる銃ということは言える
さすがにもうPPKの時代じゃないだろうからね




映画では女性が持ったらかっこいい銃という扱いだが実際には
SIGは7.65mmだけでなく380ACPや9mm×18も使用できる
9mm×18はストレートブローバックで使用できる最大口径とのことだから
小ぶりだが意外に強力な銃




しばらく動かしていたらちょっと問題が起きた
スライドキャッチのマガジンフォロワーに当たる爪が懸かりが浅く
スライドストップがかかったりかからなくなったりするようになった
このままだとフォロワーをナメて削ってしまいそうなのでちょっと手を入れた




スライドキャッチのマガジンフォロワーにかかる部分を少し曲げて懸かりを深くした
これで確実にホールドオープンするようになった




テイクダウンレバーが斜めになるのが気になっていたが
固定用のイモネジを締め直したら解決したと書いた
そのイモネジがどこにあるのかという写真を
先日撮るのを忘れていたので撮り直して再度掲載




これこれ、この感じ
SIGってスイスの工業製品だから時計工業の伝統のような精密感がある
こういうテイクダウンレバーもきちっとフレームとツライチになっているのがスイスっぽい
機能的には多少斜めになっていても問題ない部分だがまっすぐになっているかどうかは
やはりスイス製品というイメージの問題




このP230は発売直後に買ったのでおそらくKSCのかなり最初のロットだと思う
30年ぐらい経っているのであちこちネジが緩んできている
シリンダー固定する六角レンチネジもよく見たら緩んでいた
こんなネジも緩むんだな…ネジは時々締めないといけないという教訓




エクストラクタースクリューも緩んでいた
ガスガンの場合はこれはプレッシャーがかからない
飾り部品だがそれでもやはり緩んでくる
精密ドライバーで締め直す




KSCのP230と徳間文庫版、床井雅美著「最新ピストル図鑑」
床井雅美さんは旧GUN誌のレポーターだっただけでなく
スミソニアン博物館研究員という人だったのでその
リファレンスブックともいうべきこの本は私の底本になっている
銃の仕上げの雰囲気も大抵この本を参考にしている




20年以上押入れで眠っていたSIG P230はこうして復活を遂げたのだが
最近知ったことだが実銃は1996年に生産中止になっていたとのこと
その改良型のP232も2015年に生産終了になっていた
モダンなテッポだと思っていたのにこれももうクラシックなんだ…










2020年9月12日
















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